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4.さよならの雨と、拾われた夜⑦

Author: 鷹槻れん
last update Huling Na-update: 2025-08-01 07:03:08

「けど、それ。どれもこれも別に決定打があったわけじゃないんでしょう? うなぎちゃんの散歩時に見かけたというご主人と若い女性の相合傘姿も、ご主人のスーツから漂ってきた香りと家へ入った時に感じた残り香が同じものに思えたのも……全部桃瀬先生の早とちりや思い過ごしかもしれません。一度、いま俺に言った気持ちを全部ご主人にぶちまけて……彼としっかり向き合ってみられたら如何でしょう?」

 それは教師が生徒を諭す口調そのもので、私、この人は腐っても〝先生〟なんだな……とか失礼なことを思ってしまった。

「でも……。もしも勘違いじゃなかったら……」

 なのにまだ出てもいない結果に怯えるように、私はそう言わずにはいられなくて……。

 不安に揺れる瞳で梅本先生を見つめたら、ニヤリと〝凶悪な極道スマイル〟を向けられてしまう。

 違ったらよかった……なんて願ってる時点で、私はきっとすでに確信してるんだ。

 ――夫は、もう私を見ていない。

 それを認めるのが怖くて、私はただ目を逸らそうとしていただけ……。

「そん時は……俺で良ければいくらでも貴女の助けになりますよ。【泥船】に乗ったつもりでドーンと構えていてください」

 ニヤリと笑う梅本先生の表情はとっても怖い雰囲気なのに、私は何故だかすごくホッとさせられてしまった。

「泥船じゃ、困ります」

 眉根を寄せて淡く微笑んだら、「バレましたか」とか。梅本先生は、見た目は怖いけれどとっても優しい人だと思う。

「ま、冗談はさておき、もしもの時は絶対俺が力になりますから……だからちゃんとご主人と話してくださいね? 察して欲しいとか、言わなくても分かってくれるよね? とか……自分が我慢すれば丸く収まるから我慢しようって思うとか。そういうのはダメな対処法ですから……絶対しないように

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  • 恋人未満の彼と同棲生活(仮)始めます   4.さよならの雨と、拾われた夜⑩

     今日は夕方から雨になるらしい。天気予報でそんなことを言っていたのを聞いた私は、念のために雨具をもって出勤した。 孝夫さんを送り出して、何とか身支度を整えて仕事に出たものの、学校――職場――へ着いた頃には、身体の熱っぽさは無視できないほどになっていた。 周囲に迷惑をかけないよう、マスクをして午前中の業務をどうにかこうにかこなしてから、図書室の授業予定表を見る。 幸い今日は午前中のみで、五時間目――お昼休み以降――の授業の予定は入っていなかった。 昼休憩、事務室のみんなと一緒に給食を食べたけれど、全然味がしなくて、全部食べ切れなかったことに物凄い罪悪感を覚えてしまう。「すみません。食られませんでした……」 申し訳なさにしゅんとしながら皿に残した鶏肉のソテーやサラダを食缶内に廃棄品として戻していたら、他の先生方に「桃瀬先生、顔色が悪いけど大丈夫?」と心配されて、皆さんの優しさに、泣きそうになってしまった。 こういうのは、夫からは得られないものばかりだ。「ちょっと体調がイマイチなんですけど、なんとか昼休みの見守りだけして帰ろうと思います」 マスク越しに淡く微笑んだけれど、口元が隠されたマスクの下では無意味だったかも知れない。 昼休みの委員会活動の見守りまでは何とか気力で勤めたものの、ここからは頑張らなくてもいいと思ったら、気が抜けたのかな。 一気にしんどさが押し寄せてきて、立っているのも辛くなってしまった。 熱のせいか、ふわふわと地に足のつかないおぼつかない足取りで、「すみません、めまいがして……」と教頭先生に申し出て、早退を願い出て帰らせて頂くことにした。 頭の中、『夏風邪はバカがひくんだ』と孝夫さんに溜め息をつかれる幻想が見えて、勝手に自分で想像した癖に悲しくて瞳に涙が盛り上がってきてしまう。(体調が悪いからかな? いつもより心が弱っているみたい) 何とか職員室を出るまでは涙をこぼさないよう頑張るつもりだったけど、梅本先生がちらりとこちらを見たときにポトンと一滴溢れて……それに気付かれた気がした。(きっと心配かけてしまったよね?)と申し訳なさに苛《さいな》まれたけれど弁解する気力もなくて、私はかろうじて一礼すると職員室をあとにした。*** いつもなら16時くらいに帰るところを、今日は2時間以上早くマンションへ戻ってきてしまった。 

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