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2.盗作について

last update Date de publication: 2025-08-14 23:00:13

 先日、私のXのフォロワーさんから

「たけりゅぬさんの作品が盗作されてます」

 という内容のDMを頂いた。投稿サイトKに辻沢シリーズを真似して書いているアカウントがあるというのだ。

投稿サイトKには、キャリアの初期よりずっと作品を投稿してきが、今年の6月をもって完全撤退した。

今は、投稿サイトKを主戦場としているフォロワーさんの作品を読みに行くくらいで、以前のように新作やランキングをこまめにチェックしなくなっている。

試しに「ヴァンパイア」「鬼子」と検索ワードに入れるとその盗作疑惑の作品がヒットして最上位にリストされていた。以前なら私の辻沢シリーズくらいしかヒットしなかった。

鬼子だけならまだしも、ヴァンパイアと二つに紐づいているとなると、私としてもやぶさかでなくなる。

なぜなら辻沢シリーズは、私が学生時分に思い描いた、ヴァンパイアと人狼(鬼子)とフランケンシュタインの怪物とが普通にいる世界を書きたいという思いを実現しているからだ。

当時の親友は私のアイディアを聞いて、

「そんなの誰が読むの、怪物くんかよw」

と嘲笑った。信頼していた親友に全否定されたことで私は自信を喪失して小説が書けなくなってしまったが、親友との縁も切れ、長い年月をかけて回復した私はようやくそれを書けるまでになったのだった。

「ヴァンパイア」と「鬼子」という設定自体への私の思い入れのほどを知って貰えただろうか。

 盗作アカウントは頭文字をとって「D」としよう。このアカウント名を見ただけで私を意識しているのが分かるが、その点は掘り下げないことにする。

Dのプロフには「これまで二次創作をしていたが、念願の一次創作を始めることにした」とあった。

二次創作者がすべてそうだとは思わないが、盗作の資質ありとDの作品を読んでみた。

タイトルは明かさずにおく。内容はよくあるヴァンパイアが主人公のパニックものだ。

この作品の中での鬼子はヴァンパイアの亜種。『鬼滅の刃』を挙げるまでもなく、ヴァンパイアを鬼に例えるのはよくあることだからグレーのようだが、属性はヴァンパイアの眷属で満月ごとに変身するから人狼に違いなく、その点は黒だった。

ストーリーは、ある田舎町でヴァンパイアに殺されゾンビ化した「死鬼」が大量発生し、人狼とヴァンパイアが協力して一掃する。

世界設定はS・キングの『呪われた町』や小野不由美の『屍鬼』にもあるから、私の小説を盗作したとは言い難い。

ヴァンパイアに殺された人がヴァンパイアにならずにゾンビになるのは私の小説と同じだが、私とてウイズリー・スナイプスの『ブレイド』に影響されているので、これも白だ。

以上の点から言えば、グレーとしか言えず盗作と決めつけるには弱い気がした。

しかし、以下の部分は盗作の決定的な証拠だと思った。それは、

舞台の田舎町が「T沢町」。外部からの交通を遮断するために封鎖する鉄道が「M木野線」という点だ。

私の辻沢シリーズのロケーションは「辻沢町」。N市に始発駅のある「宮木野線」沿線にある。

私が有名作家で辻沢シリーズがベストセラー作品ならば、引用もしくはオマージュ的な何かといえるけれどそういうことはない。

私は無名で辻沢シリーズは書籍化してない作品だからだ。

万が一オマージュ的な何かであったとしたら一言ないと誰も気づかない。

けれど前書きでも脚注でも「辻沢シリーズ」には触れられていなかった。

ならばなぜわざわざ、その町名にしたのか、その沿線名にしたのか?

考えるうち、私の作品までが既存の何かを引用しているような気分になってしまった。

辻沢という町と宮木野線という路線がどこかに存在していて、私もDと同じように作品に取り込んだ。

辻沢も宮木野線も私の脳内にしかないものなのに。

私こそがオリジナルなのに。

創造主の地位から強制的にDと横並びにされた不愉快さ。

大事なものがふわふわと浮遊して手元からすりぬけて行く感覚。

まるで『ヒダル』に魂を擦り替えられたような薄気味悪さを感じた。

私はハッとなってブラウザを閉じた。

二度とDに関わらないようにこの件を完全スルーすると心に決めて。

 DMをくれたフォロワーさんには今回は無視しますと報告して、事を荒立てないようにお願いした。

これで盗作の件は一件落着となるはずだった。

ところが次の日、Dから奇妙な依頼が来て、私は思いもかけない事態に巻き込まれることになる。

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  • 少女がやらないゲーム実況   57.螺旋の中心へ

     私たちはヘッドランプを消し螺旋の中心に向かうべく蛭人間の列に近づいて行った。寸劇さんたちは暗視ゴーグルを装着していたが、私たちは持っていないので寸劇さんの腰に結わえたトラロープに頼ってついて行った。 下草の上を生臭い風が渡って行く。グアン、グアン、グアン、グアン。一定間隔で獣の唸り声が繰り返し聞こえている。その声は右から左に移動するように響いていた。「痛っ!」 暗闇の隣でDの声がしたと思ったら強い力で肩を掴まれた。寸劇さんの前に出てしまったのだった。「やつらこっちに気づいているのに攻めてこない」 寸劇さんが囁いた。目は私たちを追っているけれど隊列をくずそうとしないそう。「鎌爪でがっちり連結してる」 とサーリフくん。「攻めるつもりがないんじゃないか?」 サダムさんが言った。「サダム、グレネードを最長距離で投擲。暗視ゴーグル外せ」 寸劇さんの指示でサダムさんが動いた。しばらくすると、数十メートル先で白い光が点滅しだした。先ほどから聞こえている獣の唸り声が青墓に盛大に響く。 光の中の蛭人間は、隣同士で腕を交差させお互いの体に鎌爪を突き刺して連結していた。投擲した光源を見ているようだったが、列を崩そうとはしない。「動けないみたいだな」 光が消えて暗闇になった。「ヘッドランプに変更。お二人もつけていいぞ」 目の前が明るくなった。「偵察に行く。サーリフ俺と一緒に来い」 寸劇さんとサーリフくんが体を低くして蛭人間の列に近づいて行った。それを感づいた蛭人間の唸り声がまた大きくなったが、寸劇さんたちに襲い掛かる様子はなかった。 蛭人間の列にぎりぎりまで迫った寸劇さんが、シャムシールの切っ先で膨れ上がった腹を突き刺した。蛭人間は寸劇さんを見下ろしてはいるが、されるがまま動こうとはしない。シャムシールを引き抜くと、今度は正面に立って手で膨れた腹をたたき出した。それでも蛭人間は反抗すらしなかった。サーリフくんに至っては、腕を掴んで肩に登ろうとしていた。 寸劇さんは戻ってくると、「どうやら奴らは構造体と化しているようだ」 つまり普段のスレイヤー・Rのエネミーではないという事らしかった。「それならあたしだけで行きます」 とDが言ったが寸劇さんは、「いや、中がどうなっているかわからない。一緒に行く」 と返した。 私

  • 少女がやらないゲーム実況   56.螺旋のビジョン

     青墓は蛭人間であふれ、マップアプリを真っ赤に染めるほどだった。その赤い点滅の渦が収束する中心点が私たちの目的地。ミサさんが実況していそうな場所だった。ただ、ビーコンの位置はあやふやで、ミサさんがそこにいるかどうかははっきりとしていない。危険度MAXの渦の中心に行くからには確信が欲しかったのでDに聞いてみた。「今ミサさんの実況は見れないの?」 実況が見られたら倉庫の広場にいるかわかるかもしれない。「実況はリアタイで配信できないんです」 配信前に運営の検閲が入るのだそう。「そのせいでスマフォもカメラもヤオマン製しか持ち込めません」 サーリフくんが頭が目玉のオヤジになったスティックカメラを見せてくれた。「まあ、人が死ぬのを流されてもな」 とサダムさんがさらっと言ったのが余計に怖かった。そういうシチュエーションを何度も見て来たように聞こえたからだ。「隊列」 寸劇さんの抑えた号令で三角隊形を組む。近くに蛭人間の気配を感じて身を低くする。寸劇さんのフィンガーサインでみんなが前方を見た。 樹海の下草の先に蛭人間の壁があった。体を密着させて延々並んだ様子は、まるでそこから向こうに行かせないかのようだ。「マップを」 寸劇さんの指示でサーリフくんがマップを出す。マップを見ると渦の様子が変わっていた。蛭人間の赤い列が弧を描きながら中心に向かって続いている。「一つを突破しても、すぐに壁に当たるな」 サダムさんが眉間に皺を寄せている。この突破はかなり難易度が高いようだった。 「メンバー優先の観点からここは撤退する」 寸劇さんの判断は早かった。そう宣言されたら私はもう反対できなかった。寸劇さんたちが後退を始めた。私もそれについて行こうとしたらDが、「ここまでありがとうございました。あたしは一人で中心に行きます」 私は振り返りDの顔を見た。悲痛な顔をしているかと思ったら、あんがいさっぱりした表情をしていた。ことの重大さが分かっていないのかと思って、「無理だよ。一旦引こう」 Dはそれを聴き入れず、「タケルさんは、安全な場所で待っててください。ミサはあたしがきっと連れ帰りますから」 寸劇さんたちも立ち止まってDを見た。すると寸劇さんがDに、「勝算は?」 と聞いた。「あります。ビジョンです」 ベッド・イン・ビジョン

  • 少女がやらないゲーム実況   55.蛭人間の渦

     私とDは寸劇さんのパーティーに守られて青墓の樹海を進んでいた。先頭に寸劇さん、私たちの両脇をサーリフくんとサダムさんが固めていてくれた。 それにしても寸劇さんはデカかった。見上げる巨大な背中は屏風岩のようだ。時折緊張した筋肉がビシビシと音を立てる。これはどんな音だろうと思いながら小説で書いたのだったが、実際に聞けたのは嬉しかった。「団長、これ見てください」 サーリフくんが隊列を崩し前に進み出るとスマフォを寸劇さんに差し出した。寸劇さんはそれを見て、「ゆゆしき事態だな」 停止の号令をかけた。そしてそれをみんなに見せるよう指示した。サーリフくんのスマフォには画面いっぱいに赤い光の点がひしめき脈動のように点滅してた。 それはスレイヤー・R専用のマップアプリで、参戦しているスレイヤーたちに青墓に放たれた蛭人間の位置情報を知らせるためのものだった。普段なら、広い青墓全体で十数体の蛭人間しか出現しないので重宝されているが、この表示ではまったく役立たずだった。「500体か。たしかにゆゆしいな」 サダムさん言った。「これ既視感あります」 Dが私に囁いた。私もそれを感じていた。小説で寸劇さんたちのパーティーが壊滅した晩も同じように青墓中に蛭人間が溢れかえったのだった。3人は一晩中蛭人間の攻撃を受けそれに堪えて生き延びる。しかし、朝になって休息を取っているところをヴァンパイアの襲撃に遭って全滅する。「ミサを探されたくないのかも」 Dが青墓の森の木を見上げながら言った。 これもまた繰り返しならば、それが辻沢の意志なのかもしれなかった。 サーリフくんが、スマフォの赤い点滅を指して、「この渦の中心って、倉庫の広場ですよね」 マップの赤い点滅はゆっくりと渦を描いていた。その渦の中心がミサさんが実況拠点にしている場所で、渦はそこに向かって収束しているのだった。つまり蛭人間はミサさんを集中攻撃している?「いそぎましょう」 Dが寸劇さんを促した。それに寸劇さんは少しムッとした顔をしたが、このパーティーの目的を悟って莞爾と笑い、「まあ、待て。やみくもに前進してもやられるだけだ」 とマップ画面を指して、「この渦には風車のように蛭人間が密なところと疎なところがある。我々はこの疎を目指して中心に到達する」 言い終わると寸劇さんはDに目配せ

  • 少女がやらないゲーム実況   54.スレイヤー・R開幕

     ヒイラギ林の流砂帯を抜けて青墓の本体に足を踏み入れたら一段と寒く感じた。着ているものを通して冷気が体を撫ぜていく。ヘッドランプの光が届かない暗闇の中に禍々しい物が蠢いているようで怯えながら進む。青墓の杜の道はどこも積もった朽ち葉がぐにゃぐにゃしていて歩きにくい。 私とDは寸劇さんのパーティーについてスレイヤー・Rの会場を目指している。 私の前を歩くサーリフくんが、「チケットなしだとポイントどうなるんでしょう?」「未登録扱いだからいくら蛭人間を倒してもチャラだろう。最悪垢BANもある」 しんがりのサダムさんが答える。そのまましばらく沈黙したまま隊列は進み、ちょうど横からの獣道と交差する地点に来た時、先頭の寸劇さんが立ち止まり、「だな」 と振り返って言った。 一行はそこで二回目の休息を取ることになった。寸劇さんたちは、その場で今夜のスレイヤー・Rの位置づけを話し合っっていた。私とDはその側に腰掛けて待っていたいたが、急に寸劇さんが、「あんたらもどうするつもりだったんだ?」 と聞いてきた。私はどうもこうもなかったのだが、Dが、「あたしたちは人探しに来たんです」「いるなそういうの」 寸劇さんはスレイヤー・Rで人がいなくなるなんて珍しくもないといった反応だったが続けて、「写真あるか?」 と聞いてきた。それでDはスマフォを出してミサの写真を見せた。「ピンク髪女子か。この子なら何度か見かけたことがある」 とそのスマフォをDの手から取って他の二人にも見せた。それにサーリフくんは、「見たことがあります」 サダムさんは少し眉間に皺を寄せて、「俺も知ってる」 と言ったのだった。Dはそれを聞いて何か言いかけたのだが、寸劇さんが制して、「探すのを手伝おう」 と言った。 それでまずミサの情報を寸劇さんたちと共有することになった。・ピンク髪(染めている)で黒いメイド服を着ていて背格好はDくらい。・行方不明になったのは2週間前の定例。・ビーコンがあるが位置は青墓ということしか分らない。・LINEの既読はなし 情報を確認しての寸劇さんの感想は、「生きてる保証はないな」 私が思っていても口にできなかったことを寸劇さんは言った。Dは何か言い返そうとしたけれど声が出ず拳を固く握ったまま下を向いてしまった。 スレイヤー・Rは非

  • 少女がやらないゲーム実況   52.流砂脱出

     私とDはスレイヤー・Rのために張られた青墓の規制を回避するために、人が踏み込まない流砂地帯を抜けることにした。ヒイラギ林までは獣道を通って順調にこれたのだったが、流砂地帯に入った途端、私は足を滑らせて流砂穴に落ちてしまった。「タケルさん、動かないで!」 先を歩いていたDが私が落ちたことに気が付いて言った。「でも」 ふつふつと沸き立つ砂が足を呑み込み、どんどん中に引きずり込もうとする。じっとしていたらそのまま頭の先まで沈んでしまいそうだった。 私は摩擦を増やせば少しは呑み込む速度が減るかと思って砂の上に上半身を投げだした。顔に吹きかかる砂で息がしづらくなって余計に怖くなってしまった。起き直そうとして両手を砂に付くと、今度は両手が砂に呑み込まれて行く。一番やってはいけないことをしてしまったと後悔したけれどもう遅かった。次に浮上する時は屍人になっているに違いない。「これ掴んで!」 Dの叫び声がした。ヘッドランプの先に黄色と黒の縄が飛んで来た。私とDの絆、トラロープだった。私は砂に引きずり込まれつつある片手を伸ばし、トラロープを掴みに行った。「とどかない!」 トラロープの先端は伸ばした手の数十センチ先だった。するとヘッドランプの光の輪からトラロープが消え、再び現れた時には、私の頭の上に掛かった。私は命のトラロープを掴んで引っ張った。ロープがピンと張られて助かったと思った直後、ロープが力なく砂に落ちた。もがいたせいで砂に胸まで埋まる。かろうじてロープは掴んだまま。「力が入らないです」 Dは左腕が利かないのだった。「どこかに結わえて!」「やってます!」 ロープがピンと張るのを待って体を引き上げる。砂の抵抗が大きくて体がなかなか抜けない。「ダメだ!」「fdjshgs!」 Dがわめいたが何を言ったのか分からなかった。すると急にロープがぐいぐいと引っ張られて、そのおかげで私は砂から体を引き出すことが出来た。ロープを頼りに流砂穴の縁まで来ると、腕を掴まれものすごい力で引っ張り上げられた。「大丈夫か?」 立ち上がって見ると遥か上に顔があった。2mを超える大男、寸劇さんだった。「どうして?」 スレイヤー・Rに参戦しに来たのじゃないのか?私の質問の意味が把握できなかったのか、寸劇さんはしばらく黙っていたが、「あ

  • 少女がやらないゲーム実況   51.お天道様の油注ぎ

     私とDは辻沢駅前のヤオマンカフェで、迷彩服姿のスレイヤー・Rの参加者がバスを待っているのを見ていた。その中に本当ならこの世に存在しない寸劇の巨人さんがいて、Dはそれを度々起こる「繰り返し」と感じ、私はビジョンの中にレイカを見た時の、―――辻沢の時間軸が狂い始めている。 を思い出したのだった。 バスの時間が来て私が立ち上げるとDが、「怖いです」 声が震えていた。「出直すかい?」 それにはDは首を振り、「ミサを探さなきゃだから」 とバックパックを担いで立ち上がった。 青墓行きの長い列に並んでバスに乗り込む。、「青墓北堺まで」(ゴリゴリーン)(ゴリゴリーン) 中は迷彩服でギュウギュウだった。寸劇さんは前のバスで行ってしまったらしく、搭乗していなかった。 私とDは後からの乗客に押されて車両の中ほどまでに押し込まれた。ガタイのいい男の中でバックパックを前に抱えたDは私に向かって立って、「すみません」 と私の左腕を掴んだ。 バスが発車して左右に揺られながらDの顔を見ると憔悴しきっていて、「あんたこれから大変な思いをするね」 という作左衛門さんの見立てを思い出してしまった。それでDが気がまぎれるようにクイズを出すことにした。「寸劇さんの前世の名前はなんだ?」 私を見上げたDは、なんで今? という顔をしたが、辻沢オタクの血が騒いだらしく、「まめぞうです」「正解。じゃあ、まめぞうの二つ名は?」「お天道様の油注ぎです」 と即答した。まめぞうは背が7尺半(230cm)もあるので「太陽に燃料を注ぐ人」と言われていたのだった。「正解。さすが」「この話好きなんです」 とDは微笑んで、「本当はタケルさんのおばあさまの綽名なんですよね」 祖母は誰にも聞かせたことがない女学生時代のことを私だけに話してくれた。「寮長の目を盗んで冷蔵庫の牛乳を飲んだ」「九条武子(大正三美人の一人)に似てると言われていた」(これは他の人には言ってはいかんよ) 等の話の中に、「背が高かったから級友から『お天道様の油注ぎ』と呼ばれてた」 というのがあって、それをキャラに使ったのだった。 そのことは小説の後書きに載せておいたのだが、Dは覚えていてくれたよう。 Dを慰めようとしたのに優しかった祖母を思い出して逆に私の方がほっこりしてしまった。

  • 少女がやらないゲーム実況   37.聖地巡礼

     狭いバス通りの途中でバスが停車した。〈辻女前です〉 私とDは降車した。「あの子たちに会えたなんて聖地巡礼幸先いいですね」「確かに」 コッヘルを鳴らしてないのに会えた。「辻女も期待できるかな」 辻女へ行く路地を探す。ここからは住宅地の中を歩かなければならない。「あそこなんじゃないですかね」 角にパン屋さんがある路地が見えた。あれが辻女までの通学路にあるパン屋さんか。お店はもう少し奥まったところにあるかと思っていたか

  • 少女がやらないゲーム実況   33.辻沢行き

     私とDは幻の宮木野線に乗っていた。車内は女子学生の話し声と熱気でいっぱいで、車両の隅で縮こまっているしかなかった。「あなたたち、どこの高校?」 Dが近くにいた女子学生に話しかけた。突然話しかけられたせいか、真面目そうなその子の頬が赤くなった。「成実女子です」「辻沢シリーズ」で成実女子といえばギャルを量産する工業高校だ。でもここにいる女子学生はまったくギャルではなかった。「成実女子工業高校?」 と私は思わず聞いた。話しかけられた女子学生は私を一瞥して何かをスキャンすると、Dに返事をした。「今は成実女子IT高校」 名称変更をしたらしい。いったいいつの間に? 私はそれを小説

  • 少女がやらないゲーム実況   46.ミサの行方

     私とDは背負い籠を担いだまま山椒の木に取り付き、刺々しい枝から実を摘み取ろうとした。山椒の木の芽の香りが鼻をくすぐる。すると新人研修目的で側にいる蘇芳ナナミが、「籠は置いて。少しずつ収穫して片手に持てなくなったら籠に入れるんだよ」 その後すぐ、「レイカと知り合いとはね?」 と言ったのだった。私はDに、どういうこと? と目で訴えた。すると、「さっき奥の部屋でミサの写真を見てもらったんです。そうしたら」「辻沢の問題児、調(シラベ)レイカじゃないか」 Dが見せたのはコスプレ衣装のミサさんだったが、ナナミは有名人でも何でもない知人に変装するという事態が呑み込めず、ミサさんのことを調

  • 少女がやらないゲーム実況   45.山椒摘み

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