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第2話

Author: 春日ヤマナ
未幸はかつて、何不自由なく育ったお嬢様だった。両親は健在、裕福な家庭で、何もかも大事に与えられていた。

けれど、そんな幸福な日々は、一夜にして崩れ去った。

家は破産し、多額の借金を抱えた。母は病で亡くなり、父は精神を病んでビルから飛び降り、そのまま帰らぬ人に。さらに追い打ちをかけるように、未幸自身には白血病という診断が下された。

幸福だった日々は、暗い闇に飲み込まれてしまった。

そんな絶望の中で、未幸にとって唯一の「救い」だったのが、健之だった。

風にあおられて揺れる街路樹をぼんやりと眺めながら、未幸は遠い記憶に浸る。

あの頃、健之は十歳だった。端整な顔立ちに透き通るような白い肌。どこか儚げな美少女で、育ちの良さが滲み出ていた。

一方の未幸は、真逆のタイプだった。田舎育ちで、よく日焼けし、元気いっぱいの活発な少女。炎天下のなか木に登ったり、川で魚を捕まえたりするのが日常で、健之の隣に並ぶと、まるで「田舎の野生児」のように見えた。

出会ったその日、せっかちな未幸は、健之が自分のことあんまり好きじゃないな、とすぐ気づいた。

それでも健之は、礼儀正しく、相手を傷つけるような態度は絶対にとらなかった。

未幸は遠慮なく、ぐいぐいと距離を詰め、まるでゴムのように、粘っこくまとわりついた。

学生時代、未幸は健之にラブレターを99通も送り続けた。読まれていないと分かっていても、毎日欠かさず届けた。

健之の好きなものは、なんでも真似した。バイオリン、書道、絵画……全部、彼の影響で始めた。

ある日なんて、友人のそそのかしで、大学の寮の前にハート型にキャンドルを並べて、バラを持って告白したこともあった。

健之は未幸を一瞥しただけで、何も言わずにその場を立ち去った。

周りに笑われても、未幸はめげなかった。翌朝も、いつも通り健之に朝ごはんを届けに行った。

「まるで健之の追っかけだね」とか、「どうせ最後まで何も得られないよ」なんて、さんざん言われた。

それでもある日、健之から突然の告白があり、婚約はあっという間に決まった。

「女から追いかけても、上手くいくことあるんだね」と周囲は囁いた。未幸の一途さが、とうとう健之の心を動かしたのだと。

でも、現実は違った。当時の藤崎家は、経済的に大きな危機に直面していた。それを打開するため、健之は仕方なく未幸を選んだのだ。

婚期は何度も延期されたが、未幸は気にしなかった。十数年の付き合いの中で、健之は「感情表現が苦手な人」だと理解していたから。

きっと、愛情はある。ただ、うまく伝えられないだけ――そう思っていた。

だって、健之はこれまで誰とも付き合ったことがなかった。

藤崎家が危機に陥ってた時、名家の令嬢たちが狙っていたのに、健之はそれらを全て断って、最終的に選んでくれたのは自分だった。

……それは、葉山雅美(はやま まさみ)が現れるまでの話だった。

未幸の目の前で、健之がまるで狂ったように誰かを愛している姿を見たとき、ようやく分かった。

今までのすべては、彼女の勝手な思い込みだったのだと。

健之は、冷たい人なんかじゃない。

ただ、未幸を愛していなかっただけなのだ。

頬を伝う涙をそっと拭い、未幸は黙って荷物をまとめ、駐車場へと向かった。

車の近くまで来たとき、ふと足が止まる。無意識に掻いてしまった手のひらのかさぶたが、また開いていた。

車内で、健之が白いキャミソールを着た少女と情熱的にキスしていた。

相手は、雅美だった。

窓は開いていて、雅美の甘く切ない吐息が漏れていた。

彼女の細くて白い脚が、不自然なほど艶やかに浮かび上がっていた。

その瞬間、スッと窓が閉まった。

車内の喘ぎ声が止まり、代わりに、くぐもった嬌声が響いた。

呆然と眺める未幸は、ふいに目をそらし、健之に電話をかけた。

……当然のように、健之は切った。

未幸は、何度もかけ直した。ようやくつながった時、電話越しの健之の声は低くしゃがれ、明らかに怒気を含んでいた。

「……何の用だ?」
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