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141.国王との謁見、忍び寄る影

last update Last Updated: 2025-08-22 06:20:40

「サラリオ殿下、お待ちしておりました。葵様もご足労頂き、ありがとうございます。」

側近が出迎えてくれ、国王のいる重厚な部屋へと案内してくれた。扉が開くと、部屋の奥には国王陛下が立っていた。噂で聞いていた厳格な姿とは違い、穏やかな笑顔で私を迎え入れてくれた。

「やあ、君が噂に聞いていた女性かね。お会いしたかったよ。」

国王陛下は笑顔で私のところまで近付き、握手を求めるとそのまま軽く抱擁をした。私は、その温かい歓迎に驚きつつも、丁寧に挨拶をした。

「国王陛下、お招きいただきましてありがとうございます。」

私の挨拶に、国王はニコリと微笑み、椅子へ座るように促してくれた。私はサラリオ様の隣に座り、国王陛下と向かい合って話をした。私が泉から現れた話や、元いた世界のことなど、国王は次から次へと矢継ぎ早に質問してきた。

私が言葉に困っていると、サラリオ様がうまく助太刀をして、代わりに説明をしてくれた。サラリオ様のサポートのおかげで、会話は終始和やかな雰囲気で進んだ。

「今日は、楽しかったよ。サラリオ、少し二人だけで話がしたい。いいかね。彼女には、他の者が王宮まで送るようにするよ。」

「はい、大丈夫です。葵、すまない。先に……先に戻っていてくれるか。」

「分かりました。国王陛下、今日はありがとうございました。お話しできてうれしかったです。それでは失礼いたします。」

私はそう挨拶をして部屋を出た。部屋の外には、案内するための付き人が既に待っており、彼の後について廊下を歩いていった。

(この道、行きに来た時に通ったかしら……?)

見慣れない廊下を進むうちに、私の心に小さな不安が芽生えた。そんな私の不安に気がついたのか、案内人が声を掛けてきた。

「遠くまで歩かせてしまい申し訳ございません。馬車でお送りするために、厩舎のほうへ向かっております。」

「いえ、大丈夫です。お心遣いありがとうございます。」

「葵様、こちらの扉から出てくださいませ」

案内された向こうは、外の通路へ繋がるであ
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