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第4話

Auteur: 甘寧
last update Dernière mise à jour: 2025-09-16 16:00:00

土曜の夜。

この日、会社の祝賀会があり、柚は仕方なく出席していた。

居酒屋に入るとすぐに、煌が手を振りながら「こっちだ」と合図を送ってくれる。

土曜の夜ということもあり、店内は随分と賑わっていて、人を掻き分けながら煌が手招きする方へと向かった。

「よう!久しぶり!」

その声に柚は、思わず足を止めて声のした方へ視線を向けた。その声には聞き覚えがある。高校時代、奏と一緒にいた内の一人。

男が入っていた個室の中には数人の男女の姿もあった。スーツを着たサラリーマンらしき男もいれば、小綺麗な格好をした、いかにも港区女子らしき女性ら……どの顔も見た事がある者らばかり。

そこで瑞希との会話を思い出した。

『同窓会』

その言葉が浮かび上がる。

(同窓会って…まさか……)

偶然にも、同窓会の開かれている店と祝賀会が同じ店だと言う事に気が付き、足早に煌の元へ。

「どうした?」

「い、いえ、なんでも…」

慌てた様子の柚を見て煌が声をかけるが、素早く通り過ぎた。こういった場が苦手な柚は、自然と壁際に足が進み座り込んだ。

隣には煌が座り、メニュー表を差し出してくれたり、注文を聞いたりと世話を焼いてくれる。

だが、柚の耳は隣の部屋が気になって仕方ない。

この店は防音には気を利かせていないらしく、隣の声がダダ漏れ状態。先程から笑い声や乾杯の音が筒抜けて聞こえてくる。

「おい、本当に大丈夫か?」

「ん?うん。大丈夫大丈夫!えっと、何飲もうかなぁ……」

様子のおかしい柚を心配して煌が声をかけるが、必死に誤魔化そうとメニュー表に目を通した。

そんな時──……

「湊!やっと姿を現したな」

「7年会ってなかったけど、まだ独り身か?」

心臓が跳ねるのが分かった。

隣から聞こえる笑い声は、耳に突き刺さる刃のようだった。グラスを握る手にも力が入り、顔を青ざめながら一杯、また一杯と心を麻痺させようと飲み続けた。

「お前、もう止めとけ。飲みすぎだ」

酔いが回ってきた頃、煌が見兼ねて止めに入ってくれた。

「どうした?お前らしくない」

「うん…ごめん。ちょっと酔いを冷ましてくる」

フラフラと立ち上がり、トイレへと向かった。心配だからと煌が付き添うと言ってくれたが、そこまで酔っていないから大丈夫だと突っぱね、一人で席を立った。

***

一方、隣の部屋では……

「本当に医者になっちまって」

奏を取り囲むようにして、賑やかに酒を酌み交わしていた。

「いいわよねぇ、お医者様」

「俺も、もう少し頭が良かったらなぁ」

「あんたには無理よ!ねぇ、私今フリーなんだけど、どう?」

一人の女性が酔ったフリをしながら、奏の腕に手を絡ませてくる。

「止めとけ。奏には忘れられない女がいるんだよ」

「は?誰よそれ。もしかして、あの女じゃないでしょうね?」

「朝倉か?あれは違うだろう」

あははは!と笑い合っているが、奏の表情は一瞬にして曇りだした。

「……確かに……忘れられない」

嘆くように呟く姿を見て、誰もが言葉を失い口を閉ざした。

「ま、まあ、ほら、今はさ、そんな事は忘れて飲もうぜ!?久しぶりに会ったんだからさ」

「そ、そうよね!」

重苦しい空気を払拭させようと一人が口をすると、同調するように声が上がり、再び賑やかな空気が戻ってきた。

奏は勧められるままに酒を呷り続け、何杯飲んだか分からなくなった所で、トイレへ行く為に席を立った。

どうしても彼女が亡くなったと言う事が信じられず、同窓会ここまでやって来たというのに、情報を得られる所か、誰も彼女の事を気に止めていないことに愕然とする。

(級友だろう!?)

同級生が一人亡くなったと言うのに、誰も関心を持たないのか!?

奏は苛立ちをぶつけるように壁を殴りつけた。

「きゃっ!」

小さな悲鳴に顔を上げれば、どこか懐かしさを感じる見知らぬ女性が立っていた。

低く結ばれたポニーテールに、白く透き通るような肌。大きく澄んだ瞳に思わず目が奪われる。

「……遥乃」

自然と口に出ていた。

その名を呼ばれた柚は、ヒュッと凍りついた。

奏は7年忘れること無く想っていた人の名を口にし、一気に感情が湧き上がってきた。酔いも相まって、理性は完全に崩壊した。

逃げようとした柚の手を掴み、気付いた時には冷たい壁に押し付けていた。

一瞬、何が起こったのか分からなかった柚だったが、ただ一つ、唇を塞ぐ熱い息だけを感じていた。

その後の事はよく覚えていない。酔った勢いもあり、7年の空白を埋めるようにお互いの熱を確かめ合った。

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