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3.ヤクザさん(?)の正体②

Auteur: 鷹槻れん
last update Date de publication: 2025-06-12 23:00:00

朝の職員会議が終わると同時、私はそそくさと荷物をまとめてから、

「図書室に上がります!」

誰にともなく声を掛けてスタコラサッサと職員室を後にした。

図書室は3階。

9時から始まる着任式には一応顔を出さないといけない。図書室へ行っても、実質稼働時間は30分もないだろう。

でも、何となくあのまま職員室へ残っていたら、梅本先生に捕まってしまいそうな気がして……私は居ても立っても居られなかったのだ。

更衣室ロッカーへ放り込まれた鞄の中には、実は綺麗に洗ってビニール袋へ入れた状態で、梅本先生の黒い片手袋が入っている。

あれから何故かうなちゃんのお散歩時にはパッタリ出会わなくなってしまった強面(こわもて)ランナーさんに、いついかなる時に遭遇しても「あの、これっ!」とお返しできるようにしてあるのだ。

でも――。

(まさかその〝いついかなる時〟が職場だなんて思わないじゃないっ!)

返せないままに二週間くらい経過してしまったからか、私の中であの手袋は鞄の片隅を占拠するのが当たり前の存在になっていた。

(どこかのタイミングで梅本先生を捕まえて、ちゃんとお返ししなくちゃ)

そう思うけれど、何となく自分から話しかけづらいと思ってしまったのは、彼との出会いが最悪だったからに他ならない。

図書室へ入って、パソコンが起動するなり学校図書館専用ソフト『スクールプロフェッショナル』のアイコンをダブルクリックする。

パスワードを打ち込んでソフトを起動すると、とりあえず利用者名簿を使える状態にしなければと思い立った。

開館自体は司書教諭と相談して始業式の3日後に設定してあるから、猶予はある。

「まずは……」

前年度のデータをバックアップしなければ、年度更新の操作が行えない。

経験からそれを知っている私は、データをCドライブと、外付けハードディスクに保存して、朝一、職員会議が始まる前に集めておいた新年度のクラス名簿に視線を落とした。

(在校生に転入生はなし……かな?)

在校生たちは各自、前年度まで使っていた利用者番号がそのまま使えるのが有難い。

先ほど年度更新したことで、児童的にみんな一学年ほど進級しているから、名簿と照らし合わせながら新しいクラスに各々割り振っていけばいい。

在校生のクラス替えからやってもいいのだけれど、今年はとりあえず入学してきたばかりの新1年生の新規利用者登録から手を付けることにしよう。

新規のユーザーは、当たり前だけど既存のデータがないから、1から情報を入力しなければいけない。

皆が皆、太郎くんや花子ちゃんばかりなら有難いんだけど、残念ながら、昨今の子どもたちのお名前は、一発変換出来ないものが主流なのだ。

うちの学校にも在校生に〝愛絆〟と書いて〝あずな〟ちゃんがいて、その数年後、全く同じ漢字で読み方が〝いずな〟ちゃんという子も入学してきた。どちらも女の子なんだけど、名簿を見た時にはびっくりさせられたのを覚えている。

あとは何人もの子ども達によく使われる流行りの漢字というのもあって、私がこの小学校に着任してからは翔、琉、心なんかが比較的よく使われている気がします。

同じ漢字でも読み方がまちまち。それを、ふりがな込みで間違えないよう入力していかないといけないから結構大変なのだ。

青葉小は1学年が4〜5クラスで、1クラス平均25人前後の児童がいる。

今年の新1年生は4クラスだから、単純計算で約100人分、間違いのないように利用者名簿を作っていかなくてはいけない。

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