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アスナとアスカ2

Author: をち。
last update Last Updated: 2025-04-27 15:00:49
高校に入ってから、アスナはおかしくなっていった。

変わらない笑顔で俺を特別扱いするアスナ。でも、アスナに俺の言葉は届かなくなった。

何を言っても「気のせいだよ」「俺が守るから大丈夫だよ」「俺がいればいいでしょう」

そういうことじゃあないんだ、と言っても聞く耳を持たない。

どんなに話をしても、うわすべり。

中学時代、二人で笑いあった日々が懐かしかった。馬鹿なことを言い合って、くだらないことが面白くて。

俺のことなのに、まるで自分のことのように怒っていたアスナ。俺のために泣いてくれたアスナ。

たぶん、人生で一番幸せで楽しかったあの頃。

俺と楽しそうに話すアスナを見て、最初はアスナの外見に気後れして遠巻きにしていたクラスメートも徐々にアスナに話しかけるようになった。

アスナはそれを普通に受け入れていて、高校時代のように必要以上に俺にベッタリということもなく、あくまでも一番の親友として俺を扱った。

おかしくなったのは高校でアスナの人気が爆発してからだ。

周りがアスナから俺を排除しようとし、それに苛立っがアスナは必要以上に俺を特別扱いするようになったのだ。

それはどんどんエスカレートし、俺はアスナが分からなくなった。

俺たちはどんどんすれ違い、どうしようもないところまでいってしまったのだ。

あの事故が無ければ、いつか俺たちが分かり合う日も来たのかもしれない。

だがあの不幸な事故により、アスナの中の俺は、最後の最後にアスナを拒絶し、逝った。

俺は俺の逝った後のことは考えないようにしていた。

考えても仕方がないと目をそらし、今を楽しむことに夢中になってしまっていたのだ。

そこには「俺を振り回したんだから、お前らも少しは苦しめ」という想いもあった。

ここまでアスナを追い詰めたかったわけじゃない。

ただアスナが受け止めてくれなかったやり場のない俺の気持ちを、分かって欲しかっただけなのだ。

あくまでも事故は事故なのだ。どうしようもないことなのだ。

だからきっとすぐに立ち直り、アスナの人生を歩んでくれるだろうと思っていた。

その結果が今俺の前にある。

俺の何気ない一言を大事にしていたアスナ。世界を超えて俺を探し出し、追いかけてきたアスナ。

俺と共にいるためだけに、レオンハルトの身体を乗っ取ってまで約束を果たそうとしたアスナ。

アスナは壊れている。間違いない。

だけど、少しだけ嬉しいと思っ
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