背後から耳馴染みのある声がし、後ろを振り返ると。
……!
私の真後ろに、陸斗くんが立っていた。
「りっ、陸斗くん!」
うそ。いつの間に来ていたの!?
「希空ちゃん、ごめんね?来るのが遅くなっちゃって」
間近でふわりと清潔感に満ちた香りがして、胸がドキッと跳ねる。
「それで、どの本を取りたいの?これ?」
スッと背後から書棚へと伸びてきた腕が、私の右の肩をわずかに掠める。
「そ、その右隣の本を……」
私が言うと、陸斗くんは後ろから私に覆いかぶさるかのような体勢で、書棚から目的の本を抜きとった。
り、陸斗くん、距離が近すぎるよ……!お陰で心臓が、ばっくんばっくん鳴ってやばい。
「はい、どうぞ」
「あっ、ありがとう」
「あれ?希空ちゃん、何だか顔が赤いよ?」
「えっ!?」
「……顔が真っ赤な希空ちゃんも可愛い」
陸斗くんに耳元で吐息混じりに囁かれ、背筋がゾクリとする。
「ちなみに、僕もその本読んだけど面白かったよ。オススメ」
「わあ。陸斗くんのオススメなら、絶対読みたい。さっそく借りて読んでみるね」
「うん。それじゃあ、委員会の仕事頑張ろうか」
そう言って陸斗くんは、返却された本を手にする。
「書棚の高いところは、僕がやるから」
「ありがとう」
それから私たちは、しばらく黙々と作業をしていたのだけど。
「……くしゅん」
その沈黙を破ったのは、私のくしゃみだった。
今日の日中は夏のように暑かったから、ブレザーを脱いでブラウスのみで作業をしていた私。
夕方になって、冷えてきたのかな。
「……くしゅんっ」
またもや、くしゃみが出てしまった。好きな人のそばでこう何度もくしゃみをするのは、ちょっと恥ずかしいかも。
ちなみにブレザーは、教室に置いたままで手元にない。
「希空ちゃん。良かったらこれ、着てて」
陸斗くんは自分のブレザーを脱ぎ、私の肩にふわりとかけてくれた。
「えっ、でも悪いよ。陸斗くんも寒いでしょう?」
「僕は平気。希空ちゃんが風邪でもひいたら、大変だから。僕のことは気にしないで?ねっ」
陸斗くんの優しさに、胸がキュンと鳴る。
「ありがとう、陸斗くん」
ここは陸斗くんのお言葉に甘えて、私はブレザーをこのまま借りておくことにした。
陸斗くんのブレザーは私にはブカブカだけど、すごく温かい。まるで、陸斗くんに包みこまれているみたい。
そして私たちは、図書委員の仕事を再開させた。
私は作業をしながら、こっそりと横目で陸斗くんのことを見る。
書棚の整理をする、陸斗くんの真剣な横顔。素敵だなぁ。
自分の好きな場所で、好きな人と一緒。なんて幸せな時間なんだろうと、頬を緩ませていると。
「……邪魔」
後ろから、突然聞こえた低い声。
声がしたほうに目をやると、不機嫌そうな顔をした陸斗くんの弟である相楽くんが立っていた。
「本を借りに来たんだけど。小嶋、ほんと邪魔。お前がそこにいると、本が取れねぇ」
もう一度、イラついたように言う相楽くん。
「海斗お前、そんな言い方ないだろ?希空ちゃんは、委員会の仕事を頑張ってるんだから」
「あっそ。つーか、なんで小嶋が陸斗のブレザーを着てるわけ?」
相楽くんは、こちらを射るような眼差しで見てくる。
ほんとにちゃんと、仕事やってるのか?とでも言いたそう。
私は思わず視線を、相楽くんから逸らしてしまった。
「べ、別にいいだろ?冷えてきたから、僕が希空ちゃんに貸したんだよ」
「ふーん。てか小嶋、早くそこどいて」
「ごっ、ごめん。相楽くん……」
私は慌てて、その場から離れた。
「ていうか海斗、お前はもっと女の子に優しく言えないのか?」
「はぁー。陸斗……そういうのマジでうざい」
吐き捨てるように言うと、相楽くんはお目当ての本を取ってさっさとカウンターのほうへと行ってしまった。
ああ。さっきの相楽くん、なんだかちょっと怖かった。まさか、あんなあからさまにイライラされるなんて。しかもなんか、キツく睨まれちゃったし。
あの切れ長の瞳に、睨みつけられたいとか。殺されたいっていう、訳のわからないファンの子たちもいるみたいだけど……。
私は、さっきの相楽くんのあの射るような目つきはちょっと苦手。
「希空ちゃん、さっきは弟が本当にごめん」
陸斗くんが、私に両手を合わせる。
「ううん。陸斗くんが謝ることないよ。私が、ぼーっとしてたのがいけなかったんだろうし」
相楽くんは、教室で私にたまにちょっかいを出してくるかと思えば、今日みたいになぜかすごくイライラしてるときもある。よく分からない人だ。
もし私が相楽くんに何かしたっていうのなら、ほんと教えて欲しいよ。
私は、そっとため息をついた。
「はぁ、はぁ……っ、海斗くん!」 廊下をしばらく走り続けて、ようやく海斗くんの後ろ姿が見えた。 「海斗くん、待って!」 「希空!?」 私に気づいた海斗くんが立ち止まり、驚いた顔でこちらへと振り返る。 「何しに来たんだよ。早く陸斗のところへ行けよ」 「ううん、行かない」 私は、首を何度も横に振る。 「ねぇ、海斗くん。さっきのテストのご褒美は、まだ有効?」 「あっ、ああ」 「だったら、頑張ったご褒美として私を……海斗くんの彼女にして欲しい」 「え?彼女って希空、何を言って……」 「私は、海斗くんのことが好きなの!」 私はそう言うと、海斗くんの制服のネクタイを引っ張り、彼の唇にキスをした。 「これで、信じてくれた?」 私が唇を離すと、海斗くんは目をパチパチとさせている。 「希空が、陸斗じゃなくて俺を好きだなんて……本当に?」 「うん」 「だって、お前はもう陸斗のもんだとばかり思ってたから。まさかこれ、夢とかじゃないよな?」 「夢じゃないよ。私は、誰よりも海斗くんのことが好き」 「ありがとう、希空」 私は、海斗くんにふわりと抱きしめられる。 「俺も、希空のことが誰よりも大好きだ。だから、希空……俺と付き合って」 「はい」 最初に海斗くんに告白されたときは、断ってしまったけれど。 私は今ようやく、彼の気持ちに応えることができた。 「つーか、希空。この前、平野たちにひどい目に遭わされたんだって?」 「えっ、どうしてそれを……」 「陸斗から聞いた。なんで俺にすぐ話してくれなかったんだよ」 「だって、心配かけたくなかったから……痛っ」 私は、海斗くんに頬を引っ張られる。 「だとしても、ちゃんと話して。これからは、隠し事はナシだからな?だって俺たち、今日からは彼氏と彼女だろ?」 海斗くんの“彼氏と彼女”という言葉に、胸が熱くなる。 「これから希空のことは、俺が守るから。大事な希空のこと、もう誰にも傷つけさせたりしねぇ」 「ありがとう。海斗くんがいてくれるって思うと、心強いよ」 海斗くんと私は、クラスメイトでもなく友達でもなく。今日からは、彼氏と彼女という特別な関係。 「なぁ、希空。さっきは不意打ちだったから、俺にもう一度キスして?」 「ええ!?」 あのときは、海斗くんに想いを伝えるのに必死だったから。 「
「おい、陸斗。何だよ、この間の返事って」 首を傾げた海斗くんが、陸斗くんに尋ねる。 「ああ……僕、希空ちゃんに告白したんだよ」 「は?告白!?」 海斗くんが、目を丸くする。 「……そうか。陸斗、希空に告白したのか」 少しの沈黙のあと、海斗くんがぽつりと呟く。 「良かったじゃん、希空。陸斗と両想いになれて」 海斗くん……? 「俺、希空に少しでも好きになってもらえるように頑張るって宣言してから、友達としてお前のそばにいたけど。いつだって希空の心には、陸斗がいたもんな」 海斗くんが、切なげに笑う。 「やっぱり希空には、自分が本当に好きな男と幸せになって欲しいから。邪魔者は、退散するわ」 そう言うと、海斗くんは私から背を背ける。 「これからはもう、希空と必要以上に関わったりしないから。希空、陸斗と幸せになれよ」 消え入りそうな声で言うと、海斗くんは早足で教室を出て行く。 海斗くん、『これからはもう、希空と必要以上に関わったりしない』って、そんなの嫌だよ。 私はこれからもずっと、海斗くんと一緒にいたいのに。 「海斗くん、待って……!」 私は、咄嗟に海斗くんを追いかけようとしたけれど。 「希空ちゃんっ!」 私は陸斗くんに、後ろから腕を掴まれてしまった。 「希空ちゃん、行かないで……」 陸斗くんが、後ろから私をぎゅうっと抱きしめてくる。 最低かもしれないけど。陸斗くんに抱きしめられている今でさえ、私の頭に浮かぶのは海斗くんの顔で。 私から背を背ける際に見えた海斗くんの泣きそうな顔が、頭にこびりついて離れない。 「海斗くん……っうう」 私の目には、涙が浮かぶ。 ここに来て、ようやく確信した。 私はやっぱり……海斗くんが好きなのだと。 私が辛いときいつもそばにいてくれた、優しい海斗くんのことが、いつの間にか私は大好きになっていたんだ。 「希空ちゃん?」 今になって、ようやく自分の気持ちに気づくなんて。 「あの。陸斗くん、私……」 陸斗くんに告白の返事をしようと思うと、緊張で声も手も震える。 もしかしたら、これで本当に陸斗くんとの関係は終わってしまうかもしれない。だけど、ちゃんと言わなくちゃ。私は、真っ直ぐ陸斗くんを見据える。「あのね、陸斗くん。私……海斗くんのことが好き。だから、陸斗くんとは付き合えない」「や
背中には嫌な汗が伝い、心臓の音がバクバクとうるさく響く。お願い。どうか、バレませんように。こんな、海斗くんに抱きしめられているところなんて見られたら……きっと、今まで以上に敵視されるのが目に見えてるもん。私はハラハラしながら、じっと息をひそめる。︎︎︎︎︎︎さすがの海斗くんも状況を察したのか、今は何もせずにじっとおとなしくしている。「あっ。教科書、やっぱり教室に置き忘れてたわ」ナホさんが、英語の教科書を机の中から取り出す。「教科書、あって良かったね。それじゃあ帰ろうか」二人の声と足音が、だんだんと遠ざかっていく。二人とも出て行った……?私たち、なんとかバレずに済んだの?「よし。大丈夫そうだな」海斗くんが私から離れ、カーテンを開ける。教室には私たち以外もう誰もいなくて、一気に緊張が解けた。「ああ、ドキドキした……」「ほんと、危なかったな」それだけ言うと、海斗くんは何事もなかったように席に戻る。あ、あれ。海斗くん、何だかもうスッカリいつも通り?さっきドキドキしていたのは、もしかして私だけだった?唇には、まだわずかにキスの余韻があって。先程まであんなにも彼と距離が近かったのに、今は遠くて。離れていった海斗くんの腕が、温もりが、なんだか無性に恋しい。海斗くん、もうキスはしてくれないのかな?だってさっきのキス、すごく良かったから……って、何を考えてるの私!これじゃあまるで……私が海斗くんのことを、意識してるみたいじゃない。「……っ」思い返してみれば、先程の海斗くんのあの少し強引なキスも全然嫌じゃなかったし。最近は海斗くんの笑顔を見ると、ドキドキすることも増えていた気がする。もしかして私、海斗くんのことを……?「おい、希空。何やってるんだよ。テスト、まだ残ってるぞ?」眉をひそめた海斗くんが、じっとこちらを見てくる。海斗くんに見られてると思うと、また鼓動が速くなる。これってやっぱり……?「テストちゃんと解かなきゃ、ご褒美は無しだからな?」「わっ、分かってる!」自分のなかでの違和感みたいなものを感じながら、私は海斗くんの向かいの席へと腰を下ろした。◇それから海斗くん手作りの確認テストを解き終わった私は今、海斗くんに採点してもらっている。「凄いな、希空。90点!頑張ったな」『90』と赤ペンで書かれた答案を私に
海斗くんに数学を教えてもらうようになって、何度目かの水曜日の放課後。 この日も誰もいない教室で、いつものように海斗くんと向かい合って座り、数学を教えてもらっていた。 「うん、正解。希空、最初の頃に比べたらだいぶ出来るようになったよな」 今日の授業で習った問題を全て正解した私に、海斗くんが微笑む。 「海斗くんが、いつも丁寧に教えてくれるお陰だよ」 「いや。一番は、希空が努力してるからだよ」 海斗くんが、私の頭をくしゃくしゃっと撫でてくれる。 海斗くんに褒めてもらえると嬉しくて、私は自然と頬が緩む。 「それじゃあ、希空。次はこれを解いてみて」 海斗くんに、1枚のプリントを渡される。 「これまでやったことが全部頭に入ってるか、復習も兼ねて確認のテストな」 どうやらこれは、海斗くんが作ったテストらしい。 「希空がちゃんとできたら、何かご褒美をやるよ」 「えっ、ご褒美!?」 ご褒美という言葉に、思わず反応してしまう私。 「それじゃあ、めっちゃ頑張るね!」 私は、テストに取り組み始める。 「ははっ。ご褒美目当てとか、ほんと分かりやすいヤツ」 海斗くんに言われたとおり、ご褒美が欲しいっていう気持ちも確かにあるけれど。一番は、海斗くんの笑顔が見たいから。 せっかく毎週水曜日、こうして海斗くんに勉強を教えてもらってるんだもん。 私が頑張ることで、海斗くんに喜んで欲しいって思うんだ。 私がしばらく、カリカリとシャーペンを走らせていると。 「教科書、もしかして教室に忘れたのかな」 誰かの声と複数の足音が、廊下の向こうから聞こえてきた。 「ナホ、確か明日の英語の授業で先生から指名されてたわよね?」 えっ。この声は……平野さん!? ナホさんは、先日平野さんと一緒に私を体育館裏へと連れて行った女子の一人だ。 「そうなの。だから、教科書がないと困るなって思って。ごめんね、マナに付き合わせちゃって」 マナは平野さんの名前だから、やっぱり……! ナホさんの忘れ物を、二人で教室まで取りに来たんだ。 海斗くんといるところを、あの二人に見られたらまずい。 「海斗くん、ごめん。ちょっと立って、一緒にこっちに来て」 「希空!?」 私は海斗くんの腕を掴んで立ち上がると、教室の隅へと移動する。 私は海斗くんを窓辺へと連れて来ると、急いでカーテン
数日後の朝。「希空ちゃん、おはよう」「おはよう、陸斗くん」陸斗くんに告白されてからというもの、朝学校で会うと、陸斗くんは今まで以上に私に声をかけてくれるようになった。「希空ちゃん、今日も可愛いね」「……っ、ありがと」陸斗くんの甘い言葉に、朝から頬が熱くなってしまう私。「希空、うっす」「あっ、おはよう。海斗くん」自分の教室に行くと、今度は後ろの席の海斗くんが挨拶してくれる。「あれ。希空お前、なんか顔赤くね?」「え?」海斗くんが私の前髪を手でかきあげると、おでこを近づけてきた。コツンと彼のおでこが当たり、心音が大きくなる。「うーん。熱はなさそうだな」海斗くんの吐息が鼻先をかすめて、ドキドキする。う。これは朝から心臓に悪い……。「あっ、あの、海斗くん。ここ教室……」「……あ」私の声に、ハッと我に返った様子の海斗くん。「わ、悪い!俺、希空が気になって。つい無意識で……」頬をわずかに赤らめた海斗くんが、私から慌てておでこを離した。ああ、ドキドキした。私が席に着くと、ふと視線を感じたのでそちらに目をやると。平野さんをはじめとする海斗くんファンの女子たちが、鋭い目つきで私を睨んでいた。ひいっ。こ、怖い。この間の体育館裏でのことを思い出した私は、身震いしてしまう。平野さんたちに、このまま睨まれ続けるのは嫌だけど。それでもやっぱり私は、海斗くんとこれからも仲良くしたい。できれば、陸斗くんとも……。そう思うのは、我儘なのかな?ああ、でもいずれは、どちらかの告白を断らないといけないんだよね。二人と、ずっとこのままの関係でいられたら良いのに。双子とこれからも仲良く友達でいられたなら、陸斗くんも海斗くんも、どちらも傷つけずに済むのに……。◇どっちつかずのままそれから1週間が過ぎ、6月に突入。「小嶋!」「はい」今日の数学の授業では、5月末に行われた1学期の中間テストの答案用紙が返却された。「うわ、42点」赤ペンで書かれた点数を見て、私は肩を落とす。「小嶋。次の期末試験で赤点とったらお前、夏休みは確実に補習だからな?」「はい……」私は数学が大の苦手だけど、夏休みの補習だけは何としても避けたいのに。「希空?なんか元気ないな?」私が落ち込みながら教卓から自分の席に戻ったからか、後ろの席の海斗くんが心配そうに声をか
「陸斗くん、こんなときに冗談はやめて」「冗談じゃない。僕は、希空ちゃんが好き」「……っ」こちらを見据える陸斗くんの目は、真剣そのもので。さっきから、胸が苦しいくらいにドクドクする。「僕は、弟と好きな子がかぶるのも嫌だったし。昔から親に口癖のように『陸斗はお兄ちゃんなんだから。海斗に譲ってあげなさい』って言われて育ったから。海斗の兄として、希空ちゃんのことも弟に譲ろうと思った……でも、無理だった」陸斗くんの手が、私の頬に添えられる。「希空ちゃんが海斗と一緒にいるところを見る度に、胸がモヤモヤして。ああ、やっぱり僕は希空ちゃんが好きなんだと改めて思った」「陸斗く……」「一度振ったくせに、希空ちゃんのことを好きって言うなんて。自分でも勝手だなって分かってる。でもやっぱり僕、希空ちゃんだけは誰にも渡したくない」陸斗くんと、再び目が合う。「希空ちゃん。僕と、付き合ってください」「……っ」陸斗くんにこう言ってもらえる日を、これまで何度夢見たことだろう。1年以上片想いしていた陸斗くんに告白されて、嬉しいはずなのに。このとき、私の頭の中にはなぜか海斗くんの顔が浮かんだ。去年までの私なら、一度陸斗くんに振られていたとしても、迷わずすぐにOKしたんだろうけど……。『おい、希空。帰ろうぜ』最近私のなかで、海斗くんという存在が以前よりも大きくなってきているのは確かだ。今は、陸斗くんの告白を素直に喜べない。「……っ」「返事は、今すぐじゃなくて良いよ」私が黙り込んでしまったからか、陸斗くんがそう言ってくれる。「一度振られた相手にいきなり好きだと言われても、希空ちゃんも困っちゃうよね。ごめん」それから陸斗くんは、私の怪我の手当の続きをしてくれた。「はい、おしまい」消毒した手のひらに陸斗くんが絆創膏を貼ってくれて、手当は終了した。「怪我、早く治ると良いね」陸斗くんが私の手を持ち上げると、絆創膏の上から軽くキスを落とした。「へ。陸斗くん!?」「希空ちゃんの怪我が早く治るように、おまじないだよ。本音を言うなら、こっちにキスしたいんだけど……」陸斗くんの人差し指が、私の唇にちょんと触れる。「今日は、ここで我慢しておくね」そう言うと陸斗くんは、今度は私の手の甲にチュッと口づけた。なんだろう。告白された途端、陸斗くんが急に甘い気がする。