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Author: はなきち
last update publish date: 2026-06-28 17:58:01

部活終わり。

忘れ物を思い出して、教室へ戻った。

夕方の校舎は静かだった。

吹奏楽部の音だけが遠くから聞こえてきて、廊下に差し込む西日が床を長く照らしている。

教室の扉を開ける。

そこには、湊くんがいた。

窓際の席。

頬杖をつきながら、ぼんやり外を眺めている。

扉の音に気づくと、湊くんはゆっくり振り向いた。

「おつかれ」

それだけ言って、また窓の外へ視線を戻す。

「……まだ帰らないの?」

と聞くと、

「うん」

短い返事。

それ以上は続かなかった。

「そっか」

それだけ返して、自分の忘れ物を手に取る。

用事は終わった。

そのまま教室を出て、静かに扉を閉める。

カチャン。

小さな音が廊下に響いた。

話すのも、こうやって忘れ物を取りに来たときだけ。

湊くんは誰にでもあんな感じだ。

静かで。

必要以上に近づかなくて。

でも、冷たいわけでもない。

だからこそ。

何を考えているのか分からなかった。

私はトートバッグを肩に掛け直し、部室へ急ぐ。

別の日、窓の外は少しずつ薄暗くなっていた。

吹奏楽部の音も止んで、校舎は昼間よりずっと広く感じる。

教室前の廊下で、足が止まる。

「……まだいるのかな」

自分でも意味の分からない独り言。

気になったって。

覗く理由なんてないのに。

小さく息を吐いて、もう一度だけ振り返った。

教室の後ろ扉。

その小窓から、湊くんの姿が見える。

さっきと何も変わらない。

頬杖をついて。

ただ窓の外を眺めている。

……なんか。

一人なんだな。

その背中を見た瞬間、胸の奥が少しだけ痛んだ。

でも同時に思う。

――これ以上踏み込んじゃだめな気がする。

誰かの寂しさって。

勝手に触れていいものじゃないから。

私は踵を返す。

そのまま帰ろうとして――

「あ」

バッグの中を探っていた手が止まった。

「……最悪」

ノートがない。

教室に置いたままだった。

小さく肩を落として、もう一度扉を開ける。

ガラッ。

その音に、湊くんが振り向いた。

「……どしたの」

「ノート忘れた」

「あー」

また静かな空気が流れる。

自分の席へ向かいながら、なんとなく口を開いた。

「湊くんってさ」

「ん?」

「いつも何見てるの?」

湊くんは少しだけ目を細める。

それからまた窓の外を見た。

「……別に」

「いや、絶対なんか見てるじゃん」

「見てない」

「うそだ」

「柚には関係ないでしょ」

ほんの少しだけ。

湊くんの口元が緩んだ。

「じゃあまた明日ね」

湊くんは少し間を置いてから、小さく返した。

「……じゃあね」

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    その後___ 付き合ってからも。 湊くんは相変わらず、 言葉で気持ちを伝えるのは苦手だった。 「授業中寝すぎ」 「ノートちゃんと写せ」 「また消しゴム落としてる」 口を開けば、 小言ばっかり。 でも。 先生に当てられそうになると、 机の下でそっと足をつついて起こしてくれる。 黒板のどこを見ればいいか、 黙って指を差して教えてくれる。 とびきりの優しい表情で話を聞いてくれる。 優しいなんて、 本人は絶対認めないだろうけど。 座席だって、しれっと私の後ろの席に希望を出して 移動してきた。 その全部が、 ちゃんと愛情なんだって。 今の私は知っている。 受験が近づくと、 お互い、前みたいには会えなくなった。

  • 待ってる。   33

    「だって湊くんが『待ってて』って言ったんだよ」 胸が締めつけられる。 あの日。 勢いで口にした一言。 まさか。 こんなにも大切にしてくれていたなんて。 でも。 だからこそ、苦しくなる。 「……ごめん。」 柚が驚いたように顔を上げる。 「俺の言葉が、枷になってたなら。」 「もう...待たなくていいから」 「そんな約束、忘れて──」 最後まで言えなかった。 柚がそっと俺の手を握ったから。 温かかった。 優しくて。 絶対に離れないと言うみたいに。 柚はまっすぐ俺を見つめる。 「違うよ。」 その一言だけで、胸がいっぱいになる。 「私は。」 少し照れながら笑って。 「待ちたかったの。」 握る手に少しだけ力がこもる。 「私は。」

  • 待ってる。   32

    柚の部活が終わるまで、いつもの教室で待つ。 窓の外は夕焼け色。 机に肘をついてぼんやりと考える。 今度はいつ遊べるだろう。 夏祭りも、クリスマスも、初詣も。 気づけば、一緒に過ごした思い出ばかり増えていた。 次はどこへ行こう。 けど、来年から受験生だもんな。 遊びに行く回数は減ってしまうかも。 そんなことを考えている時間が、最近は一番幸せだった。 その時だった。 廊下から柚の声が聞こえる。 友達と話してるのかな。 そう思いながら教室の扉へ向かう。 ドアノブに手をかけた瞬間。 「柚って彼氏いるの?」 男の声だった。 思わず動きが止まる。 「いない……けど?」 心臓が嫌な音を立てた。 「じゃあさ。」 少し笑った声。 「俺、立候補しようかな」 その一言で、頭の中が真っ白になる。 ……

  • 待ってる。   31

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  • 待ってる。   30

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  • 待ってる。   29

    緊張もほぐれてきて、 いつものように他愛もないやり取りをしていると、 柚がふと思い出したように言った。 「ねぇ、年明け初詣行こうよ。」 思わず顔を上げる。 「初詣?」 「うん!」 近くの神社は毎年かなり人が集まることで有名だった。 毎年通りかかるたび、 参道が人で埋め尽くされているのを見ていた。 ……あそこに一人で行く勇気はないな。 そんなことを考えていると、 ふと別の考えが頭をよぎる。 もし、人混みではぐれそうになったら。 その時は、 ――手を繋いでも、許されるのでは。 そんな気持ちを必死に隠しながら、 平静を装う。 「一番近い神社って、人多かったよな」 すると柚は笑って肩をすくめた。 「そうなんだよねぇ...」 一緒に行きたい。 「柚一人で行かせたら潰されそうだから、 一緒に行ってあげるよ」 「潰されないし!」 思わず笑ってしま

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