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第2話

Author: チビッコ
悠真は1週間家に帰ってこなかった。

5日目。劇場のオーナーから電話があった。

「篠崎社長、お伺いしたいのですが。明日の悠真の公演、いつものサクラは手配しましょうか」

玲奈はスマートフォンを握りしめたまま、一瞬言葉を失った。

いつものサクラ。

この2年間、悠真の公演があるたびに、自分はお金を払って人を雇い、見に行かせていた。客席を満席にし、熱気を作り出していた。悠真は満席の客席を見るたびに、目を細めて嬉しそうに笑っていたそうだ。

彼の笑顔を見るためだけに、金を注ぎ込み、人を雇った。彼が喜ぶなら、自分も嬉しかったから。

「篠崎社長?」

オーナーが恐る恐る促す。

玲奈は口を開きかけた。ここ数日、悠真は電話にも出ず、メッセージにも返信しない。しかし彼がどこにいるのか、彼女にはわかっていた。

病院だ。結衣のそばにいる。

「必要ないわ」と彼女は言った。

電話を切り、ソファに座ってローテーブルの上に置かれた離婚協議書を見つめた。すでに彼女のサインは済んでいるが、まだ渡せずにいた。

スマートフォンが再び鳴った。秘書からのメッセージだ。

【篠崎社長、結城様のビザが下りました】

玲奈はそのメッセージを見つめたまま、長い間動けなかった。

海外にいるあのマジシャンのこと、悠真は何度も口にしていた。話すときはいつも羨ましそうで、一生手の届かない存在だと言っていた。彼女はあちこちにコネを頼り、多くの人に借りを作って、ようやくこの留学枠を勝ち取ったのだ。ずっと彼を驚かせたかった。

玲奈は立ち上がり、バッグを手に取って車で病院へ向かった。

病室のドアを開けると、悠真がベッドの横に立っていた。物音に気づいて振り返った彼は、玲奈の顔を見るなり冷ややかな目つきになった。

「よく顔を出せたな」

玲奈は言葉を失った。

「君の望み通り、結衣を追い出したじゃないか」

悠真は目を赤くして彼女を睨みつけた。

「今日あいつが戻ってきたのは、劇場の支配人にピンチヒッターを頼まれたからだ。元の相棒が事故に遭って、急遽代役が見つからなかったんだよ。それでも君はあいつを許さないのか」

玲奈は口を開きかけた。

「小道具に不具合があったのは、君が手を回したからだろう。水槽の鍵に細工したのも君だな」

彼は一歩前に出て、声を低く押し殺した。

「玲奈、これは意図的な殺人未遂だ。あと1分遅ければ彼女は死んでいたんだぞ」

玲奈はその場に立ち尽くした。頭から氷水を浴びせられたような感覚だった。

悠真は吐き捨てるように言った。

「君たち金持ちは、他人の命をゴミとでも思ってるのか」

玲奈は彼を見つめた。

パァン。

彼の頬に平手打ちが飛んだ。その乾いた音で、病室が静まり返った。

悠真は顔を横に向けたまま、呆然としていた。

「目を覚ましなさい」

玲奈の手のひらはジンジンと熱を持っていた。彼女は顔を上げ、震える声で言った。

「結衣がこんな個室にいられるのも、私があなたの顔を立ててやってるからよ。これ以上そんな口を利くなら、二人まとめて追い出すわよ」

悠真はゆっくりと顔を戻した。殴られて目が覚めたかのように目を真っ赤にしていたが、拳は強く握りしめられていた。

後ろでドンという音がした。

玲奈が振り返ると、結衣が床に膝をつき、青ざめた顔で大粒の涙をこぼしていた。

「玲奈さん、お願いですから悠真さんを責めないでください」

彼女は泣きながら言った。

「彼に悪気はないんです。ただ私のことを心配しすぎただけで……喧嘩しないでください。全部私のせいです。今すぐ出て行きますから」

悠真は躊躇うことなく駆け寄り、結衣を抱き起こした。

彼は玲奈を見て言った。

「あの時の二者択一、後悔している」

玲奈の心臓が縮み上がった。

「君みたいなワガママなお嬢様のご機嫌取りは、もうたくさんだ」と悠真は言った。

彼は結衣の手を引いて外へ向かった。そしてドアのところで立ち止まった。

彼は財布から札束を取り出し、振り返ってそれを宙に投げた。

札束が玲奈の顔に当たり、床一面に散らばった。

「これで貸し借りなしだ」

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