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第4話

作者: チビッコ
玲奈は劇場の裏口を開けた。来四半期の投資について劇場のオーナーから相談があったが、彼女は資金を引き揚げるつもりだった。直接会って伝える必要がある。

廊下の突き当たりから笑い声が聞こえた。悠真の声だ。

玲奈の足が止まったが、そのまま前へ進んだ。リハーサル室の前を通り過ぎると、ドアは半開きで、隙間から明かりが漏れていた。

ドアの隙間から、リハーサル室の中央に立つ悠真が見えた。彼が指を鳴らすと、手のひらから一輪のバラが咲き誇る。

彼はそのバラを結衣に渡し、結衣は顔を赤らめて笑いながら受け取った。彼がもう一度指を鳴らすと、結衣の手にあったバラが鳩に変わり、羽ばたいて飛んでいく。

「悠真さん、すごい!」

結衣が手を叩く。

悠真は笑いながら言った。

「もっとすごいのもある」

ポケットからコインを取り出し、指先で器用に転がしてから手のひらに握り込む。そして彼は結衣の手を取り、その手を裏返すと、顔を近づけて彼女の手の甲にキスをした。

玲奈は入り口に立ち尽くし、その手を見つめていた。

同じマジックだ。かつて自分の手を握り、薬指に指輪を滑り込ませた。彼は舞い散る雪の中で片膝をつき、「このマジックは未来の妻にしか見せない」と言ったのだ。

今、彼はそれを別の人に与えた。

玲奈が視線を戻した瞬間、突然ドアが開かれた。

悠真が入り口に立っていた。彼女を見ると、まだ消え切っていない笑顔が一瞬止まり、そして徐々に冷たくなっていった。

「何をしに来た」

玲奈は彼を見上げた。

悠真は光の中に立ち、自分は廊下の暗がりに立っている。彼は自分が贈ったシャツを着て、袖口には自分が贈ったカフスボタンをつけている。襟元は少し開いており、鎖骨が見えていた。

ふと、滑稽に思えた。「オーナーに用があるの」と玲奈は言った。

悠真は彼女を見つめ、口元をわずかに動かして一歩前に出た。

「俺に会いに来たんだろ」

玲奈は顔を上げて彼を見た。

「心は決まったか」と彼は言った。

玲奈は一瞬戸惑った。

「謝罪だよ」

悠真は彼女を見下ろした。

「決心がついたなら、結衣に謝ってくれ。あいつは優しいから、君が素直に言えば許してくれるはずだ」

廊下は静まり返り、遠くから結衣の鼻歌が聞こえてくる。

「何のために謝るの?」

玲奈は尋ねた。

悠真が眉をひそめ、口を開きかけた時、背後から足音が聞こえた。

「あれ?篠崎社長、いらっしゃってたんですね」

劇場のスタッフだ。コーヒーを2杯持った若い女性が、玲奈を見て目を輝かせた。

「また悠真先生に差し入れですか?」

女性は笑いながら玲奈の後ろを覗き込んだ。

「今日は何ですか?この前の鯛焼き、悠真先生すごく喜んで食べてましたよ。奥さんは本当に優しいねって、みんなで話してたんです……」

女性の声は次第に小さくなっていった。

玲奈の後ろには何もないことに気づいたからだ。保温バッグも、お弁当箱も、以前はいつも抱えるように持っていた荷物が、何一つない。

悠真も彼女の後ろを一瞥し、何もない彼女の両手を見て、表情をわずかに変えた。

その瞬間の彼の顔を見て、玲奈はふと昔のことを思い出した。

以前、自分が来る時はいつも荷物を抱えていた。彼の好きな鯛焼きを買いに、車を1時間半走らせた。喉の調子が悪い時に飲む飲み物は、家政婦に4時間煮込ませた。季節の変わり目には風邪を引きやすい彼のために、バッグには常に薬を忍ばせていた。

あの頃、玲奈が楽屋のドアを開けると、悠真はいつも目を輝かせていた。

しばらくの沈黙の後、悠真は一歩後ろに下がり、まるで何事もなかったかのように冷たい表情に戻った。

「わかった」

先ほどよりも冷ややかな声で言った。

「なら、入ってくるな」

オーナーはオフィスで待っていた。玲奈は遠回しな言い方はせず、来四半期の投資は打ち切ると直接伝えた。

オーナーは驚き、引き留めようとした。劇場はここ数年、篠崎社長の支援で何とかやってこられたのだと言う。しかし玲奈は首を横に振った。

オフィスのドアを開けて外に出ると、彼女は立ちすくんだ。

廊下の明かりがすべて消えていた。手を伸ばしても指先すら見えないほどの漆黒の闇。

玲奈はその場に立ち尽くし、心臓が激しく跳ね上がった。

スマートフォンを取り出し、ライトをつける。光は足元の狭い範囲しか照らさない。廊下は長く、突き当たりにある非常口の緑色の標識だけが、闇の中で微かに光っていた。

一歩一歩と前へ進む。

手が震えている。スマートフォンが震える。光の筋が揺れる。

心臓が早鐘のように打ち、息が詰まる。暗闇が潮のように四方八方から押し寄せ、彼女を包み込んでいる。

指先が震え、無意識にスマホを強く握りしめた。幼い頃から恵まれた環境で育った彼女は、一寸先も見えない暗闇がとにかく苦手だった。だが今、逃げ場はない。

足早に進み、半分ほど来たところで、突然歓声が聞こえた。

玲奈は足を止め、横を向いた。一歩ずつ、そちらへ近づいていく。

舞台袖の陰に立つと、スポットライトを浴びた悠真が見えた。彼が指を鳴らすと、舞台の上空から雪が舞い降りる。

結衣は雪の中に立っていた。白いワンピースを着て顔を仰向けにし、顔に落ちる雪を感じながら、少女のように無邪気に笑っている。

みんなが拍手をし、笑い、「ハッピーバースデー」と叫んでいた。

悠真が再び指を鳴らすと、結衣の手にケーキが現れた。結衣は目を閉じ、両手を合わせる。雪が彼女の全身に降り注ぐ。

玲奈は暗闇の中に立ち、その雪を見つめていた。

胸の奥に何かが詰まり、息苦しい。

彼女はドアを押し開けて外に出た。冷たい夜風が顔に吹きつけ、心の底に燻っていた僅かな感傷を完全に吹き飛ばした。

以前、彼がうっかり電気を消して自分を暗闇に残してしまった時、自分は暗いところが苦手だと彼に伝えたことがあった。

その時、彼は真剣な顔で、ちゃんと覚えておくと答えたのだ。

結局のところ、悠真の中では結衣が何よりも大切なのだ。自分との約束など、すっかり忘れてしまうほどに。

玲奈は夜空を見上げた。湧き上がった感情はほんの一瞬のことで、すぐに彼女自身によって完全に押さえ込まれた。

「玲奈!」

悠真が走ってきた。

「どうしたんだ?」

玲奈は何も言わなかった。

彼は何かを思い出したようだった。

「どうして電気が消えてるんだ?」

真っ暗な廊下を振り返り、再び彼女を見た。

「待ってろ、誰かにつけさせてくる」

彼が振り返ろうとした瞬間、誰かが彼を引いた。

結衣が暗闇から現れ、悠真の背後に立った。玲奈を一瞥し、そしてうつむいた。

彼女は小声で言った。

「悠真さん。さっきのマジック、まだ終わってない。みんな待ってる……」

悠真の動きが止まった。

結衣は顔を上げ、彼を見つめた。瞳は潤み、少し哀願するような色を帯びている。

「玲奈さんも残って見ていってくれませんか」

彼女は前に出て玲奈の前に立ち、手を伸ばした。玲奈が反射的にその手を振り払うと、結衣は突然悲鳴を上げた。

結衣は足を滑らせ、大きく仰け反るようにして舞台の端から転げ落ちていった。

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