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第4話

Author: 飛べないライスヌードル
深志は絶句した。彼の記憶にある芽依は、どんなに不条理な要求であっても決して拒まず、ひたすら献身的に尽くしてくる存在だったからだ。

彼女がこれほどはっきりと拒絶する姿など、見たことがなかった。

すると夏寧が、自嘲気味な笑みを浮かべてみせた。

「……でしゃばりすぎたわね。居候の身で、芽依さんの手料理を味わいたいなんて、図々しい望みだったわ」

そう言って、彼女は悲しげに席を立とうとする。

それを見た風初が、逆上して芽依をポカポカと叩き始めた。

「悪いお母さん!夏寧おばちゃんをイジメるな!お母さんのせいでおばちゃんが出ていっちゃうじゃないか!」

深志もまた、焦って夏寧の腕を掴み、芽依に向けて非難の声を浴びせる。

「まだ今朝のことを根に持っているのか?夏寧はバッテリーを借りに来ただけだと言っただろう。いつまでそうやって、つまらないことにこだわっているんだ」

芽依の表情は、ぴくりとも動かない。

「あいにくだけど、今は体が重くて、台所に立つ余裕なんてないの。気分が悪くて」

「お母さん、病気なの?」

風初は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに嫌悪感を露わにして口元を覆った。

「だったらどうして早く言わないんだよ!夏寧おばちゃんは体が弱いんだから、うつったらどうするのさ!」

風初は深志の袖をぐいぐいと引っ張る。

「ねえお父さん、早くおばちゃんに病気がうつらないようにお薬をもらってきて!」

それを聞いて、夏寧がわざとらしく困ったような笑顔を見せた。

「風初くん、ありがとう。でもそんなの申し訳ないわ。おばちゃんは平気よ」

「……いや。風初の言う通りだ」

深志は夏寧を愛おしそうに見つめ、優しく肩を抱いた。

「夏寧、君は無理をしないでいい。昔から君は、一度風邪を引くと二週間は寝込んでしまうんだから」

深志、夏寧、風初の三人は、「天気もいいから散歩がてらに」と、まるで本当の家族のように仲良く手をつないで近所のクリニックへと歩いて家を出て行った。

ダイニングに取り残されたのは、芽依と、すっかり冷めきってしなしなになったホットサンドだけだった。

一緒に暮らして何年も経つというのに。

自分の夫と、お腹を痛めて産んだはずの息子は、具合を悪くしている自分を心配するどころか、病気でも何でもない夏寧の「予防薬」をもらうためだけに、わざわざ出かけていったのだ。

残ったホットサンドをゴミ箱に捨てて、しばらく呆然と立ち尽くしていると、スマートフォンが短い通知音を鳴らした。深志からのメッセージだった。

【スーパーに寄ったんだが、買い物をしすぎて歩いて帰るのが面倒になった。お前、車で迎えに来い】

自分は体調が悪いと言ったはずなのに、ただの荷物持ち兼、運転手扱いの呼び出し。

芽依は深くため息をつくと、重い体を引きずって車のキーを手にした。

指定されたスーパーの入り口に着くと、そこには夏寧と風初の二人しかいなかった。深志はどこかへ行っているらしい。

「夏寧おばちゃん、僕、アイス食べたい!」

「いいわよ」と、夏寧は風初の小さな頬を愛らしそうにつまんだ。「風初くんが食べたいなら、おばちゃんが買ってあげるわね」

そのやり取りを見て、芽依はたまらず割って入った。

「風初、お医者さんに言われたことを忘れたの?あなたはお腹が弱いんだから、アイスはダメよ」

風初の嬉しそうだった顔が、一瞬にして不満げに歪む。

すると夏寧が、やれやれといったふうに笑った。

「芽依さん、子供が欲しがっているんだから、買ってあげればいいじゃないですか。そんなに目くじらを立てて神経質にならなくても」

その言葉に、芽依の顔つきがスッと冷たくなった。

「これは私たち家族の問題です。夏寧さんが口を挟むことではありません」

芽依がそう言い捨てた直後、深志が戻ってきた。

夏寧は待っていたとばかりにひどく傷ついたような、いかにも可哀想な被害者の顔を作った。

「深志……私、風初くんにアイスを買ってあげようとしたんだけど、芽依さんに止められちゃった」

芽依は努めて冷静な声で深志に説明した。

「この子はお腹が弱いから冷たいものは控えるようにと、お医者さんから注意されているの。もし買うなら他のお菓子にして、どうしてもというなら一口だけにしなさいと」

だが、夏寧が少しでも不遇な扱いを受けるのが耐えられない深志は、冷酷な目を芽依に向けた。

「お前がそうやってガミガミ言うから、子供に嫌われるんだろうが。一口だけ食べさせてやって、残りは親が食べるとか、そのくらいの融通も利かないのか?

だいたい、夏寧は善意で言ってくれているんだ。なんでお前はそうイチイチ突っかかって大騒ぎするんだ?」

その言葉は、芽依の胸を鋭い刃のように深々とえぐった。

まさか深志が夏寧をかばうために、実の息子の体調さえも軽視するなんて。あまつさえ、芽依が母親として一番気にしている「息子に嫌われていること」を、わざと当てこすって傷つけてくるなんて。

芽依は自嘲するように小さく笑った。もう、反論する気すら起きなかった。

ふと、はっきりと悟ってしまったのだ。

夏寧が戻ってきたあの日から、この家における完全な「部外者」は、他でもない自分自身なのだと。

自分がどれだけ身を粉にして尽くそうとも、彼らにとっては夏寧の存在に永遠に敵わないのだ。

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