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57.私はあなたの幸せを願っている

last update Last Updated: 2025-07-11 21:22:58

いつも甘い言葉や行動で私を照らしてくれるルシアンがこんなにも切なそうな顔をしている。いつも笑顔のルシアンが、今日は切なくて涙している。その姿を見て、初めて誰かに対して『抱きしめたい』という思いが心の中で湧いてきた。

振り向いてほしいと思ったことは今まで何度かあったが、誰かに対して抱かれたい、抱きしめたいと思うことは初めてだった。

でも、大切に思う人が寂しくて孤独を感じているのなら側にいて温もりを感じてほしい。私がいるよ、と灯になり冷えた心を温めたい。

そう、強く思った。

「ルシアン……」

私は、隣にあったルシアンの手を両手で包み込んだ。『私はあなたの幸せを願っている』そう伝えるかのようにそっと、でも想いを込めて握った。

ルシアンは驚いてこちらを見ているが愛おしそうな瞳へと変わっていった。私もルシアンの顔の方へ視線を向けると目が合った。

月光のせいかいつも以上にルシアンの金色の髪が輝いている。その輝きと対比するかのように、暗く切なそうに笑う顔を見ながら泣くのを堪えていた。ルシアンは手を伸ばし私の頬に触れている。

数秒間、私たちは静かに見つめ合った。

そして、何か思うことがあったのかルシアンは手を離し背を向けると涙を拭いてから拳をギュ

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