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第10話

Penulis: 壁越しの青い杏
陽菜が空港を出ると、異国情緒あふれる様々な建物が目に飛び込んできた。昴の話では、彼女の到着はちょうどいいタイミングで、Y国政府はテロリストを制圧し、もはや戦争は終わったという。

「先輩、やっと来てくれました!うちのボスが適任の修復師を見つけられなかったら、今度は僕の皮を剥ぐって言ってましたよ」

昴は相変わらずのおしゃべりだったが、異国の地で再会できたことは、陽菜の気分は自然と晴れやかになった。

「冗談はいいから。10時間以上のフライトでくたくただよ。早くホテルに連れて行って」

昴はきまり悪そうに笑った。

「先輩、ボスが言うには君は重要人物ですから、戦争は終わったとはいえ、まだ完全に安全とは言えないって……それで、彼の家に泊まってもらうことになってます」

昴の声はだんだん小さくなっていった。陽菜は眉をひそめた。

昴の話すボスに会ったこともないのに、いきなり一緒に住むなんて?

「早瀬、冗談でしょ?私は……」

「まあまあ先輩、これも安全を考えてのことなんですよ。でも安心してください、ボスはとてもいい人ですし、家も広いです。修復する文化財もそこにありますから、仕事にも便利で安全、一石二鳥ですよ」

陽菜は彼が荷物をせっせと運ぶ様子を見て、あまり深く考えないことにした。どうしても無理なら、後で引っ越せばいい。

この国はつい最近まで戦争状態にあったため、至る所に廃墟が広がり、家を失った人々が道端に集まり、政府軍の指示を待っていた。

陽菜はふと、自分も彼らと同じように家のない人間なのだと感じた。幸い、彼女には仕事があり、生きていくのに十分な金があった。

そう考えると、泰成に何度も傷つけられた痛みも、少し和らいだように感じられた。

「先輩、立花とのこと、全部聞きましたよ。離婚なんて大したことじゃないです!僕が保証します、今後はあいつより一万倍いい男を紹介しますから」

昴は胸を叩いて約束した。当時、泰成が陽菜を追いかけた熱狂ぶりを知らない者はいなかった。

学校中の誰もが羨むカップルだったのに、ここ数年泰成のやったことは、二人を応援していた同級生たちの心を本当に傷つけた。

陽菜は眉をひそめた。離婚?彼女と泰成には婚姻関係すらなかったのに、どうやって離婚するというのだろう。

「早瀬、何を言ってるの?私と立花は実際……」

言葉が喉まで出かかったが、陽菜は
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