共有

第19話

作者: 安田徹
「そうなの?」

紬は眉をひそめ、表情を曇らせた。

「お母さん、私と菜月はもう友達じゃないの。また来ても、家に入れずに帰して」

「智也のことが原因なの?智也が菜月と浮気したんでしょう?」

紬は驚いた。

「どうして知ってるの?菜月から聞いた?」

「今日は智也くんも来たの。言い争いになって、誤って菜月を階段から転落させたのよ。菜月のお腹にいた赤ちゃんも、助からなかった」

「え?」

紬は聞き間違いではないかと思った。

「赤ちゃん?二人には子どもまでできてたの?」

「知らなかったの?紬、お母さんは本当に見る目がなかったわ。前は智也くんをいい子だって褒めていたのに、見かけだけの最低な男だった。あなたに許してもらうとも言ってたわ。あの男が何をしても、情にほだされて許したりしないでね!」

「心配しないで、お母さん。許すつもりはないよ。一度決めたことを変えるつもりもないから」

「それなら安心したわ。もう邪魔しないから、勉強に戻りなさい」

電話を切ったあとも、紬の心は複雑だった。

数日前まで、智也はアパートの前に立ち続け、自分を許してほしいと訴えていた。

だがその一方で、菜月
この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • 愛し尽くした私が、あなたを捨てるまで   第22話

    「そうよ。紬を殺す!紬が死ねば、智也は私のものになる!」菜月は地面から起き上がり、落ちていたナイフを拾った。憎しみに満ちた目で紬を見ながら、少しずつ距離を詰めてきた。「紬、どうして昔から、いつも私より恵まれてるの?どうして紬はそんなにきれいなのに、私はこんなに不細工なの?どうして紬には愛してくれる両親がいるのに、私の両親はとっくに死んでるの?どうして智也は紬を好きで、私を好きになってくれないの?どうしてよ!」菜月は興奮し、再び紬へ襲いかかろうとした。智也がその腕を強くつかんだ。「もうやめろ、菜月!これ以上、後悔するような真似はするな。紬は何も悪くない。間違っていたのは俺たち二人だ!俺たちが紬を裏切り、傷つけた。紬が俺たちに何かしたわけじゃない。だから、紬を傷つけるな!」「そう?」菜月は智也を見て笑った。「うん。智也の言うとおりだね。間違っていたのは私たち。紬は何も悪くない。だったら、私たちが一緒に死ねばいい!」菜月の目つきが一変した。突然ナイフを振り上げ、智也の胸へ深く突き刺した。温かい血が菜月の顔に飛び散り、菜月は一瞬動きを止めた。智也の身体も硬直した。ゆっくりと顔を下げ、胸に刺さったナイフを見つめるうちに、その表情が苦痛に歪んでいった。「智也!」紬は口元を押さえ、目を見開いた。「菜月、何をしてるの!早くやめて!」「智也、これはあなたが私に返すべきものよ!生きて一緒になれないなら、死ぬときくらい一緒にいよう!」そう言うと、菜月は智也の胸からナイフを勢いよく引き抜いた。そして今度は、自らの心臓を狙って深く突き刺した。かつて最も大切だった二人が同時に目の前で倒れ、紬は我を失って駆け寄った。「智也!菜月!早く救急車を呼んで!」「大丈夫、もう連絡した!早く応急処置を!」航平も紬と一緒に、二人への救命処置を始めた。だが菜月の傷はあまりにも深かった。紬がどれほど処置を続けても、助けることはできなかった。最期の瞬間、菜月は紬の手をつかんだ。「ごめん……なさい……」その言葉を最後に、菜月は息絶えた。智也は意識を失う直前、紬に向かって言った。「紬……ごめん。許してくれ……」救急車はすぐに到着し、智也は病院へ搬送された。だが医師によると、刺し傷は非常に深

  • 愛し尽くした私が、あなたを捨てるまで   第21話

    イギリス、ロンドン。それからというもの、紬と航平は少しずつ距離を縮めていった。一緒に授業を受け、食事をし、授業が終われば二人で散歩をした。休みの日にも誘い合って出かけ、ビッグ・ベンやロンドン橋を見て回った。その頃には紬の心もずいぶん軽くなり、智也のことなど、もうすっかり忘れたかのようだった。ある日、二人は音楽広場で鳩に餌をやっていた。一羽の鳩が航平の頭に止まった。紬は笑いながら、動かないように言って手を伸ばした。「動かないで。頭に鳩が止まってる。かわいい!」「そうなのか?どれくらいかわいい?」航平は急に身動き一つできなくなり、紬が鳩を撫でるままにしていた。やがて鳩が飛び立つと、紬は楽しそうに笑った。航平も、すぐそばにあるその笑顔を見つめながら微笑んだ。「紬、俺と付き合ってくれないか?」こんなロマンチックな雰囲気の中では、紬も心が動いたことを認めるしかなかった。航平はもともと整った顔立ちをしており、品のある佇まいには、思わず目を奪われる魅力があった。紬は自然とうなずいた。「うん」「よかった!」航平は紬を抱き上げ、広場で何度かくるくると回った。「紬が俺の彼女になってくれた!」その様子を見た周囲の観光客たちは、次々と拍手を送った。誰もが二人を祝福する中、一人だけ物陰から二人を睨みつけている者がいた。帰り道、上機嫌だった紬は、思いがけず菜月と出くわした。紬の笑顔がたちまちこわばるのを見て、航平は目の前の女性を嫌っているのだと察した。「タクシーで帰ろう」「うん」紬は菜月と話すつもりなどなく、背を向けて立ち去ろうとした。だが菜月は、突然紬の前に跪いた。「紬、お願い。私を智也と一緒にいさせて!私は智也のために、赤ちゃんまで失った。それなのに智也は、どうしても私のそばにいてくれない。紬を捜すために、わざわざイギリスまで来たの!お願いだから、智也にはっきり別れを告げて。もう二度と会わないで、少しの望みも持たせないで!」「私はとっくに智也と別れてる。智也があなたと一緒になりたくないのは、智也自身の問題で、私には関係ない」紬は冷たく続けた。「本当は、あなたにも智也にも会いたくない。むしろ私のほうからお願いしたい。二度と私の前に現れないで。二人の顔を見るだけで、本当に吐き気が

  • 愛し尽くした私が、あなたを捨てるまで   第20話

    紬の胸は激しく高鳴った。航平が自分を好きだとは、一度も考えたことがなかった。二人には、ほとんど接点さえなかったのだ。「小宮山さんが突然イギリスへ行くと決めなければ、俺も来なかった。先生から、小宮山さんが留学を断ったと聞いて、俺も断った。そのあと、小宮山さんが行くことにしたと聞いて、俺もすぐに承諾した」航平は、熱を帯びた強い眼差しで紬を見つめた。紬は唇を噛み、航平の身体を押して離れた。「ごめん。今は少し混乱してる」「分かってる。告白したのは、今すぐ返事をさせたいからじゃない。ただ、いつまでも瀬川のことばかり考えないでほしかった。周りを見れば、ほかにもいい男はたくさんいる」「坂口くんも、その一人ってこと?」紬はまた笑わされた。「前は、すごく冷たい人だって聞いてた。まさか、こんな人だったなんて……」「好きな相手には優しくする。冷たくする理由がない」航平の目には、紬が今まで見たことのないほど強い想いが浮かんでいた。以前の瞳は、冷たく、温度を感じさせなかった。だが今は、氷が陽光に溶かされたように、柔らかく澄んでいた。紬は、その眼差しに引き込まれそうになった。「私、先に帰る!」紬は逃げるように立ち去った。航平はその背中を見つめ、口元に優しい笑みを浮かべた。まるで、すぐに怯えて逃げるウサギのようだった。一方、国内の病院では。目を覚ました菜月は、真っ先に自分の腹部へ手を当てた。「赤ちゃんは?私の赤ちゃんは無事なの?」智也は首を横に振った。「助からなかった」「あなたが私たちの赤ちゃんを殺したのよ!智也、どうしてそこまで残酷になれるの!」菜月は感情を抑えきれず、何度も智也の身体を拳で叩いた。智也は避けなかった。ただ400万円の小切手を取り出し、ベッド脇に置いた。「身の回りの世話をする人は手配した。入院費も支払ってある。これが前に話した400万円の小切手だ。受け取ったら、俺たちはもう何の関係もない」また同じ言葉だった。しかも菜月が最も悲しみ、絶望しているときに、智也はこれほど残酷なことを口にした。菜月は唇を噛み、全身を震わせながら泣いた。「智也、あなたは人間じゃない!本当に後悔してる。どうして私は、馬鹿みたいにあなたなんかと付き合ったの!」「後悔するなら

  • 愛し尽くした私が、あなたを捨てるまで   第19話

    「そうなの?」紬は眉をひそめ、表情を曇らせた。「お母さん、私と菜月はもう友達じゃないの。また来ても、家に入れずに帰して」「智也のことが原因なの?智也が菜月と浮気したんでしょう?」紬は驚いた。「どうして知ってるの?菜月から聞いた?」「今日は智也くんも来たの。言い争いになって、誤って菜月を階段から転落させたのよ。菜月のお腹にいた赤ちゃんも、助からなかった」「え?」紬は聞き間違いではないかと思った。「赤ちゃん?二人には子どもまでできてたの?」「知らなかったの?紬、お母さんは本当に見る目がなかったわ。前は智也くんをいい子だって褒めていたのに、見かけだけの最低な男だった。あなたに許してもらうとも言ってたわ。あの男が何をしても、情にほだされて許したりしないでね!」「心配しないで、お母さん。許すつもりはないよ。一度決めたことを変えるつもりもないから」「それなら安心したわ。もう邪魔しないから、勉強に戻りなさい」電話を切ったあとも、紬の心は複雑だった。数日前まで、智也はアパートの前に立ち続け、自分を許してほしいと訴えていた。だがその一方で、菜月との間には子どもまでできていたのだ。紬は川沿いまで歩いていき、腰を下ろした。涙が一滴ずつ頬を伝った。以前の紬は、本当に智也が好きだった。授業中でさえ、こっそり横顔を見つめてしまうほどだった。智也は容姿が整っており、クラスの女子たちもよく集まって彼の話をしていた。成績もよく、顔も格好いい智也は、将来どんな女性と付き合うのだろう。そんな話を耳にするたび、紬は一人で笑いをこらえていた。二人はすでに付き合っていたからだ。ただ周囲には内緒にしており、知っているのは菜月だけだった。大学入試が終わったあと、一人の女子生徒が智也に告白した。すると智也は大勢が見ている前で紬の手を取り、全員に告げた。「俺にはもう彼女がいる。紬が俺の彼女だ」その瞬間、クラス中から大きな歓声が上がった。「クラス一の美男美女が付き合ってたなんて、やっぱりお似合いだよ!」「結婚するときは、絶対に招待してくれよ!」「友人代表のスピーチは俺にやらせろよ!」「でも、二人が別の相手と結婚するなら、俺たちを呼ぶなよ!」冗談のつもりだったその言葉は、現実になった。紬

  • 愛し尽くした私が、あなたを捨てるまで   第18話

    「言うなって言っただろ!」もみ合っているうちに、菜月は足を滑らせ、階段を転げ落ちた。床に倒れた菜月の身体の下に、赤い血が広がっていった。智也も紬の父も、動けなくなった。物音を聞いて出てきた紬の母は、その光景に息を呑んだ。「いったい何があったの?何をぼんやりしてるの!早く病院へ連れていかないと!」三人は菜月を病院へ運んだ。医師から流産の危険があると告げられ、菜月は緊急処置のため手術室へ入った。手術室の前で、紬の両親は険しい表情を智也へ向けた。先に口を開いたのは、紬の父だった。「いったい何があったんだ?さっき菜月が言ったことは本当なのか?お前はずっと菜月と付き合っていて、お腹の子も……お前の子なのか?」「え?」紬の母は、これほど馬鹿げたことが起きているとは思わず、信じられないという目で智也を見た。「あなたは紬と付き合っていたんでしょう?それなのに、どうして菜月とも付き合って、子どもまでできたの?」智也はその場に膝をつき、二人に謝った。「おじさん、おばさん、本当にすみません。あのときの俺はどうかしていました。でも、わざとこんなことをしたわけじゃないんです!俺が愛しているのは紬だけです。菜月のことは、ただかわいそうだと思って、少しでも優しくしてやりたかっただけで……それに菜月も、大学の4年間が終わったら別れると約束していました。卒業したのに、菜月が別れようとせず、ずっと俺につきまとってきたんです。お腹の子を使って、俺を引き止めようとまでしました。中絶してほしいと言ったのに拒まれて、それで言い争いになって——」智也が最後まで言い終える前に、紬の母がその頬を平手で打った。「私の娘を裏切ったうえに、いちばんの親友まで妊娠させて、紬がどう思うか考えたことはあるの?卒業しても帰ってこず、海外留学を続けると決めたのは、あなたのせいだったのね!」「この馬鹿者が!紬が何をされても黙っていると思って、菜月には頼れる親がいないからと、二人を好き勝手に扱ったんだろう!あまりにもひどすぎる!」紬の父も智也へ詰め寄り、力いっぱい殴った。「紬がお前と付き合いたいと言ったとき、私は反対したんだ。こんな命に関わる事態まで起こしておいて、まだわざとではなかったと言うのか?もう救いようがない!」「もういいわ。これ以上殴った

  • 愛し尽くした私が、あなたを捨てるまで   第17話

    マンションの屋上。菜月は智也の手を振りほどき、強くつかまれて赤くなった手首を見た。少し傷ついたような顔をした。「智也、痛いよ!」「聞きたいのはこっちだ。紬のご両親を訪ねて、何をするつもりなんだ?」「会いに来たらいけないの?」菜月は何も知らないふりをした。「おじさんたちは、私を実の娘みたいに可愛がってくれてるの。紬が海外にいるんだから、親友の私が代わりに様子を見に来ても、何もおかしくないでしょ?」智也は険しい顔で菜月を睨んだ。「正気か?俺たちのことを紬のご両親に話すつもりなのか?」「そうだよ。それが何か?話してほしくないの?」菜月は自分の腹部に手を当てた。「智也、私、もう妊娠2か月なの。私たちの赤ちゃん、触ってみない?」菜月は智也の手を取り、自分の腹部に触れさせようとした。だが智也は嫌悪をあらわにして、その手を振り払った。「もういい、菜月。はっきり言え。いったい何が望みなんだ?」「私にも、お腹の子にも責任を取ってほしい!」菜月は智也に近づき、思いつめた顔で訴えた。「智也、この子は神様が私にくれた贈り物なの。私が幼い頃に両親を亡くして、ずっと自分の家族が欲しかったことを神様は知っていた。だから、たった一晩で私たちに赤ちゃんを授けてくれたの。智也だって、喜ぶべきでしょ?どうして少しも嬉しそうじゃないの?分かった。紬のせいなんだね?私が智也の子を妊娠したと知られたくないんでしょ。紬に一生許してもらえなくなるのが怖いんだよね?」智也は菜月を見つめ、一言ずつ区切るように告げた。「菜月、自分で病院へ行くか。それとも、俺が連れていくか」「え?」菜月は一瞬、意味が分からなかった。智也が本当にそこまで冷酷になれるとは思っていなかった。「どういう意味?智也、まさかこの子を中絶しろっていうの?」「この子は、最初から生まれてくるべきじゃなかった!菜月、中絶するなら400万円を渡す」「そう」菜月はあまりの言葉に笑い出した。「智也、一つだけ聞かせて。もし紬が智也の子を妊娠したら、中絶させる?」「させない」智也は即座に言い切った。その答えを聞き、菜月は完全に失望した。「よく分かった。だったら、私が何をしても恨まないでね、智也!」菜月は踵を返し、階段へ向かって走

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status