Share

第242話

Author: 結奈々
その夜。遥真は、ぐっすり眠ることができなかった。

ずっと前から、柚香は自分のことが嫌いでも、玲奈との関係に強い不満を持っていても、それはただ単に自分を憎んでいるだけだと思っていた。

修司が以前、自分の子ども時代のことを話していたときも、たとえ気に入らなくても、自分のぼろぼろのプライドだけは守ってくれた。

けれど今は。

何かが、変わってしまった気がした。

そんなことを、柚香は知らない。

彼女はこれまで通り、淡々と、それでいて忙しい毎日を送っていた。空いた時間に、離婚の日時を美玖に送る。

離婚に対しては、楽しみな気持ちと、どこか複雑な思いが入り混じっていた。まるで、とても大切だった思い出に最後の別れを告げるような、もう二度と会えなくなるような、そんな感覚だった。

気づけば木曜日。

柚香は会社でいつも通り仕事に打ち込み、パソコンの画面を見つめながら、ぼんやりと考え込んでいた。

「柚香」絵理が声をかける。

柚香ははっとして顔を上げた。「ん?」

どこか上の空な様子を見て、絵理が尋ねる。「どうしたの?体調悪い?」

「ううん、大丈夫です。この部分、どう進めるか考えていて」柚
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter
Comments (1)
goodnovel comment avatar
リコリス
遥真は傷付く権利はないよね。だって柚香を最初に傷付けたのは遥真なんだから。 玲奈の感じからも柚香とは絶対に友達じゃないのに、何考えて「大切な人」って言ったのか? それで今、玲奈の暴挙にうんざりして「金銭的には支えるけどそれまで」ってさぁ。 玲奈に対してうんざりしたなら、恭介が言うように「あの女の性格上人助けするように見えない。恩人かどうか再度調査すべし」を実行してほしい。あの女真帆の親父に遥真使って認知させたりとやり過ぎ。早く地獄の直行便に乗ってほしい。 その前に前に言った「株くれ」は一体どうなったのか??? 盗聴ストーカーやってる場合じゃないよ。
VIEW ALL COMMENTS

Latest chapter

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第242話

    その夜。遥真は、ぐっすり眠ることができなかった。ずっと前から、柚香は自分のことが嫌いでも、玲奈との関係に強い不満を持っていても、それはただ単に自分を憎んでいるだけだと思っていた。修司が以前、自分の子ども時代のことを話していたときも、たとえ気に入らなくても、自分のぼろぼろのプライドだけは守ってくれた。けれど今は。何かが、変わってしまった気がした。そんなことを、柚香は知らない。彼女はこれまで通り、淡々と、それでいて忙しい毎日を送っていた。空いた時間に、離婚の日時を美玖に送る。離婚に対しては、楽しみな気持ちと、どこか複雑な思いが入り混じっていた。まるで、とても大切だった思い出に最後の別れを告げるような、もう二度と会えなくなるような、そんな感覚だった。気づけば木曜日。柚香は会社でいつも通り仕事に打ち込み、パソコンの画面を見つめながら、ぼんやりと考え込んでいた。「柚香」絵理が声をかける。柚香ははっとして顔を上げた。「ん?」どこか上の空な様子を見て、絵理が尋ねる。「どうしたの?体調悪い?」「ううん、大丈夫です。この部分、どう進めるか考えていて」柚香は画面を指でなぞりながら言う。「思っていたより難しくて……」「それは一旦いいから。12階の会議室にお客さんが来てるの。藤原社長が会ってきてって」絵理は淡々と伝えた。「え?」柚香は少し戸惑う。「藤原社長が私にですか??」絵理はうなずいた。「そう」疑問は残ったままだったけれど、柚香はとりあえず向かうことにした。ここ数日、遥真はずっと久瀬グループのほうにいて、会社には来ていない。彼や恭介が呼ぶとは考えにくい。真帆や怜人なら、いつも事前に連絡があるはず。いろいろ考えながらエレベーターで12階へ上がり、そのまま会議室へ向かった。「来たね」エレベーター前で待っていた伸行が、彼女を見るなり中へ案内する。「お二人がずっと待ってるよ」柚香はぴたりと足を止めた。「お二人は……?」「そう。久瀬社長のご両親だよ」その瞬間、柚香はくるりと向きを変え、エレベーターの下りボタンを押した。会いに行く気なんて、まったくない。――バカじゃない。あの二人が自分を気に入っていないのは分かりきっている。今回だって、おそらく「どうしてまだ離婚しないのか」って詰めに来たに違いない。

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第241話

    「じゃあさ、一番腕のいい弁護士、紹介しようか?」怜人が思いつく限りで一番現実的な方法は、やっぱり裁判での離婚だった。「無理だよ」真帆はスマホを操作して、何枚もの写真を呼び出した。「遥真が柚香に離婚を切り出したときからずっと、探偵に張り込みさせてたの。でもここまでずっと、二人が怪しい関係だって証拠は一度も撮れてない」「慎重なんだよ、あの人」柚香がぽつりと言う。遥真は昔から、何でも自分のコントロール下に置くタイプだ。離婚だって例外じゃない。決めるのはあくまで彼。彼が認めない形で終わることは、絶対にない。「一つだけ、使えるかもしれない方法がある」真帆はしばらく迷ってから口を開いた。「ただ……かなり面倒なことになると思う」「大丈夫。離婚できるなら、どんな面倒でも平気」今の柚香には、それしかなかった。どうしても離婚しなきゃいけない。もしこの先、遥真が気を変えたら、そのときに備えも必要になる。そうじゃなきゃ、この先ずっと、彼と玲奈の世界の中で生きることになる。そんなの、耐えられない。「遥真の親と、会社の役員たちを使ってプレッシャーかけるの」真帆はためらいなく言った。「あいつ、恋愛ばっかりで仕事に身が入ってないって話にするの」遥真の両親も、会社の役員たちも、結局は利益優先だ。もし柚香にかまけて仕事がおろそかになってる、なんて話になれば、あちこちから圧力がかかるはず。「でも、あの人が会社を継いでからはずっと順調だし……そこを突くのは難しいと思う」柚香はやり方には納得していないけど、その点に関しては遥真がきちんとやってきたことも分かっていた。「本当に欠点を見つける必要はないよ」真帆はこういう世界のことに詳しい。「親との対立さえ作れれば、それでいいの」柚香は一瞬、言葉を失った。遥真は親のことが好きじゃない。これまでも、できるだけ距離を置いてきた。そこを突けば、きっと自分を恨む。もしかしたら、「離婚したいならしてやる。でも、あとでやっていけなくなっても、泣きついてくるなよ」と言われるかもしれない。「……わかった」柚香はうなずいた。こんなやり方がまともじゃないのは分かってる。それでも、もし彼が最後までごねるなら、こうするしかない。その会話は、隣のバルコニーにいた遥真の耳に、はっきり届いていた。「わかった」と言っ

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第240話

    遥真と玲奈のことが、頭からどうしても離れない。「俺は最初から、離婚するつもりなんてないって分かってるだろ」遥真ははっきりと言い切った。その真っ黒な瞳が、まっすぐ柚香に向けられる。「今までのことも、ただ君に付き合ってただけだ」「ふざける気分じゃないの」柚香は真剣な顔で言った。遥真は問い返す。「俺がふざけてるように見えるのか?」その瞬間。柚香の胸に、不安が広がった。もし遥真が本気で離婚しないつもりなら、自分に何ができる?裁判で離婚?浮気の証拠なんて簡単に集められないし、現実的じゃない。それ以外でも、彼に対抗できる気がしない。「わざわざ私を呼んだってことは、まだ話し合う余地はあるんでしょ」彼女はそこに望みをかけるしかなかった。「条件を言って。どうすれば離婚してくれるの」「離婚するつもりはない」遥真ははっきり言った。柚香の怒りが一気にこみ上げる。「いい加減にして」遥真は視線を外さず、ずっと彼女を見ていた。「分かってる。君みたいな女は、もう二度と現れないって。ここで手放したら、君は一生振り返らないってことも」「だから何?」柚香は思わず笑ってしまう。「玲奈と水月亭 で一緒に過ごしてたときは、そんなこと考えもしなかったくせに。財産を移したときは?私が戻るかどうかなんて気にもしなかったでしょ。私の価値を否定したときは、一生嫌われるかもしれないって思わなかったの?」「説明はできる」遥真は落ち着いたまま言った。「聞く気があるなら」柚香は頑なに首を振る。「今さら聞く必要ない。どんなにうまく取り繕ったって、意味ないでしょ」遥真は、感情をあらわにしている彼女を見て、理解した。ここで離婚を認めなければ、彼女はきっと、自分の想像を超える行動に出る。だが、離婚だけは、あり得ない。「来週の金曜、午後三時」遥真がぽつりと言った。柚香は一瞬、意味が分からなかった。「……何?」「役所に行く」遥真は繰り返した。「え?」柚香は疑うような目で彼を見る。こんなにあっさり言い出すなんて、思ってもいなかった。「ただし条件がある」信じさせるためか、遥真はわざとらしいほど丁寧に言葉を選んだ。「離婚後も陽翔がこっちに遊びに来るのを止めるな。長期休みは俺が連れて出かける。それにも口出ししないこと」「いいよ」柚香はあっさり答えた。「本人が嫌がら

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第239話

    遥真は凛音にさっと目を向け、「ちょっと電話」とだけ言って窓際へ歩き、スライドして通話を取った。声はいつも通り落ち着いていて、心地いい。「どうした」「昨日の件、まだ答えもらってないよね」柚香は感情を抑え、穏やかに話しかけた。こんな大事なときに、言い争いなんてしたくなかった。遥真「離婚のこと?」柚香「うん」「木曜は無理だ」遥真は事実をそのまま言った。久瀬グループのトップとして、毎日決断を待つ案件が山ほどある。それに加えて原栄ゲームの社長も務めている。いくつもの立場を抱える彼は、自分で時間を作ろうとしない限り、いくらでも「時間がない」と言えてしまう。「じゃあ、いつなら空いてる?」柚香は彼の忙しさを理解していたし、わざとだとも思わなかった。「先に日程決めてくれたら、こっちも休み取るから」「月曜にオフィス来て」遥真は真面目な顔で言った。「恭介にこの期間のスケジュール送らせるから、一緒に見て決めよう」柚香はわずかに眉をひそめた。原栄ゲームで遥真と二人きりになるのは、正直あまり気が進まない。あそこの人たち、噂好きすぎるから。「嫌なら、恭介が全部調整してから送るけど」遥真はもう一つの案を出した。柚香は迷わず答えた。「明日、行く」恭介の調整を待っていたら、いつになるかわからない。自分で動いた方が、面倒も少なくて済む。「わかった」遥真はそれだけ言うと電話を切り、そのまま恭介に電話をかけて、しばらくのスケジュールを全部埋めるよう指示した。そしてあっという間に月曜日。朝はいつも通り会議。三十分ほどで終わった。「以上で解散」と声がかかると、皆それぞれ資料を持って席を立ち始める。柚香はわざと片付けの手を遅らせ、ちらりと遥真の方を見た。仕事の話を理由に引き止めてくれないか、少し期待していた。ここは会議室だし、さすがに噂も大げさにはならないはずだから。それでも、彼は最後まで何も言わなかった。まだ他の人も残っている。これ以上居残れば不自然すぎる。席に戻った瞬間、スマホにメッセージが届いた。【話あるんじゃなかったの?なんで帰ったの】柚香「……」――どうして帰ったか、本当にわからないわけ?「絵理お姉さん」柚香は胸のざわつきを押さえ込みながら、やっぱり彼のオフィスへ行くことにした。「ちょっと用事で席外してもいい

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第238話

    「それはあの人が稼いだお金でしょ。私に分ける理由なんてないよ」柚香は、遥真が言った言葉をそのまま返した。その意味は、凛音にもちゃんと分かっていた。ここを出ると、その足でまっすぐ遥真のもとへ向かった。彼女の姿を見て、遥真は少し意外そうにした。「調べたのか?」「調べてない」凛音はあっさり二文字で答えた。遥真「?」凛音は勝手知ったる様子でソファに腰を下ろし、どこか気だるげな空気をまとっていた。「昨日帰ってからネット見てたら、あなたと柚香の離婚のあれこれが出てきてさ。正直、気分悪くなって、調べる気なくした」遥真「……」凛音が続ける。「それで、柚香を一文無しで追い出すつもりなんだって?でも浮気したの、あなたじゃないの?」「浮気?」遥真は口を開く。その言葉こそ、柚香や周りの人間が自分に抱いている最大の誤解だと思っていた。「あなた、玲奈と付き合ってるでしょ?しかも水月亭に泊まらせたって話もあるし」凛音の情報源はネットと、あとは少しだけ柚香と時也から聞いたものだった。遥真は淡々とした口調で言う。「俺が認めたことあったか?」「いや、もう確定みたいなもんでしょ」「君たちが見てるのは、俺が見せたい部分だけだ」遥真はそれ以上は説明せず、「俺は浮気なんてしてない」と言い切った。玲奈と関係を持ったこともない。好きになったことすらない。凛音は軽く舌打ちした。「男ってさ……」遥真は彼女に視線を向ける。昨日の違和感と、今日わざわざ来てこんな話をしている理由が頭の中で繋がり、一つの可能性に行き着いた。「今朝、柚香に会いに行ったのか?」「行ってないよ」凛音はソファにだらりと身を預け、いかにも適当な様子で答える。「安江のこと、聞きに行ったんだろ?」いくら凛音が冷静でも、内心では少しだけため息が出た。頭の切れる人間と付き合うと、本当に隠し事ができない。「安江って、そんなに特別な存在なの?」遥真はゆっくりと問いかける。「特別ってほどじゃないよ。ただ柚香のとこでそれとなく、お母さんがハッカーとか知り合いにいないか聞いただけ」凛音は平然と嘘をつく。「安江の情報を封じた人、たぶん私の師匠なんだよね」本当の正体を表に出したほうが、むしろ師匠は安全だ。でなければ、遥真の頭脳ならすぐ辿り着かれてしまう。「子どもの頃にハッキングを教えて

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第237話

    「5年前、あなたと遥真の結婚式で会ってるよ」凛音はドアの外に立ち、目尻をすっと上げて笑った。その仕草がやけにきれいだった。「忘れた?」柚香は必死に思い出そうとする。……まったく覚えがない。「そのとき、私があなたにちょっかい出したら、遥真に睨まれたんだよ」凛音はさらにヒントを出した。「え?」結婚式、ちょっかい?凛音は面倒くさそうにスマホを取り出し、数年前の写真を表示して差し出した。「これ見て。思い出さない?」柚香は画面の写真をじっと見つめる。そこには、肩までのレイヤーの入ったショートヘアの女の子が写っていた。首にはヘッドホンをかけていて、笑顔は青春そのもの、どこかやんちゃな雰囲気もある。その瞬間、記憶のスイッチがぱちんと入った。柚香は信じられないという顔で彼女を見る。「あなた……凛音?」「今のほうがカッコよくなってるって思わない?」凛音は髪をかき上げる。その仕草ひとつひとつに、人を惹きつけるオーラがあった。「どっちも素敵だよ」柚香は体を横にずらして道をあけた。「入って」凛音と会った回数はそれほど多くない。結婚式のときと、そのあと数日くらい。その頃の彼女は、服装も髪型も今とはまるで違っていた。だから気づけなかったのだ。昔はクールな女の子、今は性別を感じさせないほど中性的で格好いい。部屋に入ると、凛音はぐるりと中を見回した。そして、自分の部屋よりもさらに狭いと分かると、思わず口にする。「遥真、あなたと陽翔をこんなとこに住ませてるの?」「自分で選んだの」柚香は答えた。凛音は少し首をかしげる。遥真と柚香の離婚の細かい事情までは知らない。ただ、あの玲奈とのスキャンダルが出て、そのあと離婚手続きに入った。それくらいの認識だった。「コーヒーかミルクかお茶しかないけど、どれにする?」柚香が聞く。凛音のことはあまり知らないが、遥真と仲がいいということくらいは分かっている。「気にしないで、水でいい」凛音はコップを受け取ると、そのまま自分で水を入れに行った。「今日来たの、ちょっと聞きたいことがあって」「うん、なに?」柚香も隣に座る。凛音は水の入ったコップを指でなぞりながら言った。「あなた、お母さんのことってどれくらい知ってる?」柚香「……?」「今回戻ってきて気づいたんだけど、あなたのお母さん、昔の知り合

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第59話

    面白い話を聞けただけならまだしも、気分よく終われたかもしれない。けれど、今日みたいにちょっと触れただけで爆発しそうな話だと、無傷で逃げ切るのは至難の業だ。「僕の考えでは、さっきのは単純に、久しぶりに会った昔の友達同士のハグってだけじゃない?そんなに気にしなくていいと思う」なんとか息ができるように、時也が口を開き空気を和らげようとした。恭介「……」――もう黙っててくれればいいです!時也は、遥真の瞳がどんどん冷たくなっているのに気づいていなかった。「それに、君は柚香と結婚して長いし、子どももいる。怜人の気持ちなんて、もうとっくに消えてるでしょ」「時也さん」恭介は巻き込まれな

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第62話

    「呼んでないなら、勝手に入ってこないでくれる?」ドアが開いた瞬間、怜人がそう言った。視線にはうっすらとした苛立ちがにじんでいる。幹部スタッフは内心かなり動揺していたが、表情だけは平然と保ち、花束を持って柚香の前へ歩み寄った。「橘川さん、こちらお渡しするお花です」柚香「?」柚香は差し出された赤いバラを見つめたまま、受け取ろうとはしない。「矢野さん、ご要望の品、用意できました」もう一人が婚約指輪の箱をそっと差し出す。怜人は眉を寄せながら受け取った。「……何これ」箱を開け、中身を見た瞬間、頭の中にはてなマークが並んだ。思わず、その指輪を持ってきたスタッフをじっと見る。相手

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第61話

    「本気で言ってる?」時也が小声で聞いた。遥真はそのまま隣の個室へ向かって歩きながら、冷え切った声を落としていく。「冗談に聞こえるか?」時也は思わず吹き出した。「了解、すぐ行く」怜人絡みのこととなれば、彼は誰より張り切る。――怜人、覚悟しとけよ。怜人は、なぜか急に首筋がゾワッとして、後頭部をさすった。だが特に気にせず、柚香との会話を続けた。「最近、仕事探してるって本当?」「なんで知ってるの?」柚香は意外そうに目を瞬く。「真帆から聞いた」怜人は隠すつもりもない。柚香もすぐ察しがついた。そういえば、真帆は自分たちの秘密ごと以外は、大抵怜人に話している。「ちょう

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第56話

    「飲めないなら無理しなくてもいいよ」時也が口元に笑みを浮かべる。「こういうのは、お互い納得してこそだから」弘志はグラスを握る手に思わず力が入り、テーブルを一目を見たあと、いろいろと計算した末にきっぱり答えた。「飲みます!」さっきあの連中は柚香のせいで機嫌を損ねてしまった。もう一度協力してもらおうと思えば、ここで出された酒なんかよりもっと厄介なものを飲まされるに決まっている。欲しいのはチャンス。なら、遥真からもらう方がいい。彼さえその気なら、この先一生、食うに困ることはない。そう腹を括った途端、一杯また一杯とあおり続けた。時也は空になったボトルが次々積み上がっていくのを眺め、

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status