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心臓と共に去った愛
心臓と共に去った愛
Author: 純情フレアラビット

第1話

Author: 純情フレアラビット
私・一ノ瀬澄佳(いちのせ すみか)の夫・一ノ瀬司(いちのせ つかさ)が何の前触れもなく姿を消してから三か月目、私はSNSをだらだら眺めていて、カップル系配信者のショート動画が流れてきた。

背の高い男が、強引に彼女を腕の中に引き寄せる。

「ほら、聞こえる? 俺の心臓が『愛してる』って言ってるだろ。」

そう言って、そのまま顔を近づけて、むさぼるようなキスを交わした。

はだけたシャツの胸元には、意味ありげな爪痕がいくつも走っている。

コメント欄は「尊い」「お似合いすぎ」といった言葉で溢れていた。

私は思わず息を呑んだ。

結婚して七年。顔が映っていなくても、それが司だと一目で分かった。

私が昼も夜もなく司を探し回っていたあの日々、その間ずっと、彼は別の女と甘く愛し合っていたのだ。

私が悲しみのあまり流産して入院していたときでさえ、彼はその女とベッドで激しく抱き合っていた。

涙を拭い、私は弁護士をしている友人に連絡を取り、離婚協議書の案を作ってもらうことにした。

……

雲見市行きの便を待つ搭乗口のベンチで、私はもう一度、水瀬凛沙(みなせ りさ)のSNSのトップページを開いた。

三か月前、心臓移植を受けたばかりの弱々しい体を引きずって、司がその動画に姿を見せていた。

その目には、かつて私にだけ向けられた、あの眼差しが宿っていた。

「お前に初めて会った瞬間から、俺の心臓はお前のためだけに動いているって分かってた」

あの日は、私たちの結婚七周年の記念日でもあった。

私は妊娠検査の結果用紙を握りしめたまま、日が暮れてから明けるまでずっと待ち続けていた。

その後に投稿されたどの動画も、二人の幸せを証明するものばかりだった。

二人がパリの街を連れ立って歩いているころ、私は一人きりで、鋭い目つきの株主たちを相手にしていた。

二人がアイスランドでオーロラを追いかけていたころ、私は何度も入退院を繰り返し、泣きながら病室のベッドで目を覚ましていた。

二人がトルコの空の上で熱くキスを交わしていたその時、私は冷たい手術台に横たわり、自分の下腹が少しずつ平らになっていくのを絶望の中で見つめていた。

そんな自分が可笑しくて、私は自嘲気味に笑った。

あんなに幸せそうな二人を見ていると、私の痛みなんてどれほど滑稽に映ることだろう。

飛行機が着陸してから、私はメモしておいた住所を頼りに、凛沙の花屋を探し当てた。

けれど、司は今、彼女の妊婦健診に付き添って病院にいると聞かされた。

そばで話していた店の人たちは、二人のことになると羨ましそうに顔をほころばせた。

「私も初めて聞いたけど、男性にもつわりみたいな症状が出ることってあるらしいよ。司くんなんて、凛沙ちゃん本人よりひどく吐いてるのに、それでも毎日我慢しながら、凛沙ちゃんのために栄養たっぷりのご飯を作ってあげてるんだから」

「本当よねえ。私たちが教えなくても、私たち以上に何でも知ってて、きっと前もって一生懸命勉強したんだと思うわ」

喉の奥がつんと締めつけられた。

司も、かつては同じように私に心を砕いてくれていたことを、否応なく思い出してしまう。

京原市の味付けになじめないとこぼせば、彼はすぐに台所にこもって、私の故郷の料理を研究してくれた。

子どもが好きだと言えば、まだ見ぬ子どものために育児書を読み漁り、いい父親になろうとしていた。

不器用だったその手つきが少しずつ板についていくのを、私はずっとそばで見守ってきた。

そんなふうに私のために覚えてくれたことのすべてを、今の彼は惜しげもなく別の女のために使っている。

平らになった自分の下腹にそっと手を添え、思わず苦笑がこぼれた。

きっと、私と司は出会う縁こそあっても、共に歩む運命までは与えられていなかったのだろう。

長いあいだ待ち続けて、ようやく司が姿を見せた。

痩せた体つきのその男は、私に気づいた途端、眉をわずかにひそめて、邪魔されたくないと言わんばかりの不機嫌さを瞳に浮かべた。

「どうしてここに来たんだ?」

私は答えず、その肩越しに視線を滑らせて、凛沙の姿を捉えた。

彼女は、司に大切そうに守られていた。

それに比べて、三日間ろくに眠っていない私は、目の下のクマと顔じゅうに張りついた疲労で、ひどくみすぼらしく見えただろう。

私の視線に気づいた司は、すぐさま表情を冷たく引き締め、凛沙を背中にかばい込んだ。

そんな彼の仕草に、私は思わず小さく笑い声を漏らした。けれど、目の奥には言いようのない悲しみがじわりと広がっていく。

かつて彼は、私のためならと家族とさえ争うことをいとわなかった。

今、その同じ決意を、彼は凛沙のために私に向けている。

「司、少し話をさせて」

……

愛されて育った私は、子どもの頃から涙とはあまり縁がなかった。

それなのに、ここ最近の毎日はあまりにもつらくて、あまりにも疲れていて、気づけば涙が勝手にこぼれ落ちてしまう。
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