LOGIN充はついさっき中で御曹司たちから袋叩きにされたばかりだというのに、今度は外で怒り狂った親たちに囲まれた。殴られ、押され、怒鳴られ、あっという間に顔は腫れ上がっていく。胡桃は慌てて自分のコートを脱ぐと、それで充の頭を覆い隠し、叫ぶように言った。「皆さんのお気持ちは分かります!でも昨夜のパーティーは弟が主催したものじゃありません!弟も巻き込まれたんです。そのことは、間違えないで欲しいです!」胡桃が必死に叫ぶと、さすがに親たちも少しだけ勢いを緩めた。最初に充を殴ったのは、俊丞の父親・百瀬克尚(ももせ かつひさ)だった。俊丞は一人息子だったため、幼い頃から大切に育てられ、欲しがるものはほとんど何でも与えられてきた。俊丞が多少遊び人なのは克尚も知っていたが、法律に触れることだけは絶対にするなと、何度も厳しく言い聞かせてきた。俊丞もこれまでは一応その一線だけは越えずにいて、警察に連行されたのは今回が初めてのこと。それなのに今回はただ薬物を使用しただけではなく、薬物を所持し、他人に勧めた疑いまでかけられている。その知らせを聞いたとき、克尚は目の前が真っ暗になった。そして最初に思ったのは――息子ははめられた。俊丞がそんなことをするはずがない。そう信じた克尚は、すぐにほかの関係者の家族にも連絡を取り、先に釈放された参加者たちから昨夜の事情を聞き出した。そこで分かったのが、美紀と夢香が中心になって開いたパーティーだったということ。二人はずっと、ここなら絶対に安全だから外に漏れる心配はない、と豪語していたらしい。その安心感もあり、酒が回るにつれて参加者たちの羽目も外れていったということだった。克尚はそれを聞いて真っ先に思った。二人がそこまで強気だったのは充という後ろ盾があるからではないか?しかも充自身も会場にいて、同じように連行されたと知り、怒りはさらに膨れ上がった。これまでの充は若いながらも落ち着きがあり、同世代の中でも一目置かれる存在で、こういう御曹司たちを諫める側の人間だとさえ思われていた。それなのに今はどうだ?自分からその輪に入り、同じように馬鹿騒ぎをしている。さらに最近は、青木家の醜聞が立て続けに表へ出ていて、青木家の誰かが問題を起こすたび、これまで築いてきた「名門一家」というイメージが崩れていった。
奈緒の隣にいた仁哉が、低い声で言った。「奈緒さんが迎えに来たのは確かだけど、君を迎えに来たわけじゃない」その言葉が終わるのとほぼ同時に、反対側の出口から蘭と楓たちが姿を現した。蘭の姿を見た瞬間、奈緒の目が涙で潤んだ。奈緒はバッグを握りしめたまま歩み寄り、声を震わせる。「お母さん……大変だったね」だが蘭は意外なほど落ち着いていた。穏やかに笑いながら答える。「大丈夫よ。私は自分が何もしていないって分かってたし、クラブ・ノクターンのみんなが違法なことをするはずもないって信じてたから。ほら、やっぱり誰かにはめられてたんでしょう?」近くに警察官がいることを意識したのか、蘭はわざと少し声を張った。「だからこそ、警察も司法も信じるべきなのよ。やましいことがなければ、最後にはちゃんと真実が明らかになる。人を陥れようなんて考える人間は、結局、自分のしたことの報いを受けるんだから」蘭は奈緒に向かって語りかけていたが、その視線は鋭く、充と胡桃に向けられていた。この警察署の留置スペースはそれほど広くなく、部屋も数えるほどしかない。昨夜、美紀や夢香たちが連行されてきた際、ちょうど蘭たちの隣の部屋に入れられていたため、わざわざ聞くまでもなく、蘭はこの件に奈緒が関わっていると思った。そう確信していたからこそ、今回拘束されても蘭は少しも取り乱さなかった。奈緒なら必ず外で動いてくれる、どんな手を使ってでも自分たちの潔白を証明してくれる、そう信じていたのだ。そして実際、その通りになった。蘭は嬉しそうに奈緒を見つめた。いつの間にか、少し前までどこか危なっかしく見えていた娘が、今では自分が安心して背中を預けられるほど頼もしい存在になっている。蘭の言葉に含まれた棘に気づいた胡桃が、反射的に一歩前に出て冷たく言い放った。「それってどういう意味なの?もしかして、クラブ・ノクターンの件は青木家が絡んでるって言いたいわけ?」胡桃の声には明らかな苛立ちが滲んでいる。「青木家がそんな汚い真似をするわけないでしょ?証拠もないのに疑わないでくれる?」確かに奈緒は、青木家側が裏で指示したと断定できる直接的な証拠までは掴めていなかった。だが、美紀や夢香、そして充に対して、社会的ダメージを与えた事実に変わりはない。これは法的な処分よりも、もっと残酷で
どん底にいた充に、ようやく一筋の光が差した。警察官について部屋を出る。周囲から奇異の目を向けられながら、痛む身体を引きずるように歩いていった。迎えに来ていたのは胡桃だった。目が合った瞬間、充は気まずそうに俯いた。穴があったら入りたいとはまさにこのことだろう。胡桃はすでに今回の件のすべてを把握していて、もちろん全員が水着姿のまま連行されたことも知っているため、充の着替えとして私服を持ってきていた。充は服を受け取るなり、すぐさまトイレへ駆け込んだ。急いで服を着て戻ってくると、ようやく少しだけ心が落ち着いた。あんな格好で警察に連行されたなど人生最大の屈辱でしかない。充は拳を握りしめ、黙って胡桃のあとを歩いた。胡桃も充が相当堪えているのを察したのか、責めることはせず、ただ呆れたようにため息をついた。「今までああいうパーティーには行かなかったのに、どうして今回に限って……」充は黙り込んだ。それを充自身、昨夜から何千回と自分に問いかけている。胡桃は少し間を置き、充が何も答えないのを見て話を続けた。「昨夜、連行されたのは全部で32人。尿検査で問題がなかった人はもう釈放されてるけど、まだ7、8人が拘束されていて、夢香と美紀も中にいる。夢香は陽性だったから、少なくとも15日くらいは出てこられないと思う。美紀の尿検査は陰性。でも、あの子のほうが厄介ね。自分の家でほかの人たちに薬物を使わせた責任を問われてるから、場合によっては刑事処分を受けるかもしれない」胡桃は深いため息をついた。ここ最近、警察へ足を運んだ回数は、自宅へ帰った回数と大して変わらない気さえする。家族の誰かが捕まったと思えば、今度は別の誰かが刑事責任を問われる。次から次へと問題ばかり起きて、もううんざりだった。一体いつになったら終わるのだろう。二人がそんな話をしながら外へ向かっていると、正面から奈緒と仁哉が歩いてきた。奈緒と仁哉は昨晩から一睡もせずに、クラブ・ノクターンが無実であることを示す証言や証拠を集め回り、朝一番で警察に提出してきたばかりだった。その証拠があれば、クラブ・ノクターンが薬物取引とは無関係だったことを証明でき、楓も蘭も何もしていないことが分かるはず。そして少し前、二人を釈放するとの連絡が警察から入ったため、奈緒はすぐに迎
これまで築いてきた評判は、一夜にして台無し。しかも、事態は笑い話では済まないところまで来ていた。あの場にいた全員が尿検査を受け、そのうち半数近くが薬物に手を出していたのだ。つまり、半分以上が陽性になる。それを考えただけで、哲伸は怒りが爆発しそうだった。最近ようやく父親から認められ始め、家業を少しずつ任せてもらえるところまで来ていたというのに、たった一晩のパーティーですべてが水の泡だ。下手をすれば、今後の人生まで台無しになる。そんな状況で充から弘樹への疑いを聞かされても、哲伸には責任逃れにしか聞こえず、弘樹が怪しいなどとは露ほども思わない。充が妹たちから矛先を逸らそうとしている、そうとしか見えなかった。哲伸が声を上げると、すでに酔いの醒めたほかの御曹司たちも一斉に騒ぎ始めた。次々と詰め寄られ、充のほうこそ頭を抱えたくなった。状況を説明しろと言われても、充自身何がどうなっているのか分かっていない。それでも反射的に美紀を庇った。「昨日のことを美紀だけのせいにするのは違うだろ?あいつだって被害者なんだから。それに、何があったのかは俺が調べて、必ず納得のいく説明をする」「今さら説明されて何になるんだよ!今日から俺たち全員、世間の笑いものだぞ!」「あの女が、自分は盛岡グループの娘だし、青木グループもバックにいるから大丈夫だって言うから参加したのに」「俺たちだって今まで散々遊んできたけど、こんな目に遭ったのは初めてだ。美紀ちゃんも夢香ちゃんも、とんでもないことを起こしてくれたな」「これで青木家の化けの皮も剥がれたな!何が名家だよ。いざってとき何ひとつ揉み消せねえじゃねえか!」「本当にそうだよ。どうせもう警察沙汰になってんだ。今さら問題が一つくらい増えたって知るか。青木、お前のこと前から偉そうでむかついてたんだよ。今日こそ一発ぶん殴ってやるぜ!」「ああ、まずはこいつからだ!」誰かが煽った途端、その場の空気が一変した。拓也を除く男たちが、一斉に充を取り囲む。充が反応するより早く、拳と蹴りが四方八方から飛んできた。殴られ、蹴られ、また殴られる。昨夜は散々な醜態をさらし、今度は集団で袋叩きにされている。助けを呼ぼうにも、どうにもならない。幸い騒ぎを聞きつけた警察官がすぐに駆けつけ、鍵を開けて男たちを引き離した。
仁哉と奈緒。二人は人混みの中に立ち、冷ややかな目で一部始終を見ていた。充の視線に気づいたのか、奈緒もまっすぐ充を見た。人混み越しでもはっきり分かる。その目にあるのは凍りつくような憎しみと嘲りだけ。その瞬間、充はまるでまな板の上にさらされた肉のような気分になった。プライドも尊厳も、何も残っていない。ふと自分の身体を見る。鍛え上げた腹筋も厚い胸板も、今は邪魔でしかなかった。こんな身体でなければ、大勢の中でここまで目立たずに済んだかもしれないのに。結局、充もそのままパトカーへ乗せられた。携帯をはじめ、通信機器はすべて没収される。それどころか着替えさえ許されずに、その場にいた全員が、警察署へと連行された。そこからは、淡々と手続きが進んだ。充も衣服をすべて脱いで全身を確認され、その後、血液検査と尿検査を受けた。一通りの検査が終わると、パーティーに参加していたほかの男たちと一緒に、暗い部屋へ入れられた。一晩中あれこれ調べられ、すべてが終わる頃には、すっかり夜が明けていた。薬物には手を出さず、酒に酔っていただけの者たちがようやく目を覚ます。互いに顔を見合わせながら、誰もが「どうしてこうなった?」と言わんばかりの顔をしていた。充は一人ずつ顔を確認した。拓也、俊丞、哲伸――昨夜パーティーで見かけた面々はほとんど揃っているのに、弘樹の姿だけが見当たらない。しかも、自分が連行されたとき、奈緒と仁哉は現場の外にいた。そこまで考えた瞬間、充の中で何かが引っかかった。充は勢いよく拓也の腕を掴む。「拓也、弘樹は?昨日、あいつもかなり飲んでたのに、どうして捕まってないんだ?」拓也はまだ、酒に酔って眠ったはずなのに、目を覚ましたら警察署にいたという状況すら理解できていなかった。そこへ突然腕を掴まれ、驚いて身体を震わせる。拓也は目をこすりながら答えた。「弘樹なら昨日、飲みすぎてもう無理だって言って、先に帰ったぞ。それより充、これどういうことだよ?なんで俺たち警察にいるんだ?まさか昨日、誰か薬物やってたとか?」充は直感的に違和感を覚えた。「弘樹は本当に飲みすぎただけか?警察が来る前に逃げた可能性は?」拓也が答えるより先に、床にぐったり座り込んでいた哲伸が口を挟んだ。「遠藤はそんな奴じゃないって。昨日は
記者たちは一斉にカメラを構え、まだ誰も取り繕う暇のない会場の惨状を容赦なく撮影していた。充は、あまりの動揺にこめかみがピクリと引きつった。さらに警察から全員、頭を抱えて壁際にしゃがむよう命じられた瞬間、充は生まれて初めて「恥ずかしくて消えてしまいたい」という気持ちを身をもって味わった。心臓が激しく脈打つ。ここまで恥をかいたことなど、人生で一度もない。犯罪者のように頭を抱えて、壁を向いてしゃがめだと?冗談じゃない。そんなことは、充のプライドが許さなかった。自分はただパーティーに来ただけで、何もしていない。充は険しい顔で、先頭に立つ警察官を見た。こうなったら身分を明かして、少しは話の分かる相手だと理解させるしかない。充は前へ出ると、口を開いた。「俺が誰か分かって……」「黙ってしゃがめ!まだごちゃごちゃ言うなら蹴るからな!」警察官は充を睨みつけ、容赦なく一喝した。充が何者なのかなど、聞く気すらないらしい。充はその場で言葉を失った。周りを見ると、全員すでに壁を向いてしゃがんでいる今、こうなっては従うしかないだろう。充は怒りと屈辱に顔を引きつらせながら、渋々しゃがみ込んだ。幸い、まだ顔には仮面がある。冷や汗で顔中が濡れて気持ちが悪かったが、それでも外す気にはなれなかった。この仮面が、今の充に残された最後の砦だった。だが次の瞬間、さらに冷え切った警察の声が響く。「全員、仮面を外して一列に並べ!これから警察署で尿検査と事情聴取を行う!」警察には上層部から厳命が下っていた。今回の摘発では、相手が誰であろうと一切の忖度をしてはいけない。全員同じように扱え、と。深津市は今、ちょうど大規模な薬物取締りの真っただ中だ。そんな時期に、富裕層の御曹司や令嬢たちが大人数でパーティーを開き、堂々と薬物に手を出しているとなれば……彼らを摘発すればこれ以上ない見せしめになるのと同時に、相手がどれほどの家柄であろうと容赦しないという、警察の強い姿勢を世間に示すこともできる。あっという間に全員の仮面がはぎ取られ、醜態がさらされた。頭を抱えたまま一列に並ばされ、次々と警察車両へ連行されていく。外で待ち構えていた記者たちは、水着姿の御曹司や令嬢たちがぞろぞろと出てくる姿へ、容赦なくカメラを向けた。あちこちから響
一方、奈緒は会場を出るとアクセルを踏み込み、二人の新居である水鏡ヶ丘の家へと車を走らせた。そして、ドアを開けると、昔からいる使用人の井上恵(いのうえ めぐみ)と、奈緒が雇ったベビーシッターの黒崎香織(くろさき かおり)が、一緒になって赤ちゃんをあやしていた。二人は、奈緒の顔が真っ青なのを見て、ぎょっとした。「奥様、どうかなさいましたか?」そう言われ奈緒は、なんとか笑顔を作って答えた。「なんでもないの。お腹が空いちゃって。温かいうどんかなんかを作ってくれる?」そして、香織から赤ちゃんを受け取ると、奈緒の荒れ果てた心は、そのあどけない寝顔を見てようやく落ち着きを取り戻した。
パーティー会場のなか。奈緒は、充から目を離さずにいた。彼は上機嫌な様子で、グラスを片手に美紀を連れて、各テーブルに挨拶回りしている。「仁哉は今、大事な仕事で海外なんだ。戻ってくるのに1年はかかりそうだから、今日は、彼の代わりに、俺が皆の相手をするよ。それに美紀は産後でまだ本調子じゃないし、お酒とかは控えた方がいいだろうから、彼女の分も、俺が飲むよ」……一方、それを聞いた奈緒は、口にしたオレンジジュースが、やけに冷たく、苦く感じた。そして、その冷たさは胸の奥まで、染み渡っていくようだ。二人は長年一緒に仕事をしてきたが、どんな付き合いの場でも、充は彼女のことを酒豪だと言って
「充、今日で赤ちゃんが産まれてから1ヶ月経つの。私たちを迎えに来てくれない?」青木奈緒(あおき なお)は、おくるみに包まれた娘を抱きながら、期待を押し殺した落ち着いた声で言った。しかし電話の向こう、夫の青木充(あおき みつる)は感情の起伏がなく、平坦な声で言った。「すまない、急に予定が入った。運転手にお前たちを迎えに行かせるよ」出産も、産後の大事な時期も、充はずっと仕事で忙しいと言ってそばにいなかった。今日は赤ちゃんと一緒に産後ケアの施設から帰る、記念すべき日なのに、やっぱり彼は来てくれない。奈緒は切なくなったが、それでもこぼれ落ちそうになる涙を必死にこらえた。「…
一方、荒れ果てたリビングを眺めながら、充は力なくソファに腰掛け、タバコに火をつけ、胸が締め付けられるように苦しかった。「井上、俺は奈緒に優しくしてこなかったかな?あそこまで怒ることないだろう?」恵は、床を掃きながら、そっと声をかけた。「旦那様は奥様にとてもよくしてらっしゃいますよ。ご結婚されてから5年、お二人が言い争うのを見たことがありません。ですが、子供を産んだ後の女性は気持ちが不安定になりやすいんです。産後うつにもなりやすいですし、旦那様の支えがもっと必要なんですよ」充は眉をひそめた。「産後うつだって言うのか?でも、他の女は子供を産んだって、こんなに変わったりしない。今







