共有

第3話

作者: あすみ
誠司は結局、逃げた。

家には戻れず、行き場を失った末、出張だと嘘をついて会社に身を潜めた。

一ノ瀬グループ本社、最上階の社長室。

誠司は金に糸目をつけず、日当百万円でボディガードを四人雇った。

全員、表の世界から姿を消した格闘家だった。二メートル近い体躯に、無駄のない筋肉が詰まっている。

四人の巨体に囲まれ、誠司はようやく、かすかに息を整えた。

椅子にふんぞり返り、腕の中には瑠華。手には赤ワイン。

「あのイカれた女……ほとぼりが冷めたら、必ず殺してやる!」

歯ぎしりしながら吐き捨て、遠慮もなく瑠華の身体に手を這わせた。

瑠華は甘えた声で、ぶどうを口元へ運ぶ。

「誠司さん、あの人……もう女として終わってません?いっそ、人に頼んで――」

言い切る前に。社長室の重厚な木の扉が、静かに押し開けられた。

ピンクの保温ジャーを提げ、シンプルなスポーツウェアに、高いポニーテールのまま。

私は、そのまま中へ入っていく。

「あなた、残業だって聞いたから。スープを持ってきたの」

誠司の手が震え、赤ワインが瑠華の服にぶちまけられた。

「やめろ! 外へ放り出せ!早く!」

私を指さして金切り声を上げ、声が裏返る。

四人は顔を見合わせ、獰猛な笑みを浮かべて詰め寄ってきた。

――あいつらの目には、私は指先で始末できる存在にしか映っていない。

「奥さま。どうぞ。こちらも、手荒な真似はしたくありません」

先頭の男が、私の肩を掴もうと手を伸ばす。

私は、保温ジャーを床に置いた。

首を軽く回す。

コキッ、と乾いた音。

視線が一気に冷え、殺気が弾ける。

その大きな手が、私に触れる寸前。

身をかわし、手首を取る。勢いを借り、回り込み、そのまま――背負い投げ。

流れるような動きで、残像しか残らない。

ドン!

百キロ級の大男が、抵抗もできないままローテーブルへ叩きつけられた。

テーブルは無残に砕け、破片が床に飛び散る。

残りの三人が、凍りついた。

反応する暇もない。

私は、もう踏み込んでいた。

横蹴り。二人目の喉を、正確に捉えた。

至近距離。力は一点にだけ通す。

男は喉を押さえ、声も出せないまま真っ直ぐ崩れ落ちた。空気を吸えず、数秒でもがいて、そのまま意識を失う。

三人目が拳を振り抜いてくる。

私は身を低くしてかわし、そのまま相手の足の甲を踏み抜いた。

――バキッ。

骨がひび割れる音が、はっきりと響く。

間を置かず、肘。

肘打ちがこめかみに突き刺さり、男は一瞬で崩れ落ちた。

KO。

最後の一人は、床に倒れた三人を見て、脚が言うことをきかなくなった。

唾を飲み込み、両手を上げて後ずさる。

「……お、俺……辞めます……」

ここまで、かかった時間は一分もない。

誠司が頼り切っていた四人は、全員動かなくなっていた。

私は床に転がる男たちを跨ぎ、執務机へ向かって、ゆっくりと歩く。

瑠華はとっくに腰が抜け、ソファの隅で、甲高い声を上げ続けていた。

誠司は椅子に縮こまり、顔色はすっかり青ざめていた。股間から、じわりと濃い染みが広がった。

鼻を刺す尿の臭いが、室内に満ちた。

私は机の前に立ち、保温ジャーの蓋を開ける。

湯気の立つスープから食欲をそそるいい香りが漂っている。

「あなた。熱いうちに、どうぞ」

スプーンを取り、彼の口元へ差し出す。

誠司は歯をがちがち鳴らし、私を――理解できないものを見るような目で見上げた。

「さ……紗弥……金ならある……全部やる……だから……殺さないでくれ……」

私は笑った。眩しいほどに。

「何を言ってるの。人を殺したら犯罪でしょう。

私はただ、妻としての務めを果たしに来ただけ」

スプーンを、無理やり口の中へ押し込む。

「おいしい?」

熱いスープが喉を流れ落ち、誠司の顔が大きく歪んだ。

涙と鼻水が一気に溢れ出る。

吐き出す勇気すらなく、ただ、無理やり飲み込むしかない。

「どうしたの?泣いて……感動した?」

私はティッシュを取り、口元に残ったスープを、そっと拭った。壊れものに触れるような手つきで。

けれど誠司は、身動きひとつできず、呼吸さえ、止めていた。
この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード

最新チャプター

  • 寝室に鍵をかけた日から   第9話

    法廷が開かれた。厳かな法徽の下、誠司はうなだれて立っていた。証拠は揃い、もはや弁解の余地はない。「被告人・一ノ瀬誠司。業務上横領罪、背任罪、傷害罪。以上を併合罪として、無期懲役に処する。また、刑の執行が終わるまで公民権を停止する。被告人・白川瑠華。詐欺罪および殺人罪の教唆。以上を併合罪として、懲役十五年に処する」木槌の音が、法廷の静寂を断ち切った。その瞬間、誠司ははっと顔を上げ、傍聴席を見渡した。私は最前列に座り、すっかり元気を取り戻した美桜を抱いている。美桜は、原形もとどめないほどやつれた男に怯え、私の胸に小さく身を寄せた。「ママ、あの人、だれ?」私は美桜の頭を撫で、穏やかに答える。「悪いことをした人よ。もう、おまわりさんに捕まってる」誠司の目に浮かんだのは、後悔と、絶望と、底知れぬ恐怖だった。唇が動く。私の名を、美桜の名を呼ぼうとしたのだろう。――けれど、私はその機会を与えなかった。表情を消したまま立ち上がり、美桜を抱いたまま、静かに背を向ける。振り返らない。未練は、もうどこにもない。裁判所の外へ出る。陽射しは強く、空気は驚くほど澄んでいた。大きく息を吸い込み、胸の奥がようやく軽くなる。三年間、心にのしかかっていた重石が、音もなく砕け散った。「ママ、どこ行くの?」「遊園地よ。約束したでしょ」背後では、護送車が誠司を乗せ、刑務所へ向かっていった。――中では、妙に手厚い扱いを受けているらしい。かつて踏みにじられた社員や、騙された取引先たちは、それぞれの伝手を使い、中の人間に「よろしく頼む」と話を通したという。彼が中で、穏やかに過ごせる理由は、もうどこにもなかった。私は誠司名義の資産をすべて処分した。そして、DV被害者支援の基金を立ち上げ、結婚という檻の中で苦しむ女たちの、逃げ道を作った。誠司の両親は、その事実を受け止めきれず、二人そろって倒れ、いちばん質素な介護施設で余生を送ることになった。すべてが、ようやく終わった。悪は、巡り巡って報いを受ける。――三年後。私は、自分で立ち上げた警備会社のビル最上階に立ち、ガラス越しに街を見下ろしていた。三年という時間で、この会社は業界でも指折りの存在になった。富裕層向けの高度な警護。そし

  • 寝室に鍵をかけた日から   第8話

    追い詰められた人間は、何だってする。誠司は、私を道連れにする気になった。私の隙を突き、ガソリンのポリタンクを買い、ベッドの下に隠していたのだ。深夜。月のない、風の荒い夜。誠司は獰猛な笑みを浮かべ、寝室じゅうに液体を撒いた。手にはライター。目は、正気を失っている。「紗弥!一緒に死ぬぞ!全員、道連れだ!お前もだ!あのクソガキも!」誠司は、美桜が隣の部屋で眠っていると思い込んでいた。だが、美桜はとっくに私が安全な場所へ移してある。パチッ。ライターが弾かれ、火が跳ねる。誠司は高笑いし、そのまま床の液体へ投げつけた。――だが、炎は上がらない。聞こえたのは、シッ、という乾いた音だけ。ライターは床に落ち、すぐに消えた。誠司は固まった。床に這いつくばり、液体に鼻を近づける。ガソリンの匂いがしない。あるのは、かすかな水道水の匂いだけ。「どうして……俺は確かに……」パチッ。寝室の灯りが、ぱっと点いた。私はドア口に立っていた。部屋着はもう脱いである。黒の作業服が、身体の線をはっきりと浮かび上がらせる。足元はブーツ。太腿の外側には短剣。指先で弄んでいるのは、ライターだった。小さな火が、私の指の間で踊る。「それ、探してた?」誠司は床にへたり込み、殺気そのものの私を見上げて、完全に絶望した。「……最初から、知ってたのか……」私は一歩ずつ距離を詰める。空気が重くなり、誠司の呼吸が詰まる。「誠司。自殺すら、まともにできないのね」目の前まで行き、見下ろす。「火遊びがしたいなら――望みどおりにしてあげる」私は火を消し、ブーツで誠司の手を踏み抜いた。「ああ――!」「これは、美桜の分」ゴキッ。もう片方。「これは私の分」ゴキッ。左脚。「これは――あなたのせいで倒れた、両親の分」ゴキッ。右脚。四肢は、すべて折れた。誠司は、手足を奪われた芋虫のように床でのたうち、やがて、悲鳴すら途切れた。私はスマホを取り出し、長いあいだ封印していた番号へ発信した。「コードネーム『修羅』、任務完了。対象を確保しろ」次の瞬間、サイレンが夜を切り裂いた。来たのは交番の巡査ではない。捜査二課と、特殊部隊だった。私は、誠司の

  • 寝室に鍵をかけた日から   第7話

    誠司の面目は完全に潰れ、株価まで下落に転じた。追い打ちをかけるように、私は誠司が公金を横領し――瑠華という底なし沼を埋め続けていた証拠を掴んだ。穴を塞ぐため、誠司は危ない橋を渡る決断をする。目をつけたのは、ハイリスクな海外投資案件。――それは、私が仕掛けた罠だった。競合会社の社長に根回しし、酒席で「うっかり」この濡れ手に粟の話を漏らさせる。誠司は、溺れる者が藁にすがるように食いついた。資金を突っ込み、損失を取り戻そうと焦る。だが、会社の口座はすでに空っぽだった。身の程も知らない瑠華が、取り分欲しさに誠司を闇金へと焚きつける。「一ノ瀬さん、この資金を入れれば来月には倍です!そのときには、穴なんて全部埋まります!」誠司は信じた。闇金の契約書にサインし、会社に残っていた運転資金まで担保に差し出した。――一週間後。案件はあっけなく崩壊。資金繰りは完全に断たれた。誠司は一瞬で十億円の巨額債務を背負う。闇金は法律など気にしない。刺青だらけの男たちが会社になだれ込み、ペンキをぶちまけ、横断幕を掲げ、拡声器で返済を迫った。誠司は机の下に潜り込み、恐怖のあまり失禁した。――最近は、しょっちゅうだ。そのとき。私が姿を現した。清楚な白いワンピース姿で、剣呑な男たちの前に立つ。「みなさん、借りたものを返すのは当然です。でも、夫に手は出さないでください。三日ください。私が何とかします」実のところ、彼らは私が金で雇った役者だ。――借金だけは、本物だけれど。誠司は私を見るなり、感極まって泣き崩れた。「紗弥……やっぱりお前だけだ……俺、今まで最低だった……」私はそっと彼を起こし、頬についたペンキを拭ってやる。「誠司。私たちは家族よ。命さえあれば、お金はまた稼げる。でも、また来られたら困るわ。あなた名義の家と車、いったん私に移して。抵当に入れて、返済に回すから」誠司は迷わずうなずいた。それどころか、私の手際に感心している様子だった。「わかった。今すぐ移すから」それが命綱になると、誠司は本気で信じていた。資産譲渡の書類を受け取った、その瞬間。私は、笑った。くるりと背を向け、闇金の生々しい借用書を百部コピーする。誠司の損得勘定だけで動く両親と、親戚知

  • 寝室に鍵をかけた日から   第6話

    誠司は、とうとう独りになった。家には戻れず、瑠華の周辺も大炎上だ。金持ちのボンボン三人は、自分たちが同時に騙されていたと知り、瑠華を探し回っては落とし前を迫っている。誠司が身を寄せられる場所は、会社しかない。そこが――彼に残された、最後の砦だった。月曜の朝。一ノ瀬グループ本社ロビー。私は端正なスーツに身を包み、八センチのヒールで堂々と足を踏み入れた。受付が制止にかかる。私は一枚の書類を突き出す。「社長の妻が視察に来ただけ。何か問題でも?」騒ぎを聞きつけ、誠司が警備員を連れて駆けつける。「紗弥!ここは会社だ!勝手な真似をする場所じゃない!」私が薄く笑うと、背後からスーツ姿の年配者が数人、静かに前へ出た。――同社の大株主たちだ。「社長。紗弥さんは、私どもから譲渡した15%の株式を保有しています。ご夫婦の共有財産分を含めれば、個人としては最大の株主です。帳簿を確認する権利があります」それは、この三年間、私がへそくりを積み上げ、裏で買い集めてきたものだった。誠司の顔色が、一気に失せる。殴られたように、その場で固まった。私は迷いなく経理部へ向かう。「これより帳簿を洗う。隠蔽があれば――そのまま刑務所行き」経理部は、たちまち蜂の巣をつついたような騒ぎになった。そこへ、頭に包帯を巻いた瑠華が駆け込んできて、誠司に縋りつく。「誠司さん!助けてください! あの男たち、私を殺す気なんです!」私は帳簿から顔を上げ、部屋の隅に置かれた清掃用具を指した。「うちは、無駄飯を食う人間は要らない。秘書なら――来たついでに、トイレを掃除して」「紗弥、ふざけるな!」誠司は反射的に、瑠華をかばおうと前へ出た。私は、分厚い領収書の束をその顔面に叩きつける。「この二千万円の飲食代、どこで使ったの?瑠華のベッド?それとも下着屋?」フロアに、どっと笑いが広がった。誠司の顔が、みるみる赤黒く変わっていく。――昼休み。誠司には重要なオンライン会議が控えていた。業界の大物たちを前に、プレゼンを行う予定だ。私は親切そうな顔で、誠司にコーヒーを淹れてやった。ほんの少し、仕込んでおいた。特注の強力な下剤。効き目は早く、容赦もない。会議が半ばに差しかかったころ。誠司は熱のこもった声で

  • 寝室に鍵をかけた日から   第5話

    スカイヒルズ。ここは誠司が瑠華のために用意した巣だ。現金一括で購入し、名義まですべて瑠華に移してある。私は玄関先に立ち、ためらいなく呼び鈴を押した。扉が開く。瑠華は、誠司が買い与えた真新しいシルクの寝間着をまとっていた。胸元はわざと深くはだけられ、白い首筋には重なるように残されたキスマークが、これ見よがしに晒されている。手には赤ワイン。向けられた視線には、隠しもしない侮蔑が宿っていた。「あら、来たの?おばさん。怖くて来られないかと思ってたけど?」彼女は身体をずらし、勝ち誇ったような表情で中へ招き入れた。リビングではアロマキャンドルが揺らめき、空気だけが不自然なほど甘ったるい。だが私は、玄関の花瓶の中、テレビの機器の上――あちこちに潜む、かすかな赤い点滅を見逃さなかった。小型カメラ。私を挑発し、手を出させ、その瞬間を押さえて刑務所送りにするつもりなのだろう。考えてはいる。――けれど、浅い。「紗弥、誠司はとっくにあなたに飽きてるわよ。ベッドの上じゃ、ただのマグロだって言ってた。見てるだけで萎えるって」瑠華はワイングラスを揺らしながら、じりじりと距離を詰める。言葉を刃に変え、私を切り裂こうとする。「ねえ、あなた。私に勝てるところ、どこにあるの?さっさと離婚届にサインして、無様にしがみつくのはやめなさいよ」私はリビングの中央に立ったまま、表情ひとつ変えなかった。「言い終わった?」一瞬、瑠華が言葉を失う。私が動じないことが、よほど想定外だったのだろう。次の瞬間、歯を食いしばり、衝動的にワインをぶちまけてきた。「消えろ!」私はわずかに首を傾ける。赤い飛沫は虚しく空を切った。――その刹那。私の指先から弾き出されたのは、一枚の硬貨。パシン!部屋の隅に設置されたブレーカー箱を撃ち抜いた。火花が散り、ジジッ、と焦げるような音が走る。次の瞬間、アパート全体が闇に沈んだ。「あっ……なに!?停電!?」瑠華の声が上ずる。指先すら見えない闇が、本能的な恐怖を呼び起こす。私はポケットから暗視ゴーグルを取り出し、装着した。世界が濃い緑に染まり、物の輪郭が鮮明に浮かび上がる。――狩りの時間だ。靴を脱ぎ、裸足でカーペットの上を滑るように進む。足音は、ない。瑠華は手探りで手探

  • 寝室に鍵をかけた日から   第4話

    誠司は肝を潰したくせに、引き下がらなかった。腕力で無理なら、今度は世間体で縛りにかかる。日曜日。玄関の扉が叩きつけられ、家が揺れるほどの音を立てた。性悪な義母――一ノ瀬智子(いちのせ ともこ)が、親戚をぞろぞろ引き連れて、十人以上で押し入ってきた。誠司は集団のいちばん後ろに隠れ、味方が増えた分だけ背筋を少し伸ばした。「紗弥!この性悪女!出てきなさい!」智子は玄関に入るなり、私の鼻先を指差して怒鳴りつけた。興奮のあまり、唾まで飛んでくる。「ほんっと、ついてないね!なんでこんなのを嫁に取ったんだか!息子に手を上げるなんて……!頭おかしいんじゃないの!?」親戚たちも、それに便乗する。「そうよ、誠司があんなに怯えきって。こんな生活、もう続けられるわけないでしょう。離婚よ、離婚!叩き出して、身一つで出ていかせなさい!」私はソファに腰を下ろしたまま、育児書を開き、まぶたすら持ち上げなかった。「……言いたいことは、それだけ?」その態度が、完全に火に油だった。智子は顔を真っ赤にして詰め寄り、ローテーブルをひっくり返そうとした。「まだそんな口を利くのかい!今日はね、出ていくまで帰らせないよ!この家は、うちの息子のものだ!孫の親権だって、渡すわけないだろ!」――孫。その一言で、ページをめくる指が止まった。私はゆっくりと本を閉じ、立ち上がる。部屋の空気が、ずしりと沈む。誠司が異変を察し、思わず一歩身を引いた。「母さん……もうやめろ……」もう遅い。私はローテーブルの上に置かれていた。厚底のグラスを手に取った。皆の目の前で。指を握り込む。バキッ。特注の強化グラスが、私の掌の中で細かく砕けていく。ガラス片と白い粉塵が、さらさらと床に落ちた。掌には傷ひとつない。部屋の空気が、一瞬で凍りつく。さっきまで喚いていた親戚たちは、口を開けたまま言葉を失った。――どれほどの握力だ。そんな思考が、ありありと顔に浮かんでいる。私は智子に向かって、一歩ずつ距離を詰めた。智子は足から力が抜け、その場に尻もちをつく。「な……何をする気……人殺し……」私は腰を落とし、肩口の痺れやすい筋を、指先で軽く押した。「ひゃあっ!」悲鳴と同時に、智子の身体が半身だけ崩れる

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status