Masuk-210 何故隠す必要があったのか- 結愛はまた不可解な疑問に頭を悩ませていた、実の姉妹(家族)なら堂々と「クランデル」と名乗れば良いのにどうして名刺を2枚用意してまで隠す必要があったのだろうか。まさかと思うがエルフ独特の事情でもあったのだろうか、そしてこの疑問に関してハイラに聞いても良いのだろうかという疑念を抱いていた。ハイラ「やはり気になりますよね、本心では私も苗字を隠した名刺を用意したくは無かったんですがちょっと私の家って複雑だったんですよね。」結愛「「複雑」・・・、ですか・・・。」 日本(元の世界)でもよく聞く話だった様な気もするので所長の話の続きを聞く事に関しては何の抵抗も無かった、しかしハイラ本人が話したがるかどうかが問題。結愛「ハイラさん、その話って私も聞いても良い物なのでしょうか?」 所長が話しやすくするように言葉を選ぶ社長、こういった技術に関してはもうお手の物といったところか。ハイラ「少し長いですが、もし結愛さんが宜しければお話ししましょう。」結愛「ハイラさん側に何の支障も無ければ・・・。」ハイラ「ではここでは何ですので場所を移しますか、先程の場所で宜しければ参りましょう、新しいお茶をお淹れ致しますので。」 そう言うとハイラは結愛を連れて好美達のいる所長室へと戻ってきた、長い間退屈していたせいか好美は少し目が虚ろになっていた。守「お・・・、おい・・・、好美・・・。結愛達が戻って来たぞ。」好美「え・・・、あらま・・・。結愛だ・・・、電話どうだった?」結愛「長い間待たせて悪かったんだけどまだなんだ、ちょっと所長さんの話を聞こうと思って戻って来たんだよ。実は俺達の知ってる人の親類だったらしくてさ。」 眠い目をこする好美の様子を見て機転を利かせた所長、本心ではまったく望んでいないがこうするしか無かったのかも知れない。ハイラ「宜しければ珈琲に致しましょうか、他にお飲みになる方いらっしゃいますか?」 すると結愛以外が真っ直ぐに挙手した、それを見て開いた口が塞がらなかった所長。ハイラ「あの・・・、結愛さんは宜しいんですか?」結愛「私、珈琲苦手なんでこの美味しいお紅茶で。」ハイラ「あらま、無理に褒めなくても良いんですけどありがとうございます。」 人数分の珈琲を用意したハイラはゆっくりとソファに腰を下ろして一息ついた。ハイ
-209 所長の本当の姿- 十数秒経過して結愛はやっとスマホの電話帳から本社にある社長室の電話番号を探し出した、普段は基本的に連絡用として『念話』を使用していたのでこれ位の苦労は想定の範囲内だったはずだが結愛にとってはこっちの世界に来てから何年もの間未経験だったので焦りの表情を隠せずにいた。というより番号を見つけた後の問題の事を考えていなかった様だが・・・。結愛「やっとだ・・・、やっと社長室の番号を見つける事が出来たぜ・・・。よし、俺だって固定電話の使い方は分かるぜ・・・、ってこれボタンは何処にあるってんだよ!!」 そう、強制収容所の数か所に設置されていた固定電話は全て昔ながらのダイヤル式だったのだ。結愛が元の世界に住んでた時にはほぼ全ての家電(いえでん)や公衆電話がボタン式になっていたのでダイヤル式の電話に動揺してしまうのは当然の事だったのだろうか。きっと水洗便所やウォシュレットに慣れた現代っ子の目の前に昔ながらの汲み取り式の便所が現れた時も同じ反応になるのだろうなと思ってしまった。結愛「えっと・・・、これって・・・、下の針の所に数字と同じ穴を合わせるんだったな。俺だって落ち着いてやれば出来るはずの女だ、よく考えてみろ、俺は大企業の貝塚財閥の社長だぞ、出来ない事等何もない。落ち着け・・・、ゆっくりやれば大丈夫だ・・・。」 するとなかなかダイヤルを回そうとしない結愛を見かねた所長がそっと手を貸そうとした、いつまでも電話の前で立っているだけで指を全く動かそうとしないので我慢の限界が来たのだろう。ハイラ「あの・・・、社長さん・・・、大丈夫ですか?」 飽くまで下手に出て結愛が話しやすい様に工夫していた所長、可能な限り結愛に協力しようとしている事がよく表されていた。結愛「すみません・・・、ガキ・・・、いやこ・・・、子供の頃はダイヤル式の電話を使っていたんですがね。」 ただこの発言はある意味仇となっていた、ビクター・ラルーから転生者全員に与えられた歳を取らないという便利な機能が故にこの世界の住民はすっかり有名人となっていた結愛に幼少時代自体があったのかどうかを疑ってしまっていた。ハイラ「あの・・・、それって何百年前の話なんですかね・・・。」結愛「所長さん、何を仰っているんですか。私は貴女と同じ20代の女子ですよ・・・。」 ただ結愛の見立ては間違ってい
-208 対策が弊害に- 父親の事が大好きで強制収容所の所長と同じくらいに泣き虫のマイコニドを守が必死に宥める中で友人の言葉に甘えた大企業の社長は貝塚警備の支社長に連絡を取る為に隣の給湯室へと向かった、そこでは丁度所長が紅茶を新しく淹れなおしていた最中であった。ハイラ「どうかされました?もうちょっとで美味しい紅茶が出来上がるんですけど。」結愛「所長さん、紅茶は楽しみなんですけど一先ず支社に連絡だけしようと思いまして。」ハイラ「連絡・・・、ですか・・・。出来ますかね・・・。」 ハイラの言葉の意味が分からなかった結愛は一先ず懐からスマホを取り出した、そして電話帳の画面を開こうとした時に所長の言葉の意味を知る事になった。結愛「うそ・・・、マジかよ・・・。」 そう、強制収容所のある孤島には携帯電話の電波が届いていなかったのだ。よく考えてみればこの孤島に来てすぐに会った係員のヂラークもインカムで話していたのはそのためだと思われた。結愛「畜生・・・、気は乗らねぇがやってみるか・・・。」 結愛は試しに夫・光明へと『念話』を飛ばしてみたがやはり反応が無い、実は先程以上に自分の魔力が著しく低下している事を感じていたので嫌な予感がしていたのだった。結愛「何も使えないのかよ・・・、これじゃあ誰とも連絡が取れないじゃんかよ。」 舌打ちを連発する結愛の横を淹れたばかりの紅茶が入ったポットを抱えた所長が偶然通りかかった、正直何回お茶を淹れに行けば気が済むんだと聞きたいが今はそれ所では無い。ハイラ「あら、社長さんに言ってませんでしたっけ。」結愛「所長さん・・・、何かあったんですか?」 本来の業務上のレイトと同様に結愛もこの強制収容所に常駐していないので知らない事があって当然だ、1人困惑していたネクロマンサーはどうして夫と連絡を取ることが出来ないのか不思議で仕方が無いので所長の言葉に耳を傾ける事にしたのだった。ハイラ「実は以前監視カメラの設置等を委託してた業者の方が忘れて行ったものだと思うんですけど、収容所内における情報の傍受や漏洩を防ぐ為の対策の1つとして携帯電話の電波を妨害する機器を設置したままになっているんです。ただ係員の間での連絡が取れないと困るからと周波数の違う電波を使用するインカムを用意して頂いたので折角だからそのままにしておこうという意見に纏まったんで
-207 社長として、そして友人として- 所長室にいた数人がレイトを泣かすまいと必死に宥めようとする中で大企業の社長には不審に思っていた事があった、確かに義弘の脱獄事件を受けたので貝塚警備の支社長を通して目の前のマイコニドを監視カメラの設置役としてこの強制収容所に派遣したのは自分自身だが常駐する様にとは頼んでいない。結愛は飽くまでビジネスとしての話なので「大人モード」で声を話しかける事にした、これは泣き虫(?)のレイトが話しやすくなるようにとの配慮も兼ねてだ。結愛「レイトさん、恐れ入りますが1つお伺いしても宜しいでしょうか?」レイト「私なんかに社長さんが聞く事なんてあるんですか?」 正直今の状況で聞く事が無かったら声をかけないと思うのだが今はそっとしておくのが1番だろう。結愛「あの・・・、確か貴女にお願いしたのは監視カメラの設置だけだと思うのですがそれはとっくに終わったはずなのにどうしていらっしゃるんですか?」レイト「えっと・・・、これは私が貝塚警備に就職してすぐの事なんですが支社長に監視カメラを設置してから数日後に必ず調整に行く様にと言われたんですよ。私はその時に聞いただけなんですが最近新しく出来た社則だそうです。」結愛「そうなんですか・・・、ちょっと支社長に確認しても宜しいですかね?」レイト「勿論です、その支社長本人に聞いたんですから。」結愛「別にレイトさんを疑っている訳ではないので大丈夫ですからね、安心して頂けたら助かります。ただ本社の社長としてしっかりと把握しておく義務があると思うんです。」 優しい眼差しでレイトと話す結愛の姿を見て同級生と自分の間に出来た差を誰よりも感じていた守、何となくだが「悪ガキモード(というより素の状態)」に戻したくて仕方が無かった。守「お前って意外と従業員思いだよな、義弘と違って。」結愛「「意外と」って何なんだ「意外と」って、それに比べる対象がおかしいだろうがよ。あのくそ親父と一緒にすんな!!」 突然素に戻った結愛を見て驚きを隠せなかったレイト、これはまずい雰囲気では無いのかと思ってしまったがどうやらマイコニドの心中には別の理由があった様で・・・。レイト「お・・・、お父さんの事を「くそ親父」なんて言っちゃ駄目ですぅ~!!」 最近貝塚警備(いや貝塚財閥)に入社したレイトは勿論義弘と結愛の過去を知る訳が無
-206 正体- さり気なく「通常モード(こっちで良いんだよな、多分)」に戻ったハイラによる意味不明な発言によりムクルや転生者達は一斉に首を傾げた、顔を見た事すら一度も無いのにもう会っているとはどういう事だろうか。ムクル「所長、どういうお方なのか存じ上げないのにもう既に私達とお会いした事があるとはどういう事でしょうか。」 また泣かす訳にはいかないのでじっくりと言葉を選びながら声をかける副所長、再び「泣き虫モード」に戻ってしまうとハッキリ言って厄介なのだ(と言うより買う事になるソフトキャンディーの個数をこれ以上増やしたくない)。ハイラ「えっとですね、お会いした事があると言うより先程からずっとこの部屋にいらっしゃっているんですけど。」ムクル「所長、恐れ入りますが我々以外にどなたもいらっしゃらないと思うのですが宜しければどちらにいらっしゃるか教えて頂けませんでしょうか?」 ムクルの依頼を聞いたハイラは全く人のいない方向を手差しした、所長の手の先には好美達も気になっていたキノコが生えていただけだった。好美「所長さん、私達の目がおかしいのかも知れませんが誰もいませんよ。」 好美は決して嘘をついているつもりは無かった、ただその横で頭を悩ませる人者が1人。結愛「好美、ちょっと待ってくれるか?うーん・・・、何となく身に覚えがあると思うんだよな・・・。」好美「えっ、どういう事?」 ただ好美の質問に答えたのは所長だった、ハイラは先程手差ししたキノコへと近づいて軸の上の方を軽く叩いた。ハイラ「そりゃあ身に覚えがあるはずですよ、だってこの方・・・。」 ハイラの合図に応じたかのようにすぐ隣に生えていた最も大きなキノコが一気に地中から抜け出してゆっくりと一回転すると軸に顔があったのが分かった、それを見て結愛はある事を一気に思い出した。結愛「思い出した、最近貝塚警備で雇ったマイコニド達を数人ほどこの収容所に送り込んだんだ。すっかり忘れてたぜ。」好美「マイコニドってキノコの・・・、でもこの世界にいたの?」結愛「実は俺も未だに信じ切れてないんだけどさ、どうやらバルファイ王国の小さな村に集団で住んでるらしいんだよ。それでこの前稼ぎ口が欲しいって泣きついて来たもんだから警備の職に就かせていたんだ、それからは支社長に任せていたから忘れていたよ。」 笑いながら頭を掻く結愛
-205 許される為に- 所長の真っ直ぐな言葉に口をまごつかせる副所長が少し顔が赤くなっていた気がした恋人達はどこからどう見てもムクルが片思いをしている様に見えていた、しかし本人がおどおどとしていた理由は別であった。勿論、「あれ」である。所長「ムクルさん・・・、私に・・・、嘘ついたんですか・・・?」 再び泣き出しそうになっていた所長、何処からどう見てもムクルがやらかした様にしか思えない。ただ折角素に戻っていたというのにこれではなかなか話が進まない、早く所長をあやして貰いたいのだが・・・。ムクル「ああ・・・、所長、申し訳ありません。今度所長が大好きなソフトキャンディー買って来てあげますから許して下さいよ・・・。」 別に悪い訳では無いのだがソフトキャンディーで上司を何とか宥めようとする副所長、本当にこんな調子で大丈夫なのだろうかと心配になってしまう。所長「うっ・・・、うっ・・・、何味?」 正直「そこかよ」と突っ込みたくなったが今は所長の機嫌を直す事が先決である。ムクル「えっと・・・、グレープ味でよろしいでしょうか。」 結構チョイスがベタな気がするが、本当に良いのか?所長「ねぇ・・・、ラムネ・・・、ラムネ味じゃ駄目なの?」ムクル「ラムネ味ね、今度近くの雑貨屋で買って来ますから許して下さいね。」 転生者達が見守る中ラムネ味のソフトキャンディーが手に入る事が確約された所長は一気に機嫌を直した、ただこの孤島に一番近い雑貨屋を含めて3国にある店という店で今ラムネ味のソフトキャンディーが入手困難となっているのだが大丈夫なのだろうか。所長「明日には買って来てね、約束だよ!!」 因みに入手困難なそのソフトキャンディーは最短でも入荷が1週間先となっている上に人気のラムネ味は発注しても生産量自体が少ないので必ず店に商品が来るとは限らない。ムクル「わ・・・、分かりました。分かりましたのでお客様方への対応をお願い出来ますでしょうか。」 おいおい、本当にそんな約束して大丈夫か?もし買えず仕舞いだったら明日また大泣きするかも知れないぞ。 まぁ、良いか。どうせ俺には何の関係もない事だから話を進める事にしようかね。所長「大変失礼致しました、私ここの所長をしておりますハイラと申します。」 再び御手洗から戻ってきたハイラはトイレの個室でやっと見つけ出した名刺を差し出
-㉚ 大好きが止まらなくて- 昼間から呑んでいたが故の酔いと堰が崩れたかの様に涙となって溢れた会えない間に積もっていた想いが故に、好美は一層顔を赤くして誰にも止める事が出来なくなっていた。それどころか守の袖を掴む手が先程よりも強く、そしてより小刻みに震えていた。好美「ねぇ、会えない間私が守の事を忘れていたとでも思っている訳?!」守「そんな事、一度も考えた事が無い、本当だ!!」 確かに嘘は言っていない、その上真帆と付き合っていた時も守の心の片隅にはいつも好美がいた。好美「私がどれだけ頑張ったと思ってんの?!「1人で」って言えば嘘になるよ、こっちの世界に来て不安だった私を支えてくれた人
-㉙ あの日の涙- 好美からの『念話』を受けた3人は、同時に携帯を開いた。時計が守の退勤時間の少し前を示していたが光はある事を考えていた。光「ねぇ、私達が守君を連れて来る事で本人の退勤時間はどうなるんだろう。」 そう、光は現状をケデールが「休憩時間の延長」と捉えて守の退勤時間を延長するか、それとも「接客(仕事)中」と捉えるかを考慮していた。 そんな中、光の思考を『察知』したのか肉屋の店主から『念話』が飛んで来た。ケデール(念話)「守、今日はそんなに忙しくないからこっちに帰って来たらすぐに上がっていいぞ。」 どうやら、ライカンスロープの考えは後者だった様だ。光(念話)「流石ケデー
-㉘ 決心の先には- 光は自らの提案を受け入れてくれた旦那に感謝してある男性へと『念話』ではなく電話で連絡をした、『念話』だと下手すれば連れて来たい本人にバレてしまうと言うリスクがあるからだ。光は出来るだけ能力に頼らない様にした上で、本人に分からない様に行動したかったらしい。光「あの・・・、あの子をある場所に連れて行きたいんだけど駄目ですか?」男性(電話)「自分は構いませんが、何処にですか?」光「ダンラルタ王国のバラライ牧場に。」男性(電話)「良いですけど、またどうして?」光「本人にとってこれからの将来の為に必要なんじゃないかと思って、旦那と話し合って決めた事なんです。」男性(
-㉔ 大切な酒と信頼- 好美が一人で呑み干してしまったワインは、3本全て隣のバルファイ王国にある酒の卸業者に無理を言って仕入れた物だった。 後に卸業者の代表者は友人にこう語っていたそうだ。代表者「ナル君は良い友人だし、いつも贔屓にしてくれているからあれだけお願いされると卸さざるを得なくなっちゃってね。」 そう、ナルリスはこのワインを求める為に時間を作っては毎日の様に隣国(と言っても車で3時間程度の所)へと頭を下げに行っていたのだ。 店主はまさかそのワインをあっさりと呑まれてしまうと思わなかったので頭を抱えながら携帯を手にし、ため息交じりで電話を掛けた。代表者(電話)「お電話、有難