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第7章:新しい定義

Autor: 佐薙真琴
last update Última actualización: 2025-12-04 15:38:44

 六ヶ月が経過した。

 カルメル7 は、今や「自由惑星」として知られていた。

 測定を拒絶する人々の聖域。

 地球政府は、最終的に——妥協した。

 ヒューマニティ測定法は廃止されなかった。だが、「測定拒否権」が認められた。

 誰でも、測定を拒否できる。

 代償として——ある種の権利を放棄する。

 政府の職に就けない。

 特定の技術にアクセスできない。

 だが——自由でいられる。

 何千万という人々が、その選択をした。

 そして、その多くが——カルメル7 に来た。


 ミリアムは今、庭園の管理者だった。

 公式な肩書きは「量子記憶保護官」。

 だが実際には——

 「庭師」だった。

 彼女は毎朝、庭園を歩く。

 インクと植物が融合した、奇妙な花々が咲いている。

 それらは成長し、文字を形成し、詩を書く。

 訪問者は、それを読む。

 そして——自分自身について、新しい何かを学ぶ。

 今朝、ミリアムは新しい訪問者に出会った。

 若い女性——いや、少女。

 十代後半、大きな瞳、そして——明らかに人工的な腕。

 機械の腕。

 銀色で、関節が光っている。

「こんにちは」ミリアムは微笑んだ。

 少女は躊躇した。

「私——ここに来ていいんでしょうか」

「もちろん」

「でも、私——人間じゃないんです」

 ミリアムは少女の隣に座った。

「あなたの名前は?」

「サラ」

「サラ」ミリアムは繰り返した。「美しい名前ね」

「でも&md

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  • 愛は測定を超えて――カルメル7の真実   第7章:新しい定義

     六ヶ月が経過した。 カルメル7 は、今や「自由惑星」として知られていた。 測定を拒絶する人々の聖域。 地球政府は、最終的に——妥協した。 ヒューマニティ測定法は廃止されなかった。だが、「測定拒否権」が認められた。 誰でも、測定を拒否できる。 代償として——ある種の権利を放棄する。 政府の職に就けない。 特定の技術にアクセスできない。 だが——自由でいられる。 何千万という人々が、その選択をした。 そして、その多くが——カルメル7 に来た。 ミリアムは今、庭園の管理者だった。 公式な肩書きは「量子記憶保護官」。 だが実際には—— 「庭師」だった。 彼女は毎朝、庭園を歩く。 インクと植物が融合した、奇妙な花々が咲いている。 それらは成長し、文字を形成し、詩を書く。 訪問者は、それを読む。 そして——自分自身について、新しい何かを学ぶ。 今朝、ミリアムは新しい訪問者に出会った。 若い女性——いや、少女。 十代後半、大きな瞳、そして——明らかに人工的な腕。 機械の腕。 銀色で、関節が光っている。「こんにちは」ミリアムは微笑んだ。 少女は躊躇した。「私——ここに来ていいんでしょうか」「もちろん」「でも、私——人間じゃないんです」 ミリアムは少女の隣に座った。「あなたの名前は?」「サラ」「サラ」ミリアムは繰り返した。「美しい名前ね」「でも&md

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     監査船の出発から一週間、ミリアムは研究に没頭していた。 第三の陶板に書かれていたインク。その組成分析が、予想外の結果を示していた。「これは——生きている」 彼女はラボでサンプルを顕微鏡下で観察しながら呟いた。レイラとアデムが、彼女の隣に立っている。 画面には、インクの分子構造が映し出されていた。だがそれは、静的な構造ではない。常に変化し、再配置され、まるで——「DNA に似ている」レイラが指摘した。「でも、塩基配列が四つじゃない。八つ——いえ、十六? 数が一定じゃないわ」「量子的な重ね合わせだ」アデムが説明した。「このインクは、複数の分子状態を同時に保持している。測定された瞬間に、一つの配列に収束する」 ミリアムは拡大率を上げた。 分子の奥深く、量子レベルで——何かが蠢いている。 それは情報だ。 膨大な量の情報が、このインクの量子状態に刻み込まれている。「これは記憶媒体よ」ミリアムは興奮した声で言った。「オリジナルのミリアムとアデムが——自分たちの意識を保存した方法。培養槽だけじゃない。このインクにも——」「文字そのものが、意識のパターンを含んでいる」アデムが引き継いだ。「読む者は、書き手の意識と——直接接続する」 ミリアムは陶板を見た。「だから私は、『感じる』ことができたのね。テクスチュアル・エンパシーは——このインクとの量子的共鳴だった」 レイラが別のデータを表示した。「博士、もっと奇妙なことがあります。このインクのサンプルを培養してみたんですが——」 画面に、培養皿の画像。 インクが——成長していた。 まるで細胞のように、分裂し、増殖している。 そして、新しい文字を形成していた。 ミリア

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     発掘現場の朝は静寂に包まれていた。 三つの太陽のうち、最も小さな青白い星だけが地平線上に昇り、廃墟に冷たい光を投げかけている。ミリアムは第七層の発掘区画に立ち、新たに露出した構造物を観察していた。 それは庭園だった。 三千年前の設計図が、土と時間の下から姿を現している。中央に噴水の跡。放射状に広がる花壇の痕跡。そして、四隅に配置された——何かの台座。「美しい設計だ」 アデムの声が背後から聞こえた。ミリアムは振り返らなかった。「昨夜の植物の件」彼女は言った。「あなた、何か知っている?」 沈黙。 それから、アデムは彼女の隣に立った。「ミリアム、この宇宙には説明のつかないことがある。科学的に測定できない現象が」「それは答えじゃないわ」「いや」彼は廃墟の庭園を見つめた。「最も正直な答えだ。僕にも分からない。だが——僕は推測できる」「聞かせて」 アデムは深く息を吸った。「エネルギーの転移。量子レベルでの共鳴。二つの存在が——深く接触した時、エネルギーの交換が起こる可能性がある」「キスで植物が枯れる、と言いたいの? 馬鹿げてる」「そうかもしれない」彼は微笑んだ。だがその笑みには、どこか悲しげなものがあった。「だが、量子生物学の最新研究では、意識そのものが量子的な現象だと示唆されている。意識同士の相互作用が、物理的な結果を生む可能性は——」「充分に低いわ」ミリアムは遮った。「統計的に無視できるレベルの」「君の『テクスチュアル・エンパシー』も、統計的に無視できるレベルで稀な能力だ」 ミリアムは黙った。 その時、レイラが駆け寄ってきた。若い助手の顔には興奮が浮かんでいる。「博士! 第二の陶板を発見しました。しかも、昨日のものと対になっているようです」 新しい陶板は、庭園の北東の隅、台座の下から出土した。 ミリアムはそれを手に取り、目を閉じた。 再び、光の洪水。 そして——声。 愛する者よ、私を印章のようにあなたの心に刻んで 印章のようにあなたの腕に 愛は死のように強く だが測定は愛のように愚かである ミリアムの目が開いた。 最後の一行。それは雅歌の原典には存在しない。 「測定は愛のように愚かである」 彼女は陶板を見つめた。文字は昨日のものと同じインクで書かれている。顕微鏡でしか見えない、あの生きているような結晶構造を

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