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38.嵐の子。

مؤلف: 朝比奈未涼
last update تاريخ النشر: 2026-01-15 11:04:23

「千夏ちゃん、あのね。私、千晴とは付き合ってないの。私が付き合っているのは悠里くんなの」

「…は?」

未だに怒りの熱が冷めていない様子の千夏ちゃんに、ゆっくりとまずは間違いを訂正する。

すると千夏ちゃんはその形の良い眉をさらにひそめた。

「お兄様とアナタは付き合っているでしょう?恋人同士でしょう?わたくしは知っているのよ?どうして嘘をつくの?」

「嘘じゃないよ。本当だよ」

「…はい?」

私の説明に千夏ちゃんが混乱した表情を浮かべる。

それから数秒黙ったあと、信じられない様子でまた喋り出した。

「ここ数日、わたくし、アナタと一緒にお兄様のことも見ていたの。お兄様がアナタに向ける視線には、確かな好意があったわ。お兄様はアナタが絶対に好きなのよ?アナタがいるからお兄様は文化祭にもきちんと参加しているの。中学時代は一度だってきちんと参加していなかったもの。そんな無利益なことをするくらいなら会社のことをした方がいい、とおっしゃって、仕事をしていたほどよ?わかる?お兄様はアナタが好きなの」

「…はぁ」

千夏ちゃんの熱弁に押され、覇気のない返事をする。

千夏ちゃんは大きすぎる勘違いをし続けてい
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  • 推しに告白(嘘)されまして。   99.心臓が痛い。

    な、何で水を飲んでいるだけなのに、こんなにも色気があるんだ。ドキドキしながらも、千晴に水を半分飲ませたところで、一度、コップを千晴から離す。水で光る形の良い唇に、私の心臓はまたドクンッと大きく跳ねた。あの唇に、私、キスされたんだよね…。…て、ダメだ!ダメだ!頭の中を一瞬支配した煩悩に、私は両目をギュッと閉じ、首を横に振る。私は悠里くんの彼女!彼氏の隣で何考えているんだ!私!千晴はただの後輩だ!ダァンッ!と勢いよく千晴のおぼんにコップを置き、深呼吸をする。それから「…全く、本当に手のかかる」と迷惑そうに吐き出すと、スプーンを再び手に取った。私はただ、手のかかる後輩に水を飲ましていただけだ。そこに何か特別な感情があるわけではない。自分にそう言い聞かせながら、やっとスプーンにすくわれていたカレーを口へと運ぶ。広がる味は馴染みのあるもので、普通に美味しい。バクバクとうるさく鳴っていた心臓も、カレーを咀嚼するごとに、少しずつ落ち着きを取り戻していった。するとそんな私に、今度は左隣から悠里くんが「柚子」と声をかけてきた。なので、私は一旦カレーを食べる手を止めて、「ん?」と悠里くんの方へ視線を向けた。「俺の班と柚子の班、ちょっとカレーの見た目違うよね?柚子のカレーも食べてみたいな。食べさせてくれる?」ふわりと笑い、伺うように悠里くんが私を見る。悠里くんの指摘に視線を落とすと、確かに私と悠里くんのカレーはほんの少しだけ見た目が違った。ルーの色は私の班の方が少し淡い茶色で、野菜もお肉も小さめなのだ。少しだけ違う見た目に、私も悠里くんと同じ興味を抱いた。「どうぞ、どうぞ。味の感想も聞かせてね」私は快く頷いて、悠里くんがカレーを食べやすいように、おぼんの左端へお皿を寄せた。そんな私に悠里くんは「ありがとう」と微笑むと、視線を伏せて、遠慮がちに口を小さく開けた。…え。突然の悠里くんの行動に私は思わず固まってしまう。伏せられた視線はどこか儚げで、それでいて色気があり、開けられた口から見える舌や歯は、普段まじまじと見るところではないので、どうしてもドギマギしてしまった。こ、この、悠里くんの行動は一体…。意味がわからずに何度もまばたきをしていると、恥ずかしそうに悠里くんは視線を上げた。「食べさせてくれないの…?」頬を赤く染め、こち

  • 推しに告白(嘘)されまして。   98.柚子争奪戦。

    すっかり暗くなり、星が瞬き出した頃。カレーを完成させた生徒たちは、調理室のすぐ隣にある食堂で、それを美味しそうに食べていた。ここの食堂には、何百人もの人が一斉に使えるだけの長机と椅子がずらりと並べられている。そこで私は1人で夕食を食べていた。私の周りにはまるで私を避けるように誰も座っていない。本当は雪乃と一緒に食べる予定だったが、同じくここで合宿をしていた他校のイケメンといい感じになったらしく、攻め時ということで、雪乃はそのイケメンと夕食を共にしていた。まあ、よくあることなので、あまり気にならないし、雪乃らしくて、逆に安心するが。一生懸命水の量を測り、カレールーを割り入れ、調理器具を洗った…一応私も調理に参加した目の前のカレーを、私はじっと見つめる。うちの班の手伝いをする、とこちらに来た千晴は、驚くことに本当によく動いていた。私が水を測っている時は、先のことを考え、鍋を用意し、すぐに入れられるようにしてくれていたし、カレールーを入れる時も、入れるタイミングを私に教えて、混ぜる作業は千晴がしてくれた。洗い物の時も積極的に手伝ってくれ、千晴のおかげでかなり手際よく作業を進められた。時々暇を持て余し、私の髪や手で遊んでみたり、変に私に甘えてきて困ったりもしたが、それでも千晴はよく働いてくれていた。意外だった千晴のことを考えながらも、おぼんにちょこんと置かれたスプーンに手を伸ばした、その時。私の右隣に自然な流れで、千晴が座ってきた。コトンッと机に置かれたおぼんの上には、もちろんカレーがある。千晴が食べるカレーは私と一緒に作ったカレーだ。千晴だ…と、右隣に気を取られていると、左隣からもコトンッとおぼんの置かれた音がした。一体、誰だろう、と千晴から今度は左隣へと視線を移す。するとそこには悠里くんが座っていた。私と目が合い、悠里くんが優しく微笑む。悠里くんだ…。え。悠里くんに一度ぎこちなく微笑み、今度は前を向く。そして私は両隣に感じる気配に、ぐるぐると思考を巡らせた。右隣に異性として好きだと思っている千晴がいる。左隣に推しとして好きだと思っている悠里くんがいる。え、修羅場じゃん。しかもこの二人相性最悪じゃん。悠里くん、私、千晴。突然、始まってしまった非常に気まずい夕食に、私は冷や汗を浮かべた。「先輩」そんな私に千晴が淡

  • 推しに告白(嘘)されまして。   97.小悪魔の囁き。

    もうすぐ休憩時間が終わるので、雪乃と研修室へ戻ると、私の席の隣で、悠里くんがスマホに視線を落としていた。ここ研修室の席は、長机を2人で使う仕様になっている。私の隣には悠里くん、後ろには雪乃、という形で、私たちは席についていた。「戻りました」小さく悠里くんにそう声をかけて、椅子にゆっくりと腰を下ろす。すると、悠里くんはスマホから顔を上げ、優しくその瞳を細めた。「おかえり、柚子。リフレッシュできた?」「うん。まぁ」微笑む悠里くんに、ぎこちなく返事をする。サラサラの黒髪には、天使の輪ができており、とても艶があり、綺麗だ。爽やかで整った顔立ちから現れる微笑みは、まるで絵本の中から出てきた王子様のようにかっこよくて、完璧で。眩しい存在に、私は平静を装いながらも息を呑んだ。やっぱり、私の推し、かっこいいなぁ…。『二人と付き合えば、二人とも救われて、みんな幸せじゃん?』ふとここで、小悪魔美少女の悪魔の囁きが頭をよぎる。二人と…付き合う…。そうすればみんな幸せ…。ダ、ダメだ、ダメだ!何考えているんだ!私!危うく、悪魔の囁きに頷きそうになった私は、慌てて首を横にぶんぶんと振り、ついでに心の中にいるリトル柚子を往復ビンタして、正気を取り戻させた。そんな私の顔を悠里くんが「大丈夫?」と心配そうに覗く。「だ、大丈夫。ちょっと疲れを取る動きをしてただけだから。これするとスッキリするの」なので、私は苦し紛れにそう言って、なんとか悠里くんに笑顔を作った。私の後ろからおそらく私の内情をなんとなく理解してそうな雪乃の「…くっ、ふふ…っ」という、堪えるような笑い声が聞こえてきたが、私はあえて関係ないフリをしたのだった。 ***** 本日の勉強時間が終わり、夕食準備の時間がやってきた。この勉強合宿での夜ご飯は、先生によって振り分けられた班で、生徒が調理室を借り、カレーを作る。私の班には、雪乃、悠里くん、それから学年が違うので、当然千晴もいなかった。そして料理が壊滅的に苦手な私は、班メンバーにきちんとそれを申告し、私でもできる簡単な作業をしていた。今、私が専念している作業は、カレーに必要な水を計量カップで測ることだ。他の班メンバーが野菜や肉を切る中で、私は計量カップに入っている水を睨み、メモリを睨み、また水を睨み、と交互に鋭い視線を向けてい

  • 推しに告白(嘘)されまして。   96.地獄の空気。

    どこまでも広がる、青い空。周りを取り囲む、木々。ここには都会のような喧騒はなく、聞こえてくるのは、小鳥のさえずりや、どこかにある川のせせらぎ、木の葉が揺れる音だ。自然溢れるここで、私は大きく息を吸って、吐いた。山は空気まで美味しいらしい。静かで何もない場所。だからこそ、勉強にも身が入る。私の後ろ、自然の中にポツンとある宿泊研修施設は、我が鷹野高校が春休みの勉強合宿をする場所として最適な場所だった。勉強合宿とは、春休み中に行う一泊二日の合宿のことだ。進学科の生徒は全員参加が決められており、スポーツ科、普通科の生徒は希望制で参加できるようになっていた。進学科の生徒である私は、もちろん今年もこの合宿に参加しており、雪乃も去年と引き続き、渋々参加していた。「…はぁぁぁ」美味しい空気を吸って、また大きく吐き出す。先ほどからため息が止まらない。自然の中で何度もため息を繰り返す私に、雪乃は「そんなにため息ばかり吐いてると幸せが逃げるわよ」と、おかしそうに言ってきた。その表情はかなりあっさりしており、心配のしの字もない。雪乃らしくて、逆に安心する。私からため息が止まらない理由。それは現在進行形でいろいろなことに悩まされているからだった。一つ目の悩みは悠里くんだ。私は悠里くんと同じ想いを抱いていない。だからこそ、別れを告げたのだが、結局私は悠里くんと別れられなかった。全てを話し終えた後も、私たちは変わらぬ関係を続けていた。いつものように一緒に昼食を食べ、放課後は一緒に帰る。私の隣には当然のように悠里くんがいてくれて、優しく微笑んでくれる。その笑顔が眩しくて尊くて好きが溢れるのだが、その好きは恋ではなく、憧れだ。そう理解するたびに、果たして私が今選んでいることは正解なのかと胸が苦しくなった。同じじゃないとわかっていながら、私と付き合い続けることが、悠里くんの心からの笑顔に繋がるのか、と。悠里くんはいつも私に笑いかけてくれる。優しく、穏やかに。時には悪戯っぽく。そんな様々な笑顔の中に、最近はどこか仄暗い気がするものもあった。その笑顔に気づくたびに、これで本当にいいのか、と自問自答を繰り返した。悠里くんが浮かべるあの笑顔は、私が願う悠里くんの心からの笑顔なのだろうか。やはり別れるべきでは。そう何度も何度も思った。だが、

  • 推しに告白(嘘)されまして。   95.それでもいい。

    バスケ部の部活終了後。私たちはいつものように並んで街を歩いていた。最近少しずつ長くなり始めた日差しに、街はまだオレンジに染められたままだ。そんな街には私たちと同じように帰路に着く人で溢れていた。付き合い始めた頃は一緒に帰ることさえも、頭になかった。少し経って一緒に帰るようになってからも、今のように頻繁には一緒に帰っていなかった。けれど、少しずつ私たちの距離は縮まり、付き合うということを根本から理解し、本当の意味で結ばれた後、私たちは気がつけば、ほぼ毎日一緒に帰っていた。私たちは確かに両思いだった。私が何も知らなかったせいで。沈み続ける胸の内に引っ張られるように、自然と視線が下へと落ちる。するとそんな私に悠里くんはふと、明るい声で言った。「柚子、ちょっと寄り道しない?」悠里くんのお誘いに、視線をあげ、悠里くんを見る。明るい夕日に照らされて輝く悠里くんは、何よりも眩しくて、恋ではなかったと自覚しても、尊い。私は考えるよりも先に「うん」と頷いていた。「じゃあ、行こっか」私の返事に悠里くんが嬉しそうにその瞳を細める。それから悠里くんは私の手を優しく取ると、リードするように歩き始めた。悠里くんの私よりも太く、しっかりとした指が、私の指に絡む。ただ握られたのではなく、優しく絡まれた指に、私の心臓はまた跳ねた。…ずるい。こんなの反則だ。頬に熱を感じながら私はただただ悠里くんと共に歩いた。*****悠里くんに連れられてやって来たのは、街から少し歩いたところにある川辺だった。夕方の川辺には、帰路についている様子のサラリーマンや、犬の散歩をしているおじいさん、遊んでいる子どもなど、さまざまな人がいる。それぞれが思い思いに過ごす川辺で、私たちは適当な場所に座った。そしてそんな私の膝には、悠里くんの長袖の練習着がかけられていた。ここに座る時に悠里くんが「これ、使って?」とスマートに鞄から出して、かけてくれたのだ。最初はあまりにも恐れ多すぎて「大丈夫です!」と何度も何度も断りを入れたのだが、悠里くんに押されて、結局私は練習着を借りていた。「部活の最初に着てたやつだから汗は大丈夫…だと思う」未だにおろおろしている私に、悠里くんが少しだけ眉を下げて笑う。その笑顔があまりにも眩しくて、私はつい反射的に瞳を細めた。んん、好き。思って

  • 推しに告白(嘘)されまして。   94.沈む心。

    その日の放課後。私は1人、風紀委員室で頭を抱えていた。もう風紀委員の仕事は終わっている。ここにいる必要はない。だが、私はここから動けずにいた。「…はぁ」本日何度目かわからないため息が私から漏れる。ふと窓に視線を向ければ、オレンジ色に染まった空が見え、時間の流れを感じた。別れを…本当の気持ちを…私は結局、悠里くんに言えなかった。朝、体操服を返した時も、昼、一緒に昼食を食べた時も、校内でたまたま会った時も。いつでも言える機会はあったというのに。言おうとするたびに喉の奥が熱くなって、言葉が出なかった。今この瞬間も、悠里くんは私と真剣に向き合い、まっすぐとした好意を抱き、私の彼氏でいてくれている。そんな悠里くんを黙ったまま、裏切り続ける私は、なんて最低なのだろう。ーーー言う、言う、絶対に言う。心の中で何度も何度も言い聞かせるようにそう呟き、荷物をまとめると、私はやっと風紀委員室から出た。*****いつもより早く委員会活動が終わったため、帰るまでまだまだ時間がある。普段なら図書室で本を読んだり、教室で勉強したりするところなのだが、今日の私は気がつけば体育館の扉の前に立っていた。まるで何かに引き寄せられたかのように。開け放たれた扉の向こうでは、もちろんバスケ部が部活をしている。部員たちの声やボールの弾む音、床を蹴る音を耳に、私は体育館内をただぼんやりと見つめていた。「て、鉄子だ…」そんな突然現れた私の存在に気がついたバスケ部の1人が、持っていたボールを落とし、驚愕の表情を浮かべる。そしてこの声を皮切りに、体育館内にざわめきが広がった。「彼氏を見に…?」「いや、偵察じゃね?」不思議そうに首を傾げる者もいれば、緊張の色を浮かべている者もいる。私を見つけた部員たちは、様々なリアクションをしていたが、その瞳には私への〝恐怖〟が確かにあった。正直、慣れたものなので、特になんとも思わないが。「柚子!」しかしその中で、悠里くんだけは違った。私を見つけて、こちらに微笑む悠里くんの瞳には、嬉しさと好意があった。他の人とは違う視線。私を鬼の風紀委員長ではなく、普通の女の子として見て、愛してくれている視線。あの視線に射抜かれるたびに胸が苦しくなる。私は悠里くんと同じではなかったのだ、と。悠里くんは周りの部員に軽く声をかけると

  • 推しに告白(嘘)されまして。   63.贈り物。

    side柚子12月26日。千晴の家での住み込みバイトを終えた、次の日のこと。私は今、ウィンターカップ会場の前にいた。昨日は朝から千晴のお父さんの最低な場面に遭遇し、最悪な気分で一日が始まったが、その後はとても穏やかで、千晴と楽しい一日を過ごした。そして、その穏やかな時間の中で、私たちは12月25日ということもあり、クリスマスパーティーもした。*****私と千晴、たった2人だけのクリスマスパーティーの会場は、広すぎる千晴の部屋だった。私たちは大きなソファに腰掛け、テーブルいっぱいに並べられた豪華な食事を楽しみながら、クリスマスのコメディ映画を一緒に観た。そして、食事も終盤、デ

  • 推しに告白(嘘)されまして。   62.眩しい光。side千晴。

    女に手を引かれて逃げた先は、すぐ目の前に交番のある公園だった。日がすっかり落ちた公園内には、当然誰もいない。交番の光と、街灯の灯り、それから月明かり。光源はたったそれだけだったが、ここはネオン街よりもずっと明るく見えた。「ここまで来れば大丈夫でしょ…」大きく肩で息をする女を俺は一瞥する。女は交番に視線を向け、「こんなところで大乱闘にはならないはず」と汗を拭いながら頷いていた。それから俺たちはその辺のベンチに腰を下ろした。「で、さっきの人たちの話は本当なの?」俺の隣にいる女がこちらに厳しい目を向ける。確かにあの男たちが言っていたことは本当なのだろう。覚えがありすぎて、一体

  • 推しに告白(嘘)されまして。   60.扉の向こう。

    煌びやかで上品な異世界の上流パーティーに紛れ込んだ次の日の朝。私は千晴の部屋の隣に用意された、とんでもなく広い部屋で、一晩を過ごし、身支度をしていた。いつの間にか用意されていた昨日も着たクラシックな落ち着きのあるメイド服に袖を通し、改めて鏡で身なりの最終確認をする。きちんとした白と黒のメイド服に身を包む私は、いつもより、上品でしっかりとした印象を与える。見た目だけならいいとこのお屋敷の由緒正しいメイドさんだ。「よし」小さくそう言って気合を入れると、私の雇い主である、千晴の部屋へと行く為に、ドアノブに手をかけた。「あれは優秀だ。好きにさせておけ」それと同時に聞き覚えのある、厳格

  • 推しに告白(嘘)されまして。   59.ご両親、登場。

    疲れた…。何度も何度も繰り返される挨拶地獄に、私は1人放心していた。この上品で煌びやかな世界は、私には非常に合わなさすぎる。無理やり上げていた口角が痛い。明日は確実に筋肉痛だ。「柚子、はい」今にも魂が抜け出してしまいそうな私に、千晴が水の入ったグラスを渡す。…一体、いつの間に。千晴は私から片時も離れず、私以上にたくさんのいかにも凄そうな方たちの対応をしていた。そんな千晴が一体いつ、水入りグラスを用意してくれたのだろうか。私の疑問の視線に気づいたのか、千晴は柔らかくその瞳を細めた。「そこのウェイターから貰ったんだよ」「…え」千晴に言われて、その視線の先を辿れば、確かに

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