Se connecter大公国艦隊並びに帝国第二総軍艦隊は、小惑星帯外縁を挟み、長く膠着していた。
互いの距離は、戦列ビーム艦が照準を維持できる限界線上。
虚空を裂く光槍は幾度も交差し、小惑星の表皮を焼き、破片雲を銀砂のように散らした。だが、その砲撃に決定的な意味はなかった。遠距離戦は損害を抑えるかわり、戦果もまた乏しい。
大公国軍の目的は、帝国軍によるサーペント要塞の解囲である。しかし帝国軍は小惑星帯を即席の防壁に変え、岩塊の陰へ砲艦を潜ませ、機雷帯を重ね、進撃路そのものを障壁にしていた。
無理に押せば、艦列は裂かれ、逆に包囲される危険すらあった。その停滞が、十一月下旬、唐突に崩れた。
「緊急入電。帝国軍別働隊と思われる艦隊が、後方の惑星ペルーンへ降下。現地守備隊は敗走。ペルーンは敵占領下に入った模様です」
「なんだと」
パウルス元帥の司令部に、押し殺した悲鳴が走った。
惑星ペルーンは、ルドミラ教皇国への派兵における後方集積地である。
弾薬、燃料、修理部材、食糧。大公国艦隊がこの宙域に踏みとどまるための物資が、そこに蓄えられていた。パウルスは戦術表示を見据えた。前面には小惑星帯に籠る帝国第二総軍艦隊。背後には奪われた補給拠点。攻めれば障壁、留まれば飢える。
「ここは慎重を期す。前線部隊を収容し、戦線を一時後退させる」
「畏まりました」
大公国艦隊は攻勢を中止した。
各艦は順次、敵射程外へ退き、輸送艦群より最低限の補給を受け始めた。その間、パウルスの座乗艦では、各艦隊司令並びに幕僚が作戦室へ集められていた。
立体星図の中で、赤い敵勢力圏がペルーンを覆っている。「まずいことになったな」
「はい。我が方は集積地並びに退路を同時に失った形です」
「援軍である我らが、これ以上の危険を冒す必要はありますまい。撤退すべきかと存じます」
幕僚の多くは撤退を唱えた。
戦術上、それは正しい。だが、帝国施政時代より「不敗の猛将」と呼ばれたラプーチク中将だけが、静かに首を横へ振った。
「ルドミラ教皇国がここで敗れれば、帝国が次に向ける刃は我ら大公国だけになります。その理を承知のうえで、皆様は撤退を主張なさるのか」
作戦室が沈黙した。
目前の危険だけを見れば、撤退は上策である。だが星域全体を見れば、それは未来の孤立を買う選択でもあった。パウルスは諸将を見渡し、最後に沈黙を守る若き元帥へ視線を向けた。
「アストレア元帥。貴官はどう見る」
全員の目が、ユリウスに集まった。
「私は……」
◇◇◇◇◇
惑星シャンプールの宇宙港は、すでに秩序という言葉を失っていた。
赤い砂塵が吹き込む発着ロビーには、星外脱出を求める住民が押し寄せ、保安柵はひしゃげ、案内用の立体表示は踏み砕かれていた。泣き叫ぶ子供。荷物を抱えた老人。怒声を張り上げる商人。
誰もが自分だけは助かろうとしていた。「どけ! 俺が先だ!」
「ふざけないで! こっちには子供がいるのよ!」
罵声が飛び交うたび、群衆の波が乱れ、高齢者や幼い子供が床に倒れ込んだ。
だが、誰も手を貸さない。遠くの空には、紫色の雲が低く広がっていた。エーテル精製施設から漏れ出した猛毒ガスである。惑星の主産業だった精製施設は、いまや死の煙突に変わっていた。
居住区の外縁では避難警報が鳴り響き、風向き次第では宇宙港も安全ではない。そんな噂が一度広がるだけで、人間の理性は簡単に崩れた。「落ち着いてください。現在、毒素は宇宙港区域まで到達していません。順番に搭乗してください」
行政府の放送が、各所のスピーカーから繰り返される。だが、その声を信じる者は少なかった。
日頃から住民を搾り、事故を隠し、危険を先送りしてきた行政府である。いまさら安全だと言われても、誰が従うものか。発着管制塔の上層階で、ツーシームは腕時計を見た。
「そろそろ来るねぇ」
その言葉に応じるように、曇った大気を割って八隻の中型輸送船が降下してきた。
船体にはアステミス商会本社所属の識別灯が灯り、底部から噴き出す減速炎が赤い砂を吹き散らす。ハッチが開くや、特殊防護服に身を包んだ作業員たちが次々に飛び出した。
彼らは無言で車両に乗り込み、汚染区域へと向かう。続いて降ろされたのはガス処理車両、移動式浄化塔、防災ヘリであった。
大型ヘリが低空を旋回し、白い処理ガスを帯状に散布する。 紫の毒霧は、じわじわと色を薄めていった。別の機体からは落下傘付きの物資コンテナが投下され、逃げ遅れた避難民へ、水、酸素ボンベ、医療キットが届けられる。
「間に合いましたな」
レッドベアが静かに呟いた。
「まぁ、最初から嫌な予感はしていたからねぇ」
ツーシームは薄く笑い、隣に立つ男へ目を向けた。
レンギン支店長は、顔面を紙のように白くしていた。額には脂汗が浮かび、膝が小刻みに震えている。「さて、この尻拭いの費用、誰の帳簿につければいいんだろうねぇ?」
ツーシームが肩を叩くと、レンギンは壊れた人形のように首を振った。
「わ、私は違う。私は、ルドミラ教の伝道師ローターの指示に従っただけだ。あの女が、安全だと言ったのだ。あの女はどこだ。どこへ消えたのだ」
「話は後で聞いてやるよ。だけどね、私はアストレア侯爵様ほど甘くない」
ツーシームは顎で合図した。エジルたちがレンギンの両腕をつかみ、その身柄を拘束する。
やがて毒ガスは除去され、宇宙港にはかろうじて秩序が戻った。
だが、ローターの姿だけは、最後まで見つからなかった。
紫の霧よりも深い不安だけが、シャンプールの空に残されていた。大公国艦隊並びに帝国第二総軍艦隊は、小惑星帯外縁を挟み、長く膠着していた。 互いの距離は、戦列ビーム艦が照準を維持できる限界線上。 虚空を裂く光槍は幾度も交差し、小惑星の表皮を焼き、破片雲を銀砂のように散らした。 だが、その砲撃に決定的な意味はなかった。遠距離戦は損害を抑えるかわり、戦果もまた乏しい。 大公国軍の目的は、帝国軍によるサーペント要塞の解囲である。 しかし帝国軍は小惑星帯を即席の防壁に変え、岩塊の陰へ砲艦を潜ませ、機雷帯を重ね、進撃路そのものを障壁にしていた。 無理に押せば、艦列は裂かれ、逆に包囲される危険すらあった。 その停滞が、十一月下旬、唐突に崩れた。「緊急入電。帝国軍別働隊と思われる艦隊が、後方の惑星ペルーンへ降下。現地守備隊は敗走。ペルーンは敵占領下に入った模様です」「なんだと」 パウルス元帥の司令部に、押し殺した悲鳴が走った。 惑星ペルーンは、ルドミラ教皇国への派兵における後方集積地である。 弾薬、燃料、修理部材、食糧。大公国艦隊がこの宙域に踏みとどまるための物資が、そこに蓄えられていた。 パウルスは戦術表示を見据えた。前面には小惑星帯に籠る帝国第二総軍艦隊。背後には奪われた補給拠点。攻めれば障壁、留まれば飢える。「ここは慎重を期す。前線部隊を収容し、戦線を一時後退させる」「畏まりました」 大公国艦隊は攻勢を中止した。 各艦は順次、敵射程外へ退き、輸送艦群より最低限の補給を受け始めた。 その間、パウルスの座乗艦では、各艦隊司令並びに幕僚が作戦室へ集められていた。 立体星図の中で、赤い敵勢力圏がペルーンを覆っている。「まずいことになったな」「はい。我が方は集積地並びに退路を同時に失った形です」「援軍である我らが、これ以上の危険を冒す必要はありますまい。撤退すべきかと存じます」 幕僚の多くは撤退を唱えた。 戦術上、それは正しい。 だが、帝国施政時代より「不敗の猛将」と呼ばれたラプーチク中将だけが、静かに首を横へ振った。「ルドミラ教皇国がここで敗れれば、帝国が次に向ける刃は我ら大公国だけになります。その理を承知のうえで、皆様は撤退を主張なさるのか」 作戦室が沈黙した。 目前の危険だけを見れば、撤退は上策である。だが星域全体を見れば、それは未来の孤立を買う選択でもあった。 パウルスは諸将を
聖帝国暦六四五年十一月中旬――。 アーヴィング大公国がルドミラ教皇国へ差し向けた援軍艦隊は、教皇国領の要塞サーペントを包囲する帝国艦隊と、ついに正面から遭遇した。 前衛に出していた策敵艦から、鋭い通信が飛び込む。「敵と思しき艦影発見! 位置、N八九一―六一!」 その報を受けた司令長官パウルスは、ただちに命じた。「全艦艇、艦隊戦用意! 縦陣を解き、方陣へ展開せよ!」「了解!」 命令は瞬く間に全艦へ伝播し、左翼を担う第二艦隊司令ユリウスのもとにも届く。 彼の指揮下には、戦闘艦と輸送船を合わせて大小八百五十隻。 これほど大規模な艦隊を正式に率いるのは、彼にとってこれが初めてだった。 旗艦ハンニバルの艦橋は、張りつめた空気に満ちている。 ユリウスは戦術盤を睨みつけたまま、次々と指示を飛ばした。「防御シールド艦艇を前方へ展開!」「ビーム砲艦は横陣二列! 射界を重ねろ!」「了解!」 ハンニバルそのものは、なお攻撃的な主火器を使えない。 だが、その圧倒的な防御力と通信処理能力は、旗艦としてはこの上ない。 青白い表示光の中で、巨大戦艦はまるで戦場全体を抱え込む城のように沈んでいた。 ユリウスは緊張を押し殺しながら問う。「敵の総数は?」 情報士官が苦い顔で応じる。「妨害電波と小惑星帯の遮蔽により、不明です!」 その時だった。 老臣グレゴールが、場違いなほど落ち着いた足取りで茶を運んでくる。 今回の彼は名誉参謀のような立場で、これといった実務は与えられていない。「若様、敵は小惑星帯を利用して布陣しておりますな」 彼は静かに湯気の立つ茶杯を差し出した。「あまり急がず攻めるのがよろしいのでは?」 その言葉に、大公から派遣された作戦参謀たちが一斉に咳払いし、露骨に視線で制してくる。 グレゴールは、わざとらしく肩をすくめた。「おっと、失礼、失礼」 そそくさと下がっていく老臣の背を見て、ユリウスの口元にわずかな笑みが浮かんだ。 胸を締めつけていた緊張が、ほんの少しだけほどける。 その頃には、前面の防御シールド艦が電磁防壁を幾重にも展開し終え、その後方では四百隻に及ぶビーム砲艦が、寸分の乱れもなく戦列を整えていた。 艦首砲身には青白い光が満ち、今にも死を吐き出さんとしている。 ユリウスは深く息を吸い、静かに、しかし力強く命じ
赤い砂だけが吹き荒れる惑星シャンプールに、重たい朝が来た。 サンブルク商会の支店ビル。 その会議室では、若き支店長レンギンの前に各工区の所長たちがずらりと並ばされていた。 窓の外は荒野、机の上には収支表。まるで人の命まで数字の一部に組み込まれているようだった。 ひとりの所長が、恐る恐る口を開く。「さ、流石にその部分の経費削減は、工員の生命に著しく危険かと……」 その瞬間、レンギン支店長の顔から笑みが消えた。「何を言ってるんだ!」 机を叩く乾いた音が響く。「いつも言っているだろう? 返事は、はい、か、やり遂げます、の二種類だけだ。何回言わせる気だ!」 所長は肩をすくめる。 だが支店長は追い打ちをかけた。「それとも何か? 結婚したばかりの奥さんを連れて、人っ子一人いない辺境廃鉱区へ飛ばされたいのか!?」「……い、いえ」 所長は顔を青ざめさせ、唇を震わせた。「は、はい。やり遂げます」 レンギンは、今度は満足げに笑った。「そうだ、その調子だ。そうすれば我らの賞与は上がる。万々歳じゃないか。これを皆がウインウインの好循環というのだよ!」 会議室には乾いた追従笑いが広がる。「……は、はい。その通りです」 中には進んで支店長を持ち上げる者までいた。保身か、習性か、あるいはもう諦めているのか。 少なくとも外から見分けはつかなかった。 その一部始終を、ツーシームたちは離れたホテルの一室からモニター越しに見ていた。 昨夜、彼女が秘書ローターへ握らせた金貨は、しっかり役に立ったらしい。「こういうのを見ちゃうと、人間ってのは、どうもねぇ……」 ビッグベアが腕を組み、渋い顔で呟く。 隣にいるノーム人のエジルへ目を向けるが、エジルは作り笑いを貼りつけたまま、返事に困っていた。 笑うしかない者の顔だった。 その時だった。 支店ビルの隣のコントロールタワーから、耳をつんざくような巨大警報が鳴り渡った。 モニターの向こうでも空気が変わる。 レンギン支店長だけは眉ひとつ動かさなかったが、まだ善意の残っているらしい所長のひとりが会議室を飛び出し、血相を変えて総合コントロール室へ駆け込んだ。「どうしたんだ、一体!?」 管理員は顔面蒼白のまま、震える声で答えた。「ど、毒性廃棄物タンクが二つ破裂しました……それも、気化しやすいタイプの危険
夜明け前の薄闇の中、ノーム人のエジルの手引きで、ツーシームたちはさびれたエーテル鉱区へたどり着いた。 小柄な男だったが、受け答えは妙に落ち着いている。 怯えはある。 だが、頭は回る。 ツーシームはそう見た。 三人はホバークラフトを降りると、鉱区全体が見渡せる高台へよじ登った。 眼下には、細長い塔のようなエーテル油井が何本も立ち、その根元には作業員たちのバラックが、まるで錆びた缶詰のように密集している。 さらに脇には、今にも崩れそうな旧式精製施設までへばりついていた。 ツーシームは、昨日トロストから渡された秘密資料をぱらぱらとめくる。 そして、視線を下へ落としたまま尋ねた。「なぁ、エジル。ここのエーテル、重質系で質はかなり悪いだろ?」「はい」 エジルは小さくうなずく。「なのに、どうして精製施設があんなボロで平気なんだい?」 エジルはしばらく黙ったあと、絞り出すように答えた。「我々労働者が、炉心近くまで入って、直接作業するからです」「はぁ?」 ビッグベアが思わず割り込んだ。「馬鹿か? 精製前のエーテルは放射性物質だぞ! 防護服を着たって、炉心じゃ五分も持たねぇだろ!」 エジルは、怒鳴られても怒らなかった。 むしろ慣れているように、静かに言う。「ええ。大変に危険です。ですが、精製コストを削らなければ利益が出ません。新しい設備を入れるには莫大な金がかかる。ですから、安い命で埋め合わせているのです」 ツーシームの目が細くなる。「安い命、ねぇ」「我々ノーム人には、法で定められた権利が薄いのです」 エジルは乾いた声で続けた。「労働厚生法も、ほとんど適用されません」「……法がどうこう以前に、この星の行政長官も買収されてそうだねぇ」「た、たぶん……」 エジルはそこで急に声を震わせた。「お願いです。みんなを助けてください」 ビッグベアが息を呑む。 だがツーシームは、困ったように頭をかいた。「いやぁ、そんなこと言われてもね。アタイたちは正義の味方なんかじゃない。むしろ、悪党の側の宇宙海賊さ」「ぇ!?」 エジルの目が、まん丸になった。 その顔があまりに露骨で、ツーシームは少しだけ苦笑する。 東の地平線が、わずかに白みはじめていた。 赤茶けた大地の向こうから、冷たい朝が這い上がってくる。 ツーシームはその光を見
聖帝国暦六四五年、旧第五総管区――現ルドミラ教皇国。 首都星ヒンデンブルク、中核都市ニデルの大神殿。 その最奥、香煙すら沈黙しているような聖室にて、サリーム・アル=ハディード教皇は、前教皇エロー枢機卿を密かに呼び出していた。 壁面を埋める聖像群は薄闇の中で青白く浮かび、古代の発光石をはめ込んだ円天井だけが、冷えた光を二人の間へ落としている。 神に最も近いはずの部屋で、いま交わされていたのは祈りではなく、権力の話であった。 教皇は金糸の刺繍が入った長衣の裾を整え、静かに口を開く。「枢機卿、あの聖典改定は、まだ終わらんのかね?」 問われた老枢機卿エローは、目に見えてやつれていた。 頬は落ち、指先はかすかに震えている。彼はしばし沈黙したのち、絞り出すように答えた。「我らルドミラ教は、聖帝国ノヴァに虐げられた民の支持で立っております。中でも信徒の多数を占めるノーム人を、パン一片にも劣る存在などと……どうしても、そのようには書けませぬ」 その声は弱々しかったが、まだ僅かに良心の熱が残っていた。 だが教皇サリームは、怒るでもなく、むしろ穏やかに頷いた。「そうか。では――これを見ても、同じことが言えるかな?」 そう言って、彼は卓上へ数枚の紙束と写真を無造作にばら撒いた。 白い紙片が、冷たい石の机へ音もなく広がる。 老枢機卿の目が、それへ吸い寄せられた。 そこに記されていたのは、彼が教皇位にあった頃、帝国側より受け取った賄賂の詳細。送金記録、口利きの覚書、裏帳簿の複写。 さらに数枚の写真には、当時人気だったモデル達とのホテルでの密会の場面まで、鮮明に切り取られていた。「……こ、これは!?」 老枢機卿は文字通り膝を折った。 顔色は一瞬で土気色に変わり、喉がひくつく。 ルドミラ教では聖職者の独身が尊ばれ、たとえ俗世にあっても一夫一妻が大原則。不義や姦通は重大な背教とされ、火刑さえあり得る。 それを、誰より説いてきた男の過去が、いまこの場で無惨に剥かれていた。 教皇はゆっくり立ち上がると、怯える老人のそばへ歩み寄った。 そして意外なほど優しい手つきで、その肩へ触れる。「余は、枢機卿の見識を高く買っておるのだよ。だからこそ、残念なことにはしたくない」 その声音は柔らかい。 だが、それがかえって恐ろしかった。 刃が首筋へ当たる冷たさ
中古高速船メイラード号は、空間跳躍と通常航行を織り交ぜながら、およそ五日をかけて資源惑星シャンプールへ到達した。 船窓の向こうに見えたその星は、いく筋かの雲をまとってはいるものの、全体としては赤茶けた岩の塊にしか見えなかった。 生気に乏しい。 鉱山惑星という言葉を、そのまま形にしたような景色である。「いかにもって面だねぇ……」 操縦席の後ろで、ツーシームが安煙草をくわえたまま呟く。 管制塔との面倒なやり取りを覚悟していたが、ここがアストレア家の代官の支配地だと伝わるや、交信は驚くほどあっさり終わった。「着陸許可、確認」 操縦を担当していた現地上がりの船員が肩をすくめる。「お貴族さまの名前ってのは、やっぱり便利ですねぇ」 やがてメイラード号は大気圏へ突入し、船体を赤熱させながら降下していく。 窓の外では、乾いた赤い大地がじわじわと迫ってきた。 谷も、丘も、見渡すかぎり岩と砂ばかり。 その中にぽつんと設けられた簡素な宇宙港へ、船は重々しく着陸した。 タラップを降りたツーシームは、周囲を見回して鼻を鳴らす。「ここは見るからに田舎だねぇ」 横からトロスト技師が端末を見ながら応える。「記録によると、ここの人口は三千人らしいですよ」「何! たった三千人だと!?」 巨体のビッグベアが、本気で目を丸くした。 その声が、乾いた港の空気にやけに大きく響く。 トロストは眉をしかめ、訂正する。「いや、正しくは正規民が三千人、だそうです」 その一言で、空気が少しだけ冷えた。 ツーシームは煙草をくわえ直し、頭をかく。「嫌なこと聞いたねぇ……」 正規民が三千人。 ならば、その外側にいる者たちがどれほどいるのか。 数字に出ない労働者、契約外民、流民、ノーム人、債務奴隷まがいの鉱夫――ろくでもない想像がいくつも浮かぶ。 荷物を検疫ゲートへ通していると、こちらへ歩いてくる女がいた。 眼鏡をかけた、よく整った顔立ちの美人である。こんな荒れた鉱山惑星には似つかわしくないほど、身なりもきちんとしていた。「技師のトロスト様、御一行ですね?」 トロストが軽く手を挙げる。「ああ、そうだ。サンブルク商会まで頼む」 今回、アルテミス商会の商会長たるツーシーム本人が表へ出れば、現地に余計な警戒を招くおそれがある。 そのため表向きは、無名の技師トロ