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第18話

Author: ジュウイチ
絵画展が終わった夜、尚季はホテルの一室で、離婚協議書を前に一晩中座り続けていた。

朝の光がカーテンの隙間から差し込み、宙を舞う埃を淡く照らし出す。

やがて彼はペンを取り、震える指で書類の末尾に自分の名前をサインした。

七年間の結婚生活は、この瞬間、静かに終止符を打った。

翌日、弁護士は署名済みの協議書をしずくのアトリエへ届けた。

書類には一枚のメモが添えられており、尚季の殴り書きのような力強い文字で、こう記されていた。

【しずく、ごめん。こんなことを言うのが遅すぎたかもしれないが、お前のこれからの人生が、お前の望むとおりのものでありますように】

それを受け取ったとき、しずくは新しい絵に色を置いている最中だった。

彼女は見慣れた署名を長いあいだ見つめ、やがて、ほっと息を吐くように微かな笑みを浮かべた。

ほどなく唯からビデオ通話がかかってきた。

「どうだった?あのクズ野郎、やっと正気に戻った?」

しずくはカメラを協議書のサインへ向け、「ええ、これで自由になれた」と答えた。

画面の向こうで唯は数秒黙り込み、それから「後悔してる?」と尋ねた。

「してないよ」

しずくは首を振り、絵筆を取り、再び絵の具に浸す。

「やっと、自由になれたもの」

尚季はP市を去る前、最後に一度だけ、しずくの住む町を訪れた。

彼はしずくの邪魔をすることなく、家の玄関先に、ずっしりと重い箱をそっと置いて立ち去った。

その夜、しずくは箱を開けた。

中に入っていたのは、この七年間に尚季が彼女に贈ったすべてのプレゼントの購入記録だった。レシート一枚一枚の裏には、そのときの出来事が丁寧に書き残されている。

さらに、十ページにも及ぶ長い手紙が添えられていた。

しずくは一字一句を辿るように読み進め、最後の一行に目を落とした。

【しずく、かつて俺を愛してくれてありがとう。大切にできなくて、ごめん。

もし来世があるなら、もっと早くお前に出会って、もっと早くお前を大切にする。今世は、ここまでだ。元気で――俺の、しずく】

不意に涙が紙の上に落ち、インクを滲ませた。

ゴッホは主人の心を察したのか、おとなしくしずくの手に頭を擦り寄せる。

しずくはその柔らかな頭を抱き寄せ、「ゴッホ、新しい生活を始めようね」と、かすかに微笑んで囁いた。

しずくは手紙と箱を捨てることも燃やすこと
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