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last update Last Updated: 2025-08-24 06:00:46
 定時で上がり、帰りにスーパーで新鮮な鶏ひき肉とニラ、小松菜や茶わん蒸しの材料を買った。今夜は鶏つくねの照り焼き、だし香る茶碗蒸し、小松菜のおひたしを作る。和食が結構気に入っていたから、蓮司は和食が好きなのかも。

 台所で手を動かしていると、スマホが震える。

〈今から帰る。20分で着く〉

 予定より早い。フライパンにタレを絡め、最後に卵黄を落として艶を出す。インターフォンが鳴った。20分ぴったりだ。

「ただいま」

「おかえりなさい。ちょうどいいところです」

 テーブルに並べると、彼は一瞬だけ目を見開いた。湯気、出汁の香り、つくねの照り。ご飯のいい香りが充満している。

「……すごいな。毎日、店が開ける」

「ふふ、ありがとうございます。大したことはありませんけど、二人専用の小さな店です」

 蓮司は早速スーツを脱ぎ、腰かける。よほど早く食べたいみたいね。

 美しい所作で合掌し、蓮司が茶碗蒸しを一口。ふっと肩の力が抜けるのが見える。

「うまい。今日は本当に、早く帰ってきてよかった」

「それは良かったです」

 会話はゆっくりと続き、食後に温かいほうじ茶を出したところで、彼が小さな鍵をテーブルに置いた。

「今までは予備のカギを使っていたが、正式に君の鍵が出来上がった。これを使ってくれ」

 差し出されたカードキーが部屋の灯りを受けて小さく光る。

「責任をもって預かりますね」

「ああ。……それと、土曜日の本家へ行く前に、明日はまず俺の母に挨拶へ行く。フォーマルな服は用意してあるから、定時で上がったらこの店に来てくれ」

 差し出された名刺を見て驚いた。銀座で有名なブティック…! 私のお給料ではとても買えないような服やアクセサリーが並ぶお店ッ。

「……銀座の、ここですか?」

 ちょっと本気なの…?

「ああ。明日は俺たちが夫婦だと本家に示す日だ。装いは準備の一部。費用は俺が出す。経費扱いで処理するから」

「経費って……私、そこまでしてもらうのは…」

「君の懐具合は承知しているつもりだ。こんなバカげた話に乗ってくれたのも、それが原因だろう。だからといって君の基準に洋服を合わせるわけにはいかない。なら、ここは素直に甘えて欲しい」

 言い返すことはできなかった。

「わかったね?」

「はい…」

 押し切られた――けれど、嫌な感じはしない。むしろ背筋が伸びる。私は名刺をそっと財布にしまった。

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