-⑦銃弾- 講師陣による摸試の2日目、摸試が始まるまでは全く関係ない(?)学校の授業が進んでいた。摸試が始まるまでの授業に身が入らずこっそり試験の準備を行う生徒がちらほらといた。いてもたっても居られないとはこういうことを言うのだろうか。守も教科書に補習に使っている問題集を隠しながらその場を過ごしていた。そこそこの緊張感と共に試験の時間を迎え、前日に行った中間考査の科目の試験問題が生徒に配られた。今回は試験監督が来る前に全教室の生徒が窓を全開にしていた、暑い日が続くので換気しないと試験なんてできやしない。しかし、試験監督として古文講師の茂手木(もてぎ)がやってくるとすぐに閉めるように指示をした。橘が昨日の様に吠える。橘「暑すぎて試験どころじゃねぇよ、開けさせてくれよ。」 茂手木「駄目だ、今すぐに全部閉めなさい。涼しいのは私たちだけでいいんだ。」 そう言うと懐から携帯用の扇風機を取り出し涼を確保し始めた。結愛がお嬢様モードで問いかける。結愛「私(わたくし)たちもですの?」 茂手木「お嬢様、申し訳御座いません。お父様のご意向です。」 結愛は静かに座ると橘に手を合わせてぼそっと「悪い(わりい)」と言った。茂手木が咳ばらいをして試験開始を告げた。頭を抱えだす生徒が多数いた。明らかに問題集に載ってない上に補習で習っていない問題ばかりで悩みながら試験問題を解いていった。 試験が終わり通常通りだと下校となる時間になった。生徒たちはほっとしながら鞄を抱え教室を出ようとしていた、すると試験監督をしていた湯村が静止した。湯村「何をしているんだ、今から昨日の試験を返していくぞ、全員席に就け。」 全員が渋々席に着くと試験の解答や正しい答え、そして試験結果に順位が書かれた書かれたプリントが各生徒に配られた。昨日の今日でここまで結果が出てくるとは流石貝塚財閥といったところか。どうやら各試験が200点満点で構成されており点数によってA~Dまでで評価が付けられた、これはまだ序章で湯村からまさかの説明があった。湯村「実はこの試験なのだがアルファベットで表示されている評価によって次のクラス編成を行っていく事になっているんだ、生徒の実力に合わせてクラスが構成されていき、これからの授業内容も少しづつ変わってくるだろうから頑張ることだな。」 全部が初耳で全員困惑した。しかも今は夜遅く
-⑧常識とは- 銃弾による殺人事件が発生した当日も通常通り授業が行われ何もなかったかのような静寂に包まれていた。しかし、生徒は全員不信感を抱いている。圭「不自然じゃない??殺人事件まで起こりだしているのにPTAや教育委員会、下手したら報道陣まで動き出してもおかしくない状況で世間が全く動いてないなんてさ。」 守「携帯のニュースはどうなっているんだろう。」 皆おもむろに懐から携帯電話を取り出したが、全員のものに異変が起きていた。授業が始まる前までは普通に使えたのに全員の携帯が圏外の状態になっていた。その時1年4組の方向から伊津見の大声が響いた。伊津見「皆、大変だ!!出入口のドアが全く開かねえし、鍵が壊されて動かねえ!! 琢磨「嘘だろ!!」 橘「それどころじゃねぇよ、外見てみろって!!」 全員「なんだありゃ?!」 校庭全体が高い塀で囲まれていて学校ではなく刑務所の状態になってしまっている。生徒全員が絶望感を感じているとき校内放送が流れた、義弘だ。義弘「えー、皆さん、おはようございます。今日から皆さんのクラスは校内講師陣による摸試の結果で選考していきます。説明が遅れましたが、最下位のDクラスである4組は急遽たる学力の向上が必要とされる生徒の集まりですので早朝の補習に遅刻しますと先程の様に銃弾による制裁が加えられますので4組の生徒は学力を上げて他のクラスに這い上がって、逆に他のクラスは4組に落ちず今の状態を維持できるように勉強に励んで下さい。またより一層勉強に集中して頂くために皆さんの携帯電話は特殊な妨害電波にて一斉に圏外とさせて頂きました。また外部からの遮断を強めるべく校舎の出入口を完全に閉め切り、校庭全体を高い壁で囲わせて頂きました。先生方は特殊な鍵を渡していますので出入り自由となりますが、生徒の皆さんは出入りが出来なくなります。これからは大学に合格して卒業するまでこの校舎で寝泊まりして勉強に励んで頂きます。くれぐれもその覚悟の上でお願い申し上げます。」 琢磨「合格するまで一生この中かよ・・・、俺たちは受刑者じゃねぇんだぞ、この服装もそうだけどよ。」 守「結愛、お前はどうなんだ?鍵とか携帯電話はどうなってる??」 結愛「皆と一緒だ、携帯は圏外だし鍵も持ってねぇ、いよいよ親父の顔をまともに見えなくなってきたな・・・。」 橘「さすがにこのままだとま
-⑨隠密作戦- 守たちはまず必要となる情報を得るために隠密作戦を開始した、第一として先生達が使用する出入口を知らなければならない。その作戦を実行するのに3組の伊達光明(だて みつあき)が名乗り出た。光明「守、琢磨、久しぶりだな。今回の作戦俺に任せてくれ。」 守「久しぶり、でも良いのかよ、責任転嫁してるみたいで悪いよ。」 琢磨「一人に押し付けるのはな・・・。」 光明「大丈夫だって、俺を誰だと思ってんだよ・・・。」 守「確かに信用はしてるぜ。」 圭「ねぇ、伊達君ってもしかして・・・。」 琢磨「忍者の末裔か?って聞きたいんだろ、残念でした。光明はな小型の隠しカメラ作りとハッキングが得意なんだ。」(※ハッキングは犯罪です、駄目、ゼッタイ!!) 光明「ノートパソコンとカメラを隠し持っといて正解だったよ、役に立つ時がくるたぁな。」 守「とりあえずそれをどうするんだ?」 光明「各所各所に仕掛ける、それと校内の使用可能なカメラの映像がこのパソコンに映るようにする。」 結愛「あ・・・、確か・・・。」 光明「どうした??」 結愛「監視カメラは俺が先にいじって同じ映像がずっと映るように改造しちゃってよ・・・。」 光明「大丈夫だ、何とかしてみるよ。後何人か協力をお願いしたいんだが。」 琢磨「どうした。」 光明「俺の指先にあるこの超小型カメラを壁の境目とかに張り付けて欲しいんだ。」 守「分かった、俺たちに任せてくれ。」 光明「一応、パソコンからカメラを映像を見ながら指示を出す、念の為にこの無線機を身に着けて欲しい。」 守たちは光明からカメラと無線機を受け取ると1階にある出入口の各所に散らばった、小型すぎて分かりづらいので大切にケースに入っている。結愛「ただ嫌な予感がする、これを掛けてくれ。」 結愛はどうやって持ち込んだのか懐や自分のロッカーから赤外線スコープを取り出した。守、圭、琢磨、橘、海斗、そして結愛がそれを掛け真っ暗な深夜の1階へと向かった。 階段を降りて真っ暗な1階に到着し、全員赤外線スコープを掛けた。どうやら結愛の嫌な予感は当たったらしい、赤外線がそこら中をうごめいていた。守はノートの切れ端を丸めそれをわざと赤外線にぶつけた。「ガチャン」 出入口の手前辺りにぽっかりと落とし穴が開いた。守「セーフ・・・。」 守は一息つき落とし穴
-⑩理事長室- パスワード解析装置のおかげで理事長室への侵入は容易であった。勿論、深夜の侵入である。結愛は装置を懐に入れて部屋に入って行った。義弘の理事長室は他の学校と同じくお洒落なお部屋が広がっていた。結愛と海斗は持ち込んだ赤外線スコープを掛け調査を始めた。本棚からデスクなど怪しそうな物が立ち並ぶ。指紋を付ける訳には行かないので手袋を付けての創作となった。中央のテーブルの裏などを隈なく調べていった。 海斗がデスク裏で引き出しを少し動かすと怪しげな赤っぽいボタンを発見した。恐る恐るボタンを押す。赤外線センサーが解除された後に物音がした。「ガコッ・・・!」 すると中央のテーブルが少し引っ込み2つに割れ、下に続く階段がお目見えした。2人はゆっくりと降りていく。しかし数段降りた後海斗が床のトリモチに気付いた。海斗「結愛、逃げるぞ!!」 2つに割れていたテーブルが段々と閉まろうとしていた所をギリギリで脱出した。結愛「取り敢えず、赤外線センサーの解除スイッチを見つけただけでもマシだな、少しずつ調べていくしかないようだな。」 その時、外がバタバタと騒ぎ出した。黒服だ。一斉に校舎内に散らばり理事長室に侵入した人間を探そうとしていた。両手にはピストルを持ち、銃撃する準備は万端だ。理事長室にはその内2人が残っている。 2人は一旦退陣する事にした。黒服が窓の外を見た瞬間に椅子やテーブルの陰に隠れながら理事長室の出口を目指す。思ったより簡単に二人は脱出に成功した。海斗「あいつら、馬鹿だな。」 結愛「どんくせぇ。」 二人は教室に走って行った。 一方、光明は各フロアの出入口のカメラからの映像をやや早送り気味でチェックしていった。でないと何個も何個も出入口があるこの学校の映像を全て見えない、ただ一人では不可能なので守と圭を誘うことにした。長時間見続けなければならなくなるが一瞬も見逃せない。守「でも何で俺達なんだよ、光明。」 光明「すぐ隣にいたから。」 守「某有名アルピニストか・・・、まあいいか。」 光明「座布団没収。」 守「やめんか、ケツが痛くなるだろうが。」 光明の笑えない冗談のお陰で少し場が和んだので守と圭は光明に感謝したその場に結愛と海斗がやって来た。結愛「ちょっといいか?」 守「ん?」 海斗「実は理事長室に隠しスイッチを見つけたんだ、ただ
-⑪謝罪と協力- 以前結愛が改造した校舎各所に元から設置された監視カメラのハッキングに光明が成功したとの連絡が入ったので海斗と結愛は深夜光明の元へ向かった、兄妹も光明も同様の可能性を示唆していたのだ。念のため、結愛が光明に持ち掛けていた。-数時間前-結愛「光明、ちょっといいか?」 光明「ん?」 結愛「俺も兄貴も考えてたんだけどな。」 光明「うん。」 結愛「理事長室や出入口付近以外から親父が出入りしている可能性ってないのかなってよ。」 海斗「壁に隠し扉・・・的な。」 光明「それは俺も考えてた。」 その時、用を済ませ化粧室から出てきた琢磨が教室に入ってきた。琢磨「何の話だよ。」 光明「ん?光明か・・・、実はな・・・。」 光明が琢磨に先程までの会話の内容を伝えた。琢磨「確か監視カメラって結愛が改造してたよな。」 光明「実はそのカメラの解析と改造に成功したんだよ、ちょっと見てくれるか?」 光明はパソコンに映っている監視カメラの映像を見せた。光明「これは以前結愛が以前改造した監視カメラの映像だ。念のため、監視側には以前と同様に同じ映像がずっと流れる様にいじくってある、証拠を見せないとな・・・。」 琢磨「なぁ、俺も協力できねぇか?」 光明「いいけど、お前がいいなら。」 琢磨「前に結愛の事を疑っちまったから、なんつぅか・・・、謝りたいというか・・・。」 結愛「それは仕方ねぇよ、必ずしも起こりうる事だと俺も海斗も思ってたからな。俺たちは嬉しくねぇが『貝塚』だからな。」 琢磨「お前ら『坊ちゃま』と『お嬢様』だもんな。」 結愛「やめろよ、そう呼ばれる度に吐き気がするんだ。」 海斗「俺も。」 守「演技が上手いんだな。」 圭「それ褒めてんの?」 守「少なくとも俺はそのつもりさ。それにこれは使えるかもしれないだろ。」 結愛「『演技』か・・・。」 海斗「確か『あいつら』って・・・、だよな?」 全員「確かに・・・。」 そこにいた全員が共感していた、ただ今は作戦会議が優先だ。琢磨「一先ず俺がどれかの監視カメラの前に行くわ、そこでだが無線機を通して誰か何かを俺に指示してくれるか?」 光明「あいよ。」 琢磨は光明からスコープや無線機を受け取ると一番近くの監視カメラへと向かった、最寄りのカメラまではさほど時間がかかることなく到着した。海
-⑫偽装作戦- 光明は疑問に抱いていた事を海斗にぶつけた、必ずと言っていいほど作戦実行に必要だからだ。光明「なぁ、理事長室に潜入したときに罠だったけどボタンを見つけたって言ってたよな。」 海斗「確か・・・、義弘が使ってるデスクの裏のやつだよな。」 光明「うん、そのボタンの周辺にスペースって無かったか?機械でボタンを押してわざと侵入者が出たようにしたいんだ。」 海斗「どれぐらいのスペースが必要なんだ?」 光明「2cm四方あれば大丈夫だ。」 海斗「よし、おれに任せてくれ。」 光明「いや、それには及ばない。今回の為に開発したんだ。」 すると光明はとても小さなドローンを取り出した、内視鏡カメラが付いている。そのカメラの先端にはスマートスイッチが付いていた、これを理事長室のボタンに取り付けて誰かが押したかのようにするのだという。いつの間にか開発していたので海斗は驚いていた。2人は作戦実行の日にちを決め、結愛や守、琢磨、圭、橘にも協力を要請して全校生徒に伝えた。その時、作戦時に使用するイヤホンを全校生徒に配っていた。作戦実行の瞬間に生徒が廊下に出ていたら速攻で疑われ、作戦が台無しになってしまう。教室にとどまるように連絡を行った。 次の日の深夜、全員が教室にとどまった事を確認すると、作戦実行の連絡をした海斗の案内で光明がドローンを飛ばし理事長室を目指した。因みにドローンには潜水艦のようなステルス機能があるので誰からも見えないし監視カメラにも映っていない。それが故に理事長室には簡単に到着した、超小型のパスワード解析装置も仕掛けられているので入り口はすぐに開く。ドローンから送られる映像が光明のパソコンに表示され海斗がそれを見ながらデスクへと導く。勿論赤外線スコープ機能もあるのでセンサーもするすると抜けていった。問題のボタンがある引出しを動かして両面テープでスマートスイッチをくっつけた、急ぎながらも冷静にゆっくりとドローンを教室まで飛ばして回収を行った。海斗が全校生徒に改めて確認の連絡をする。海斗「あー、あー、皆さんイヤホンから俺の声は聞こえていますか?改めまして貝塚海斗です。ただいまスマートスイッチの装着とドローンの回収に成功しました。これからわざと罠を起動させて黒服が何処から出てきているのかを監視カメラを通して見ていきたいと思いますのでご協力お
-⑬不審な点、重要な戦力- 光明は海斗が指したカメラの映像を見た。1番3番4番6番カメラだけ黒服が映っていない。同様に壁が開いているのだがその4か所だけ黒服が出てこなかったのだ。光明「ここって確か・・・。」 海斗「そうだよな、元々、食堂だったり家から遠い入口だったりする場所だよな。余りにも不自然すぎる。この前のドローンって何台か予備はないか?」 光明「大丈夫だ、任せろ。」 他のクラスの生徒からイヤホンを通して連絡がやって来た。生徒「もう大丈夫?そろそろトイレに行きたいんだけど。」 海斗「すまない。だいぶ黒服も退いて来たからそろそろ問題ないと思うぞ、ありがとう。」 生徒「了解、その言葉を待ってた。」 海斗「あと、お礼と言っては何だがある程度の食料を2年1組の教室に用意してあるから皆で食べてくれ。」 各クラスの代表者「分かった。」 結愛は光明の技術を以前から賞賛していたし光明の事を信頼していた、ただ結愛の場合は信頼以上の感情を抱いている可能性が高いのだが。どうしても協力したくなる感情を抱き始めている様な気もしていた、光明にとっては心強い味方となっていたので助かっていた。結愛「み、光明・・・、あのさ・・・、何か協力できないか?」 光明「そうだな・・・、今度結愛の家を案内してもらえるか?勿論、カメラの映像を通してだが。」 結愛「うん、任せろ。」 結愛はどこか嬉しそうにしていた。 しばらくの間、物事を起こさないようにしていた。義弘や黒服に感づかれないために。しかし何もしていなかった訳ではない、密かに集まって作戦を立てていたのだ。理事長室の罠をわざと起動させてからどうしようか、と。 一先ずは黒服が出てこなかった各箇所の隠し扉が何処に繋がっているのかを探ろうということで満場一致した。しかしそのためには前回の様な騒ぎをまた起こさなければならない、その上でカメラを数台用意するか騒ぎを数回起こすか選択することになる。皆は迷わず前者を選んだ。度々騒ぎを起こすと流石に義弘に怪しまれる。2回も起こしてしまっているのだ、流石に次は起こしづらい。そこで守が別案を出した。守「なぁ、黒服が出てこなかった4か所の隠し扉をこっそり開ける事って出来ないかな。誰からもバレずにというのが前提だが。」 光明「最初に壁を解析して場所を探らないとだな。しかし視覚では分からな
-⑭音で見る- 伊津見が合流して一緒に調査を始める事になり数日の間、一先ず怪しい出入口を見つけようとドローンで様子を伺う事にしていた。そしてついに伊津見の能力を利用しようとこっそりと行動を始めていく。ゆっくりと静かに飛んでいくドローン、通り過ぎる黒服や他の生徒は全く持ってドローンに気付かない。そんなこんなで以前、黒服が出てこなかった出入口付近の壁まではいつもの事なので容易に辿り着いたが何故か今日は黒服がずっと直立不動での監視を行っていた。ただ、光明の小型ドローンは全然見えてはいない、小さい上に深夜なので余計なのだ。蚊程の大きさしかないので全然気にならない、なので黒服に動きが見えるまで観察することにした。 数分後、罠を発動させてないのに壁がパカっと開いた。中から汗まみれの義弘が出てきた。光明「おい、見ろよ。あれ義弘だぞ。」 結愛「ここって俺らの家から一番遠い出入口だよな。」 海斗「『敢えて』って可能性もあ・・・。」 伊津見「シッ!お二人ともお静かに、親父さん何か話してます。」 結愛「兄貴にもタメ口でいいぞ。」 海斗「それに海斗って呼んでくれ。」 伊津見「分かった、取り敢えず親父さんが何言ってるか聞いてみるわ。」 海斗「意外とあっさ・・・。」 伊津見「待って。」 何か意味ありげな表情だなと光明はスピーカーの音量を上げた。黒服「ご主人様、ご足労お疲れ様でございます。」 義弘「いつもの事ながらだが、家からここまでハイハイで動かないといけないのは大変だな。それに苦手なジャージまで着て、毎度毎度ため息が出る。それと君、ここでは理事長と呼べと何度言ったら分かるのかね。」 黒服「はっ、理事長、大変失礼致しました。申し訳ございません。」 義弘「まぁいい、怪しまれないように敢えて一番遠い出入口にしたのは私自身だしな。さぁ、急いで閉めるんだ。」 黒服が別の壁を開けボタンを押すと、自動で隠し扉が閉まり壁と同化していった。隠し扉がロックされLEDが緑から赤へと変色した、そして義弘たちは理事長室へと向かった。結愛「どうやらここが家に繋がっているらしいな。」 海斗「でも完全に壁に同化して塞がっているぞ、ここは光明といっつんの出番だな。」 光明「任せろ。」 光明は伊津見にヘッドフォンを渡すとドローンを動かし始めた、先程黒服が扉を閉めた時に使ったスイッチ付
-140 部下から先輩へ- 異世界と言っても神によって日本に限りなく近づけられた世界で、同じ様な拉麺屋台なので学生時代にバイト経験があったせいか寄巻部長はお手伝いをそつなくこなしていた。寄巻「拉麺の大盛りと叉焼丼が各々3人前で、ありがとうございます。注文通します!!大3丼3、④番テーブル様です!!」シューゴ「ありがとうございます!!おあと、⑦番テーブルお願いします!!」寄巻「はい、了解です!!」 寄巻の登場により一気に回転率が上がったシューゴの1号車は、今までで1番の売り上げを誇っていた。嬉しい忙しさにシューゴも汗が止まらない、熱くなってきたせいか寄巻はTシャツに着替えている。 数時間後、今いるポイントでの販売を終えシューゴが片付けている横で手伝いのお礼としてもらった冷えたコーラを片手に寄巻が座り込んでいた。シューゴ「寄巻さんだっけ?あんた・・・、初めてでは無さそうだね。」寄巻「数十年も前も話ですが、あっちの世界で拉麵屋のバイトをしていた事があったのでそれでですよ。」 いつも以上に美味く感じる冷えたコーラを一気に煽ると、寄巻はこれからどうしようかと黄昏ながら一息ついた。渚は隣に座り寄巻自身が1番悩んでいる事を聞いた。渚「部長・・・、家とかどうします?」寄巻「吉村・・・、さん・・・。こっちの世界では違うからもう部長と呼ばなくていいんだよ?それに君の方がこの世界での先輩じゃないか、お勉強させて下さい。」 寄巻は久々に再会した部下に深々と頭を下げた、渚は焦った様子で宥めた。渚「よして下さいよ。取り敢えず不動産屋さんに行ってみましょう、即入居可能なアパートか何かがあるかも知れません。」シューゴ「おーい、寄巻さんにまた後で話があるから連れて来て貰えるか?」 シューゴの呼びかけに軽く頷いた渚は寄巻を連れて『瞬間移動』し、ネフェテルサ王国にある不動産屋に到着した。以前渚もお世話になったお店だ。 寄巻は『瞬間移動』に少々驚きながらも目の前のお店に入ろうとした渚を引き止めた。不動産屋で契約出来たとしてもお金が・・・。渚「そうでしょうね、でも安心して下さい。部ちょ・・・、寄巻さんも神様にあったんでしょ?」寄巻「それはどういう事だ?「論より証拠」って言うじゃないか、分かりやすい形で見せて欲しいんだが。」渚「では、場所を移しましょう。」 渚は再び『
-139 懐かしき再会- その眩しい光は渚にとって少し懐かしさを感じる物だった、ただ花火か何かかなと気にせずすぐに仕事に戻った。今いるポイントで開店してから2時間以上が経過したが客足の波は落ち着く事を知らない。 2台の屋台で2人が忙しくしている中、渚の目の前に『瞬間移動』で娘の光がやって来た。スキルの仕様に慣れたのか着地は完璧だ。光「お母さん、売れてんじゃん。忙しそうだね。」渚「何言ってんだい、そう思うなら少しは手伝ってちょうだい。」光「いいけど、あたしは高いよ。」渚「もう・・・、分かったから早く早く。」 注文が次々とやって来ている為、調理と皿洗いで忙しそうなのでせめて接客をと配膳とレジを中心とした仕事を手伝う事にした。2号車の2人の汗が半端じゃない位に流れている頃、少し離れた場所から女性の叫び声がしていた。先程眩しく光った方向だ。女性①「大変!!人が倒れているわ!!誰か、誰か!!」 大事だと思った屋台の3人も、そこで食事をしていたお客たちも一斉にそちらの方向へと向かった。一応、火は消してある。男性①「この辺りでは見かけない服装だな、外界のやつか?」女性②「頬や肩を叩いても気付かないわよ、死んでるんじゃないの?」男性②「(日本語)ん・・・、んん・・・。何処だここは、俺は今まで何していたっけ。」 どうやら男性が話しているのは日本語らしいのだが、まだ神による翻訳機能が発動していないらしい。男性①「(異世界語)こいつ・・・、何言ってんだ?やっぱり外界の奴らしいな。」男性②「(日本語)ここは・・・?この人たちは何を言っているんだ?」 しかし光の時と同様にその問題はすぐに解決され、光達が現場に到着した時には雰囲気は少し和やかな物になっていた。すぐに対応した神が翻訳機能を発動させ、男性は皆に今自分がいる場所などを聞いていた。ただ、男性の声に覚えがある光はまさかと思いながら群衆を掻き分け中心にいる男性を見て驚愕した。光「や・・・、やっぱり!!」男性②「その声は吉村か?!何故吉村がここにいるんだ?!」渚「あんた・・・、ウチの娘に偉そうじゃないか?」 光は男性に少し喧嘩腰になっている渚を宥める様に話した。光「母さん、この人は向こうの世界にいた私の上司の寄巻さんっていうの。」渚「え・・・、上司の・・・、方・・・、なのかい?」寄巻「そう、今
-138 事件後の屋台では- 事件が発覚してから1週間後、人事部長がバルファイ王国警察に逮捕され、お詫びとして受け取った温泉旅行から帰って来て笑顔を見せるヒドゥラの姿が渚の屋台の席にあった。渚「良かったですね、これで安心して働けるんじゃないですか?」ヒドゥラ「あれもこれも店主さんのお陰です。」渚「何を言っているんですか、私は何もしていませんよ。」ヒドゥラ「いえいえ、ここで拉麺を食べてなかったら社長に会う事は無かったんですから。」 その時、渚が屋台を設営している駐車場の前を1組の男女が歩いていた、貝塚夫妻だ。結愛「良い匂いだな、折角の昼休みだ。俺らも食っていくか?」光明「いいな、俺も腹が減っちったもん。」結愛「よいしょっと・・・、ヒドゥラさん、ここ良いですか?」 夫妻は前回と同じ席に着き、拉麺と叉焼丼を注文した。その時渚は既視感と違和感を半々で感じていた。渚「あれ?この前来たおばあちゃんと同じセリフな様な・・・。」結愛「き・・・、気のせいですよ、店主さん。やだなぁ・・・、嗚呼お腹空いた。」 結愛は光と渚が親子だという事を知らない、それと同様に渚は結愛と光が友人だという事を知らない。まぁ、この事に関してはまたいずれ・・・。 貝塚夫妻は以前とは逆に麺を硬めにとお願いした、前回は老夫婦に変身していたので仕方なく柔らかめにしていたが好みと言う意味では我慢出来なかったのだ。次こそは絶対硬めで食べると堅く決意していた、別に駄洒落ではない。 結愛達が注文した拉麺がテーブルに並び、3人共幸せそうに食べていた。やはり同様に転生した日本人が作ったが故に結愛と光明は何処か懐かしさを感じている。ヒドゥラ「おば・・・、理事長も拉麺とか召し上がるんですね。毎日高級料理ばかり食べているのかと思っていました。」結愛「何を仰っているのですか、私はドレスコードのある様な堅苦しい高級料理よりむしろ拉麺の方が好きでしてね。それと貴女、先程私の事・・・。」ヒドゥラ「て、店主さーん、白ご飯お代わりー。」渚「上手く胡麻化しちゃって、あいよ。」 数時間後、渚は屋台の片づけをして次の現場へと向かう事にした。実はシューゴに新たな地図を渡されていたのだが、2か所目のポイントを変更したというのだ。そこでは屋台を2台並べて販売する予定だと言っていた。 指定されたポイントはダンラルタ
-137 人事部長の悪事- 夫婦は重い頭を上げヒドゥラにソファを勧めた、先程の入り口前にいた女性にお茶を頼むとゆっくりと話し始めた。夫人「初めまして、普段は学園にいるからお会いするのは初めてですね。私は貝塚結愛、この貝塚財閥の代表取締役社長です。隣は主人で副社長の光明です。」光明「初めまして、これからよろしく。」ヒドゥラ「しゃ・・・、社長・・・。そうとはつい知らずペラペラと、申し訳ありません。」結愛「何を仰いますやら、貴重なお話を頂きありがとうございます。」 実は最近の異動で人事部長が変わってから、やたらと人件費が削減されているので怪しいと思っていたのだ。削減された人件費の割には利益が昨年に比べて悪すぎると思っていた折、ヒドゥラの話を聞いた結愛は人事部長が怪しいと踏み、部の社員数人にスパイを頼み込んで調べていた。光明の作った超小型監視カメラを数台仕掛けて証拠を押さえてある。 調べによると金に困った人事部長が独断でありとあらゆる部署から人員を削り、余分に出た利益を書類を書き換えた上で自らの口座へと横流ししていたのだ。結愛「今回発覚した事件により貴女を含め大多数の社員に迷惑を掛けてしまった事は決して許されない事実です。人事部長は私の権限で以前の者に戻し、迷惑を掛けた皆さんには賠償金を支払った上で私達夫婦からお詫びの温泉旅行をプレゼントさせて頂きます。」光明「そしてヒドゥラさん、貴重なお話を聞かせて下さった事により我々にご協力下さいました。我々からの感謝の気持ちもそうなのですが、業務に対する責任感を感じる態度へと敬意を表し今の部署での管理職の職位を与え、勿論貴女にもお詫びの温泉旅行をプレゼント致します。」 ヒドゥラは今までの苦労が報われたと涙を流すと、全身を震わせ崩れ落ちた。2人に感謝の気持ちを伝えると自らの部署に戻り暫くの間泣いていたという。 問題の人事部長についての調査なのだが、以前から魔学校の入学センター長を兼任しているアーク・ワイズマンのリンガルス警部に結愛が直々にお願いしていた。そしてこういう事もあろうかと様々な魔術をリンガルスから学んでもいたのだ、屋台で使用した『変身』もその1つである。そのお陰でネクロマンサーとなり、多くの魔術が使える様になった結愛は魔法使い特有の念話も使える様になっていた(光は『作成』スキルで作ったが)。結愛(念話
-136 優しく頼もしき老夫婦- 先程まで抱えていた悩みなどどうでも良くなってしまったと周りに思わせてしまう位の笑顔で拉麺と銀シャリを楽しむラミア、その表情に安堵したのか渚は屋台の業務に戻る事にした。でもその表情には何処かまだ疲労感がある、そこで冷蔵庫からとあるものを取り出してヒドゥラに渡した。ヒドゥラ「あの・・・、頼んでいませんけど。」渚「いいんですよ、疲れている時は甘い物です。貴女この後も頑張らなきゃなんでしょ。」 ヒドゥラは手渡されたプリンを食後の楽しみにすると、より一層笑みがこぼれた。ヒドゥラ「ありがとうございます。」 その数分前、渚が屋台を構える駐車場の前を1組の男女が通りかかり、その内の女性が小声で男性に一言ぼそっと呟くと、2人は頷き合いその場を離れた。 それから数分後、ヒドゥラがプリンを楽しんでいる時に1組の老夫婦が屋台を訪れ席に座った。老夫人「よっこらしょ・・・、お姉さんここ良いかね?」ヒドゥラ「勿論どうぞ。」ご主人「ありがとうよ、昼間にやってる拉麺屋台なんて珍しいから食べてみたくてね。」ヒドゥラ「美味しいですよ、お2人も是非。」老夫人「嬉しいねぇ。店員さぁ~ん、拉麺2つね。歯が悪いから麺は柔らかめにしてもらえるかい?」渚「はい、少々お待ちを。」 渚が老夫婦の拉麵を作り始めると夫人がヒドゥラを見てお茶を啜り、声を掛けてきた。老夫人「そう言えばこの辺りでラミアを見かけるなんて珍しいね。」ヒドゥラ「あ、これ・・・。普段は魔法で足に変化させて人の姿で働いているんです。」ご主人「それにしてもお姉さんどこか疲れているね、何かあったのかい?」 老夫婦の柔らかで優しい笑顔により安心したのか、先程渚に語った会社における自らの現状をもう1度語った。老夫婦は親身になってヒドゥラの話を聞き、時に涙を流しつつまるでそのラミアが自分達の孫娘であるかの様に優しく手を握り頭を撫でた。 ヒドゥラは涙を流し老夫婦に感謝を告げると、手を振りながらその場を後にして会社へと戻って行った。 老夫人がご主人に向かって頷くと、残った拉麵を完食してすぐお勘定を払ってその場を去っていった。渚「ありがとうございました、またどうぞ!!」 老夫婦が去ってからは昼の2時半頃までお客が絶えず、ずっと皿洗いと調理を繰り返していた。正直こんなに大変とは思わなかったと感
-135 大企業の事実- 以前の職場で噂されているとは知らない2号車の渚はシューゴに手渡された地図で指定された販売ポイントの駐車場に到着した、シューゴとは逆回りでこの後渚にとって懐かしきダンラルタ王国の採掘場での販売をも予定している。渚「この辺りだね・・・、よし。」 本来はとある職場の職員が使う駐車場で、管理人とシューゴが特別に月極契約している端の⑮番の白線内にバックで止める。何があってもすぐに対応できる様に「必ず駐車はバックで」と言うのがシューゴとのお約束だった。 渚は運転席から降車し、少し辺りを見てみる事にした。渚「ここはどこの駐車場なのかね・・・。」 駐車場から数十メートル歩いた所に大きな建物が2つ並んでいた、1つは大企業の本社ビルで最低でも20階以上はありそうだ。また、隣接する建物は15階建てのものらしく横に大きく広がっている。2つの建物は数か所の渡り廊下で繋がっていて窓の向こうから行き来する人々がちらほらと見えている。渚「大きいね・・・、何ていう建物なんだい?」 入口らしき門が見えたのでその左側に書かれている文字をじっくりと読んでみた、見覚えのある文字がそこにある。渚「「貝塚学園高等魔学校 貝塚財閥バルファイ王国支社」ね・・・、貝塚財閥ってあの貝塚財閥かい?!確か向こうの世界で教育系統に力を入れているって聞いた事があるけどこっちの世界にお目見えするとはね、こんな所で屋台をするのかい?贅沢だねぇ・・・、ありがたやありがたや。」 渚はハンカチで汗を拭いながら軽バンへと戻り営業の準備を始めた、屋台キットを展開しスープの入った寸胴を火にかける。暫くしてスープの香りが漂い始めると先程の建物から昼休みを知らせるチャイムが聞こえて来た。すると女性が1人、疲れ切った様子で屋台へとやって来た。へとへとになりながら渚が差し出した椅子へと座る、お冷を手渡すと砂漠を彷徨っていたかの様に一気に喉を潤した。目にはクマがあり、酷い寝不足らしい。聞くと人件費の削減でかなりの人数を減らされ毎日酷い残業らしく、今日みたいに昼休みを過ごせない日もあるそうだ。せめて今日の昼休みくらいは美味しい物をとスープの匂いに誘われてやって来た。女性「えっと・・・、拉麺を1杯お願いします。麺は硬めで。」 疲れ切った表情で渚に伝えると懐から手帳を出し、午後からの仕事の確認をし始めた。渚
-134 懐かしの味- 常連さんの注文に応じ、新メニューである「特製・渚の辛辛焼きそば」を作り始めた1号車の担当・シューゴ。まずは豚キムチを作っていくのだがここで必ずお客さんに聴いて欲しい事があるそうだ。シューゴ「辛さはどれくらいがお好みですか?」 判断基準の為、ラミネートされた用紙を渚から手渡されていたのでそれをブロキントに見せる。辛さは5段階まで表示されており、それに応じて各々の辛さのキムチを使用する事になる。キムチはこの調理用に全て渚が特製で漬けていたのだが、シューゴには5種類とも試食する度胸が無かった。最高の5辛のキムチは色が尋常じゃない位に黒く、恐怖心をあおる様に唐辛子の匂いがやって来る。5辛以上の辛さを求められた場合は5辛の物に特製ペーストを加えて作る。 因みに最初のお客さんには1辛を勧める様にと伝えられており、1辛のキムチは多めに作られていた。シューゴ「最初は1辛をお勧めさせて頂いているのですが。」ブロキント「せやね・・・、丁度刺激が欲しかったんで敢えて3辛でお願いできまっか?」シューゴ「3辛で・・・、分かりました。お好みで辛さ調節できますのでね。」 3辛用のキムチを加え調理にかかる、後で炒めなおすので最初は軽く火を通す程度に。一度皿にあけ少し硬めに茹でていた麺をソースと辣油で炒め先程の豚キムチを加え一気に煽る。それを見た瞬間、ブロキントが何か思い出したかの様な表情をして聞いた。ブロキント「店主はん・・・、それまさか赤江 渚はんのレシピちゃいますのん?」シューゴ「はい、なので「渚の」が付いているんです。」ブロキント「渚はんって、ホンマにあの渚はんなんですか?」シューゴ「ど・・・、どうされたんです?」ブロキント「いやね、以前ここで事務と調理の仕事をしとった人がおったんですけどね、その人と同じ作り方やなぁと思っとったんです。」 そういうと幸せそうに、そしてどこか懐かしそうに微笑みながら調理を眺めていた。シューゴ「渚さん・・・、多分今日中にこの場に来るはずですよ。実は今日からウチの2号車としてデビューする事になったんで。」ブロキント「ほんまでっか?!ほな夕飯に渚はんの作った拉麺を食べてみます!!」シューゴ「ふふふ・・・、お楽しみに。さぁ、出来ましたよ。」 皿に炒めた麺を盛り付け辛子マヨネーズを振りかけて出来上がり、お客の
-133 お仕事開始- 夜明け前、弟・レンカルドの経営する飲食店の調理場を借り、毎日継ぎ足して使っている秘伝の醤油ダレをシューゴが仕込んでいた。 自らの舌で選び抜いた素材と独自に調合したスパイス、そして黄金比をやっとの思いで見つけ出し配合した調味料を沸騰させない様にゆっくりと火入れしていく。 幾度となく納得のいくまで味見を繰り返し、完成しかけたタレに煮込み前の叉焼を入れ肉の脂を混じらせつつ双方を仕上げていった。 シューゴ「これは味見・・・、味のチェック・・・。」 出来たばかりの叉焼を1口、十分納得のいく味付けと全体的にトロトロの食感が織りなす絶妙なハーモニーを口いっぱいに頬張って首を縦に振った。その味に堪らなくなってしまっていたのか数秒後には白飯に手を出していた、こうなると予想していたレンカルドが気を利かせて用意してくれていたのだ。シューゴ「うん・・・、これは仕事終わりにビールだな。」 数切れ程タッパーに残し楽しみに取っておき、屋台2台分の準備をし始めた。そう、これからは屋台が2台だから味付けの責任も2倍だ。 2台分の醬油ダレ、叉焼、そしてその他の具材を用意し終えた頃に裏の勝手口から渚が声を掛けた。渚「おはようございます、良い匂いですね。」シューゴ「おはようございます、宜しければ味の確認も兼ねて出来立てを如何ですか?」 そう言って1口サイズに切った叉焼を小皿に乗せて渡すと渚は目を輝かせながらパクついた、目を閉じてその味を堪能する。シューゴ「その表情だとお口に合ったみたいですね。」渚「これビールの肴としての叉焼単品や叉焼丼でも売れるんじゃないですか?折角辛子マヨネーズも持っていくのでそれをかけて。」シューゴ「そのアイデア・・・、採用しても良いですか?」 シューゴは調理場に渚を残しパソコンのある部屋に向かい、急ぎ電源をつけた。どうやらメニュー表や注文用のメモの改定と魔力計算機(レジ)のボタン設定を即座に行っている様だ、因みに値段は原価等を考慮して即席で決定した。渚「シューゴさん、いくら何でも早すぎないかい?私でも焦りますよ。」シューゴ「いや、折角のアイデアです。是非採用させて下さい、容器はまたいずれ作りますので今日は取り敢えず今ある分でお願いします。」渚「了解しました。」 新メニューが即席で誕生した所で屋台への積み込みだ、忘れ物
-132 出来立ての屋台と焼きそば- 秘伝の醬油ダレとスープ、そして叉焼を含む営業用の商売道具を説明の為に一通り外に止めてあった新しい屋台に積むと一緒に積んでいた丼を1つ取り出し拉麺の作り方説明し始めた。シューゴ「まず最初に注文を取ってメモに書き、丼の底にゆっくりとこの醬油ダレを入れて頂きます。次に箸で溶かしながらスープを入れていくのですが、それと同時並行で別の鍋にて麺を茹でていきます。各硬さに対応する茹で時間はメモしてありますのでこれを見ながらやって見て下さい。」 茹で上がった麺を取り出し上下に振って湯切りする、これがきっちり出来ていないと折角のスープの味がゆで汁で薄くなってしまう。シューゴ「予め切ってある叉焼などの具材を乗せて完成です、提供する時に必ずお箸を一緒にして下さい。」 経費の削減の為、今回の屋台では割り箸ではなく洗って使う塗り箸を用意してある。しかし希望する客がいれば割り箸を提供する。 お箸と割り箸を入れている引き出しの真下にドリンク用の冷蔵庫が設置されていた、中ではグラスも冷やせる様になっており、固定して運ぶ為に移動中割れる心配がない。 この屋台には魔力計算機(レジ)が標準装備されており、各ボタンに値段が登録されているので記憶する必要が無い。トッピングや白飯、またドリンクのオーダーにも対応出来る様にもなっている。 因みに注文用のメモには各商品の名前が記載されていて、「正」の字を書けばいいだけになっているので大助かりである。各席の厨房側にメモを挟めるようにピンが付いていて、すぐに調理にかかれるシステムだ。 渚がメモをじっくり読み込んでいると「特製・辛辛焼きそば」の文字が。渚「シューゴさん、これ・・・。」 渚がメモ用紙の「特製・辛辛焼きそば」の箇所を指差しながら聞くと、シューゴは懐から看板らしき板を取り出した。シューゴ「そうそう・・・、これは私からの開店祝いです。それとこれからは渚さんにお教え頂いたあの焼きそばを新メニューとして取り入れる事にしました。」 シューゴがプレゼントの看板を裏返すと、全体的に黒の背景に赤い文字で「新メニュー 特製・渚の辛辛焼きそば」と書かれていた。右下には唐辛子や辛子マヨネーズの絵が描かれている。渚「いつの間に・・・、それに私の名前入りで・・・、良いんですか?」シューゴ「勿論です、渚さんの拘りのお