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第一章:婚約破棄と結婚宣言

Auteur: Kaya
last update Dernière mise à jour: 2025-09-23 18:29:00
「続きまして、第二王子のルイス殿下と、ロジータ・スカルラッティ令嬢のご入場です!」

事前に打ち合わせをしておいた案内人が、高らかに私とルイスの入場を宣言した。

楽団の音楽が止まり、会場にいた人々はダンスやおしゃべりを止めて一気に私たちに注目した。

たった一人で惨めに会場入りしていた頃の私とは違う。

ルイスにエスコートされながら、私は堂々とした態度で会場の中央へと足を進めた。

「なんだって?」

「まあ。なぜロジータ嬢とルイス殿下が?」

「見てみろ、あの二人のまるで合わせたかのような見事な衣装を!」

「どういうこと?あの二人、まさか付き合っているの?」

人々が驚きのあまり噂するのも仕方ない。

だってこの場に、私とルイスがお揃いの衣装で現れたのだから。

いま私は、目が覚めるような深青のドレスに身を包んでいた。

裾にはヴィスコンティ王家の象徴である星の紋様が、金糸や銀糸で細かく刺繍されている。

金髪の髪は丁寧に編み込まれ、宝石と細やかな装飾のついた髪飾りに、首にはアクアマリンの宝石がついたネックレス。

ただし胸の包帯が見えないように、上からシルクのストールを羽織っている。

このネックレスは王妃の、ルイスの亡くなった母親の形見だ。

直前でルイスが私の首にかけてくれたもの。

『これで、より、俺たちの結婚が本物らしく見えるだろう。』

こんなに貴重なものをいいのかと聞いたが、ルイスは『いいんだ』と繰り返していた。

一方のルイスもおなじ深青で、胸元や裾には銀糸や金糸で繊細な星の刺繍が施されたダブレットをまとっている。

踝までの黒の少しゆったりしたホーズに、足元は細かい刺繍が入った革製のブーツ。

王家の紋章入りのブローチ。

肩には、金糸の刺繍とチェーンつきの漆黒のマント。

指輪やピアスは私のネックレスと同じアクアマリンで統一。

この衣装は国王マルッツォが私たちのために用意してくれた、一点ものだ。

しかも国王専属のデザイナーたちが、かなり大急ぎで製作してくれた希少なもの。

つまりリーアが今着ているドレスより、価値があるということ。

私とルイスは自然と肩を並べて会場を歩いた。

そしてついに、私は私を殺したーーー

いや、私を殺すはずだったエルミニオの前に立ち塞がった。

その場が一気に凍りつき、近くにいたエルミニオの側近たちが殺気立つ。

あの夜の顔
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