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第2話

Auteur: 七月金
智也のスマートフォンが、リビングのテーブルの上で突然鳴り出した。

静まり返った部屋に、彼が特別に設定した専用着信音がひときわ響いた。

綾音は一瞬ためらったが、やはりテーブルへと足を運ぶことにした。

しかし、テーブルにたどり着く前に、蒸気をまとった人影が突然彼女にぶつかってきた。

鋭くとがったテーブルの角にすねを思いきりぶつけ、激しい痛みに目頭が熱くなった。

だが、すべての元凶である智也は、それにまったく気づいていなかった。

彼はスマートフォンをつかむと、さっさと浴室へと戻っていった。

綾音は痛みに耐えながら、足を引きずるようにしてソファへと向かった。

ようやく腰を下ろしたそのとき、浴室の中から聞こえてきたのは、緊張を隠せず、それでも無理に落ち着いた優しい口調で、誰かを宥めている声だった。

「怖がらないで、部屋の中に隠れてて。今すぐそっちに行くから」

綾音の胸の奥に、じわじわと苦しさが込み上げてきた。

六年間付き合ってきた彼は、彼女の前では常に冷静で理性的だった。

でも、たった一本の電話でこれほど慌てふためく姿を見たのは、初めてだった。

結局、彼は冷めた性格なんかじゃないわ。ただ、私には愛がなかっただけ。

智也は焦った様子で浴室から出てきた。

彼女の横を通り過ぎる時も足を止めることなく、ただ「会社で急用ができた。待たなくていいよ」と一言だけを言い残した。

でもそんな彼は気づかなかった。以前なら、彼が出かけるたびにコートを手渡し、「早く帰ってきてね」と声をかけていた綾音が、今日は何も言わず、ただうつむいたままだったことに。

綾音はソファに座ったまま、じっと時を過ごした。

やがて脚の痛みが和らいできた頃、ようやく立ち上がって寝室へ向かい、荷物の整理を始めた。

ずっと前に買ったのに、智也が一度も使わなかったペアマグ。

自作したが、まだ渡せていなかったペアリング。

二人の結婚式のために編んだ同心結。

丁寧に一筆一筆描いた二人の似顔絵。

それらすべてを、彼女は一切の迷いもなくゴミ袋に詰め込んだ。

まる二時間かけて、部屋は半分が空っぽになった。

綾音がほっと一息ついたその時、スマホが鳴り響いた。先輩の興奮した声が電話越しに飛び込んできた。

「綾音ちゃん!今海外出張中なんだけど、起きたら君からのメッセージを見て本当に嬉しかったわ!君が仲間になるなんて心強いよ。一週間後に帰国するから、その時一緒に海羽市へ行こう。でも……結婚準備してるって言ってなかったっけ?彼、君の出発に納得してくれるの?」

その言葉を聞いて、綾音は少しの間だけ沈黙した。

六年付き合ってきたのに、智也が「派手なことが嫌い」だという理由で、二人の関係を知っている人はほとんどいなかった。

三日前、先輩が海羽市に新設するスタジオへの参加を打診してきた時、綾音はようやく「結婚する予定」だと告げたばかりだった。

だが、そのわずか数日で、すべてが変わってしまった。

彼女は落ち着いた口調で言った。「大丈夫です。結婚式は中止になったのですから」

ちょうどその言葉を、帰宅した智也が寝室のドアを開けた瞬間に耳にしてしまった。

彼の目に、ほんの一瞬の動揺が走った。

「結婚式が中止って、どういう意味?」

背後から突然聞こえた声に、綾音はびくっと身体を震わせた。

気持ちを落ち着け、適当に理由をつけた。

「友達が急用で、式を延期したみたいよ」

智也も、それ以上深くは追及しなかった。

「この前、誕生日の時にカップルフォト撮りたいって言ってただろう?今日、カメラマンから電話が来て、明日行けるってさ」

綾音は、咄嗟に「行かない」と言いかけたが――

その前に、智也の目が部屋の中を見渡し、テーブルの上がやけにすっきりしていることに気づいた。

「綾音、片付けしてたの?なんか、いろいろなくなってる気がするんだけど……」

綾音は、あくまで自然な表情で頷いた。

「うん、どうせ使わないから。家にあっても場所取るだけだし」

なぜか、その言葉を聞いた智也の胸の中に、奇妙な違和感がじわじわと広がっていった。

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