Mag-log inエリーとの愛人契約に関して抵抗がある。 これは俺自身からすれば、夜の世界から足を洗うというメイとの約束を反故にするのではないかという部分からくるものだ。 ついでで悪いが、メイ自身もどうやら俺が誰かの愛人になるくらいなら自分がみたいな考えがある位には抵抗がある。 ならばと言うことで。「り、リナのパパ契約?」「そう。いわゆるパパ活……ってのとは少し違うだろうが、言い表すのならこれになるかと思う」 困惑半分、呆れ半分と言ったところか。 セックスの最中じゃなくても表情を動かしてくれるようになったことを喜ぶべきかはともかく、いつかの喫茶店でエリーに言えば、何言ってんだコイツみたいな反応が返って来た。「え、えっト……ワタシは、ワタシの愛人としてアナタを」「わかっている。その気持ちに嘘がないってのもしっかり伝わってる。けど、考えたんだ。条件が悪いって」「条件、ナラ。もちろん、欲しいものがあるのなら応える用意がある、ワヨ?」「俺をそれだけ求めてくれる、俺にそれだけの価値を感じてくれてるのは嬉しいよ、光栄だ。だからこそ、もう一度言うよ、俺にとっての条件じゃあない。エリーにとっての条件が悪いって」 いまいち掴み切れないのかエリーは怪訝な表情を浮かべた。「ワタシにとっての……?」「俺から見たエリーってのはやっぱちゃんとした大人ってのがある。自立した人なんても言うのか? ともあれ、エリーはちゃんと自分の脚で立っている人間だ。過去はどうあれ自分の血肉に変えて前へと進み、社会人として立派な立場を築いている」「そ、それこそ……過大評価、というものなのだけれド」 少し照れたのか視線が泳いだ。 いや、違う、それは照れではない。「わかってる。そんな立派な人間だと自分を評価していない位」「っ……」「だから俺を欲したんだ。自分の脚がぐらついた時、寄りかかる誰かとして俺を見初めた。少なくとも俺は、エリーの少しだけ見せてくれた素顔を見てそういう答えに辿り着いた」「……それ、ハ」 もちろん俺がそうだと感じたってだけの話だが、エリーの反応を見るに中らずと雖も遠からずと言った感じ。「肉欲と言えばアレかもしれないが、セックスだけで自分を立て直せるのなら十分どころかそれは凄い話だと俺は思う。けど、たかがセックスだけでエリーから保障される契約内容じゃあ貰いすぎだなって思っ
「リナちゃん、一つだけ言って良いか?」「は、はい」「キミの真っすぐさとでも言うか、興味があることに一直線って言うのは美徳と言えるけど。後先くらいは考えておこうな?」「す、すみま、セン……」 いつものように優菜を迎えに来てみれば思わぬ光景だったよねと。「まーまーせんせ。お酒は飲んでないし、ママももくにん? だったしさ」「わかってるよ。だからこれ以上は言わないさ」 助手席に座って言葉通りまぁまぁと諫めてくる優菜と、後部座席で恥じ入るように身を縮めるリナちゃんだが……。「サンシャインの人間が捕まえたから良かったもののって話なんだよ」「それは、そうかも、だけど……」「夜の世界に入るのは自由だ。だけど夜の世界に連れ込まれるのは、認めちゃダメなんだよ」「……夜の世界の人間だからこそ?」 そう言うことだ。 うちの店長としても複雑だっただろう、一度ホストとしておもてなしをしているだけにリナちゃんのあれこれなんて薄らと察していたはずだ。 察していたからこそ帰れではなく、茜ママの店を紹介してくれたんだろうけど、もしもタチの悪い人間に捕まっていたのならを想像すれば寒気しか感じない。「良くないことをしても謝れば終わりだ。でも、危ないことや取り返しのつかないことをしたのなら謝って済む話じゃなくなるんだ」 危なくて、取り返しのつかないことこそが夜の世界で隣人と言える存在だ。 だからこそ、先導する人間の胸三寸で華やかな体験も、お先真っ暗な人生も体験できてしまう。「で、ですガッ!」「エリーはそういう世界で生きていたじゃないかってか?」「う……そ、そうデス! なのにリナをここまで育ててくれましタ! 立派な、尊敬できるママでスッ!」「そんな尊敬できる母親を悲しませたいのか?」 そこまで言えばリナちゃんの表情はピシリと固まった。 俺が言うことでも言えることでもないが、少なくとも夜の危ない一面をよく知ってる人間としては言わなきゃならないだろう。「夜の世界……突っ込んで言えば惚れた腫れたが生々しく行われている世界に興味が沸く気持ちはわかるよ。何なら、そんな興味を大きくしてしまった俺にも、あるいはエリーにだって責任はあると思う、ごめんな?」「……い、エ……」「でもやっぱりリナちゃんにはまだ早い。少なくとも、自分のことを自分で責任を取れるくらいになってからじ
「す、すみまセン。えっと、その、勧めてもら、ッテ」 「え? あ、あーいや! ぜ、全然気にしなくてだいじょーぶだし! ママも良いって言ってくれたから!」 こんな時間にこんなところへ。 常識外れなことをしているって自覚はある。 あるけれど、ママと管理人さんがセックスしているところを見てから、どうにも。「と、とりあえずお酒――は、ダメっしょ。お、オレンジジュースとかで、いい?」 「お、おかまいなくっ」 「いちおー、ここお構いするお店だからそれはちょっと、だめかも?」 「う、うー……で、ではオレンジジュース、頂きマス」 落ち着かない、そわそわする。 ううん、ムズムズする、なんて言うのが日本語としては正しいのかもしれません。 ついフラフラ夜の街を歩いてしまって、そんなところをサンシャインの店長さんに声をかけられて。 ――いいお店、紹介するよ。 なんてどう考えても怪しい誘いに、乗ってしまった結果、ここにいる。「改めて。初めまして、優菜です。いつも配信楽しみに拝見しております。どうぞ本日はご歓談に預からせて頂ければ幸いです」 「へっ!? こ、こちら、こそっ!?」 急に、というか不意に。 隣の歳はそう変わらないだろう女の子が大人に見えた。いや、大人になった。「んでさっ! もしもお話できたなら聞きたいことあったし! りなちーはなんで日本の文化? にきょーみあんの!?」 「え、えぇ……?」 と思ったらまたお友達みたいになった。 わ、わけがわからないのですが……あぁ、でもこっちのほうが、なんだか楽だ。 もしかしたら、びっくりしちゃったリナの反応を見て、とか?「え、えと。文化に興味があるのはもちろん、なのですガ」 「うんうん」 「ママが、過ごしている日本って、どんなところだろう、とか、安全なのかな、とかを調べている、うちにって、いいます、カ」 「あー……なるほどねー。ママのこと大切で、大事なんだね」 あぁ、そうなのかもしれない。 何処となくサンシャインと同じような空気がある。 きっとリナのことを純粋に楽しませると言うか、リナの居心地を良くしようってくれているんだ。「はい。リナは、母子かてーと言うのでしたカ? ママしかいないかラ、でも遠くで過ごす時間も、多かったのデ」 「そっかぁ。今は一緒に住んでるの?」 「はい
「お疲れ様、優菜ちゃん。今日はあと他の子の常連さんだから大丈夫よ」「あ、ういっす!」「……大丈夫よ?」「うっ……はいっ! 承知しました!」 ついつい、じゃあねぇけど言葉遣いを間違えちった。 隣でお酌させてもらってたお客さんも笑ってら、こういうとこだぞ、アタシってば。「もう、ちょっとはちゃんとした話題が増えたって褒めようと思ってたのに」「まぁまぁ。こっちはそれ目的みたいなところあるしさ」 でもやっぱ、そんなアタシを気にってくれてる人もいて。 ママにとりなしてくれてるのが嬉しくて。「――さんのお顔に免じて、ですよ?」「はは、ママにそう言われたら大きな借りになっちゃうな。でもありがとう」「それはそれとして。まだダイチくんが迎えに来るまでは時間があるわね。優菜ちゃん、何か作ってあげるからこっちにおいで」「あ、はぁい! ありがとうございます! それでは失礼します! また、一緒にお話しさせてください」 テーブルのお客さんに頭を静かに下げてみれば、またねって言葉がむず痒い。 慣れないドレスを踏みつけないようにカウンターで簡単につまめるものを作ってくれているママのところに向かえば。「それで? 今日はちょっと上の空だけど?」「う˝……」 背中越しにお見通しですよとママに言われてしまった。「ママには、敵わないなぁ」「年季が違うのよ、年季が。優菜ちゃんがわかりやすいって言うのもあるけどね」 そんなにわかりやすいかな、アタシってば。 でもなぁ、先生にも色々バレちゃうし……わかりやすいのか、それともママやダイチさんが凄いのか。 どっちも、なんだろうな。こういうところでも、まだまだアタシはひよこちゃんなんだって思う。「ママは、誰かの愛人とかになったことあります?」「あるわよ、もちろん」「も、もちろんなんですか」 なんというか特に温度を感じない返事だった。 内心を見透かされないよう意図的にっていうか、ほんとに当たり前でしょみたいな。「じゃなきゃここまで来れなかったって言うのが私の場合は大きいけれどね」「立場を利用して、このお店とか、立場を作ったってことですか?」「そうね、そう言っても間違いじゃないわ」 間違いじゃない……ってことは、正解でもない、と。「まったく、あなたは本当に眩しいわね。他のコに面倒がられなかった? いじめられて
美香が言ったお仕事という言葉から思うに。「一番美香が納得できる言葉なんだろうなって思うんだよ」「納得? えっと、アタシやっぱまだまだバカだからわかんないんだけど」「逆に言えば、だけど。仕事って言葉じゃないと納得できないってことでもあると思うんだよな」「……あー」 優菜を茜ママの店へと送りながら、昨日美香と話したことを口にする。 エリーから愛人契約を持ち掛けられたって話に関しては、せんせはすごいなぁなんて言葉で終わったあたり、やっぱり優菜には夜の世界で生きる才能というかそういうモノがあるんだなと思ったりもしたが。「好きにはならないってコト、だよね?」「……」「えっ!? ちげーのっ!? それだとアタシもちょっち納得が!?」「や、そうじゃなくて。相変わらずというか何というか……俺からすれば優菜のが凄いってな」 まだまだ働き始めて時間が経ったわけじゃないが、これも茜ママの店で働き始めたおかげかね? 本質的な部分というか、根っこの部分を掴むのが上手いわ、正直驚いた。「む、むー?」「俺がびっくりしたってだけの話だよ気にしないでいい。ともあれ、多分そう言うことだと思う。美香の言葉を借りるなら、私が一番気持ちよくできるってのはきっと仕事以外の世界でって意味で、昼の世界で俺にとって一番気持ちよくできる場所を作るって意味もあるんだろうなって」 あるいは自負であり、素直に色々なことが言えるようになっても奥ゆかしい美香のアピールでもあるのだろう。 だから仕事以上の関係になりそうだと感じれば神経を尖らせる、敏感になる。 それでいて俺を止めようとか、やめてほしいなんては言わない美香だってのも今の俺を気持ちよくするためにって部分の一つとして、自分を納得させている。「むつか、しーねぇ」「そっか」 助手席で頭から煙を上げ始めた優菜に一つ笑っておく。「や、さ。お仕事でも色んな話聞くんだよね。それこそ、アタシが想像もできない世界の話だったり……」「逆にめちゃくちゃ、消費される側の女の子の気持ちを察せてしまうような話だったり?」「……ん」 煙を上げながらも俺の話から意識が逸れたように思えたから、軽く話を振ってみれば大当たりのようで。 ある種感受性が豊かな優菜だから、そっち方面でもやもやすることはあるだろうなと思っていたけども。「夜の街で、立ってた頃は
もう一度考える、と言うよりはだが。「向き合うか、向き合わないか、と言う話なんだろうな」 ファミレスを後にして車の中で思わず苦笑いをしてしまう。 どうにも、根本として俺がどうにかしてやるみたいな驕りがあったと自覚してしまった。「美香や優菜が、何を望んでいるのかも知らずに、よく言うよ、俺ってやつは」 表面的なことは、わかっているさ。 今の関係は歪だ、歪なままで居心地を良くしただけだ。 あるいは、俺に合わせてもらっているだけとも言えるだろう。「優菜はまだしも、美香は、な」 優菜に関してはまだ途上だという面がある。 本格的に夜の世界で生き始めたばかりで、自分なりの世界を作り始めたところ。 要するに考え方が変わる可能性があるわけだ、もちろん俺に対する好意って部分を含めて。 変わる可能性ってやつに寂しさみたいなもんを感じたりする分、未来でも俺を選んでくれるのなら応えたいとは思っているが。「……美香は、違うよな」 良くも悪くも、完成された大人だ。 俺って男を受け入れてくれているように、物事の捉え方が変わるなんて一面はあるにしても、いつまでも宙ぶらりんの関係を続けるのは、彼女を縛ることと同義なんだ。「だからこそ、美香の望みと向き合わなきゃならない」 今の俺ってやつが出来ることなんて知れている。 昼の世界を温かいと思うようになっても、昼で生きようとすることに二の足を踏む俺だ。 責任を取る、取れるなんて状態からはほぼ遠いし、言葉に説得力もない。「結局、振出しに戻る、だけど……俺の道にもう、優菜も美香もいるんだ。なら」 何ができるのか、何をやれるのか。 そんなことを、向き合って話さないとならない。 そう、メイが、先輩が言ったように。「う、うーん……」「なんか想像と違う反応が返って来たんだけど」 気合いを入れて美香にお話がありますと言ってみれば、そりゃあもう複雑かつ曖昧な表情で固まってしまった。 ……え? マジで想像と違うんだけど。 それとも聞き方が悪かったか? 美香は俺に何を望んでいる? なんて直球が過ぎた?「あ、いえ。お話自体は、理解できます」「なら良かった、んだけど」「もちろん、嬉しく思っているのは本当です。何と言いますか、望みを口にして、それが受け入れられたのなら、わかりやすく幸せになれるだろうと言う事も」「だった
「一つ、合言葉を決めましょうか」 「あいことば、ですか?」 本当にこの人は何歳なんだろう、同い年だと言われても全然納得できる。 張りのありそうな胸を腕で隠しながらそっぽを向いて、それでも何処か期待しているかのような濡れた瞳を前にして安心のために提案を一つ。「触られたくないと思ったり、これ以上は嫌だと感じたら助けてと言って下さい」 「……助けてって、言えばそこは触らないってことですか?」 「と、言うよりはそこで終わりですね」 内心で小さく笑ってしまう。 元々この性交渉を望んできたのは早瀬さんだ、続けるか終わるかの選択は俺が持っているべきだと言うのに。「わかり、
マッサージで得られる気持ちよさと、性的な快楽と言うものはコインの裏表のようなもの。「ふ、うぅん……管理人さん、上手、なんですね」 「実はマッサージのバイトをしてたことがありまして。ちょっとしたものでしょう?」 全てはどう認識しているかなのだ。 マッサージでマンコは濡れないが、愛撫だと頭が認識したのなら濡れていく。「そう、なんです、か?」 「ええ。知ってますか? 大学生はバイトするために大学へ行くんですよ」 「ん、んんぅ……ふふ。何、それ。初めて聞きました」 「熱心にバイトを頑張ったからか、結構お店でも人気だったんです。指名だって、多かったんですよ?」 視線も一つの接触
なんとも言えないアンバランスさ。 誘惑というには悪意とか邪気とでも言うのか、そんな邪な雰囲気が足りず。 天然というには何処となく狙っているとでも言うのか、俺の視線を胸元だなんだに向けようとさせる仕草が伺える。 だからではないが、俺としてもどうすればいいのかわからないままでなんとも気まずい感じ。 ただ、絶対的に間違いなく言える事があって。「――ご馳走様でした。めちゃくちゃ、美味かったです」「お、お粗末様でした。お口に合って、嬉しかったです」 早瀬さんが作った肉じゃがは、絶品モノだった。 おふくろの味を恋しく思うにはまだ早すぎるだろうが、この人の作るメシをおふくろの味にするだろ
漫画のような展開を喜びつつありがたがるべきなんだろうが、実際に起こってしまえばどうしたらいいのか分からなくなるというのが、偽らざる本音というもので。「あー……えっと、上がられ、ます?」「は、はいっ、その、おじゃま、します」 混乱したままの頭でありがとうございますと言えたのは良い。 が、鍋を受け取っても帰ろうとしない早瀬さんへ言えたのはそんな言葉だった。 部屋にあげてどうするんだって話なんだけど、いやでも帰ろうとされなかったし……どうしたらいいんだ。「あ、やっぱり、うちと同じ間取り、なんですね」「そのはず、ですけども……あ、あぁ、お茶淹れますね? 座ってて下さい」「い、いえい