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67.メルの気がかりとリアムの安心感

last update Last Updated: 2025-07-17 21:22:11

メルはアンナ王女が再訪してからサラリオとルシアンが葵に対して態度が変わり、距離を置くような素振りをしていることを誰よりも早く気づいていた。そして、そのことで葵が日に日に元気をなくし、まるで光を失ったかのように見えることも気がかりで胸を痛めていた。

「最近、葵様が元気なくて……。サラリオ様とルシアン様が葵様に対して、以前とは全然違ってよそよそしくなった気がするの。そのことを葵様も感じ取って、ひどく心を痛めているようなんです。私は、葵様のために何ができるんだろうって、ずっと考えているの」

メルは、幼馴染で恋人のリアムにその悩みを打ち明けた。夜の庭園でリアムの腕の中に抱かれながらリアムの肩に顔を預けていた。

「俺は、メルがいるだけで元気になるよ。落ち込んでいてもメルが明るく笑顔でいてくれれば、俺も気分が上がるしまた頑張ろうと思えるんだ」

そう言ってリアムはメルを優しく抱きしめた。彼の温かい腕がメルの不安を包み込む。メルはリアムの腰に手を回し、その胸に顔をうずめ、彼の温もりを噛みしめていた。この深く抱き合っている時間がメルの心を温かく満たし、また明日から頑張ろうと気持ちを切り替えることができた。リアムの言葉は最高の癒しだった。そして、こうして悩んだときにリアムが側にいて支えてくれることがとても嬉しかった。

(葵様が元気になるように、私は側で明るく葵様を支えよう!)

翌朝、葵とメルが廊下を歩いていると前方からルシアンが見えた。以前なら、遠くで姿を見つけただけでも、大きく手を振って最高の笑顔を見せた後に弾むような

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