甘ったるいローランドの囁きや吐息が耳元に届き、熱い体が上半身を包み込む。
アデリナの(ていうか私の)意外に小さな胸を隠すように、ローランドは真上から覆いかぶさってくる。熱い肌でギュッと抱き締められて思わずキュンとなり、私も思わず抱き締め返した。
「っ、ロー……ランド……っ」
何でローランドがこんなに私に盛ってるのか分からない。
ヤりたい盛り的な……? まあ、そうだよね!いくら王と言ってもまだ20代だもんね! まだヒロインのリジーに出会ってない以上、欲を発散させる為には妥協して妻のアデリナを抱くしかないからね!し、仕方ない!一応夫(仮)だし付き合ってあげようかな!
……ていうかこんな誘惑に負けない女がこの世にいる?
この世界にいる訳ないでしょ……!! よし、覚悟はできた!どっからでもかかって来なさいよ!(?)ローランド!そうよ。ヴァレンティンはこの小説では超重要ポジ。言ってみれば国宝級アイドルである。
彼なしではこの世界は語れない! あいらぶゆー ヴァレンティン! I need you ヴァレンティン!ヴァレンティン誕生のためにローランドとヤるわ!(ある意味、私最低!)
そして……ヴァレンティンを産んだらローランドと離婚して、息子と2人で幸せに暮らすの!
夢の推しとの生活が待ってる……!(やっぱり最低!)原作通りローランドはリジーにあげるから!
ヴァレンティン誕生だけは許して!「アデ……リナっ……」
「ローランド……っ」
さっきまで人を殺す気かと思うくらい、私を強く抱き締めていたローランド。
その腕の力が、なぜか急激に弱まっていく。
「え………?」だらんと伸び切った手は、シーツの上に人形のようにボトっと落ちた。
「ローランド……さん?」
体温が高いローランドは、その
だが、すぐに今の状況を察したみたいで、アデリナ王妃は青白い顔をした。 本当に笑いを堪えるのに必死だったわ。 残念だったわね。 ローランド王はもうすっかり私の虜よ。 あなたの役目はもう終わったの……!! 「王妃陛下……いえ、アデリナ様。 ご自分の立場を忘れないで下さいね。 あなたは所詮は性悪妻。 私とローランド王の恋を盛り上げるための、いわゆる《悪役》。脇役なんですよ。 だからもう、あなたは完全に用済みなんです。 悪役は悪役らしく、潔く退場してくださいね。 それではご機嫌よう。さようなら。」 そうして私は、絶望したような顔をするアデリナ王妃の前で扉を閉めた。 最高よ……!!私はヒロインだもの!! 最後は私が勝つに決まってるじゃない!! ————そう思ったのに。 部屋の奥に進むにつれ、やけに照明が煌々と灯っていて少し不思議に思った。 ふと、ベッドに座っているローランド王の姿が見えて一瞬喜んだ。 だが彼だけではなかった。 脇にランドルフ侯爵、それに見慣れない官僚が二人も立っていた。 え……?何これ……? 「リジー。お前がアデリナに罪を着せようと、自分で毒を飲んだという事はすでに分かっているんだ。 殺されたくなければ、素直に罪を認めるんだな。」 そこで私を待っていたのは私を愛するローランド王でも、私を優しく迎え入れてくれるランドルフ侯爵でも、私を見て鼻の下を伸ばす官僚達でもなかった。 「我々は事件の捜査官です。 嘘をつけばあなたの罪は重くなるでしょう。 さあ。白状してください。リジーさん。」 ……終わった。
他にもムカつくことがあるわ。 ローランド王とランドルフ侯爵もそうなんだけれど、この王宮にある神殿の神殿長、イグナイト様が私をすごい目で睨みつけてくるの。 金髪碧眼の男よ。 けれどかなりの美形なの。だから最初はローランド王を手に入れたらゆくゆくは彼も私のハーレムに入れてあげようかなって思ったの。 なのに。 「は………。欲まみれのゴミのような女ですね。 あなたがあの王妃陛下に勝てるとでも?」 神殿にお祈りに行った際、すれ違いざまにイグナイト様にポソっとそう言われたの。 あの目と言ったら。当初のローランド王やレェーヴと全く同じ!!嫌悪感丸出し。 しかも。私の故郷であるサディーク国のオデュロン王太子まで。 何でかは知らないけれど、彼は度々王宮を訪れていて、たまに城に滞在する事もあったわ。 女好きで有名だから、すぐ私に魅了されるだろうと思いわざわざ挨拶してあげたのに。 「え……? ローランド王は趣味が変わったのか? 悪趣味だな〜。 だけどこの女が本当に側室になるなら、俺がアデリナ王妃を自国に連れ帰って再婚してもいいけどな〜 子供も俺の子として育てるよ?」 大胆不敵な言葉をヘラヘラと吐き出したオディロン王太子を、ローランド王がキツく睨みつける。 「は……?ふざけないで頂きたい。 アデリナは私の妻です。この国の王妃。 大切な国母です! どこにもやりはしません………!」 さらに。 時々王宮を自由に出入りしているライリーという美少年まで、私を無言で睨みつけてくる。 かと思えばアデリナ王妃の前ではコロッと表情を変え、犬みたいに懐いてる。 何なの? どいつもこいつもアデリナ、アデリナって…… そのポジションは本来私の物だったのよ? ロ
だから私はある計画を思い付いた。 あの時、ローランド王の部屋で手に入れておいたアデリナ王妃の髪飾り。 いつか使えるんじゃないかと入手しておいて正解だったわ。 侍医から手に入れた軽めの毒を飲み、その場にアデリナ王妃の髪飾りを置いた。 もちろん死ぬつもりなんてない。 毒を飲んでも、私の部屋にこっそり用意している解毒剤を侍医に投与するよう指示してあるし、私が倒れたらタウゼントフュースラー伯爵にすぐに兵を引き連れ、アデリナ王妃を捕まえるようにと命令している。罪名は嫉妬による側室候補の毒殺未遂。 これで完璧よ!あの女を牢獄にでも放り込めれば、従順な兵に命じて暗殺もできる。 それが終わったらローランド王を落とすチャンスは、いくらでもあるわ………!! ◇「リジー。陛下より御命令だ。今晩寝室へ来るようにと。」 目を覚ました私を待っていたのは、ローランド王の寝室へのお誘い。 ランドルフ侯爵は事務的にそう告げ、二人の兵と同行するようにと言った。 聞いた話では、ローランド王は事件直後にアデリナ王妃を北の塔に閉じ込め、彼女ではなくすぐに私の安否を心配して部屋に来てくれたらしい。 これはヒロインの力が働いたと考えても間違いないわ。 「ふふ。ふふふふ……! 目を覚ましてすぐに、ローランド王の寝室へ来いだなんて。 もうこれは完璧に私のものになったって言う証拠ね。あははは!あーはっはっはっ!」 笑いが止まらなかった。 ローランド王の部屋前に到着すると、同行していた二人の兵は足早に去っていった。 そんなに待ち切れないのかしら?全く。ローランド王ったら。 だが。 「え……?リジー……?」 扉を閉めようとしたまさにその時、目の前にあの女が現れた。アデリナ王妃!
◇ 財務大臣のタウゼントフュースラーは、財務庁の業務のことで色々と指摘をされて、アデリナ王妃をかなり嫌っているらしい。 そんな人ほど私の力に簡単に魅了された。 これはチャンスだわ。 「ねえ。タウゼントフュースラー様ぁ。 私、ローランド王に恋をしてしまったのです。 どうか私タウゼントフュースラー様の養女にお迎えくださいませ。 そうして、どうか私をローランド様の側室として推して下さぁい。」 甘えた声を出し、大臣の肩に手を添えて畳み掛ける。 大臣もまんざらではない様子。 「よ、よし…!私がお前をローランド王の側室にしてやろう!」 鼻の下を伸ばす馬鹿な男…なんて操りやすいのかしら? そうして私はまんまとローランド王の側室候補に収まった。 侍従長を魅了し、鍵を手に入れ、ローランド王の私室で彼が来るのをこっそり待っていた。 いざとなれば、体で落とせばいい。 アデリナ王妃とは違う、可憐で可哀想な私を抱いたらローランド王だって心変わりするに決まっているわ……! なのに。……どうしてなの? 「私に触れるな……!それに私に許可もなく勝手に部屋に入ってきて、覚悟はできてるんだろうな? 侍医も侍従長も厳しい罰が必要だな……!」 いざローランド王に触れようとしたら、すごい目で睨まれて、おまけに手まで振り払われて拒絶された。 何よ。何なのよ? あなたは私の物なのよ? そうか。やっぱりあの王妃…… あの女も何らかの理由で未来を知っているのかも知れないわ。 だから阻止したのよ。 自分が贅沢するために。 やはり噂通り。ローランド王を都合の良い財布代わりにして、一生遊んで暮らすつもりなのね……!! 許せない。
ふうん。何だ。じゃあやっぱり今だけ? なら別に愛されてるわけじゃないのね? だったらいずれはローランド王も、あのランドルフとかいう補佐官も私の魅力に落ちるはずよ。 それから体調不良を理由に診察に行かず、アデリナ王妃にいじめられているという噂だけを流し続けた。 だけど何人かの城仕えのメイドや官僚達は、なぜかあの王妃の味方で、噂を信じてないようだった。 「アデリナ様が……?」 「そんなはずないわ。あんなにお優しい人だもの。その噂こそおかしいわよね。」 「あんなに素晴らしい大義を達成された方だぞ。絶対ありえない。」 ……何なの?こいつら。 私の力が全く効かないわ。何であの王妃に味方がいるわけ? ちっとも面白くないわ………!! それにあれからローランド王に何度か接触したけれど、当の本人は私を見ても知らんぷり。 「陛下……あの、今夜一緒に」 「何だ?私には愛する妻がいるのに、王である私を誘うつもりか? 残念だが、お前の相手をする気は微塵もないぞ。リジー。」 まるで氷みたいに冷たい瞳で、ローランド王は私をギロっと睨んでくる。 あのランドルフもやっぱり同じだった。 「なん……で?あの性悪の王妃が愛されてるなんて、おかしいでしょう? あの女、よくも……私のローランド王を!」 気に食わないことはまだある。 それはアデリナ王妃がローランド王との子を妊娠していることだ。 それもまた面白くない!まさか、そのせい? 本当にムカつく女だわ………!! そんな時にタイミングよく、あの女の方からお声がかかったの。私ってばやっぱり世界に愛されてるわね。 そして迎えたお茶会。 アデリナ王妃はなぜか懸命に私に笑いかけ、友達に接するみたいに優しくする。 イライラするわ。悪役として振る舞えばいいのに、何で良い人ぶるわけ……? あんたがいい人だと私が困るのよ!! もっと悪役らしく、
何これ、ヒロインの力ってこんなにもすごいの? 出会う人出会う人にベタ惚れされるなんてこんな快感味わったら、もう元には戻れないわ! そうして私はついに[男主人公《ヒーロー》]であるあの人と出会う。 「リジー。こちらがクブルクの国王陛下だ。」 気品よく一本に束ねた、薄水色にも見える美しい銀の髪。切れ長の目。きれいな瞳。口元の色気のある黒子。 高身長。威厳のある、豪華な風貌。 これが、私と恋に落ちるクブルク国の王。 ローランド・フォン・クブルク……!! 何てイケメンなの!!? ああ、この人が私の運命の相手なのね! 私にたくさんの愛と贅沢を与え、私に一生楽をさせてくれる人………!! 「陛下………!」 いつもの調子で喜んでローランド王に近づいたら、なぜか側にいた眼鏡の男に阻まれる。 ……何よこいつ。誰よ? 「たかが一介の看護師が、王にその様に接近してはなりません。 下手すれば王族への無礼で処罰されることもありますので、どうかお気をつけ下さい。」 真面目そうなその男は後にローランド王の補佐官、ランドルフ侯爵だということが分かる。 だがなぜこの男に私のヒロインの力が通じないのか、分からなかった。 「は……?」 何でこの男には私の力が通じないわけ? それによく見たら、肝心のローランド王さえもまるで私に関心がないような冷え切った瞳をしていた。 怖…!何よその瞳。まるで氷みたい。 あなたの運命のヒロインがわざわざ会いに来てあげたのよ!? あなたは、もっと喜ぶべきでしょう!!? わけが分からないわ。 何でローランド王とあのランドルフ侯爵には、ヒロインの力が効かないわけ!? こっちは屈辱に震えているのに、お構いなしにローランド王とランドルフ侯爵は何か内緒話をしていた。 「陛下。今日は王妃陛下の調子も良く、夕食をご一緒にされるとのことです。」 「……そう