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第4話

Author: 芽吹き
奈津美はコンサートホールの特別席に座った。美しいピアノの音色が響く中、目の前には勇太の優しく微笑む顔がある。

彼は奈津美のショールを直し、「寒い?」と優しく尋ねた。

奈津美は首を振った。しかし、下腹部に締め付けられるような痛みが走り、少し眉を顰める。

勇太はすぐにそれに気づき、「もしかして、生理か?」と聞いた。

下着が濡れる感覚に、奈津美はこくりと頷く。

勇太は温かい手のひらを奈津美の下腹部に当てて、そっと撫でた。「かなり痛む?もしあれだったら、もう帰ろうか?」と心配そうな顔で聞いてきた。

奈津美は首を横に振る。

勇太は強引に奈津美を連れて帰ることもできなかったので、仕方なく秘書の荒井空(あらい そら)に電話して、生理用品とカイロを持ってこさせることにした。

その間も、勇太の意識はずっと奈津美に注がれていた。時々お腹をさすってくれたり、「温かい飲み物はいる?」や「ブランケットは?」と気遣ってくれたり……まるで奈津美がまだ、彼にとっての大事な宝物であるかのようだった。

30分後、誰かが慌てた様子でやってきて、小さな声で呼びかけた。「社長、お届け物です」

奈津美と勇太が同時に振り返ると――

そこにいたのは、明里だった。

明里は紙袋を手に持ち、髪は少し濡れていて、顔色も青白かった。

勇太の表情が一瞬で変わる。「お前は怪我が治ったばかりだろ?誰がお前を来させたんだ?俺が呼んだのは荒井だ」

明里は唇を噛んで、か細い声で答える。「荒井さんは今、商談中なんです。でも、高橋さんがお辛いだろうし、社長をお待たせするのも悪いと思って、私が代わりに来ました……」

明里はそう言うと、紙袋をそっと差し出した。「傘を忘れてしまって、袋を濡らしてしまいました……でも、安心してください。カイロも生理用品も、ちゃんと濡れないように守ってきましたから」

勇太は複雑な表情を浮かべたが、最終的にはまず紙袋を受け取り、それを奈津美に手渡す。「奈津美、一緒に行くよ」

奈津美は何も言わず、それを持ってトイレへと向かった。

しかし、奈津美が出てくると、外で待っているはずの勇太の姿がなかった。

その場を去ろうとした時、隣のお手洗いから微かな物音が聞こえてきた。

奈津美が近づき、中を覗くと――

勇太が、明里を洗面台に押さえつけ、深くキスをしていた。

明里は、拒むような、それでいて受け入れるような仕草をする。「やめて……高橋さんが待ってる……」

「あいつのことはほっておけ」勇太の声は低く、掠れていた。「こんな大雨の中を走ってきて……俺をそんなに心配させたいのか?」

「私はただ、高橋さんが辛い思いをするのが嫌で……だって、彼女の辛い顔を見たら、あなたもきっと辛くなるでしょ……」明里の声は涙で震えている。「あなたには、笑っていてほしいから……」

その言葉に、勇太はさらに明里を愛おしく思ったようだ。キスはさらに深くなり、明里が小さな声を漏らす。

勇太は低く笑い、優しい声で囁いた。「感じたか?」

明里が顔を赤らめて勇太を押す。「高橋さんのところへ行ってあげて。私は……自分でなんとかするから……」

「どうやって?」勇太の声には、甘やかすような響きがあった。「こういうのは、男に手伝ってもらったほうが気持ちいいに決まってるだろ?」

そして、勇太の手が下に伸びていく。

衣擦れの音。明里が必死に抑えた喘ぎ声。そして、勇太の低く甘い声が聞こえる。「いい子だ、力を抜いて……」

奈津美はドアの外に立ち尽くす。胸が張り裂けそうなほどの痛みに襲われた。

奈津美は二人のファーストキスを思い出す。

18歳のあの日。勇太は満開の花火の下で自分の顔を両手で包み、そっと尋ねた。「奈津美、キスしてもいい?」

自分が顔を赤らめて頷くと、勇太は顔を近づけてキスをした。まるで、壊れやすい宝物に触れるかのように、それはとても優しく……

奈津美は、二人が初めて結ばれた夜も思い出した。

勇太はとても我慢強く、何度も「痛くないか?」と聞き、奈津美が慣れるまで、本気で自分を抱こうとはしなかった。終わった後も、ずっと自分を抱きしめてくれて、「一生、君を大切にするから」と言ってくれたのに。

それなのに今は、トイレの中なんかで、他の女を指で喜ばせている。

勇太……こうやって裏切るのね。

心臓を引き裂かれたようで、その痛みに奈津美は立っていることさえできなくなりそうだった。

ふらつきながら後ずさりした拍子に、壁際にあった飾りの花瓶にぶつかってしまった。

「誰だ?外にいるのは!」勇太の鋭く冷たい声が聞こえる。
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