LOGIN七年付き合って、再び自分が妊娠していると気づいた時――彼氏はビップ病室で「本命」の女と一緒にいた。 ドア越しの窓から見えたのは、藤原明人(ふじはら あきと)がその女と裸で向き合い、互いしか見えていない姿。 その瞬間、スマホにメッセージが届いた。 小林佳菜(こばやし かな)の得意げな言葉は、画面から溢れんばかりだった。 「七年も経って、まだ分からないの?あんたなんて、明人さんにとって、ただの『無限の血液バッグ』でしかないのよ!」 心は奈落に突き落とされ、私は海外へ行き、先生の研究チームに参加することを決めた。 けれど――私が去ったあとで、夫である彼はこう言ったのだ。 「お前のこと、好きになった」と。
View More私はこくんとうなずいた。「まさか元サヤなんてないよな? 恵美子ちゃん、俺から見ても、あいつはどう考えてもロクな奴じゃない!二度と許すなよ!」謙介が必死に訴える顔に、思わず笑ってしまった。「何がおかしいんだよ、俺は真剣なんだ。あいつは絶対まともじゃない!」 私はジャケットを脱いで、彼に返した。「分かってるわよ。私だって安っぽくない、二度と許したりしないから」けど、それから数日間、マンションの入口を出るたびに、必ず明人の姿があった。最初は無視していたけれど、毎日まるでガムみたいに張り付いてくるのにうんざりしてきた。私が彼の方へ歩み寄ると、あいつの濁っていた瞳が急に澄んだ。「恵美子、やっと俺に話しかけてくれたんだな!」「言いたいことがあるなら一度で全部言いなさい。これで最後よ。もう二度と来ないで」明人はしばらく固まり、それから媚びるように口元を引きつらせた。「この数か月で全部分かったんだ。恵美子、俺が悪かった。何年も騙して……でも俺だって被害者なんだ!小林佳菜なんていなけりゃ、俺だってあんなふうに惑わされることはなかったんだ!だから、もう一度だけチャンスをくれ。人は誰だって間違えるもんだろ?もう小林とは完全に縁を切った。もう誰にも邪魔されない!」彼はまったく自分の非を認めず、すべての罪を佳菜に押しつけていた。私はとうとう耐えきれず、声を荒げた。「藤原明人!あんたが七年も私を騙したのは事実!私を利用して佳菜に輸血させてたのも事実!その責任を今さら押し付けてどうするの?原因を作ったのは、他でもないあんた自身でしょう!本当に……吐き気がする!」明人の目に涙が浮かび、必死に首を振った。「違うんだ、恵美子!本当に悪かったんだ!心から許してほしいんだ!」私は思いきり平手打ちを食らわせた。「許せだと?じゃあ地獄に行って、私たちの産まれることもなかった子に謝ってきなさいよ!許してほしいなら、あんたが闇クリニックで同じ器具を腹に突っ込まれてから言いなよ!簡単に言うな……どうやって許せっていうのよ!」彼が目を背けようとするほど、私は現実を突きつけた。ドサッ——。明人はその場に膝をつき、呟き続けた。「可哀想な子だ……パパが悪かった。怖くないよ、子どもたち……パパが一緒にいるからな」彼は狂
「な、何言ってるのよ……私、全然……分からない……明人……」明人は、いきなり女の頬を叩いた。これまで大事にしてきた存在を殴った瞬間、女は信じられないという顔をした。「明人、あなた……私を叩いたの?」「そうだ。叩いて何が悪い!恵美子だって、お前の命を長らえさせてきたんだぞ!なのに病気が完全に治ってもないのに、さっさと彼女を追い出す?人としてどうなんだよ!いいか、俺がお前を甘やかして、愛してきたのはな、俺の一線を好き勝手に踏み越えさせるためじゃねえ!」佳菜は、もうごまかしきれないと悟り、自分の本性をさらした。「明人、もう遅いわよ。恵美子はとっくにいなくなったの。もう戻ってこない!あなたがこの数年、彼女にしてきたこと、全部知ってるんだから!」「黙れ!」明人は一蹴りで佳菜を十メートルほど吹っ飛ばした。その瞬間、佳菜は腹を押さえて苦しそうに息を吐いた。「明人、私、妊娠してるのよ……あなたの子よ……お願い、私たちの赤ちゃんを助けて……」その言葉を聞いた礼明は、彼女の前に歩み寄り、片膝をついた。「妊娠してるなら……恵美子が味わったあの地獄を、今度はお前が体験してみろ」数時間後、たどり着いたのは闇クリニック。佳菜は完全に取り乱し、泣きながら鼻水も涙もぐちゃぐちゃにして、薄汚い診察室を見回した。「明人、ごめんなさい。お願い、許して!本当に悪かった!死んじゃう……私死んじゃうよ!」ベッドの横に並ぶ恐ろしい器具を見て、冷や汗が背中を伝う。だが、明人は一瞥しただけで冷たく吐き捨てた。「今さら後悔?もう遅い」三か月後。私たちの修復プロジェクトは、いよいよ終盤を迎えていた。 最終日に、指導教授が全員を集めて。「この絵画修復は無事に完了だ。本当にお疲れさま!」祝杯の場で、私はつい飲みすぎてしまった。 帰り際、寧々が心配して、従兄の謙介に送ってほしいと頼んだ。「兄さんが送ってくれるなら安心だわ」酔っ払った彼女の気遣いに、思わず胸が温かくなる。秋風が冷たくなり始め、謙介は自分のジャケットを脱いで、私にかけようとした。そのとき、急に暗がりから明人が飛び出してきた。「恵美子、そいつは誰!」酔いが一気に覚め、その男の顔を見たら、私は怒りしか感じなかった。「関係ないでしょ?明人、あんたもう口出
毎回筆を取るたびに、手の傷跡が目に入って、自分の馬鹿さを恨む。 たかが男一人のために、私はすべてを捨ててしまったなんて。洗濯も料理も、布団を整えるのも。 いつも「どうやったら男を支えられるか」「家の細々したことをどう片付けるか」ばかりに縛られていた。でも今ははっきり分かる。私の世界はこんな狭いものじゃない。花に囲まれて、もっと遠くを見て歩くべきだったんだ。あの七年間なんて、くずにくれてやったと思えばいい。そのとき、先輩の高橋謙介(たかはし けんすけ)がやって来て声をかけてきた。「恵美子ちゃん、この部分の修復どうだ?何年経っても、やっぱり君の腕を一番信頼してるよ」私は笑って、謙遜しながら答える。 「高橋先輩の方がずっと優秀ですよ。どうして自分を卑下するんですか?」謙介は私の頭を軽く小突いて、「おだてか?それとも自分を過小評価してる?」空気がふっと和み、半月も張り詰めていた気持ちが少しほぐれた。 彼は優しく言った。 「大丈夫だよ。何年も絵筆を握ってなくても、自分を信じな。俺はずっと信じてるから」そのとき、謙介のいとこの佐藤寧々(さとう ねね)が後ろから飛び出してきて、顔いっぱいに好奇心を浮かべながら茶々を入れる。「おやおや、『ずっと信じてる』って!恵美子、私もずっとあなたを信じてるよ!兄さんがこんなこと言うなんて珍しいね!恵美子、もしかして兄さんはあなたのこと好きなんじゃない?」寧々は調子に乗って、私に抱きつきながら大はしゃぎ。謙介はちらっと私を見ただけで、耳まで真っ赤になり、何も否定しない。でも私はもう、恋愛に飛び込むつもりはなかった。 ただひたすら、自分を磨き直したいだけだ。わざと話題を逸らして促す。 「仕事は終わったの? ここで勝手に噂を作ってないで」寧々は口を尖らせ、楽しそうに笑う。 「図星つかれて慌ててる?」一方その頃、国内に残っている明人は、日ごとに苛立ちが募っていた。 佳菜と暮らし始めてから、ソファに横たわる彼女を見るたびに胸が重くなる。 たった半月で、恵美子を思い出す気持ちは日に日に強くなるばかりだった。そのとき、書斎の扉がノックされる。 「社長、修理に出されていたスマホ、直りました」明人はすぐに受け取り、充電を差し込む。
子どもは二人だけじゃなかったのか?ここ数年、まさか五人も子どもを孕ませた。最後のページを見たとき、彼は言葉を失った。まさか自分の手で、恵美子を、二度と母親になれない身体にしてしまったのか。明人はその場に崩れ落ち、顔をビンタしながら泣き叫ぶ。胸を締めつける罪悪感に押し潰されそうになり、必死に彼女を探そうと電話帳を開くが、どれだけ見ても、連絡できる人は誰一人いない。その時、彼ははじめて気づいた。この数年間、自分はまるで人くずだった。恵美子から血を奪い、金を奪い、愛を奪い……ただそれだけを繰り返してきたのだ。ふと振り返ると、シンクの中に沈んだスマホが目に入る。明人はふらつきながら立ち上がり、水に手を突っ込んで掴み上げた。ちょうどその時、佳菜が部屋に入ってきた。眉をひそめて嫌悪を隠さない。「明人さん、酔ってるの?新婚初夜に、どうしてこんなボロ部屋に来るの?」手にしていた枯れた花を床に投げ捨て、鼻で笑う。 「こんなみすぼらしい花をいつまでも置いておくなんて、恵美子ってほんとにみっともないわね。明人さん、帰りましょう」その瞬間、明人は初めて目の前の女を鬱陶しいと感じた。 七年間、恵美子は文句ひとつ言わず、この小さな部屋で暮らしてきたのに。自分は、それが当たり前だと思っていた。 だが佳菜の姿を見て、彼は悟った。自分が本当に大切な女を見誤っていたのだ。彼の視線は、佳菜に踏みにじられた花に落ちる。胸が詰まり、息ができない。 自分はいったい、何をしてきた?病気のふりをして、彼女の血を搾り取り。お金で他の人の血が買えるのに。 貧しいふりをして、彼女に養わせ。佳菜との子ども時代の約束なんてどうでもいいのに。さらに、彼女に五度の中絶を強いた。そのせいで、もう二度と母になれない身体にしてしまった。なのに自分は、これまで一片の罪悪感も抱かなかった。恵美子が捧げたすべてを当然のように受け取ってきただけ。明人は急に佳菜を突き飛ばし、枯れた花を抱きしめる。 それでもわかっていた。 彼女との愛は、この花のように枯れ果て、もう二度と戻らないのだと。床に倒れた佳菜は、信じられないという顔をする。 「明人さん……私を突き飛ばすなんて?今日は新婚初夜なのに、どうしてそんなひどいことを!」「
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