九条さん…えーと征一さんは休みがあるとデートをしてくれて、その度になんらかのプレゼントをくれた。
宝石類から洋服までプレゼントをしてくれる。
正直なところ、秘書は自腹で私服を調達しないといけないので、助かった。
そんなデートを繰り返し、ある日大きな花火が鳴るレストラン(貸し切り)で、九条さんからプロポーズをされた。
私に打算があったことはそれは否めない…。
私は平社員だけど、九条さんはイケメンで現在秘書課の課長補佐というポストについている。私はアラサーだし…。九条さんはレストランを貸し切りにできる財力があるみたい。優良物件だと思う。
私の頭にあるのは10年追いかけ続けた瀬戸さん。このまま楽な方へ流されるように九条さんのプロポーズを受けてもいいの?
「瀬戸のことが頭にあるの?俺が忘れさせるよ」
その言葉のままに彼に体を許してしまったのは、楽になりたいという気持ちがどこかにあったからだと思う。
翌朝、私は九条さんのプロポーズを受けることに決めた。もう迷わない。10年追い続けてダメだったんだから、もう諦めろってことなんだろう。
プロポーズを受けた後、彼はまた社内メールで大々的に私と結婚することを社内に報告した。
そこまでする必要はあるんだろうか?
結婚式の話になったけど、結婚式の話になればなるほど征一さんの様子が変わっていく感じがする。前よりそっけないというか、気のせいかな?決めることが多くて私も征一さんもナーバスになってるのかも。
式の前日は征一さんは「最後の独身を味わいたい」と言って、昔の友人と飲みに出かけた。その日の夜遅くになると雨がひどくなっているので、征一さんが風邪をひいてしまうと思い私はいつも征一さんが昔の友人と飲みに行く飲み屋へと傘を持って行くことにした。
「俺さぁ、瀬戸のやつをイラつかせたくて、わざと白鳥清香を口説いたんだよね。落としたらアッサリと体まで許してさぁ、案外つまらない女だったよ。でもまぁ、悔しいからさぁ式の直前に逃げて恥をかかせたら面白いだろ?」
「お前、それ鬼畜すぎないか?」
「だってよぉ、昔から瀬戸のやつが一番で、あいつむかつくんだよ!」
それ以上は聞かなかった。聞きたくなかった。
私は征一さんが瀬戸さんに嫌がらせをするために利用したの?そうね、だからあんなに大々的に社内メール…。
「そういうわけで、九条は本社勤務から北海道支社勤務になった。嫌なら、一京コーポレーションを辞めて、実家の九条コーポレーション勤務になるだろう。まぁこれで俺と清香と澄人に関わってくることはないだろう」「父さ~ん、その人なんで僕に関わってきたの?」「もっと大きくなったら教えてやるよ。そうだなぁ、高校生くらいかな?」 その時玄関のチャイムが鳴った。「蒼君~♪来ちゃった」「「社長!!」」「え?あの人社長なの?母さんも父さんも驚いてる」「そうよぉ、ちょーっと難しい話になるかな?蒼君の年の離れたお兄さんよ」「うーんと、それじゃあ僕の伯父さん?」「そうね」 まさか来るとは思わなかった…。「蒼君には兄貴って呼ばれたいなぁ。清香ちゃん、久し振り~。清香ちゃんには‘お義兄さん’かなぁ?」 頭ではわかるんだけど、ずっと「社長」って呼んでたし、「社長」って方が馴染みがあるんだけどな。本人の希望だし?「で、その‘兄貴’は何をしに?可愛い甥を見に来ました。オジサンだよ~!」 見た目がオジイサンなんだよね。「流石に清香ちゃんの血筋だね。可愛い。将来は可愛い系の男の子になるのかなぁ?草食系?」「僕はお肉の方が好きです!」 違うんだけどね。まぁ今はいいわよ。社長も言葉を選んでくれてるみたいだし。「おぉ、清香ちゃん!妊婦さん?」「そうなのよ~。孫が増えるのよ?素敵でしょう?」「そっか、孫かぁ。仕事ばっかりで独身貴族をずっとしてきたからなぁ。オジサン兼オジイサンはだめかな?」「清香の子は会長の孫です。会長に聞いてください」 俺は兄貴にビシッと言っておいた。こんなの(社長)をオジイサンにした日には毎日のように家にプレゼントが届けられそうだ。 会社の人間はあまり知らないけど、俺が会長の息子で清香がその妻。澄人は会長の孫。今度産まれてくる子も会長の孫ってことになる。 その後、私はまた超痛い思いで出産を体験し、今度は女の子を産んだ。 お義母さんが狂喜乱舞していた。 この子が成長したら、一緒にショッピングとか…と、また夢を膨らませていた。 なんだかんだと私は幸せに生活してます。 想い続けていた旦那様。可愛い子供達。サポートをしてくれる義理の家族。 今が一番幸せなんじゃないかな? 幸せ過ぎて怖い時もあったりするのよ?
あの子供からはサンプルをいただいた。 白鳥は髪を染めているから、この真っ黒な髪は間違いなくあの子のものだろう。 DNA鑑定の結果俺とあの子の親子関係が99.9%ということだ。 ハハハッ、滑稽だよな。 あんなところで白鳥を発見し、ちゃっかりと瀬戸と結婚してるんだから。 瀬戸のやつはまたしても俺よりも上を行くのかよ! 俺は握りつぶしそうになったDNA鑑定の結果を社内メールで社内にバラまいた。「え?あの子、瀬戸さんの子じゃないの?」「九条さんの子?」「この鑑定は本物なの?偽造じゃなくて?」「あー、瀬戸君。社長室にいいかな?」「はい」 (ザマァミロ。どっか僻地にでも左遷になってしまえ!)社長室にて:「蒼く~ん、会いたかった~」「社長。社内では控えて下さい」「なかなか実家でも会えなくてさぁ。で、本題だけど。この社内メールはなんなの?」「多分、嫌がらせかと…。以前からあったので。秘書課の九条課長補佐はわかります?」「ああ、蒼君よりは劣るがそれなりに優秀な人材だと思っている」 俺は九条と清香にあったことを社長にぶちまけた。いいよな?あの子は社長の甥にあたるわけだし。「なんだそれは?ただの八つ当たりじゃないか?それでその清香という女子社員が利用されたと?」「写真の子は清香と九条の子です。しかし、清香は私の妻であり、澄人も私の息子です!」「他人を利用しまくりだなぁ?それも自分がのし上がるため?無理だよ、蒼君が上にいるんだもん」「お褒めに頂き光栄です」「蒼君は堅いなぁ」「社内ですから」「うーんどうしよっかなー。九条君もそこそこ後ろ盾があるんだよね。なにもうちに就職しなくても、九条君の実家は‘九条コーポレーション’だし。蒼君……随分ライバル心で執着されてるみたいだね?気付いてる?」「あ、そうなんですか?そうなんだろうな。そっかぁ、そうだよな、九条は実家の会社に行けば今よりいいポストが約束されてるもんな」「よしっ、九条君を支社に左遷することにしよう。同時に辞表が出れば九条君は自分の家の方に就職するだろうし」「どこにするんです?」「北海道支社にしようか?冬は車の装備をいろいろ変えないとならないし、それだけで結構な労力だ」辞表:九条征一 本社秘書課→北海道支社秘書課 という文面が張り出された。本人は「冗談だろ?」と思ったが覆る
「ってことがあって、面倒だったよ」「蒼さんも大変なのねぇ」「秘書課はソノ手の女性が多くて面倒です。社長にも問題がありますが、女性の服装などを考えると、本当に父親は社長なのか疑わしいですよ?本当に」「俺に『腹の子の父にならないか』と誘ってきましたからね。父親は誰でもいいんじゃないですか?それなりに財のある人」「それより、気になっているのですがお義父さんはどうなっているのでしょう?」「清香ちゃんに気になってもらえるなんてあの人も果報者よねぇ。うふふっ、ちゃんと生きてるわよ。「清香も知っている人物。見たことあるんじゃないか?一京コーポレーションの会長なんだよ。俺はおふくろの名字を名乗ってるからあんまり知られてないけど。社長は異母兄ってヤツだな」 私は情報量の多さに気を失うかと思った。「俺はコネだとか言われたくないから、‘瀬戸’をずっと名乗ってるし」「蒼さんは実力で今の地位ですよ!」「清香ちゃんそんなに全力で言ったらお腹に響くわよ?」「胎教にいいんです!蒼さんは実力で今の地位です。誰が何といおうと実力です!」 九条さんはなんかライバル視してたけど、実力差です! 月日は流れ、私は男の子を出産した。名前は澄斗とした。 お義母さんも蒼さんも澄人を溺愛してくれる。蒼さんのDNAは入ってないんだけどな…。それがなんだか心苦しい。 ある日、会社のレクリエーションに参加した。 私の事なんか忘れているだろう。と思ってたんだけど…。「白鳥か?しばらくぶりだなぁ?何をしていたんだ?」 澄人の出産と育児と、専業主婦。「おっ、このモジモジしてるのお前の子供か?」 その時、蒼さんが私を囲む人々の中から私と澄人を引き剥がして、「俺の妻子に手を出すな!」 と、言った。「おおー!白鳥が瀬戸の最愛かぁ。良かったなぁ、白鳥。ずーっと瀬戸にアプローチしてたもんな」 みんな知ってるんですよ。蒼さんだけが気づいてなかったんです! (瀬戸の子…年齢を考えると、結婚式をする予定だった頃には妊娠していたことになる。うわきしていたのか?白鳥にそれはなさそうだな。いっちょ試すか!)「名前は何て言うんだい?服に髪の毛がついているよ?」 (俺はそう言いながら澄人なる子供の肩についている髪の毛をいただいた。DNA鑑定でもしよう)「白鳥も妊婦さんか?お腹がポッコリ
翌日は平日で蒼さんも九条さんも出社したハズ。「九条、結婚できたのか?」「白鳥がどこかに行ったんですよ。なんなんですか、あの女?俺の財産狙いですか?」「ああ、そういえば俺昨日だっけな。婚姻届役所に提出したから既婚者になった」「相手は誰だよ?」「俺の大切な人」「まあ、そうだろうけどよぉ。名前とか。そうだ!写真ないのか?」「あるけど見せないよ、キヨが減る!」(キヨ?白鳥の名前も‘きよか’だよな?まさかな) 昼休み。私が作るのが筋だけど、お義母さんが誰が見ても完璧な弁当を作り上げた(スープ付き)。「おっ、瀬戸!早速愛妻弁当か?」「残念なんですけど、私の母作です。こういうの作るの好きなんですよね。小物とか作るのが好きでなんだかお恥ずかしい」 (俺はコンビニ弁当だよ。瀬戸がマザコン疑惑を流そうか?) 今朝も蒼さんのお弁当を作ろうと思った。台所へと勇んで行った。そこにあるのは完璧な弁当(完成形)。白米ではなく、炊き込みご飯。弁当箱の中が茶色にならないようにプチトマトなどを配置。彩も鮮やか。弁当箱なのに、和洋中が勢ぞろいの豪華な弁当箱。しかも保温ボトル(?)にスープがついている。ちょっと寒くなってきたこの季節に嬉しい気配り! 弁当箱から後光が差しているようだ。なんだか眩しく感じる。「あら、早いのね清香ちゃん。もっとゆっくりしててもいいのよ?」「弁当でもと思ったのですが、お義母さんがもう完成させていたのですね」「あら、清香ちゃんに仕上げをしてもらおうかしら?ウフフ。この楊枝を卵焼きに刺してくれる?」 お義母さんのしたことに比べたら、本当に些細なことを私はさせてもらった。 蒼さんが午後からも元気に仕事ができますように。願いを込めて楊枝を刺した。 社長のスケ管とかもう分単位だよねぇ。 こういう時に限って、何だかよくわからない『社長に合わせてよ女』が現れたりするのよね。あれは厄介よね。 社長もアッチの方は変わらずお元気なようで。もうそろそろ車いすの世話になりそうだというのに、困ったお人だなぁと思っていた。 受付から社長に面会がしたいという女性がいらしているというのを秘書室の方で受けた。アポなしの特攻は無理でしょう?そんなことは重々承知だろうになんて無駄なことを。 その女性は社長の子を妊娠していると社の玄関ホールで叫び散らしているという。
「なんなの?その男は!こんなに可愛いお嬢さん。あ、清香ちゃんって呼んでもいい?清香ちゃんを利用するなんて最低!」「あ、でも私にも打算的なところがあったんですよ。もう10年近く瀬戸さんにアタックしていたけど、暖簾に腕押しだったのと私がアラサーだったのと、九条さんの財力かなぁ?」「まぁ!うちの蒼さんにアタックを?蒼さん気付いていました?」「白鳥、ゴメン。気づいてなかった。俺は人一倍鈍感なんだ」 どこまで鈍感なんだろう?私の10年……。「そんなわけで、私にも非はあるんです。でも流石に昨夜の友人との話を聞いたら今までの九条さんへの想いもキレイサッパリなくなりました!」「あー、あの友人たちとの会話はないな。独身最後で羽を伸ばすにしても、違うよな?」「蒼さん違うわよ。あの話は、蒼さんへの無駄なライバル心と清香ちゃんの嘲笑と今後の嘲笑計画よ。貴方は本当に鈍感ね。どうしてそんな子に育ったのか……」 瀬戸さんのお母さんが頭を抱えてしまった。 私はこの後どうするべきなんだろう?このままでいいのかなぁ?瀬戸さんのお母さんの言葉に甘えちゃっていいのかな?いやいや、そこはちゃんと自立しているべきよね!私だって母になる(かもしれない)んだから!「とりあえず、私が妊娠検査薬を買ってくるわね~♪」 と、楽しそうに瀬戸さんのお母さんが出かけていった。「瀬戸さんて実家通いだったんですね。イメージだと、タワーマンションの最上階とかに部屋があって料理とかも出来ちゃう!って感じだったんですけど」「うん?俺、料理はできないぜ?包丁は確かおふくろから禁止令が出てる。一体何を切ったんだろう?」 記憶にないのかなぁ?10年も見てきたからなぁ。なんか左手の親指がやたらと厳重に包帯が巻かれてる時あった。親指を切ったんじゃないかな?うん、怖いから包丁は禁止だね。瀬戸さんのお母さん、グッジョブです!「買ってきたわよ~♪」 なんか楽しそうだけど、数種類ある。 ふむふむ、使い方を確認し、いざ使用! 陽性に次ぐ陽性……。 なんてことなの?半分だけど、あんなクズの子供を宿しているなんて!……産むけどさぁ。「清香ちゃんの子なら可愛いでしょうねぇ!」 あぁ、瀬戸さんのお母さんが夢を馳せ始めちゃった!「なぁ、白鳥?お前をここに連れてきた時から思ってたんだけど、俺達で結婚しねーか?」 それは
私は逆に式の直前どころか雨の中帰り、すぐに引っ越しの手配をし、私物だけを持ち出すことにした。 征一さんがプレゼントしてくれたものは…要らない。 あの瞬間に彼への気持ちも何もかも冷めてしまった。 実家に戻ることも出来ないので、とりあえずはしばらくカプセルホテル住まいかな? 仕事も辞めるつもりでもう辞表も提出済み。 ―――――――ただ、このお腹に九条さんの子供を宿している可能性があるというだけ。 子供は……私一人で育てよう。今までの貯蓄でなんとかやっていけるだろう。 翌日「花嫁はどうしたの?」「それがどこを探してもいなくって」「征一君も知らないのかい?」「私の方が清香さんの居場所を知りたいくらいですよ!」 (あの女、俺に恥をかかせやがって)「俺、大至急で探してきます!」 今頃式場は大パニックかしら?私には関係のないことね。征一さ…九条さんも本当なら私を置き去りにする予定だったみたいだし。 式には会社の重役とかも招待していたわね、確か。招待状を書いたのは私だもの。あのプライドの高い九条さんなら今頃血眼で私を探しているでしょうね。 まさかのカプセルホテルにいるんですけど。昨日の段階で家から私の荷物が消えていることに気付いているでしょうに。「ふぁーあ、久し振りに良く寝た気がするなぁ。って白鳥?ココは会社じゃないよな?っていうか、お前は寿退社じゃないのか?」「あー、それには深い理由がありまして…」 カプセルホテルにまさかの瀬戸さんが!しかも同室に二人っきり‼ あの九条さんなら瀬戸さんを自分の結婚式に招待するような事はないでしょうね。 私は今までの九条さんとのことを瀬戸さんにぶちまけた。……お腹にいるかもしれないこの子とも含めて。「それはなんともなぁ。俺は俺として生きてきただけで九条の言い分は理解できん。俺が何か不正をして九条を貶めているとかそういうんじゃなくて、ただの逆恨みだろ?で、白鳥はそれに利用されてしまったと。確かに、九条から社内メールが来るたびになんだか嫌な感じがしたな。本来ならば祝うべきところなのにな。これを『嫉妬』っていうのか?」 瀬戸さんは何かに嫉妬をしたことがないの?純粋培養? そう考えながらも私は自分の顔が赤くなるのを止められなかった。瀬戸さんに嫉妬してもらったのが嬉しかった。「おい、白鳥。顔が赤いが大