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58.月夜に照らされ抱き合うふたり

last update Last Updated: 2025-07-12 17:22:05

「私の結婚はね、日本の家同士で決められた、政略結婚だったの」

ゆっくりと言葉を紡ぐ私を、ルシアンは静かに優しく見つめていた。

「夫はね、私には興味がなくて私に求めていたのは、家事を完璧にこなすことだけだった。私はただの『家政婦』でしかない、そう思っていたの」

結婚していたときの事を思い出すと、胸の奥にしまい込んでいた痛みが蘇ってくる。

「だから薬学を学んだ。薬問屋が家業で医師の夫の少しでも役に立てたらと思って。少しでも、私自身の『価値』を作りたくて。夫に、私を『特別』だと感じてほしかった。」

「でもそこに夫への愛情はなかったわ。それは使命で義務だったの。そして夫も私が薬学を覚えることを求めていなかった。全く関心も持たれなかったわ」

そこまで話すと、もう言葉が続かなくなった。日本での愛のない結婚生活は、この国の王子たちと築いた関係とあまりにもかけ離れていると思った。

「葵……」

ルシアンは、肩を寄せて私をそっと抱きしめた。温かく、そして力強い彼の腕が私を包み込む。彼の胸に顔をうずめると、彼の心臓の鼓動が私の胸に直接響いてくるようだった。

「国のためなんて、馬鹿だよね……」

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