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第517話

Author: 森の小鹿
受話器の向こうで数秒の沈黙が続き、男の低い声が聞こえた。

「本当に俺が帰国しなくても大丈夫?」

蘭は思わず口元を押さえた。涙が頬を伝っているが、それでも声だけは何でもないように装う。

「ええ、本当に大丈夫よ。見ての通り何も問題ないから。

そっちはそっちで、今やるべきことを片づけなさい。私は今、奈緒と仁哉くんと一緒にいるから大丈夫。何もないなら、無理して帰ってこなくていいわ」

奈緒は蘭の顔を見た。胸に小さな疑問が浮かぶ。

蘭がこれまでどれほど息子の帰国を願っていたか、奈緒は誰よりも知っている。

それなのに、なぜ今はこんなにもきっぱり帰国を拒むのだろう?

大きくなった兄と顔を合わせるのが、そんなに嫌なのだろうか?

それとも、帰国させることで危険な目に遭うことを恐れているとか?

疑問は残ったが、奈緒は何も尋ねなかった。

蘭も二、三言話すと、そのまま電話を切った。

仁哉は二人を木蓮邸まで送り届けた。

もう夕方で、これから潮咲市へ向かえば着く頃には夜になってしまう。

蘭は一刻も早く黎に会いたがっていたが、奈緒はせめて今夜は家でゆっくり休み、明日出発するよう説得した。

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