تسجيل الدخول「……日和は? 中学、どこだったの?」
遠慮がちな私とは対照的に、彼女はとても楽しそうに身を乗り出してきた。
人懐っこい人だなあと、思った。
きっと、こういう女の子ってすごくモテるんだろうな。
「私? 私はね――」
「レーオーくーん」
声をワンオクターブ上げて話し出した日和。
そんな彼女の言葉を遮ったのは、突然教室の前のドアから聞こえてきたひょうきんな声だった。
一瞬、その声に静かになった教室。
と同時に、女子の目の色が変わった。
私の目も、みるみる丸まっていく。
うわっ……カッコイイ……。
つかつかと教室に入ってきた男2人。
見た感じ、明らかに先輩。
2人とも金髪で、ブレザーのボタンは1つもしめていなかった。
中の白いシャツが丸見えで、第2ボタンまで開けているシャツの隙間から、赤色のTシャツが顔を出していた。
ズボンも限界まで下げていて、だらしない格好だ。
だけど、それが妙にカッコイイ。
クラスの女子ほぼ全員、うっとりと彼らを眺めている。
廊下側の窓に目を向けると、そこにも、たくさんの女子が集まっていた。
だけど。
そんな中、日和だけが『げ……』と、顔をしかめていた。
「レーオくん。 入学おめでとう!!」
先輩のうち一人が、机に突っ伏している男子に近づいて声をかけた。
のっそりと頭を上げた彼。
眉間にしわを寄せ、ヤンキーを睨みつけた。
彼の髪も、茶色く染められている。
この男2人に比べれば、とても落ち着いた柔らかい色だけれど。
「………」
顔を上げても、無言の彼。
「入学早々不機嫌だな〜、レオくんは」
金髪の男が、彼の机に座りながら言うと
「その呼び方やめろよ」
金髪男2人とは違う、静かな、落ち着いた口調で言った。
「コウちゃーん。レオくんが冷たいよお」
急に瞳をうるうるさせた金髪男が調子よく泣きついたのは、彼らの後ろでニコニコと見守っていたもう1人の金髪男。
泣きついた男よりも、お調子者って感じ。
「こらっ、レオ。 仲良くしなさいっていつも言ってるでしょ。ソウちゃんに謝りなさい」
彼はなぜか、お母さん口調で怒る。
なんだ……?コント……?
もしかして、この人たちのコントはこの高校の名物だったりするわけ?
ファミレスで軽く夕食を済ませた私達は。『夏と言えば花火だろう』。 コウ先輩のこの一言で、急きょ花火大会をすることになった。花火と一緒にお酒やお菓子も購入し、ここらへんで一番近い海に向かった。電車を使わず歩いて行ける距離の海だから、写真で見るようなきれいな海ではないけれど。目的はみんなで花火。波の音と、潮の香りがあれば、十分だった。「美羽」砂浜に降りる階段の一番下で、コンビニの袋から花火を出して準備をしていると、私の隣に壮吾が腰掛けてきた。作業の手を止めずに壮吾を見上げる。「おまえ、酒飲むなよ」そう言って、手に持たされたのはオレンジジュース。「おまえが酔うと、たちが悪そうだからな」「そんなことわからないよ。案外ざるかもしれないじゃない」こんな事で張り合う私達は、まだまだ子供だ。でも、まあ。最初から、お酒なんて飲む気はなかったんだけど。壮吾の言う通り、私、本気で潰れそうだから。「美羽ちゃん、何してんの。早くこっちに来いよ〜」「美羽〜。 裸足でおいで。気持ちいいよ〜」相変わらず賑やかな兄妹。波打ち際で二人でじゃれ合っていた。『ったく、あいつらは』と、呆れながらもお尻を上げる壮吾。両手にはコウ先輩の分のお酒も持っていて。だけど、私の隣で立ち上がった瞬間、ピタリと動きを止めた。暗闇のせいで表情は見えない。「あいつに酒を飲ますのはいいけど、これ以上テンションおかしくなったら相手できねー」ああ……。それで、躊躇ってるわけね。「大丈夫だよ。コウ先輩には日和という保護者がいるから」「だよな」『おーい、はしゃぎ過ぎだろ。ったくガキじゃねーんだからよー』と、壮吾が砂浜を歩いて行く。一定のリズムで奏でられている波の音。寄せては引いて、引いては寄せて。その音に混ざって、壮吾の靴底からギュッギュッと、砂の鳴く音が聞こえた。
「あのー」私の横からひょいっと出てきたコウ先輩。お客さんを装って、本棚の整理をしていたレオくんに声をかけていた。「いらっしゃいま……げ」くるりと振り向いたレオくんが、あからさまに嫌な顔をする。本を片手に、頬が引きつっていた。「成人雑誌って、どこにありますか?」と、恥ずかしげもなくそんな事を聞くコウ先輩。もちろん、「黙れっ!! クソ兄貴」すぐに日和に頭をはたかれて、口を尖らせていたけれど。「何しに来たんだよ」声をひそめるレオくん。「何だその言い方は。 心外だな」ポケットに両手を突っ込む壮吾が、ブスッとして言った。「様子を見に来たんだよ。こいつが、心配してたから」壮吾の顎が私に向くと、『心配?』と、眉間にしわを寄せたレオくんが私を振り向いた。「おまえがちゃんと働けてるのかって、俺らは心配なんだよ」「んなの、余計なお世話だよ」素っ気ない一言を壮吾に向けて、仕事に戻って行くレオくん。「仕事終わったら、速攻裏に来いよ。駐車場で待ってるからな」壮吾がレオくんの背中に声をかけると、レオくんは返事をするように、背中越しに右手を上げた。「レーオ」本屋さんの裏口から出てきたレオくんに、コウ先輩が明るく声をかけた。駐車場のフェンスに寄りかかって話をしていた私達も、裏口へ目を向ける。レオくんは迷惑そうに、眉をひそめて私達を見ていた。「おまえ、今のうちからそんなに眉間にしわ寄せてっとすぐに老けんぞ」フェンスから体を起こした壮吾が、レオくんに歩み寄る。プイッとそっぽを向いたレオくんは、くるりと踵を返すと、無言で駐車場から出て行こうとしていたんだけど。「ちょちょちょちょ。待てって」ガシッと、壮吾に肩を掴まれていた。不機嫌に振り向くレオくん。「何なんだよ。俺、バイトで疲れてんの。騒ぎたいなら俺無しで騒いでくんない?俺、もう帰るし」「んな寂しいこと言うなよ。明日休みだろ?朝まで楽しもうぜ」「そうそう。 楽しもう」と、壮吾とレオくんの間にコウ先輩が割り込んだ。それを遠くから見ている私達は、目を見合わせ、肩をすくめてくすっと笑った。
壮吾の言葉に頷いた私だけど。レオくんが、接客をしている姿が全く想像できない。それって、私だけ?接客業ということは、少なからず笑顔は必要なわけじゃん?レオくんの営業スマイル……。うーん……。やっぱり、想像できない。「レオくんのバイトってさ、レジとかするんだよね?」私が聞くと、「当たり前じゃん」と、日和がおかしそうに笑った。「ということは、『いらっしゃいませ』とか、言うんだよね」さらに続けると「急にどうしたの?」と、日和が眉をひそめた。「いや、何か、ほら。全く想像できないから。レオくんが笑顔で『いらっしゃいませ』って言ってる姿」私がそう言うと、『確かに、言われてみれば』と、3人が同じように頷いた。「そういえば、俺らって、まだレオのバイト姿見てねーよな」「ああ」壮吾の言葉に、コウ先輩が頷く。「レオのバイト先には行ったけど、結局、中には入れなかったしな」私はぐっと背中を丸めた。その原因は、私にあるから。申し訳なくて、顔を上げることができなかった。「んじゃ、今から行ってみる?もうすぐ、バイト終わる時間だし」「いらっしゃいませー」レオくんのバイト先の自動ドアをくぐったら、明らかにレオくんだと思われる声が一番に聞こえてきた。これで店長に怒られないのかと心配するほど、暗くて、超棒読みな声だ。この辺りには、ここだけしか本屋がない。小さな本屋だけど、中には結構な人が入っていた。ぞろぞろと中に入る私達に、レオくんは全く気づいていない。ぶっきら棒に、だけど、すごく真剣に、接客を続けていた。「カバーつけますか」「あ、いえ」「1,155円になります」言葉に強弱がなく、ずーっと同じ調子。もちろん、営業スマイルなんてしているわけもなく。「ありがとうございましたー」本当に有り難く思っているのか、と、思わず突っ込みたくなるレオくんの声。だけど――。レオくんの黒のエプロン姿。ビューティフル。接客業としてはいけないことなのかもしれないけれど、レオくんのように美しい男性に接客されたら、どんなに素っ気なくても、どんなに笑顔がなくても、全然いいと思えてしまう。もっともっと接客をしてほしいって思っちゃうほど、レオくんはカッコよくて、少し大人に見えた。
「おじゃましまーす」ギャーギャー声が聞こえてきたのは、コウ先輩の部屋。そろりとドアを開け、中を覗き込むと「コウ!! てめぇ、ちょっとは手加減しろよ!!」「はっ?バカか、おまえ。手加減してたら楽しくねーだろ」壮吾とコウ先輩が、ゲームに熱中していた。私がドアを開けたことにも気づいていないようだ。「あ、あのー。入ってもよろしいでしょうか」おずおずと声を出すと、ゲームのコントローラーを手にしている2人が、くるりと振り向いた。「なんだ、美羽。来てたのか」そう言って、ゲームを中断した壮吾が、私の元へとやってくる。「何ビクビクしてんだよ。早く中に入れよ」またこの人は。自分ちでもないのに、そんな勝手に……。「日和は?」「あ!! 美羽。 いらっしゃい」壮吾に問いかけた瞬間、背後から日和の声が聞こえてくるりと振り向いた。日和の手には、紅茶カップと、さっき私が日和ママに渡した、シュークリームののったおぼん。「うお。うまそーなシュークリーム」一番に反応したのは壮吾だ。「美羽のお土産だよ」「マジで?そんな気を遣わなくていいのに」だから、壮吾。ここはあなたの家じゃないでしょ?そう思いながらも、「結構おいしいんだよ。食べてみて」と、コウ先輩の部屋に入りながら言った。コウ先輩の部屋は、相変わらず色んなものが散乱していた。だけど、やっぱり、不衛生には感じない。ホントに不思議。「ねぇ、レオくんは?」日和の持ってきてくれた紅茶に口をつけながら、壮吾に聞く。「ああ。あいつ、バイト終わってから来るって」ぱくっとシュークリームを頬張った壮吾が、何だか小さな子供に見えた。カッコイイだけじゃなくて、こんなかわいい一面もあるから、あたしはどんどん壮吾の虜になっていく。「バイトかぁ。頑張るね、レオくん」「まぁ、あいつなりに楽しんでんじゃね?バイトの愚痴なんて、一度も聞いたことねーし」「ふーん。そうなんだ」
「いい? 美羽。絶対に迷惑かけちゃダメだからね」玄関で靴をはく私に、お母さんが言った。もう、これで何度目だろう。「遅くまで騒がないのよ。近所迷惑にもなるし」「もうっ!!わかってるよ。小学生じゃあるまいし、ちゃんと考えて行動できるって」ヒールの靴をはいて、クルリとお母さんを振り返る。私の手には、お泊まり道具。そして、お母さんがしきりに持って行けと言っていたクッキーシュー。近所の有名なケーキ屋さんで買ったものだ。「ちゃんとお家の人にあいさつして、そのシュークリームを渡すのよ。わかった?」もう……。だからわかってるって。朝から何度も同じことを言わないで。夏休みに入り、日和の提案で一日だけ日和の家に泊まることになった。もちろん、壮吾とレオくんも一緒。みんなで徹夜して、思い切り遊ぼうってことになったの。お母さんがこんなにうるさいのは、初めてのお泊まだから。もう高校生なんだし、迷惑をかけなければ一日くらい泊ってもよし。と、許しを得たんだけど……。ここまでしつこく何度も何度も同じことを言われると、耳にタコ。まだ何か言いたげなお母さんがわを見ていたけれど、「いってきまーす」と、耳にイカまでできないうちに素早く玄関を出た。外は、街中が茜色に輝く夕方。お泊まりは夜がメインだから。と、夕方から日和の家に集合することにした。お母さんには内緒だけど、壮吾と一緒にお泊まりだ。まぁ、二人っきりではないけど、なんかテンションが上がる。ああ――…。めっちゃ楽しみ!!「いらっしゃい」日和の家に着き、出迎えてくれたのは日和ママだった。「こんにちは」「こんにちはー。壮吾くんも来てるから、さぁ、上がって」ぎこちなく頭をさげた私に、優しくて、超美人な日和ママがにっこり笑ってくれる。その笑顔が、どことなくコウ先輩に似ていた。「あの、これ、シュークリームなんですけど」食べてください、と日和ママに差し出す。「あらあらまぁまぁ。どうもご親切に。お母さんにお礼の電話を入れておくわね。ありがとう」そう言って、『早く2階にどうぞ。何もないけどゆっくりしてね』と、さらに優しい言葉をかけてくれた。
私の肩に腕を回す壮吾は、グイッと、レオくんの肩にも腕を回していた。バランスを崩したレオくんは、よろっとわ達に近づく。「悪いな。これが、俺達だからさ」眉間にしわを寄せ、涙をこらえている彼女に向かって、壮吾が悪戯に笑う。「ちょっとやそっとの事じゃ、俺たちはバラバラにできないよ。絆が他と違うからな」5人で肩を組んで、頬笑みあう。そんなわ達を見て、彼女がふわりとこちらに視線を向けた。罰が悪そうに眉を寄せて、口をへの字に曲げている。「……知らなかった」力のない声だ。「この件で、気持ちがバラバラになるものだと思ってたのに、全然、通用しないんだね。知らなかった。これが、ホントの友情とか、愛ってものなのかな」本当の友情。本当の恋愛。「ごめん……」......下川さん。「何の努力もしてないとか言ってごめん。いいよ。このこと、みんなに言って。レオくんに近づくために、私がしたことだって。私にムカついたでしょ? いいよ、仕返しして」力のない彼女の声は、図書室の絨毯に吸収されて、殆ど私の鼓膜は刺激されなかった。フラフラとした足取りで、図書室を出て行こうする彼女。「待って!!」クルリと、振り向く彼女。瞳には、涙が滲んでいる。「気まずくなるからって、私達を避けないで。この件は、これで終わり。また一から友達になって」私が右手を差し出すと、彼女は私の右手をじっと眺めた。ポタポタと絨毯を濡らしていく涙。嗚咽がこぼれて、肩が小刻みに揺れている。私の手と彼女の震える手が合わさった時、日和が私の背中に抱きついてきた。「まぁ。許せたもんじゃないけど、美羽がいいって言うなら仕方ないね」そう言って、日和も彼女に手を差し出している。「これで仲直り」日和がおどけて笑う。「ありがとう……」彼女は、涙をこらえながら、そう言った。私達を見ながらほほ笑みあうのは、壮吾とコウ先輩。「女ってわかんね」ぼそっと呟いたのは、レオくん。眉間にしわを寄せ、首を傾げている。「ま、いいじゃん。問題が解決したんだし」そう言った壮吾が、握手を交わす私達の側へとやってきた。「あんたも、見つけろよ。心から信じれる仲間をさ。そしたら、わかるよ。まぁこれが、ホントの友情とか、ホントの愛ってやつかわかんねーけどな」心が晴れるって、こういうことを言うんだね。笑顔がこぼれて、人
「まぁ、着いてからのお楽しみ」緊張している私とは対照的に、壮吾はとても落ち着いている。鼻歌なんて歌いだして、たまに私の太ももを叩いたりして遊んでいる。さすが、モテる男は違う。二人っきりで出かけるなんて、壮吾にとっては普通のことなのかな。彼女はいなかったとしても、普通に女友達とかいたんだよね……。「うしっ。降りるぞ」壮吾に言われ、行き場所を教えられていない私は、ただ黙って壮吾の後をついて行くだけ。私の手を引いて、時々頬笑みながら振り返る壮吾。ねえ、壮吾。私のこの鼓動、その手から伝わってる?その笑顔を向けられるだけで、痛いくらい心臓が高鳴るんだよ。バスに乗って約30分。
「ああ~、昨日、ほんっとおしかったよね~。もう少しで男子バスケ優勝だったのに」学食で、カレーの乗ったおぼんを持った日和が、席を探しながら言った。「そんなにいい試合だったの?」私の手には、学食で一番人気のある激安うどん。安くて、すごくおいしいんだ。「美羽も見とけばよかったのに。一体どこにいたのよ~。私、めっちゃ探したんだからね」ぷくっと頬を膨らませる日和。私は苦笑しながら肩をすくめ、ごめんと一言謝り、空いている席に腰を下ろした。「ちょっとレオくんのとこ行ってて」私が言うと、日和が身を乗り出してきた。その衝撃で、テーブルに置いたおぼんがガタンと大きな音をたてた。「レオくんと
レオくんを探す為に、教室に向かった。クラスマッチで全員が外に出ているため、1年生の校舎はシンと静まり返っている。私の歩く音だけが、長い廊下に響き渡った。ガラガラっと大きな音を立てながら教室のドアを開けると、そこはもぬけの殻。レオくんが寝てるんじゃないかと思ったが、完全に空振りだった。だとしたら...図書室……?この前、壮吾達が何の迷いもなく行ったのがそこだった。確信は持てないけれど、可能性がある場所を探すしかない。だけど。やっぱり、そこにもレオくんの姿はなかった。身を縮めがら3年生の廊下を歩く。上級生の校舎って、どうしてこんなに怖いんだろう。その時だった。何やら、嫌な
「いい? 美羽。練習通りにやれば大丈夫だからね。緊張しないで」体育館に向かう途中で、日和が自分に言い聞かすように胸の前で拳を握っていた。「緊張してるのは日和のほうでしょ?」悪戯っぽく言うと、日和は真っ赤な顔して私を振り返った。「なっ! この私がクラスマッチごときで緊張するわけないでしょ?」そう言いながら、声が上ずっている。今日は、1年生のクラスマッチ本番。クラスによっては、まとまりが出るようにと手作りのTシャツを着ていたりするけど、私達は学校指定のジャージのまま。男子が青で、女子が赤。高校生になって、初めての行事。みんな気合いが入っているようだった。女子バレーの第一試合







