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last update Dernière mise à jour: 2025-11-16 06:00:26

「もう我慢しなくていいんだな」

 蓮司が微笑むと、再び唇が重ねられた。今度はもっと強く、深く──。舌先が歯列を割り、口の中を探るように動く。こんなのは初めてだ。演じるのではなく、本当の熱量で求められているという実感が全身を貫く。

「ん……っ」

 喉の奥から漏れる声を塞ぐように蓮司のキスは続く。互いの唾液が混ざり合い、甘い吐息が狭い玄関に満ちていく。蓮司の大きな手が背中を優しく撫でる。その指が腰へ降りていくだけで背筋が粟立った。

「ここじゃだめ……」

 かろうじて呟いた声に応えるように蓮司が頷いた。「わかってる。ベッドに行こう」

 彼の眼差しが切実に訴えてくる。それはかつて部下として接していた時とは違う、男としての熱いまなざし。

「きゃっ」

 蓮司の腕に抱き上げられた。今まで演じてきた「仮初めの夫婦」では決して越えなかった一線。

 今日、私は、正真正銘、身も心も捧げ、蓮司の妻になる。

 寝室へ向かう廊下が異様に長く感じられた。抱き上げられたまま……お姫様だっこで蓮司が私を運んでくれる。

 ドアを開け、部屋に入る。丁寧にベッドに降ろされると、蓮司の唇が私の唇を覆う。ちゅ、ちゅ、とキスを交わしながら着衣に手がかかる。

 器用に帯を解かれる。そうだ、これは師匠に借りている大変高価なお着物!

 汚すわけにはいかないっ!!

「れ、蓮司……待って、蓮司……」

「嫌になったのか?」

「ち、違うんです。この着物、亜由美のお母さんに借りた大切な着物だから、ちゃんとしておかないと、と思いまして……」

 蓮司がふっと笑う。「真面目か」

「だ、だって、今からするのに……汚したりしたら大変……」

「汚すのか」

「もうっ!」

「はは。からかってごめん。俺、ひかりにはいじわるしたいんだよ。俺がいじわるしたら、怒って俺に絡んでくるだろ。それが好き」

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