LOGIN数か月後のとある日、課長から呼び出された。
「突然で申し訳ないんだが、桑島君が購買に行くことになった」
「え?」
「英語を話せる人が不足していてどうしても欲しいそうだ」
「そうですか……」
いろいろ仕事を覚えてきてこれからって感じだったのに。
でもスキルが活かせるならその方がいい。
早速桑島君のところに行くと既に机を片付け始めていた。
「聞きましたか」
「うん、すぐなの?」
「らしいですね」
「そうなんだね……」
「いろいろお世話になりました」
「まだ早いよ」
桑島君は引き継ぎの終わった数日後に異動していった。
また一人になってしまった。
仲良く出来ていたと思ったのに残念。
・・・
2年後
桑島君は購買でトップクラスに活躍しているらしい。
私の下ではきっとそこまで活躍させてあげられなかった。
適材適所ということだろう。
そして私の所にもようやく新人が配属された。
名前は坂本君と言う。
ただどうにも上手く教育できていない。
自分で考えさせようとしてるんだけどまったく自分の考えを言ってくれない。
それは行動も同じで何を考えてその行動をしたのか教えてくれない。
少しでも出来ることをやってもらおうと仕事を厳選して理解しやすい仕事を割り振っていく。
説明を理解したかは都度確認するようにして一歩ずつでも前に進むようにする。
出来るだけのことはやってきたつもりだった。
しかし、ある日のことだった。
坂本くんがA社に発注を出すといって見積もりを持ってきた。
これはB社と同時に見積もりを取っていてB社の方が少し値段が安かったものだ。
あえてA社を選んだ理由が気になったので質問した。
「ここはどうしてA社を選んだの?」
「A社のほうが良さそうだったので……」
「どうしてそう思うの?」
「A社の方が納期が早いので……」
「B社の方が料金安いよね?」
「まあそうですけど……」
「納期急いでる仕事なの?」
「分かりました。B社にします」
「え? 何が分かったの?」
「料金安い方がいいってことですよね、分かりました」
「……分かったならいいけど」
納期が重要じゃない仕事で料金より納期を優先する意味はない。
A社の方がアフターサービスがいいとかの理由があるなら教えてもらおうと思ったのだけど。
この時はそれぐらいの印象だった。
しばらく時間がたった後お茶でも飲もうと思い休憩室に向かう。
入り口まで来ると休憩室の中から声が聞こえた。
「あのクソお局が!!」
「まあまあ、いつもの癇癪でしょ」
大きな声を出しているのは坂本君で他に女性の誰かがいるようだ。
「細かいことをチクチクと、それで何が変わるんだよ」
「揚げ足取りたいんでしょ」
「答えが分かってるなら教えろってな」
「若者にマウント取りたいんだろうね」
「あんたの頭ん中の正解なんて知らねーっつーの」
え……、私のこと?
明らかにさっきの話のことだ。
「あれはもはやパワハラだろ、八つ当たりに付き合ってられるかよ」
「相談窓口みたいなのあるよね、そこ行ったら?」
「いい案だけどバレないかな?」
「一応機密保持はするらしいよ」
駄目だ、このままだと涙が。
急いでトイレに駆け込む。
入ると同時に涙があふれてくる。
あんな風に思われてたなんて。
単に分からなかったから聞いたつもりだった。
相手の考えを聞いていたのも理解できてるか確認してたつもりだった。
パワハラだなんてまったく思ってなかった。
この日はすぐに早退した。
そして数日後、課長から坂本君の異動を告げられた。
「坂本君がどうしても生産管理に行きたいという話でね」
休憩所の話を聞いていなければ納得したかもしれない。
でも休憩所の話を踏まえると異動したかっただけだろう。
「私の教育が良くなかったということですか」
「うーん、まあ坂本君には合わなかったのかもしれないね」
課長は言葉を濁しつつも否定はしなかった。
やっぱりそういうことなんだ。
私の足元がボロボロと崩れ落ちていく気がした。
その後、課長が何を言っていたかは記憶にない。
気づいた時には自分の席に戻っていた。
そういえば桑島君も同じように購買に行っていたな。
あのころは素直に信じていたけど、同じように私からのパワハラに耐えられなくて異動していったんだろうな……。
呼び出されたのが定時間際だったのでチャイムと同時に会社を飛び出す。
もうすべてを忘れたい。
そう思って居酒屋に入り、慣れないお酒をがぶ飲みしていた。
私のしてきたことは間違っていた。
教育するどころか拒絶された。
完全に上司失格だろう。
いや、それどころか人として失格だ。
……会社、やめてしまおうか。
もう居場所なんてない。
涙がとめどなくあふれてくる。
でも店の中で声を出す訳にはいかない。
顔を伏せてタオルを口元に置いて少しでも声を抑える。
「あれ? 先輩が居酒屋なんてめずらs……先輩?」
「桑島君……」
数か月後のとある日、課長から呼び出された。「突然で申し訳ないんだが、桑島君が購買に行くことになった」「え?」「英語を話せる人が不足していてどうしても欲しいそうだ」「そうですか……」 いろいろ仕事を覚えてきてこれからって感じだったのに。 でもスキルが活かせるならその方がいい。 早速桑島君のところに行くと既に机を片付け始めていた。「聞きましたか」「うん、すぐなの?」「らしいですね」「そうなんだね……」「いろいろお世話になりました」「まだ早いよ」 桑島君は引き継ぎの終わった数日後に異動していった。 また一人になってしまった。 仲良く出来ていたと思ったのに残念。・・・ 2年後 桑島君は購買でトップクラスに活躍しているらしい。 私の下ではきっとそこまで活躍させてあげられなかった。 適材適所ということだろう。 そして私の所にもようやく新人が配属された。 名前は坂本君と言う。 ただどうにも上手く教育できていない。 自分で考えさせようとしてるんだけどまったく自分の考えを言ってくれない。 それは行動も同じで何を考えてその行動をしたのか教えてくれない。 少しでも出来ることをやってもらおうと仕事を厳選して理解しやすい仕事を割り振っていく。 説明を理解したかは都度確認するようにして一歩ずつでも前に進むようにする。 出来るだけのことはやってきたつもりだった。 しかし、ある日のことだった。 坂本くんがA社に発注を出すといって見積もりを持ってきた。 これはB社と同時に見積もりを取っていてB社の方が少し値段が安かったものだ。 あえてA社を選んだ理由が気になったので質問した。「ここはどうしてA社を選んだの?」「A社のほうが良さそうだったので……」「どうしてそう思うの?」「A社の方が納期が早いので……」「B社の方が料金安いよね?」「まあそうですけど……」「納期急いでる仕事なの?」「分かりました。B社にします」「え? 何が分かったの?」「料金安い方がいいってことですよね、分かりました」「……分かったならいいけど」 納期が重要じゃない仕事で料金より納期を優先する意味はない。 A社の方がアフターサービスがいいとかの理由があるなら教えてもらおうと思ったのだけど。 この時はそれぐらいの印象だった。 しばらく時間が
数カ月後 桑島君は大分仕事を覚えてくれた。 きちんと自分の考えを説明できるし私が思いつかない発想があったりして面白い。 わからないことをちゃんと質問できるのも良いことだ。「先輩、これ発注お願いします」「……どうしてこの納期なの?」「え、発注先が提示してきたのがこの納期だったので」「この納期で間に合うのか他部署に確認は?」「すみません、してませんでした」「ならすぐする」「はい」 だいぶ考えられるようになったけどたまに抜けている。 どういう所で抜けやすいか纏めて注意するポイントとして教えてあげよう。 ポイントをまとめるついでにちょっと休憩もしようかな。 そう思い休憩室に行くとちょうど同期がお茶を飲んでいた。「頑張ってるね」「うん、いろいろ努力してるのが伝わってくるよ」「奈美もね」「私はそこまで……」 私は褒められるほどのことはしていない。 頑張っているのは桑島君だ。 言われたことを理解して自分なりに行動している。「ただちょっと指導が厳しいって声も聞こえるよ」「そこまで厳しいつもりはないんだけど」「まあ、奈美は上司が厳しかったからね」 言い方は注意しているつもりだけどもっとポイントを絞って要点だけを指摘しないといけない。 相手の感情否定とか人格批判にならないようにしないと。「まあ、コミュニケーションは取ったほうが良いよ」「ありがとう、頑張ってみる」 コミュニケーションか。 といっても仕事中に雑談する訳にもいかないしどうしても定時後になるよね。 となるとご飯を食べにいくぐらいかな? でも上司とご飯って楽しいんだろうか……。 休憩所から戻ると桑島君が一生懸命働いている。 よく頑張ってるよね。 下手に話しかけて邪魔しちゃいけないけどこれもコミュニケーションの一環かな。「どうかな?」「あ、先輩、順調ですよ」「それはよかった」「何かありました?」 私の態度を見て何か言いたそうなのを察したみたいだ。 ここまで来たら勇気を出すしかない。「本当に気が向いたらで良いんだけど定時後一緒にご飯行く?」「いいんですか?」「無理しなくていいからね」「今日で考えておけばいいですか?」「え、あ、うん」「楽しみにしています」 よかった、思いのほか食いつきがよかった。 上司とのご飯なんて気を使うだろうし少し
しばらくして代わりの新人が配属された。「桑島と申します、よろしくお願いいたします」 教育担当は私になった。 責任重大な仕事だ。 井原君のようなことが起きないように頑張らないと。 まずは簡単な仕事から教える。 手書きのアンケート用紙の内容をexcelに入力する作業だ。 作業自体は単純だけどいくつか注意しないといけないポイントがある。「アンケート用紙の内容をexcelファイルに入力してほしいの」「先輩、これはそのまま入力すればいいんですか?」 答えを教えるのは簡単。 でも自分で考える癖をつけた方がいい。「うーん、どうやるのが正解だと思う?」「こんな感じでやってみたらどうですか?」 手書きのアンケート用紙をスキャナーを使ってPCに取り込み文字を自動で読み取らせて(OCR機能)コピペしている。 おお、すごいな、この子。 でも今回は失敗かな。「どうしてこれが正解だと思ったの?」「手順が一番楽で早いですから」 なるほど、たしかに手作業で入れるより段違いに早い。 ただこの方法には問題があるんだよね。「今回は手作業で入れる方がいいかな」「なるほど……それはどうしてです?」「読み取り間違いが困るから」 OCR機能の問題、それは読み取り間違いが多いこと。 特に手書きの文章は読み取りづらい。 人間の目で見ても判別がつかないような文字がたくさんあるから。「先に自動で入れて後で見直したらどうでしょう?」 良い意見。 ちゃんと話を理解して対応策を考えてる。 ただちょっと知識が不足しているかな。「校正するってことだね、その校正ってかなり難易度高くなるの」 みんな軽く考えているけど校正という仕事はかなり大変だ。 人間は最初と最後の文字があっていれば自動補完してしまう。 有名なのはこの文章だ。 [こんちには みさなん おんげき ですか? わしたは げんき です] 普通に読めてしまう。 これぐらい入れ替わっていれば気づくけど、一字入れ替わってるぐらいなら気づかずに読んでしまうものだ。 校正はこういうのに全て気づかないといけない。 専門技能職であるのは伊達ではないということだ。 しかもOCR機能の場合、さらに2つ問題がある。 一つ目は入力時の違和感が存在しないこと。 例えばさっきの文章のように明らかに間違っている文言を
小さいころ勉強をしていると決まって両親に怒られた。「女の子が賢くなっても何の得もない」「勉強する暇があったら可愛くなる努力をしろ」 二言目にはそれだった。 なぜ賢くなってはいけないのかと聞いても、まともな答えは返ってこない。 お前は考えなくていい、ただ言われたことだけしていろ。 私の考えは聞いてすらもらえなかった。 大学に行きたいと言った時はとくにひどかった。「女の子は結婚して家庭に入るから大学は意味がない」「お金の無駄」 特待生を狙える成績だったのに願書すら出させてもらえなかった。 必死に大学に行くメリットを説明したけど、理解する気すらないようでとにかく就職しろの一辺倒。 結局、高卒で就職したのが今の会社だ。 最初の上司は厳しい人だった。 ミスしていればさんざんに怒鳴るし理屈のおかしいことを言うとずっと追及される。 よく他の子から「最悪な人が上司になったね」と同情された。 でも私としてはそこまで悪い環境じゃなかった。 たしかに説明の矛盾点を追及されるのは大変だったし怒鳴られるのは嫌だった。 けど私の話を聞いて理解しようとしてくれた。 考えの間違いを指摘して、出来るようになるまで指導してくれた。 親のように「何も出来なくていい」と言って放り出すようなことはなかった。 怒鳴られることがなくなったころに上司が異動になった。 周りからは心配されたけどもう十分一人でやっていける。 それぐらい私はいろいろなことが出来るようになった。・・・ 数年後、同じ部署に新入社員が配属された。 井原君と言う男の子だった。 同じ部署の工藤さん(女性)が上司になるので立場的には同僚となる。 傍目で見る限り仲良く仕事をしているようで怒られている所を見たことがないぐらいだった。 そして井原君が入社して一年経った頃のことだ。「これ発注したいんですけど」「あの、発注書は?」「え?」 井原君が発注したいと言う部材は、発注書を書いて私経由で上長に提出するものだった。 発注書が必要なことも書き方も全て入社一か月以内に教わるものなので、なぜ発注書を持ってこずに頼みに来たのか不思議だった。「発注書が必要なので持ってきてもらえますか?」「あ、そうなんですか」 返事はするけど動かない。 持ってくるのを忘れたのかと思ったけどもしかして書く