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禁域の森 ―精霊たちの囁き

ผู้เขียน: 吟色
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-10-08 17:47:28

霧の白が、足元でほどけては結び直される。

光の粒で描かれた道は、畑の終わりで途切れず、そのまま林へ溶け込んでいた。一本、二本――並木を越えるたび、空気の味が変わる。冷たかったはずの風が、喉の奥で甘い。

(ここは……“生きている”)

葉は夜露を払い、青銀に光る。触れてもいないのに、枝がするりと避け、私の肩に当たらない。花弁は足音に合わせて開き、音もなく閉じる。雨雲の切れ間から差す光が、霧の中で屈折し、空がわずかに歪んで見えた。

からん――

鈴の音が、背中ではなく前から聞こえた。

歩を止めると、足元を小さな光が走り抜ける。砂粒ほどの輝きがいくつも生まれ、輪を描いて私の周囲を回り始めた。数が増える。冷たいはずの光が、肌の上でやさしい体温に変わる。

――ヒトの子。

――なぜここへ。

――王の眠りを破る者。

声が重なり、木立の間でこだまする。男でも女でもない、年齢すら感じさせない囁き。

私は喉を鳴らし、胸の前で両手を重ねた。怖い。けれど、目は逸らさない。

(ゲームでは、この先で“消える”。試され、拒まれ、跡形もなく。

 ――でも、私は消えたくない)

「……道が、ここに伸びていたの。呼ばれた気がしたのよ」

返事はない。代わりに光の輪が速くなり、足元の草が、いっせいに身じろぎした。

森の匂いが一段深くなり、遠くで木が軋む。空気の密度が変わり、耳の奥がきゅっと詰まる。

次の瞬間、すべての光が消えた。

音が――雨も、風も、私の呼吸すら――一拍、遅れて戻ってくる。

暗さではない。黒さが満ちる。霧は白なのに、視界が黒く塗られていく気がした。

足首に、何かが触れた。煙の腕のような冷たいものが、するり、と絡みつく。

――ヒトは裏切る。

――奪う。壊す。

――去れ。ここは汝の世界ではない。

低い、重い響き。幾千もの嘆きが、ひとつの声に束ねられている。

膝が勝手に震えた。心臓が早足で走り、手のひらの汗が冷える。

「っ……!」

逃げたい。背を向けて――でも、ここで背を向けたら、私はきっと、もう二度と前を向けない。

(ここで消えるなら、私の意志で。――誰の台本でもなく)

私はうつむかず、黒い霧を睨んだ。

喉が乾く。けれど、声は出た。

「奪わない。壊さない。……それでも、生きたい。私を、見て!」

霧の腕が、ぴたりと止まる。

静寂。

やがて黒さが薄くなり、ひとつだけ光が戻ってきた。

砂粒より大きい、豆粒より小さい、けれど私の鼓動と同じ速さで脈打つ光。

――……ヒトの子。

――眼を逸らさない。

幾重もの囁きが、ほんの少しだけ柔らいだ気がした。

光は私の周りを一周すると、前方へ滑っていく。導くように。

(試している。まだ、終わっていない)

私は息を整え、歩いた。

踏むたびに、草葉についた露が光の線になって延びる。霧は左右に割れ、細い道が奥へ奥へと続いていく。

耳の奥で、鈴の音の残響が消えない。鼓膜ではなく、骨で聴いているみたいに。

森は、呼吸していた。

気のせいじゃない。葉擦れとも違う、巨大な生き物の肺音のような、吸って、吐いての律。

私の呼吸と、光の脈と、森の息が、いつの間にか同じ拍で重なっている。

一歩。二歩。

ふいに、空気がまた変わった。張り詰める冷たさではなく、深く沈む静けさ。

境目。

目の前の霧が、薄い膜のように光を帯び、内側から割れて――

白ではなかった。

蒼。月のない夜にだけ見える、深い深い蒼。

その蒼の底から、ひとすじ金色の羽根が舞い上がり、私の頬をかすめた。

羽根は光でできているのに、触れた場所にやさしい重みを残して消えた。

「……」

そのとき。

低く、美しい声が、森の奥から響いた。

――……面白い。

言葉というより、意志が音になった感じ。

全身の細胞が、その音の在り処を向く。

足元の草が蒼白く光り、立ち並ぶ幹に淡い紋様が浮かび上がる。輪、蔓、羽根、目――古い印のような模様が、私の周りで一瞬だけ光り、また樹皮の奥へ沈んだ。

――ヒトの娘よ。お前は、俺の眠りを破った。

寝息のような風が、髪を撫でた。怖くない。

けれど重い。

この声を前にして、嘘は意味を持たない。飾りも、体面も、まるで役に立たない。

――その理由を、語ってみせろ。

喉がからからに乾いていたはずなのに、言葉はすっと出た。

私は霧の割れ目の向こう――声の在り処を見据え、呼吸するみたいに答える。

「生きたいから。……それだけじゃ、足りませんか?」

森が、耳を傾けた。

光の粒が少しだけ増え、風が微笑むように通り過ぎる。

声は、すぐに返ってこない。沈黙は長くはないのに、永遠ほど長く感じられた。

(私は嘘を言っていない。誰かのためでも、役目のためでもない。

 私が――私として、ここに残りたい)

掌を見下ろす。雨に打たれ、泥に汚れ、爪の縁が剥けかけている。

それでも、その掌が確かに自分のものだと思えた。

――足りる。

たった二音なのに、胸の奥まで満ちる。

足元の光が膨らみ、ひざ下まで柔らかな温度が満ちた。

遠くの樹冠から、金の羽根が舞い降りる。

一枚、また一枚。落ちるたび、空気がわずかに澄む。

――ヒトの娘。名を。

「……エリカ」

――エリカ。名を忘れるな。名は、お前が誰の台本にも縛られないための鍵だ。

胸の奥が熱くなる。涙ではない。

やっと自分の名が、私自身の音になった気がした。

光が、霧の奥へ続く道をさらに明るくする。

私は一歩、踏み出す。草が足を受け、風が背を押す。

その瞬間、森が息をした。

吸って、吐いて。

私の肺と重なって、世界の拍が一つになった。

――そして、運命が始まった。

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