LOGIN弁護士である妻・伊原ひまり(いばら ひまり)と、5歳になる娘が拉致された。 駆けつけたとき、爆弾が炸裂し、二人は目の前で灰になった。 犯人を追うために力を貸してくれた検察官の兄・伊原想太(いばら そうた)まで、奴らの手に落ち、拷問の末に殺された。 誰もが言った。 俺・伊原叶太(いばら かなた)は捜査のやり方が過激で、あまりにも多くの人間を敵に回した。 みんなが俺のせいで巻き込まれたのだから、本来死ぬべきだったのは俺だと。 さらに捜査一課からも外された。 あれから3年、俺はひそかに真犯人を追い続けていた。 そしてついに、手がかりをたどって一軒のレストランに行き着いた。 死んだはずの妻も、娘も、兄も――3年ぶりに、生きてそこにいる。 しかも、三人は一人の男の子の誕生日を祝っている。 親しい友人や家族まで、そこに勢ぞろいしている。 怒りに任せて駆け寄って問い詰めようとした、そのときだ。 背後から、親友にがっちり腕をつかまれた。 「叶太、こんな現実、受け入れられないのは分かる。でも、もう二人は夫婦なんだ。これ以上騒いだら、お前だって間男と同じだ。 3年前、ひまりちゃんは想太の子を妊娠してたんだ。叶太は気性が荒いって誰だって知ってる。だから二人は叶太から逃れるために死んだことにするしかなかったんだ」 隣にいる母は、俺をじっと見つめている。 その目には、はっきりとした警告の色が浮かんでいる。 「知られたなら知られたでいいわ。想太とひまりは、子供二人を連れて、これまでずっと身を隠してきたんだよ。この目で見てて胸が痛かったんだから。 今はあの四人家族、幸せに暮らしてる。叶太が身を引きさえすれば、みんなも許してくれるわ」 喉の奥から、血の味がこみ上げた。俺はこの人たちを見回し、自嘲するように笑った。 ――そういうことだったのか。 ひまりも想太も、最初から死んでなんかいなかった。 俺が生き地獄のような3年間を過ごしている間、二人は何事もなかったように幸せに暮らしていた。 それを知っていたのは、俺以外の全員だった。 みんなで手を組んで、俺に隠していた。
View Moreひまりの瞳から光がゆっくりと消えていく。傍らで泣きじゃくる詩を見つめると、たまらなくなったように抱きしめた。詩を抱いたまま、ひまりはすがるように俺に頼んだ。「叶太にひどいことをしたのは分かってる。私に許してもらう資格がないことだって、分かってるの。でも、この子には何の罪もないわ。詩のためにお願い。もう一度だけ、私にチャンスをくれないの?これからは二人に今までの倍、優しくする。もう二度と、叶太を傷つけないって誓うから!」詩の顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。泣き濡れた目で俺を見つめながら、何度も「パパ」と呼び続ける。俺は冷たい目でひまりを見た。一瞬だけ胸が痛んだが、心を動かされることはなかった。「詩は、とっくに俺を父親だと思ってなかった。だったら、俺がこの子を娘だと思う必要もないだろ。帰ってくれ」俺は容赦なくドアを閉めた。一度締め出されても、ひまりは諦めなかった。3日に一度は、家へやってきた。昔、俺がいちばん好きだった店の天ぷらを買うために、わざわざ車を20キロ走らせることもあった。父の日には、詩を連れて手書きのカードを届けにきた。俺が勤務中で食事を取る暇がないときには、わざわざ手作りの弁当を持ってきた。恋人だったころも、ひまりはこうして俺に優しかった。でも、そんなことをしながら、俺の実の兄と不倫することもできた。彼のためなら、何度だって何の歯止めもなく俺を傷つけることもできた。何度も考えた末、俺はやはりひまりを訴えることにした。この3年間、ひまりは想太と手を組み、俺の身近な家族や友人たちまで巻き込み、何度も偽の犯人に関する偽の手がかりを俺に渡した。俺に信じさせるために、役者まで雇って、何度も俺を危険な目に遭わせた。体中に残ったこの傷を、許すことなんてできない。法廷で、ひまりは自分のために弁明することもなく、並べられた罪をすべて認めた。結果、傷害罪で懲役10年を言い渡された。そして、ひまりに協力して俺に偽の手がかりを渡していた者たち――彼女の親友も、俺の親友だった和也も、俺の後輩も、共犯として処罰された。それぞれ1年から3年の懲役を言い渡された。俺はようやく、3年遅れの正義を手にした。ひまりが服役すると、詩の親権は俺のもとへ移った。けれどひまりの両親
上司は、俺に事情があったことに加え、大きな手柄を上げたことも考慮し、死んだふりをしたことについて責任を追及しなかった。上司は自ら表彰状を俺に渡し、心から笑って言った。「伊原、明日から捜査一課に戻ってこい」俺は思わず息をのんだ。まず目の奥がつんと熱くなり、その感覚がすぐに全身に広がった。体の震えを、どうしても止められなかった。この日を、俺はずっと待っていた。上司に深く頭を下げ、感激で目を潤ませながら、力いっぱい言った。「これからも、どうぞよろしくお願いします!」その夜、同僚たちが俺のために盛大な祝賀会を開いてくれた。勇気を称えてくれる人がいれば、ここまで歩いてきた道のりの苦しさを思って、胸を痛めてくれる人もいる。そして、この数年間、俺に冷たい言葉を浴びせてきたことを謝ってくれる人もいる。その優しさに、俺は温かさを感じた。でも、遅れて届いた謝罪を、許すつもりはない。俺はこれまでと同じように、たとえ一人でも、信じた道を進み、自分がやるべきだと思うことを続けていく。俺が生きているという知らせは、すぐにひまりと両親の耳にも入った。知らせを受けると、三人はすぐに詩を連れて俺のもとへやってきた。顔を合わせた途端、詩が俺の胸へ飛び込んできて、悔しそうに泣きじゃくった。「パパ、もう二度と会えないと思ってたの!パパが詩を捨てるわけないって分かってた!うえぇん……これからは絶対、絶対パパの言うことを聞く。ちゃんと勉強するし、もう二度とお菓子食べないよ!」母は震える手で頬の涙をぬぐった。そして、媚びた笑みを浮かべ、恐る恐る俺を見つめた。「叶太、お腹空いてないの?今すぐ大好きなから揚げ、作ってあげるから!」ひまりはスーツケースを一つ引きながら、罪悪感を滲ませた顔で俺を見た。「叶太、今夜から詩を連れて、ここに戻って暮らすわ」俺は冷たく笑い、全員を家の中に入れなかった。「疲れてる。客を相手にしてる暇はない。帰ってくれ」母は焦って、また涙をこぼした。「何を言ってるの、この子は!客って何?母さんだよ。ひまりは叶太の妻、詩は娘。私たちは、叶太にとって一番身近な家族じゃない!」俺は首を横に振った。まるでこの世で一番おかしな冗談を聞いたようだ。「俺に妻も娘もいない。俺の妻と娘は、3年前に死ん
そこには、叶太が犯罪組織へ潜り込んでいた一部始終が映し出されている。潜入中、身元を怪しまれた叶太は、真っ暗な地下室にまる3日間閉じ込められていた。足の古い傷が汚い床にこすれ、何度も化膿した。そのうえ、ヘビやネズミに何度も体をかじられた。高熱で意識が朦朧としていても、服に隠した小型カメラを回し続けていた。「もし、俺の遺体を見つけたなら、必ず服に隠したこの証拠も見つけてくれる。俺のことは悲しまなくていい。犯人を法の裁きにかけられるなら、俺が死んでも、それでいい」別の映像では、証拠を隠し撮りしているところを犯人たちに見つかっていた。叶太は3階から突き落とされ、肩の骨は粉々に砕けていた。それでも草むらの中を這いながら、最後の言葉を録音していた。「もし運よく生き残れたら、必ずこの証拠を自分の手で捜査一課に渡す。もし俺が殺されたとしても、どうか俺が集めた証拠を使って、犯人たちを法の裁きにかけてくれ」そんな映像が、まだいくつも、いくつも続いた。……映像がすべて終わったあと、会場にいる全員が沈黙した。目に涙を浮かべる者もいれば、深く頭を下げる者もいる。みんなが、それぞれのやり方で、本物のヒーローに敬意を表している。その静けさを打ち破ったのは、想太の絶叫だ。「検事総長!あの人たちの言うことなんて聞かないでください!叶太が死んだから、あの人たちがいい評判を残したいだけなんです!本当のヒーローは俺です!叶太はとっくに裏切り者でした!早く表彰状をください!」そう叫びながら、想太は検事総長の手にある表彰状を奪おうと手を伸ばした。すると、かつて叶太と面識のある人たちがすぐに駆け寄り、自らの意思で想太を押さえつけた。これが、彼らが叶太のためにできる最後のことだ。検事総長は手にしていた表彰状を背後に隠し、険しい顔で告げた。「証拠は揃ってる。私から組織へ報告し、伊原想太に与えられたすべての表彰を取り消す。そして、法に基づいて責任を追及する」想太は呆然と、目の前に並ぶ冷たい顔を見つめた。あまりにも大きな衝撃に耐えきれず、その場で意識を失った。……俺は窓辺に座り、スマホに表示された最新のニュースを眺めている。想太は、虚偽告訴罪で逮捕され、服役しているという。そして俺は、最高検察庁と警視庁に表彰
スマホを置くと、想太は嬉しそうに思いを巡らせた。――表彰式では、愛する女と家族に囲まれながら、検事総長直々に表彰を受ける。これほど誇らしいことがあるだろうか。それに比べて叶太は、ただの死人だ。ひまりも、お父さんもお母さんも、しばらくの間はあいつのことで悲しんだとしても、一生その死を引きずるわけじゃない。1ヶ月もしないうちに、あのクズのことなんて誰も思い出さなくなる。生きているときですら俺に勝てなかったんだ。死んでから、どうして俺と張り合える?死ぬ間際に最高検察庁の表彰まで俺に譲ってくれたんだ。あの役立たずにも、最後くらいは使い道があったってことだ。そのとき、会場の扉が開いた。スタッフが巨大な祝いのケーキを載せたワゴンを押して、想太のもとへ歩いてきた。上司や同僚たちも次々と入ってきて、みんな祝福の笑みを浮かべている。そのあと、想太の両親が詩の手を引き、ひまりは息子の陸を抱いて入ってきた。家族全員が、きちんとそろって会場へ入った。想太の口元に、得意げな笑みが浮かんだ。――やっぱり、ひまりもお父さんもお母さんも、俺の表彰式を欠席するはずがない。この勝負も、また俺の勝ちだ。会場の歓声が響く中、検事総長が恭しく表彰状を手に取り、想太に渡そうとした。想太の手が表彰状に触れた、その瞬間だ。ひまりが突然、席から立ち上がった。「告発します。3年前、伊原想太が死んだことにしたのは、犯罪組織に潜入して証拠を集めるためなんかじゃありません。私と不倫の末に子供までできたことで、周囲の噂を恐れ、死んだことにして逃げただけです。実際にはずっと、人目を避けて何不自由ない暮らしを送っていました。この事件の証拠を命懸けで集めたのは、伊原叶太です。それを伊原想太が横取りしたんです!」里江は検事総長の手から表彰状をひったくり、涙ながらに訴えた。「私が証言します!この数年間、想太はずっと郊外の別荘に住んでいたんです。食事も身の回りのことも家政婦任せで、出かけるときは運転手が送り迎えしていました。犯罪組織に潜入して捜査したなんて、ありえません。指一本傷ついたことすらないんですから!すべての証拠を集めたのは、下の子の叶太です。捜査一課を離れてから、拳銃も武器も持たず、一人で犯罪組織の内部に潜り込み、何度も命を