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3.ヤクザさん(?)の正体①

Author: 鷹槻れん
last update Last Updated: 2025-06-11 23:00:00

「おはようございます」

朝、夫の孝夫さんと色々あったことは極力考えないようにして、私は気持ちを切り替えるように努めて明るい声とともに、勤め先『市立青葉小学校』職員室のドアをくぐった。

「おはようございます、〝桃瀬〟先生」

前年度から異動なしの、顔馴染みの先生方数名が、私を見て挨拶を返して下さる。

私は二年前に結婚して苗字が【杉岡】になっているけれど、職場では旧姓の【桃瀬】のまま仕事をさせて頂いているの。

子供達を惑わせるのが嫌だったと言えば聞こえがいいけれど、単に私が〝杉岡先生〟と呼ばれるのに違和感を感じてしまってしんどかったから。

そんな私のワガママを通させてくださった校長先生には感謝しかない。

とはいえ、公立の学校において校長先生は、おおむね二年で異動になるから、もしかしたら来年度校長先生が別の方に変わられたら私、【杉岡穂乃】として働かないといけなくなるかもしれない。

でも、桃瀬のままでいけるうちはこのままでいかせて頂くつもり。

自分自身、同僚の先生や学生時代のお友達が結婚して苗字が変わるたび、なかなか新しい呼称に馴染めなくて大変だったから、そうしたいな? と思っています。

***

「そろそろ朝礼を始めます」

教頭先生の言葉を聞いて、机上に置かれた今日の議題的な資料へ目を落とす。いつもなら各部署の先生方が、皆で共有したいことを箇条書きにして付箋へ書いたものが、A4用紙に並べられてコピーされている。

でも今日のは違った。

四月一日。新年度の初日だからだろうな?

詳しく目を通すまでもなく、私は内容を一目で理解した。

今日の紙片はとってもシンプル。新しく着任された先生方の担当部署とお名前が書かれた紙だったからだ。

九時からは講堂で全校児童らを集めての着任式があって、子供たちにも新しくうちの学校へいらした先生方の紹介がある。今日の職朝会議は、そのプレみたいなものだ。

例年そうだったから、大体の流れが分かっていた私だったけれど、今年はイレギュラーなことがあって、ちょっとびっくりさせられてしまった。

だって――。

***

今年度から新しく青葉小へ着任された先生方は全部で七名。事務主査の先生に加え、養護教諭、学力支援員、あとは教諭の先生方が四人。その中に見知った顔を見つけた私は、思わず瞳を見開いた。

「一年一組の担任をすることになりました、梅本一臣(うめもと かずおみ)です。前任の栄小(さかえしょう)には四年間いました」

きゃー、どうしよう、あの人っ!

どう見ても、【梅本一臣】と名乗った男性教師は、先日公園で出会った強面(こわもて)さんだった。

即座にそう認識したと同時、私は思わず顔をうつむけてしまう。

だって、なんだか見つかってはいけない気がしてしまったんだもん。

考えてみたら私、初対面のときに梅本先生のこと、怖そうな〝お顔の印象〟だけで、〝ヤクザ屋さん〟だと決めつけて会話を進めてしまった……よ、ね?

学校の先生(同業者)相手に私ってばなんて失礼なことをしてしまったの!

裏稼業の人だと信じ込んでいたからこそ、片手袋を落とす闇バイトをしてる人だ! と決めつけて話しちゃったのに!

梅本先生の自己紹介が終わり、次の先生にバトンタッチしたのを機に恐る恐る顔を上げたら……。

「ひぇっ!」

どうしよう! バッチリ目が合ってしまいました……よ!?

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