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第505話

Autor: 藤崎 美咲
登世はわざと厳しい顔をして、自分を睨んだ。

「星乃みたいないい子、今どき探そうと思ってもなかなか見つからないんだからね。そんな子があなたに嫁いでくれたんだよ。このバカ孫、ちゃんと大事にしなさい。

もし星乃を泣かせたって知ったら、ただじゃおかないからね」

あの頃の自分は、いつもまともに取り合わなかった。

自分の中では、星乃の賢さが計算高さにしか見えず、聞き分けのよさも取り入ろうとしているだけに思えた。

美しさだって……ああ、それだけは認めざるを得ない。

だが、綺麗な女ならいくらでも見てきたし、星乃に対する偏見のせいで、その容姿に心を動かされることもなかった。

だから適当に相づちを打つか、あるいは誠司に電話をかけさせて、適当な理由をつけてその場を離れるだけだった。

なのに今、あれほど嫌っていたはずのこういう場で、彼は心の底から願っていた。

時間が巻き戻って、登世がもう一度あの言葉を言ってくれないかと。

今度こそ、ちゃんと答える。

大切にすると。

一方その頃、誠司は発表会に招いた記者たちを案内し終え、必要な指示を済ませると、慌てて戻ってきた。

悠真がまだその場に立ち
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  • 彼女しか救わなかったから、子どもが死んでも泣かないで   第505話

    登世はわざと厳しい顔をして、自分を睨んだ。「星乃みたいないい子、今どき探そうと思ってもなかなか見つからないんだからね。そんな子があなたに嫁いでくれたんだよ。このバカ孫、ちゃんと大事にしなさい。もし星乃を泣かせたって知ったら、ただじゃおかないからね」あの頃の自分は、いつもまともに取り合わなかった。自分の中では、星乃の賢さが計算高さにしか見えず、聞き分けのよさも取り入ろうとしているだけに思えた。美しさだって……ああ、それだけは認めざるを得ない。だが、綺麗な女ならいくらでも見てきたし、星乃に対する偏見のせいで、その容姿に心を動かされることもなかった。だから適当に相づちを打つか、あるいは誠司に電話をかけさせて、適当な理由をつけてその場を離れるだけだった。なのに今、あれほど嫌っていたはずのこういう場で、彼は心の底から願っていた。時間が巻き戻って、登世がもう一度あの言葉を言ってくれないかと。今度こそ、ちゃんと答える。大切にすると。一方その頃、誠司は発表会に招いた記者たちを案内し終え、必要な指示を済ませると、慌てて戻ってきた。悠真がまだその場に立ち尽くしているのを見て、急いで駆け寄る。「悠真様、ホールのほうに来るよう、雅信様がお呼びです」誠司は内心かなり落ち着かなかった。さっき雅信から電話が来た時、声色も口調も明らかに険しかったからだ。雅信と佳代は、普段からこの息子をとても可愛がっていた。悠真を冬川家の後継者として育ててきた二人は、たとえ悠真の判断が常人には理解できないものであっても、これまで一度も口を挟んだことはない。それは悠真の見る目が鋭く、冷静で、決断力もあったからだ。彼なら絶対に、冬川家の利益を損なうようなことはしない。二人はそう信じていた。だが今回は違う。今日の悠真の行動は、誠司から見ても、理性的な判断とは到底思えなかった。結衣の妊娠を、悠真はとっくに知っていた。しかもずっと周囲に隠していたくせに、今日になって、世間から散々注目されている元妻の前で、その事実をわざわざ暴いたのだ。それは結衣の顔を潰しただけじゃない。冬川家そのものを笑い者にしたようなものだ。さすがに今回は、簡単には済まされないはずだ。誠司はそう言いながら、どう対応するか相談しようと思っていた。だが、悠真はまるで

  • 彼女しか救わなかったから、子どもが死んでも泣かないで   第504話

    誠司の動きは早かった。騒ぎが起きるや否や、すぐにボディーガードに指示を出して記者たちを退避させ、壊れたカメラの弁償も済ませ、その場を片づけた。現場に残ったのは、星乃と悠真、それに数人のボディーガードだけだった。星乃は気持ちを落ち着かせると、小さくうなずいた。「大丈夫」助けてもらったことは事実だったからか、さっきまでのような冷たい口調ではなかった。「私を気にするより、自分の心配をしたほうがいいよ。それに、次からはあんなことしないで。前に律人から護身術を教わってたから、あれくらい避けられたの。わざわざ庇う必要なんてなかったし、もうあなたに借りを作りたくない」悠真は唇を引き結んだまま、何も言わなかった。崖下で数日間を共にして、彼も気づいていた。星乃はもう、昔みたいにか弱い女性じゃない。たとえ自分が動かなくても、彼女が怪我をしなかったことも分かっている。それでも、なぜ自分があの瞬間に飛び出したのか、彼自身にも分からなかった。頭で考えるより先に、体が勝手に動いていた。返事をしない悠真の様子を見て、どこか言いづらそうにしているのを察した星乃は、すぐに理由を理解した。きっと結衣の罪を少しでも軽くしたかったのだろう。そう思った瞬間、さっき少しでも心が揺らいだ自分が可笑しく思えた。「部屋の配置が変わってなければ、救急箱は寝室のベッド横の引き出しにあるはず。茶色い瓶の消毒液を傷口に塗れば、消毒にもなるし、痣にも効くから」星乃は淡々と言った。助けてもらったお礼のつもりだった。「他に用がないなら、私はもう帰るね」悠真は彼女の後ろ姿を見つめながら、さっきの言葉を思い返していた。ほんの一瞬、二人がまだ離婚していなかった頃に戻ったような気がした。けれど、もしあの頃のままだったなら、彼が怪我をした時、星乃はきっと慌てて薬を塗り、病院へ連れて行こうとしていただろう。今のように、距離を置いた淡々とした言葉だけではなく。もう慣れたと思っていたのに、それでも胸の奥には埋めようのない空白が広がり、じわりと苦しさが込み上げる。悠真は思わず口を開き、彼女を呼び止めようとした。その時、少し離れた場所から、登世の世話をしている使用人が歩いてきた。「星乃さん、せっかく来てくれたんだから、ぜひ会いたいって、登世様がおっしゃってます」

  • 彼女しか救わなかったから、子どもが死んでも泣かないで   第503話

    結衣は目の前がぐらりと揺れ、言葉にできない感情に襲われていた。悠真は皆の前で、さりげなく星乃をかばっていた。あの言葉は、ただ事情を説明するためだけのものじゃない。人前でも彼女を守る、そんな彼の意思がはっきりとにじんでいた。自分と星乃の間で、彼はまたしても星乃を選んだ。しかも、この場面がどういう意味を持つか、悠真ははっきり分かっているはずなのに。案の定、記者たちの間にざわめきが広がる。「悠真さんって星乃さんのこと好きじゃなかったんじゃないの? なんであんなふうにかばうの?」「でも星乃さんって結構すごいよ。あんな扱い受けながら、五年も結婚続けてたんでしょ。普通じゃ無理だよね」「結衣さんがやったこと、さすがにやりすぎじゃない? 正直ちょっと怖い」「これって、悠真さんが星乃さんと復縁するってこと?」「たぶんそうじゃない?」「……」ひそひそとした声があちこちで飛び交う。結衣ははっきりとは聞き取れなかったが、それでも自分に向けられる視線や、冷ややかな目は感じ取れていた。星乃も細かい内容までは聞こえていなかったが、大体のことは想像がつく。けれど、どうでもよかった。離婚届を出したあの日から、自分は悠真ときっぱり線を引いている。本来なら面倒な展開になると思っていたのに、まさか悠真が出てきて、こんなにあっさり片付くなんて。多少の引っかかりはある。それでも、偽の妊娠が明るみに出れば、冬川家が結衣を許すはずもないし、今日悠真が自分をかばったのも、本当はリスクを背負ってのことだと分かっている。少なくとも、冬川家の評判には多少なりとも影響が出る。この謝罪会見は、自分の予想をはるかに上回る結果になっていた。二人の間に沈黙が落ちる中、星乃は淡々と言った。「偽の妊娠なら、もう療養の必要はないよね。あとは弁護士と話してね、結衣さん」そう言い残し、星乃は背を向けてその場を去ろうとした。結衣はその後ろ姿を見つめ、目の奥を真っ赤に染める。どれだけ考えても、今日の出来事は全部星乃のせいだ。彼女さえいなければ、自分と悠真がこんなことになるはずがなかった。全部、彼女のせい。全部、彼女が悪い。考えれば考えるほど怒りが膨れ上がり、ついに限界を超えた。次の瞬間、結衣は記者の中からカメラをひったくると、そのまま持ち上げ

  • 彼女しか救わなかったから、子どもが死んでも泣かないで   第502話

    結衣はもう否定しても無駄だとわかっていた。悠真がここまで言う以上、彼の手元には、自分が妊娠していないと断定できるだけの証拠が揃っているのだろう。それでも分からなかった。どうして今、このタイミングで暴くのか。しかも、これだけ多くのメディアの前で。これまでの悠真なら、自分を守ってくれていた。こんなふうに自分を傷つけることはなかった。胸の痛みに耐えながら、結衣は自分に言い聞かせる。きっと、彼はついさっきこの事実を知ったばかりなのだ、と。あまりの怒りに、後先も考えず暴いてしまっただけなんだ、と。だが、その考えが浮かんだ直後、悠真は失望をにじませた目で言った。「ずっと前からだ。病院にいた頃には、もう気づいてた。結衣、君が自分から認めるのを、ずっと待ってた」その言葉を聞いた瞬間、結衣は全身の力が抜け落ちたように感じた。やっぱり、昨日の違和感は気のせいじゃなかった。けれど……結衣は並ぶカメラの列と、自分に向けられる、面白がるような視線を見渡した。胸を押さえ、苦しそうに声を張り上げる。「どうして今なのよ!?」暴くこと自体はいい。けれど、どうして今なのか。どうして、こんな無様な姿を皆の前にさらされなければならないのか。「これ以上、間違いを重ねるのを見ていられない」悠真の声は低く重かった。結衣の偽りの妊娠を知ってから、彼は強い怒りを抱いている。だがその怒りは、結衣に裏切られたこと、そして彼女への期待が思いもよらない方向へと崩れていったことに対するものだ。優しくてか弱いと思っていた結衣の内側には、闇と狂気、そして手段を選ばない冷酷さが潜んでいる。交通事故を仕組み、自分と星乃の子どもを死なせた。さらに何度も星乃を殺そうとした。星乃が崖から生還したと知っても心配するどころか、圭吾と手を組んで、ひそかに命を狙った。彼は何度も結衣をかばい、理由をつけてきた。だが、彼女は何度も過ちを重ねてきた。「でも……全部、あなたを愛してるからよ……」結衣は泣き崩れながら訴えた。「愛は、他人を傷つける理由にはならない」「じゃあ星乃は?私を傷つけてないの?もしあの子がいなかったら、私たちはとっくに一緒になってた!あなたの妻は、私のはずだったのよ!彼女が他人を傷つけてないって、本当に言い切れるの!?」結衣は声を張り裂けそうな

  • 彼女しか救わなかったから、子どもが死んでも泣かないで   第501話

    そのとき、周囲のざわめきを耳にし、悠真がこちらへ歩いてくるのを見て、星乃はようやく我に返った。彼女はバッグからスマホを取り出す。「もう芝居はやめて、あなた……」言い終える前に、悠真の声が落ちる。「子どもは嘘だ」その一言は、まるで水面に石を投げ込んだように波紋を広げた。会場は一瞬で静まり返り、次の瞬間、大きなどよめきが爆発する。「嘘ってどういうこと?」「妊娠してないってこと?じゃあこの血は何なんだ?」「……」事情を知らない記者たちは戸惑いを隠せない。一方で、事情を知っている者たちの顔色も冴えなかった。怜司はその場に立ち尽くし、結衣は真っ青になっている。悠真の表情は、さっきよりもさらに冷え切っていた。そんな中、星乃だけがわずかに眉を上げた。悠真がこの事実を知っていたこと、しかもそれを公の場で暴いたことに驚いたのだ。だが、その驚きもほんの一瞬。すぐにいつもの落ち着きを取り戻す。これまで悠真は自分を好いていなかったし、人前で恥をかかせることも一度や二度ではなかった。ただ、ここまで容赦のない冷たさは初めてだった。――きっと結衣に対する怒りが大きすぎたんだろう。愛が深いほど、憎しみも強くなる。それでも記者の中には疑いの声が残っている。星乃はスマホに保存されていた結衣の健康診断の結果を、カメラの前に数秒だけ見せた。そして、そのまま結衣の前へ歩み寄る。静かな声で言った。「だから、わざわざ不自然に謝罪を受け入れたのも、全部、私に濡れ衣を着せて、あなたの『子どもを殺した』ことにするためだったのよね?」結衣の顔は真っ白になり、何か言おうとする。だが、星乃はその隙を与えなかった。「最初に、涼真が私たちの中から一人だけ生かすって悠真に選ばせたとき、あなたは生き残るために妊娠したって嘘をついた。そうすれば、悠真はあなたを助けるしかなくなるから」顔を上げてはいなかったが、悠真の視線が焼けつくように自分へ向けられているのを感じていた。星乃はそれを意識の外へ追いやり、続ける。「確かにそれで生き延びることはできたけど、一度ついた嘘はもう後戻りできない。新しく子どもを作ろうとしても、時期が合わない。だから一番いい方法は、その『存在しない子ども』を『事故で流産したことにする』こと。ちょうどそのタイミ

  • 彼女しか救わなかったから、子どもが死んでも泣かないで   第500話

    結衣は言葉に詰まった。「あなた……」「星乃、やりすぎだろ」怜司が見かねて、人混みの中から声を張り上げた。星乃は冷たく笑う。「やりすぎ?あのとき彼女が奪ったのは一つの命よ。私はただ、土下座させるだけ。面子が命より大事だっていうの?」怜司は言葉を失った。悠真の方を見るが、悠真は結衣をかばう様子もなく、結局は黙り込むしかなかった。記者たちはチャンスとばかりに、カメラマンに合図して星乃と結衣へぐっと寄らせる。結衣は奥歯を噛みしめ、できるだけ平静を装う。もっとも、星乃が今日こんな簡単に引き下がるはずがないことは最初から分かっていたし、準備もしてある。むしろ、このまま何もせずに終わられるほうが困るくらいだ。「私が土下座したら、許してくれるの?」結衣は小さい声で言いながら、星乃に二歩近づき、その手を取った。その瞬間、星乃の脳裏に前と同じ光景がよぎる。同じ冬川家で。どこか見覚えのある場面。結衣が、自分に「突き飛ばされた」とでっち上げた、あのとき。ほんの一瞬で、星乃はその目から意図を読み取った。ふっと笑うと、考える間もなく、ためらいなく平手を振り抜いた。不意打ちの一発。熱した油に水が落ちたように、その場は一気に弾けた。結衣本人ですら殴られるとは思っておらず、一瞬固まり、次の動きすら忘れてしまう。「土下座しないなら、せめてこれで気は晴れたわ」星乃はじんと痺れる手のひらを軽くさすった。この一発で足りるはずもない。亡くなったあの子と比べれば、何の償いにもならない。結衣に溺れかけさせられたあの時に比べても、ほんのわずかだ。彼女が仕掛けてきた悪意の深さには、到底及ばない。むしろ、結衣をより弱々しく見せて、自分のほうが責め立てる悪女に見えるだけだろう。それでも構わない。気は済んだ。「え、今のって殴った?」「なんで急に?」「さっき何があったの?」「……」人々がざわめく。結衣はようやく我に返ったように頬を押さえ、よろめき、次の瞬間そのまま仰向けに倒れ込んだ。それを見て、怜司が立ち上がり駆け寄ろうとする。だが二歩も進まないうちに、冬川家のボディーガードたちにあっさり取り押さえられた。「悠真、何するんだよ!」怜司が焦って叫ぶ。「行ってどうする?」悠真の声は低く冷たい。底の見

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