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第82話

Auteur: るるね
last update Date de publication: 2026-05-16 23:59:58

 鈴央はとにかく話題が尽きなかった。

 たとえ紗月が黙っていても、次々と会話を広げ、自然と彼女まで引き込んでいく。

 その雰囲気は、どこか部活の部長や生徒会長のようだと思った。

 紗月が何気なく尋ねてみると、案の定、鈴央は高校時代に二年連続で生徒会長を務めていたらしい。

「二年も……鈴央くん、すごいね」

 紗月は、自分も高校時代に生徒会長へ立候補したことを思い出す。

 あの頃の彼女は、何をするにも限界まで頑張っていた。

 少しでも優秀になりたかった。

 もっと認められたかった。

 好きな人に、好きになってほしかったから。

 けれど、どれだけ努力しても、どうにもならないことはある。

 叶わないものは、結局叶わない。

 紗月の表情が少し陰ったことに気づいたのだろう。

 鈴央はとても自然に話題を変えた。

 今日の午前、優介が授業中に寝落ちし、教授に突然当てられた瞬間、寝ぼけたまま「Cです」と答えて教室中を笑わせた――そんな話だった。

「夢の中でテストでも解いてたんじゃないですかね、あいつ」

「ふふ……優介くんでも授業中に寝たりするんだね」

「紗月姉さん、あいつ、紗月姉さんの前だと猫かぶって
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     不安な数日を過ごした後、紗月は休みの日に病院を訪れ、改めて検査を受けた。 そして結果を告げられた瞬間、彼女は全身から力が抜け、そのまま診察室の椅子へ崩れ落ちる。 そんな紗月の反応を見て、医師もすぐには言葉を続けなかった。 少し間を置き、言葉を選ぶようにしてから、穏やかな声で口を開いた。「現在は妊娠四週前後ですね。二週間後にもう一度来院していただいて、胎嚢の位置を確認しましょう。その後、今後の検査予定なども一緒に決めていきますが……朝倉さん、それでよろしいですか?」 紗月の思考は止まったままで、視線もずっと宙の一点を見つめたまま動かなかった。 医師の言葉は耳に入っていた。けれど、それを理解するまでには少し時間が必要だった。 しばらくしてからようやく、何を告げられたのかをゆっくり理解し始める。「あ……はい……」「では、今日のうちに次回の予約もできますが……」 医師は手元の予定表を確認しながら日付を口にした。 それでも紗月の反応が遅いからといって急かすことはなく、ただ辛抱強く返事を待ってくれる。 こうして突然妊娠を告げられ、頭が真っ白になってしまう患者は珍しくないのだろう。 医師の落ち着いた態度からは、そんな慣れた優しさが感じられた。 彼女は意識してゆっくりとした口調で話し、紗月から再び返事を聞くと、安心させるように穏やかな声で続けた。「朝倉さん、まだ赤ちゃんは小さいですから、どんな決断も遅くはありません。もし迷いや不安があるようでしたら、ご相談をお受けする専門の窓口もございますので、ご希望でしたら予約をお取りできます。また、必要であれば産科への紹介状をお作りすることもできますよ」「あ……」 一瞬、紗月の心が揺れた。 ぼんやりと医師を見つめた後、気づけば無意識のうちに小腹へ手を添え、少し迷うように首を横に振った。「いえ……大丈夫です。二週間後にまた来ます」 医師は頷き、ゆっくり立ち上がる紗月を見ながら、最後に一言付け加えた。「朝倉さん、できれば診察にはご主人も一緒に来られるといいですね。妊娠中の注意点は、ご家族にも知っておいていただいた方がいいですから」「……はい」 婦人科を出ると、外は気持ちがいいほどの晴天だった。 人で賑わう街の中に立ちながら、紗月は自分がどこへ向かえばいいのか分からなくなっていた。 足が重い。 

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  • 愛し続けた彼を、私は手放すことにした   第117話

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     紗月にも、自分がどこでまた慎一の癇に障ったのか分からなかった。 慎一の顔色は完全に沈み込み、明らかに怒っている。 塗り終えた薬を無造作に置くと、立ち上がり、再び上から見下ろすように紗月へ視線を向けた。 紗月は何も言わない。 短い沈黙のあと、慎一は怒りを押し殺すように低く笑った。「紗月。これはお前が自分で選んだことだ。後悔しても知らないぞ」 それだけ言い残し、慎一は控室を出ていった。そして、その後は二度と戻ってこなかった。 今日以降、撮影現場に姿を見せることもない。 由衣の付き人として過ごす日々も、思っていたほど辛いものではなかった。 慎一が来なくなってからというもの、由衣も紗月を相手にする気を失ったらしく、任されるのは細々とした雑用ばかりだった。 だが、怪我の功名と言うべきか――。 そのおかげで、紗月は撮影スタッフたちと接する機会が増えた。 由衣が撮影に入っている間、手の空いた時には、撮影の流れや現場の進行を間近で見ることができた。 認めざるを得なかった。 由衣は私生活では決して性格がいいとは言えない。けれど、ひとたびカメラの前に立てば、まるで生まれながらの女優のようだった。 演技は自然で完成度も高く、台本の理解力にも優れている。 ミスをすることもほとんどなく、時には紗月自身も思わず見入ってしまうほどだった。 暗闇の中から、ライトに照らされたセットを見つめていると、いつの間にか自分の感情までも役者たちと共に揺さぶられ、胸の奥がじんわりと熱くなっていく。 かつて紗月が憧れていた世界。 夢見ていた景色が、今こうして目の前に広がっている。 ただ一つ違うのは――その中に、自分の居場所がないことだった。 その現実は、撮影が終わるたびに美咲から別の雑用を言いつけられる度に重くのしかかり、自分がかつて手放したものがどれほど大切だったのかを、嫌というほど思い知らせてくる。  そんなある日。 紗月が小道具を片付けていると、こちらへ歩いてくる立花の姿が目に入り、思わず手を止めた。 立花はちょうど一つの撮影を終えたばかりで、現場全体もちょうど休憩時間に入っている。 特別に紗月を探していたわけではない。 だが、彼は紗月を見つけた瞬間、わずかに足を止めた。 歩調を緩めながら近づいてくると、やがて紗月の前で立ち止まる。 その視線は、

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  • 愛し続けた彼を、私は手放すことにした   第68話

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     美月は階段を下りる前、わざとらしいほど柔らかく、無垢な笑みを紗月に向けた。 声もか細く、いかにも育ちの良さを感じさせる響きで、「お姉さま、下でお待ちしていますね。お義兄さまとご一緒に、早くいらしてくださいね」 そう言い残し、軽やかな足取りで姿を消していく。 その背中が階段の先に完全に見えなくなったのを確認してから、紗月はゆっくりと顔を戻し、慎一を見た。 慎一は書斎の机の向こう、椅子に腰を下ろしている。 机の上には、ほかにもいくつか届けられた贈り物が並んでいた。その中にひとつ、淡いピンクの包装紙で包まれたものがある。 明らかに、祖父への贈り物ではない。 事実もその通りだった。

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