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第二章:ルイスが心に思う人

Author: Kaya
last update Last Updated: 2025-10-26 20:37:42

淡い水色の見慣れない服の裾が揺れた。

どうやらワンピースというらしい。

「こういうドレスも素敵だね。」

その人は真っ黒な髪をかき上げて、ごく自然と俺に寄り添ってくる。

俺もまんざらでもなく彼女に近づいた。

一体誰だ?

彼女がめくる書物には『記念に残るウェディング・ドレス特集』という文字が書かれていた。

見たこともない町の外観。

ガラス窓の向こう側を歩く大勢の人々。

奇妙な速さで動く乗り物。

見たこともない巨大な建物。

ここは一体どこだ?

「どうしたの?〇〇〇。」

ふわっと彼女が微笑むと、なぜだか俺は泣きたくなった。

懐かしくて、ずっと会いたい人だったのに。

それなのになぜ俺は、彼女の顔も名前も思い出せないのだろう?

ーーー

「待っ……」

手を伸ばせば、そこは薄暗い自分の寝室だった。

今のは……夢?

両サイドのステンドグラスから淡い月の光が差し込んでいた。

寝る前につけた蝋燭の炎は消え、室内には薔薇の匂いが漂っている。

ふと隣を見ると、ベッドでロジータが気持ちよさそうに眠っていた。

「ロジータ……。」

緩やかにカールした金髪。白い肌、見慣れた横顔。

健やかに眠っている彼女の存在になぜか安心した。

俺はロジータと契約結婚をし、彼女と生活を共にしている。

とにかくロジータといると毎日が驚きの連続で……

クスッと笑い、俺はいい匂いのする彼女を無意識にそっと抱きしめた。

ロジータは何て温かいのだろう。

幼い頃に王妃である母を亡くした俺は、それ以降人の温かさなど知らなかったのに。

「うーん……」

「!!」

ロジータが唸り、ゴロンとこちら側に寝返った。

とっさに抱きしめた腕を上に持ち上げて、彼女に気づかれないようにやり過ごした。

一体俺は何をやっているんだ!

だが、どうやら起きたわけではないらしい。

こちらを向いたロジータの寝顔は今日もきれいだった。

彼女を見ていると今夜も胸が激しく高鳴る。

「はあ、駄目だ。

隣にロジータがいると思うと眠れない。」

ロジータは知らないだろう。

実は毎晩こうなのだ。

俺はロジータが隣にいると思うとドキドキして眠れずに、ついベッドを抜け出してソファで夜を明かしていた。

それにしても、さっき夢に出てきたあの女性は誰だったのだろうか?

顔も思い出せないのに、なぜ懐かしいだなんて。

ふとロジータと、夢の女性の姿が重なった。

「馬鹿だな。あれはただの夢だ。
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