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第961話

Author: 楽恩
「生きている者からはもう何も聞き出せない。となると、死者から手をつけるしかないですね。

検死の結果が異常死と判定されれば、正式な捜査に入れます。

道木青城とて、すべてを隠し通せるわけじゃないですよ」

海人は静かに返事をした。

「お前がやれ。人手が必要なら、自分で用意しろ」

「任務、必ず遂行します」

そのやり取りを隣で聞いていた清孝が口を開いた。

「道木家は冷酷非道だが、中でも青城はずば抜けてる。権力者として、手段も容赦ない。

ただ、彼の父親がどうしようもない男でね。これまでに散々尻拭いをさせられてきた。

鉱山事故の時も、青城は多忙だった。だから今回みたいに焦って現地に飛ぶってことは——何か処理しきれてないものがあるってことだ」

海人はただ「ん」と短く答え、ソファに腰を下ろし、スマホを手にタイピングを始めた。

清孝はそれを仕事の処理だと思っていたが、水を汲みに立ったとき、ちらっと画面を覗いて驚いた。

——来依とのチャットだった。

海人:【今何してる?】

来依は一枚の写真を送ってきた:【テレビ観てる】

海人が開いて見た途端、唇の端がわずかに上がった。

【ご先祖様に倣って、不屈の精神を学んでるのかな?】

来依:【紀香が言うには、今は危機的状況だから娯楽禁止で、戦争映画を観るべきだって。あなたがまだ何も処理しないから、彼女ストレスでキノコ生えそう】

清孝が訊いた。

「紀香はどうしてる?」

彼は海人の隣のソファの肘掛けに腰を下ろしながら言った。

「お前と嫁さんは芝居なんだから、紀香なんて出てこなくていい。出してこいよ」

海人は来依に返信した。

【この後どんな展開になっても、気にするな。もしきつかったら、南とたくさん話して。それでもダメなら、俺に電話してくれ】

そして清孝に返答した。

「来依は今、失恋中なんだよ。今紀香を彼女のそばから離したら、疑い深い青城にすぐ気づかれる。それに——紀香が来依の家を出たって、お前のところには絶対来ない」

「……」

清孝は海人に文句を言いたかったが、言葉を飲み込んで代わりに訊いた。

「お前も昔、妻を追う修羅場やってたって聞いたけどさ、コツとかあれば教えてくれよ?」

海人は容赦なかった。

「俺は結婚してから三年間、相手を無視したことなんてない」

「……」

……

その頃、青城はあの一家
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