Chapter: 第148話……宇宙S級提督への野望「敵接近! 距離360光秒!」「敵影、約860隻」「戦闘準備!」「揃いも揃ってやってきたか……雑魚どもめ!」 俺は神らしく、好き放題させてもらった。 6か月もそうこうしていたら、カリバーン帝国どころか、ルドミラ教国まで連合して攻めてきやがった……。「改良型惑星破壊砲用意!」「了解! エネルギー充填開始します!」「エネルギー充填50%」「……80%」「……100%! 充填完了!」「敵艦隊めがけて発射しろ!」「了解! 発射します!」 特大の光条が敵艦隊先頭に命中。 恒星を思わせるほどの光球が現れる。 ……が、「!? 敵艦隊被害なし!」「敵艦隊先頭、識別装甲戦艦ハンニバル!」「……!?」「馬鹿な! あの戦艦は惑星破壊砲を単艦で弾いただと!?」「敵艦隊、なおも接近!」「やむをえん、通常砲撃戦用意!」「了解!」☆★☆★☆「特型電磁障壁解除!」「解除完了ですわ!」「全艦砲撃戦用意!」「装甲ミサイル艦、艦列前へ!」「砲撃用意完了ポコ!」「撃て!」 私はハンニバルの司令席にて、全艦に砲撃命令を下す。 今回私は、カリバーン・ルドミラ連合軍の臨時の艦隊司令長官を務めていたのだ。「長距離ミサイル発射!」「艦載機発進用意!」 ……大出量のレーザー光条が飛び交い、ミサイルが炸裂する。 光球が次々に産まれ、文明の叡智を残骸へと変えていった。「お味方、優勢です!」「よし! これよりハンニバルは、敵左翼に横撃をかける!」「了解ですわ!」「機関全速!」「取り舵一杯! 側砲射撃開始!」「斉射ポコ!」 ハンニバルは僚艦であるオムライスとジンギスカンを率い、高火力と高機動をもってして、敵左翼の艦列を切り崩す。――次第に、敵に混乱の色が見える。「戦略打撃戦艦ペテルギウス発見!」「大きいポコ!」 ……敵艦列を切り裂くと、ついに敵旗艦にお目見えする。 砲術長が言うように大きい。 多分ハンニバルより大きかった……。「機関に短期ブーストを掛けろ!」「ブースト了解ですわ!」「ブースト完了! 機関出力255%! 限界です!」「マイクロ・クエーサー砲用意!」 機関で生み出された大量のエネルギーが、艦体下部のマイクロ・クエーサー砲に流れこむ。 そのあまりの大エネルギーに、艦がきしむ音が聞こえる。「用意良し、エネル
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Chapter: 第147話……商都ラヘルの落日――標準歴5年4月。 濃い化粧と、お歯黒という独特の容貌のジョー・キリシマ提督は、ラヘル星系の富豪たちに乞われ、傭兵部隊を率いて星系防衛の任についていた。「トロストとかいうやつ何者ぞ?」 彼はクノイチ集団と呼ばれる暗部の女性情報工作員の頭領という別の顔もあったのだが、トロストの急速な台頭を掴み切れないでいた。 彼はラヘル星系の主星ロンギヌスを後背に、艦艇100隻を布陣。 トロストの艦隊を待ち受けた。 トロストはグングニル共和国の艦艇300隻を動員し、このラヘル星系に侵攻してきた。 300対100では勝てそうにないのだが、このラヘル星系の主星ロンギヌスは、姿かたちこそ緑の惑星だが、それは色彩等を意図的に変化させた擬態であり、内実は移動用チューブが張り巡らされたメトロポリスであり、黒鉄でできた人口都市惑星だった。「ほっほっほっ、トロストとやら、目に物を見せてくれん!」「重装甲ミサイル艦の戦列を前へ出せ!」「了解!」 ジョー・キリシマ提督は、グングニル共和国きっての高家の出である。 そのプライドや自信も相当のものだった。「トロスト艦隊接近、射程内に入りました!」「砲撃戦開始!」 トロストとジョー・キリシマ提督は、お互いの射程圏に入ると射撃を始めた。 お互い、戦場の長槍兵ともいえるミサイル艦艇を前に出し、主力は温存した戦い方だった。 そもそも、これがこの世界の戦いの常道であり、ハンニバルのように先頭をきる旗艦は珍しかったのだ。「長射程対艦ミサイル来ます!」「迎撃ミサイル発射! 対空砲応射せよ!」 双方、ミサイル艦の長射程ミサイルに対処。 戦いは次のフェーズに映る。「重巡洋艦と戦艦を前に出せ! 大口径レーザーで敵を始末しなさい!」「了解!」 ジョー・キリシマ提督は、ミサイル艦艇の後背から主力戦列艦を投入。 長射程の大口径砲の光条で、トロスト艦隊を攻撃した。 更には惑星ロンギヌスからの砲撃もトロスト艦隊を襲う。 戦いはジョー・キリシマ提督に有利に思えた。 ……しかし、異形のモノが戦場に現れる。「提督! 敵戦列から謎の宇宙海獣が現れました!」「なんですって?」 お歯黒の提督は慌てる。 カリバーン帝国の宇宙海獣戦術には、以前からほとほと手を焼いていたのだ。「こ、これは? カリバーン帝国の戦術! なぜ奴が!?」 ジ
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Chapter: 第146話……トロスト再び!――暗がりで試験管を眺める男。 奴の名はトール。 少し前まで技術少将を務めていた。 リーゼンフェルトが戦いに負けたので、奴と俺はとある辺境星系へ逃亡する羽目になった。 奴の発明品は、宇宙海獣操縦装置、ダークマター潜航艇、惑星破壊砲の三つ。「トロストさん、新しい体は大切にしてくださいね」「おうよ」 ……さらに奴は、俺に新しい体をくれた。 96%は機械なのだが、パワーとスピードが凄い。 ライオンにも素手で楽に勝てそうだ。 そして新しい乗艦も……。 元・クレーメンス公爵元帥乗艦、戦略打撃戦艦ペテルギウス。 全長1852m全幅243mの巨大な戦闘艦だ。 俺たちが逃げるときに乗ってきた船だ。 星間ギルドに頼み、最低限の乗員をかき集めた。「いざ、母なる地球ってか!?」 俺はトールの奴と別れ、アルデンヌ星系にあるワームホールを目指した。☆★☆★☆「……な、ない!?」「ワームホールがないぞ?」 俺は目をこする。 地球に繋がるワームホールがない。 すぐさま、トールの奴に連絡をとった。「トロストさん、ワームホールってのは気まぐれなんです。ときたま現れては消えてって感じなんです」「じゃあ次はいつ現れるんだ?」「明日かもしれませんし、何万年後かもしれません」「……ふ、ふざけんなよ!」 俺はモニターに怒鳴りつけ、通信を切った。 地球で神になる以外、俺にふさわしい仕事ってないぞ?「……ああ、ワームホールが現れるまで、この世界の神にでもなっておくか……」 俺にはカリバーン帝国国有企業の株式がある。 この財力をもってして成りあがってやるぜ! 俺は仕方なく、この日からこの世界の神を目指すことにした。――翌年、標準歴4年4月。 トロストという男が、突如グングニル共和国の地方星系の議員として当選した。☆★☆★☆――標準歴5年1月。 ハンニバル開発公社は、ラム星系周辺の開発と発展に成功。 カリバーン帝国第二の巨大企業となった。 その利益に伴い、ハンニバルも大改修を行う。 防御力を中心に底上げし、全長1600m級の双胴の艦体は、半ば動く要塞と化してきた。 さらには、内部に兵器工廠や研究開発室も設けていた。「大きいポコ♪」「大きすぎて入港できない宇宙港も出てきたクマね」「ふむう」 ……まぁ、そういうところは衛星軌道上に
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Chapter: 第145話……温泉旅行と煙草「火をお付けしますね」「ありがとう」「……ふぅ」 私はリアルの世界では吸わないタバコをふかす。 お酒と煙草、人類の永遠の友である。 この煙草の火は、今も副官殿が付けてくれている。 ……この点、大いに贅沢で、私は幸せ者である。 ……我々の世界は4次元で構成されている。 縦と横と高さと、時間の四つだ。 しかし宇宙には、10個もの次元が存在すると言われる。 その未解明な世界の一つは重力が有力である。 その他にも、思念体の世界があるかもしれないし、ゲームの世界があるかもしれない。 さらに言えば、未解明の次元は6つとは限らない可能性もあるのだ。 ……その一つが、今私が煙草をふかしている世界だとしても、何ら不思議はないのである。 地球の世界と、この世界はそもそも時間軸が合っていなかったのだ……。 輪廻転生とか、異世界に旅立ったり、過去にタイムスリップするのは、こういう世界を触媒にしている可能性も高いと、今は感じることが出来た。 もちろん、感じているだけで、この説が正しいと言える確証はどこにも無いのだが……。「灰皿をお持ちしますね」「……ああ」 バイオロイドの副官殿が、灰皿を持ってきてくれた。「……ふぅ」 気が付くと、手にした煙草は、真っ白になっていた……。☆★☆★☆「みんな、旅行に行くならどこがいい?」「海に行くポコ♪」「山に行くニャ♪」「温泉に行きたいですわ♪」「食べ放題に行きたいクマ♪」「釣りに行きたいメェ~♪」 改めて軍を退役し、暇がソコソコできたので、どこに行きたいか、みんなに意見を聞いたら、凄くばらばらだった。 幸いなことに、元帥の年金で行けないような候補地はないようだ……。 ……しかし、いつも勲功第一は副官殿なので、決議として温泉旅行へ行くこととなった。 近場では何なので、巡回や視察という名目で、新たに味方になった星系の中から候補地を選ぶ。 少し考えたところで、「う~ん、……ここが、いいかな?」「「「……」」」 鉱山用惑星カイロ。 航行費用の面などから考えて、ハンニバル開発公社の新開発案権の候補地から選ぶと、皆に白い目で見られた。 ……経費で宇宙船を飛ばすんだから、ある程度仕事絡みなのは、仕方ないじゃない? ハンニバルは私たちを乗せ、長距離跳躍を重ね、鉱山惑星カイロを目指した。☆★☆★
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Chapter: 第144話……帝国再統一!!「敵要塞へ降下せよ!」「「「了解!」」」 私は二足歩行可変型機種の艦載機二機を引き連れ、要塞地表部へと向かう。 愛機である重雷撃機ケルベロスも、二足歩行機動歩兵に姿を変える。 ……機動歩兵。 この世界にて装輪戦車と並ぶ地上における決戦兵器である。 全高15mにもなる装甲を施されたパワードスーツの一種だった。「散開!」 リヴァイアサン要塞地表の4割は岩石で、6割は金属だった。 私はその岩石部に降り立った。 岩石部は起伏があり、遮蔽遺物も多く、隠蔽率が高かったため有利に戦えるからだ。 ……いつの時代の戦いも、最後は地上戦となる。 いわば人類宿命の戦いであった……。「前方に装輪戦車、多数!」「擲弾筒用意!」 我々を見つけた要塞側も、すぐさま戦車を繰り出してきた。 土煙をもうもうと上げてこちらに迫りくる。――ドドドォォォン 後方からやってきた通常の歩兵隊が、迫撃砲で支援してくれた。 それに合わせて、私も重粒子ガトリンク砲等で攻撃に転じる。 ……しかし、敵砲火が激しく、前進が難しい。「こちらケルベロス、F-998地点へ支援砲火を要請する!」「こちらハンニバル、了解!」 遥か彼方の装甲戦艦と、上空の艦載機からの支援射撃により、敵装輪戦車が消し飛ぶ。「前進だ!」「「「了解!」」」 我々は岩肌の窪地から飛び出て、急いで前進。 2時間にわたる激しい砲火ののち、敵地上部隊の壊滅と飛行場の占領に成功した。「こちらケルベロス、P-9地点の飛行場を制圧した。この地点へ惑星揚陸艦を着陸されたし!」「了解だ! アニキ待ってろ!」 アルベルトの声が聞こえる。 これより先の要塞内部の戦いは、ドラグニル陸戦隊を始めとした荒くれ者の白兵戦部隊の独壇場だ。 私の出番はない。「これより地表の残敵を掃討する! 続け!」 ケルベロスと僚機2機は重雷撃機へと可変し、飛び立つ。 他の戦線で戦っている地上部隊を支援するためだ。――更に4時間後。 地表部では目立った抵抗は減っていく。 大要塞攻略戦は最終段階へと入っていった……。☆★☆★☆「おかえりなさいですわ!」「おかえりポコ!」「ただいま!」 ハンニバルへと帰った私は、装甲服を脱ぎ捨て、幕僚たちから報告を聞く。「ほぼ全ての地域で我が方が優勢! 要塞占領は時間の問題ですわ!」
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Chapter: 第143話……猪突猛進!? 旗艦ハンニバル!!(……リヴァイアサン要塞指令室)「Xポイントに侵入する艦船があります!」「何者だ?」 この要塞の司令官、リーゼンフェルト提督が驚く。 Xポイントは、彼らの主星アルバトロスに通じる道だったのだ。 ……しかし、逆に言えば最も防備が厚い部分でもあった。「識別照合、装甲戦艦ハンニバルです!」「……うはは、トチ狂ったかヴェロヴェマの奴。この要塞を落とさずして、背後に行けると思うなよ!」 リーゼンフェルト提督は笑った。 リヴァイアサン要塞の周りの宙域は、いわゆる険しい隘路になっており、速度を保ったまま安全に進むのは難しかったのだ……。 速度を落としたところを、要塞砲に狙われるのである。「軌道要塞砲移動! ハンニバルを仕留めろ!」「はっ!」「敵の総司令官が、わざわざ死地に出向いてくれるとはな。ワシにも運が巡ってきたか?」 ……そうリーゼンフェルトはほくそ笑んだ。☆★☆★☆(パウリーネ側、諸侯艦隊)「総司令官殿の艦艇が、敵要塞側面に肉薄していきます!」「おおう?」 各指揮官は色めきだった。 この要塞を落としても、結局のところ総司令官のヴェロヴェマ元帥の功績となる。 ……しかし、ヴェロヴェマ元帥が戦死してしまえば? 各指揮官のいずれもが、勲功第一となる可能性が出たのだ……。「要塞奪取の栄誉は、我がラムスール星系艦隊ぞ!」「いやいや、その栄誉は我がパトルシア星系艦隊が頂く!」 パウリーネ派の諸侯艦隊は、次々と要塞に突撃していく。 それに対して、要塞側から多数の砲火が浴びせられる。「駆逐艦パラミス撃沈!」「巡洋艦アラドミア大破!」「被害にかまうな! 全艦突撃!」「他星系艦隊に負けるな! ツッコめ!」 いままで、他の星系の艦隊の動向を見て、あまり積極的に要塞を攻撃しなかった艦隊が、一斉に要塞に総攻撃を掛けた。 しかも、被害を顧みない大攻勢だった……。☆★☆★☆「敵ミサイル艦撃沈!」「敵、揚陸艦中破!」「尚も、敵が前進してきます!」「なぜだ!? 敵は何故こうも士気が上がったのだ!?」「第二防衛ライン突破されます!」「戦略予備の要撃機を全部出せ!」「了解!」「第二滑走路へ、第六要撃部隊発艦せよ!」「尚も敵艦載機、突っ込んできます!」「くそう、奴等は死が怖くないのか??」 要塞司令官であるリーゼンフェルト提
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Chapter: 第108話……大魚狩り「旗艦へ目標座標を送る! 環境への考慮も重視して、照射面積は最小に集約、威力を抑えることも忘れるな!」 次元潜航海賊船モリガンから送られた位置情報が、超戦艦ハンニバルの中央管制室へと到達する。 直後、全長数キロに及ぶ巨艦の最深部で、主機関が低い唸りを上げた。 人工的に封じ込められた小型ブラックホールが回転を始め、周囲の空間がわずかに歪む。 重力炉の出力計が跳ね上がり、巨大な機関室を青白い放電が走った。 発生した膨大なエネルギーは、艦内の兵装や推進器へは送られず、全て船体側面に設けられた臨時給電口へ集中していく。 ハンニバルと、その隣に停泊する惑星破壊砲「オーディンの剣」との間には、何本もの極太ケーブルが渡されていた。 ケーブルの外装が震え、内部を走るエネルギーの奔流によって、一本、また一本と白熱していく。接続部から火花が噴き上がり、周囲の作業艇が慌てて退避した。 惑星破壊砲の船体には、以前の戦闘によって生じた亀裂や焼損が、いまだ生々しく残っている。 溶接された装甲板は不格好に盛り上がり、砲身の各所には応急補修用の骨組みが露出していた。 その傷だらけの巨砲に、マイクロブラックホールの臨界した力が流れ込む。 停止していた冷却装置が次々と再起動し、砲身を取り巻く蓄積環が、後方から順番に青白く輝き始めた。 低い振動が船体全体を揺らし、周囲の宇宙空間にまで見えないエネルギーの波紋を放つ。「充填率、十……十五……二十!」 警報が鳴り響くなか、《オーディンの剣》は傷ついた獣のように、再び目を覚ました。 ツーシームが示した深海の一点へ向け、惑星を殺す砲口が、ゆっくりと旋回を開始した。◇◇◇◇◇「くるぞ! 急速潜航!!」「了解!」 ツーシームの叫びに従い、モリガンは次元の狭間へと逃げ込む。 次の瞬間、白銀の光柱が宇宙から惑星アクアの海面へ突き刺さった。 ……海が割れた。 いや、割れたのではない。 直撃点を中心に、数百万トンもの海水が一瞬で沸騰し、巨大な蒸気の柱となって空へ噴き上がったのだ。 超高温に晒された海水は液体の姿を保てず、猛烈な蒸気の衝撃波となって四方へ広がる。 周囲の海面が盛り上がり、山脈のような津波が幾重にも連なった。 光柱はなおも衰えず、深海を貫通した。 ヘカトンケイル旅団の長射程ビーム艦を多数収容していた秘密格納
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Chapter: 第107話……大魚の巣 ――聖帝国暦六四五年七月上旬。 惑星アクアの地下最高司令部で、ルントシュテット伯爵は苛立ちを募らせていた。 机上には、新たな被害報告書が置かれている。 また一隻、海中を航行していた輸送艦が撃沈されたのだ。 襲撃を受けた船からの通信はなく、護衛部隊も敵の姿を確認していない。輸送艦は何の前触れもなく魚雷を受け、そのまま深海へ沈んでいた。 ルントシュテット伯爵は報告書を机へ投げ出し、水中戦闘を専門とする若手参謀を呼びつけた。「お呼びでございましょうか、閣下」「ああ。そこへ座りたまえ」「はっ」 若手参謀が緊張した面持ちで腰を下ろす。「それでだな」 伯爵は指先で報告書を叩いた。「我が領海内に、忌々しい敵の潜水艦が入り込んでいるようだ。なぜ発見できぬのかね?」「はい。敵艦と思われる船は、能動ソナーに反応せず、聴音装置を駆使しても、推進機関の駆動音すら捉えられません」「まったく音がしないと?」「はい。襲撃時に魚雷の航走音が確認されるだけで、発射元は特定できておりませぬ。まるで、海の中に幽霊船がいるかのようで……」「馬鹿なことを申すな!」 伯爵が机を叩いた。「現実に幽霊船など存在するものか!」「……も、申し訳ございません」 若手参謀は額に浮かんだ汗を拭った。「ただし、可能性は低いものの、敵艦が次元潜航艇であるとの意見もございます」「次元潜航艇だと?」「はい。異次元との狭間へ船体を移せば、我々と同じ空間には存在しなくなります。通常のソナーや聴音装置で探知できないのも説明がつきます」 伯爵は不機嫌そうに眉を寄せた。「それほど有用な兵器なら、なぜ我が軍は使っておらぬのだ?」「次元潜航艇は、操縦者の脳波と艦艇を直接連動させる特殊な制御方式を用います。適性を持つ者が極めて少なく、誰にでも扱える兵器ではございません」「訓練では、どうにもならぬのか?」「それだけではありません。水中と異次元の狭間を航行している間は、通常の観測装置がほとんど機能しなくなります」 若手参謀は、卓上に簡単な立体映像を表示した。「操縦者は周囲の地形も、海流も、他の艦艇の位置も把握できませぬ。例えるならば、目隠しをしたまま深海を全速力で進むようなものです」「岩礁へ衝突すれば?」「一瞬で沈みます」「海底火山や海溝へ入り込めば?」「帰還は困難かと」 伯爵
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Chapter: 第106話……深海の海賊 ――聖帝国暦六四五年六月下旬。 ユリウス率いる新帝国軍は、惑星アクアの攻略に苦戦していた。 惑星アクアは、人口や産業構造だけを見れば資源惑星に分類される。 軍事施設が地表の大部分を占めている以上、本来であれば大規模な艦砲射撃も許容されるはずであった。 だが、この惑星の海には、他の星々ではすでに絶滅した海洋生物が数多く生息していた。 交戦条約は、希少生物が確認された海域への無差別攻撃を禁じている。 攻撃可能な場所、兵器の種類、投入できる火力のすべてに、厳しい制限が課されていた。「装甲空母を前進させよ!」「はっ!」 ユリウスの命令を受け、艦隊中央から複数の大型艦が進み出た。 装甲空母は、新帝国軍が近年配備を始めた新鋭艦である。 宇宙空間で使用する宇宙戦闘機と、大気圏内で運用する気圏戦闘機。 その双方を搭載し、発着艦および補給や整備できる多目的空母であった。 また、艦体には分厚い装甲と強力な防御障壁が備えられており、敵の砲撃下でも航空部隊を展開できる。「砲撃艦隊、海面上の確認済みの浮遊対空陣地を制圧せよ。海中へは撃ち込むな!」「了解!」 新帝国軍のビーム砲は、海面へ突入した時点で急速に減衰する。 それでも、装甲空母や強襲揚陸艦が大気圏へ突入する間、敵の対空砲火を抑えるには十分な威力があった。 長距離砲撃を得意とするヘカトンケイル戦略砲兵旅団も、確認されている艦艇は五十隻前後にすぎない。 海中へ潜伏できる地形的優位を失えば、千隻近い新帝国軍艦隊に正面から抗することはできなかった。 惑星アクアの地表を覆うものが、流体金属ではなく海水であることにも意味があった。 流体金属の海へ艦艇を潜ませる場合、施設や船体の腐食や高熱への対策が必要になる。 桟橋、埠頭、防護隔壁、海中扉の建設費も莫大となり、維持するだけで国家予算を食い潰しかねない。 対して、海水ならば既存の潜水技術を応用できる。 さらに、自然の海溝や岩礁を利用し、安価に巨大な防衛網を構築できる。 惑星アクアは、限られた予算で造られた要塞として、驚異的な費用対効果を発揮していた。◇◇◇◇◇ パウルス元帥率いる強襲部隊は、気圏戦闘機の物量をもって、いくつかの対空陣地と航空基地を占領した。 新帝国軍の気圏戦闘機は、数でも性能でも防衛側を圧倒していた。 しかし、目下の最重要
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Chapter: 第105話……戦争商人 ――聖帝国暦六四五年六月中旬。 銀河聖帝国ノヴァの首都星ベルゼブブ。 中核都市ルシフェルにそびえる帝国最高議事堂の閣議室では、ローゼンタール総統兼宰相を中心に、帝国の今後を左右する討議が行われていた。「現在、真っ先に討つべきは、アストレアの偽帝であると考えます」 そう主張したのは、ロサリオ副総統であった。 ブラウンの髪を持つ、若く聡明な美青年である。行政能力のみならず弁舌にも優れ、ローゼンタールが特に目をかけている人物だった。 二人の間には、政治上の信頼だけでは説明できない特別な関係があるという噂も、宮廷内ではまことしやかに囁かれていた。「いや、そうとも参りますまい」 異論を唱えたのは、外務尚書アリアスであった。 白髪で細身の老人であり、ローゼンタール家の家宰を長く務めてきた。 幼少期のマリアーヌに政治や歴史を教えた、師とも呼ぶべき人物である。「現在の国力を、我が帝国が幾ばくか衰退しているとして十とするならば、アストレアの偽帝国は二、ルドミラ教国は一といったところでしょう」 アリアスは卓上へ星域図を投影した。「アストレアの小僧は、領地経営と人心掌握に長けております。時間を与えれば、二が三となり、やがて五にもなりかねませぬ」「だからこそ、今のうちに叩くべきでは?」 ロサリオが問い返す。「逆でございます」 アリアスは細い指で、ルドミラ教国領を示した。「アストレアと戦う最中に、教国が背後から動けば厄介です。定石に従うならば、邪魔が入らぬうちに最も弱い一を滅ぼすべきでしょう」「なるほど」 軍務尚書ハイアットが頷いた。「では、首都防衛に近衛師団を残し、再びルドミラ教国領へ侵攻いたしますかな。今回はアストレアの偽帝も、惑星アクア攻略に手を取られ、援軍には来られますまい」「ただし、問題がございます」 ハイアットは言葉を続けた。「度重なる敗戦の責任を取り、帝国総軍作戦部長クライツ上級元帥は、軍事最高顧問へと退きました。また、帝国艦隊司令長官レオンハルト元帥も、予備役への編入が決まっております」 閣議室が静まり返る。「帝国軍の最重要職が二つとも空席となります。遠征軍の総指揮を、誰に任せるべきでしょうか?」「ロサリオでよいのではないか?」 ローゼンタールは、さも当然のように答えた。「副総統として占領地を統治する権限も持たせら
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-08-02
Chapter: 第104話……全権委任法 アーヴィング大公国が、ルドミラ教国へ外交的な働きかけを行っていた頃。 いわゆる旧帝国では、第六総管区や第五総管区における反乱を鎮圧するため、各星系の住民に過酷な臨時課税を課していた。 艦艇の建造費。 増員した兵士への給与。 失われた軍需物資の補充。 そして、治安維持隊を各地へ派遣するための莫大な経費。 それらの負担は、すべて帝国臣民へ押しつけられた。 日々の食料品や生活必需品にまで特別税が加算され、工場や商店には軍事協力金が割り当てられる。 納税が遅れた者は財産を差し押さえられ、辺境星系では、税を払うために土地や宇宙船を手放す者まで現れていた。 そのため、帝国各地ではさまざまな反政府団体が結成された。 自由選挙を求める政治結社。 課税の撤廃を訴える商工業者の連合。 星系自治を掲げる地方運動。 思想や立場は異なっていたが、彼らは共通して中央政府への不満を抱き、各地で大規模な抗議活動を繰り広げていた。「我々は必ず、再び一つの帝国となる!」 ノクターン総統は、旧帝国領の主要星系を巡り、精力的に遊説を続けていた。「今は苦しい時期である。だが、辺境区の反乱を鎮圧し、帝国の秩序を回復した暁には、必ずや豊かな暮らしを取り戻してみせる!」 演説会場の周囲には、多数の抗議者も集まっていた。 総統を支持する者もいれば、臨時課税の撤廃を叫ぶ者もいる。 警備部隊が両者の間に立ち、辛うじて衝突を防いでいた。 演説を終えたノクターン公爵は、沿道に手を振りながら、黒塗りの専用車へ乗り込んだ。 その車両は、帝国最高水準の防護設備を備えた特注品である。 強力な電磁防壁。 物理弾を逸らす防御重力場。 厚い複合装甲と、防弾透明材。 通常の銃撃であれば、何百発撃ち込まれようとも、車内の要人を傷つけることはできないはずであった。 ……だが、その時。 車両の防御装置は、なぜか作動しなかった。 四方から、ほとんど同時に銃声が響いた。 六発の実体弾が車窓を突き破り、ノクターン公爵の胸部へ集中して突き刺さる。「ぐっ……!」 総統は大量の血を吐き、座席へ倒れ込んだ。 砕けた透明材の破片が、血に染まった軍服の上へ降り注いだ。 運転手が慌てて車両を急発進させる。 同時に、どこに潜んでいたのかと思えるほど多くの警備兵が沿道へ姿を現した。「全員、地
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Chapter: 第103話……教国の天秤 ユリウス率いる新帝国軍が惑星アクアを攻めあぐねていた頃。 カスパル大公派の派遣した使節団は、ルドミラ教国領の中枢へ到達していた。 使者を乗せた外交船は、教国の首都星ヒンデンブルクへ入域すると、管制局から送られてくる誘導信号に従い、大気圏へ降下した。 眼下に広がるのは、緑豊かな大地と、幾つもの尖塔を持つ白亜の都市であった。 その中核都市ニデルの中央には、巨大な大聖堂がそびえている。 宗教施設であると同時に、教国政府の中枢でもある建物だ。 外交船が宇宙港へ着陸すると、白を基調とした礼装姿の官吏たちが使節団を出迎えた。「ご使者様、こちらへお進みください」 使者は教国側の案内役に従い、宇宙港から専用車両へ乗り込んだ。 車両は、巡礼者や商人でにぎわう大通りを抜け、大聖堂へ向かう。 建物の正面には聖人たちの巨大な彫像が並び、その足元では武装した衛兵が厳重な警備に当たっていた。 使者は幾つもの検問を通過し、やがて奥深くにある謁見室へ案内された。「ご使者殿。遠路はるばる、ご苦労である」 使者を迎えたのは、エロー枢機卿であった。 彼は古代帝国の知識や遺物にも通じた宗教家であると同時に、教国有数の政治家でもある。 穏やかな微笑を浮かべているが、その眼差しには、相手の腹の底まで見透かそうとする鋭さがあった。「早速ではございますが、我が主君カスパル大公殿下からの親書をお渡しいたします」 使者は恭しく封書を差し出した。 枢機卿は侍従からそれを受け取り、封印を確認した後、ゆっくりと文面へ目を通す。「……なるほど」 読み終えたエロー枢機卿は、わずかに眉を上げた。「新帝国軍と名乗る賊徒から、アーヴィング大公国を守ってほしいと仰るか?」「はい。左様にございます」 使者は深く頭を下げた。「偽帝ユリウス=アストレアは、荒鷲の金印を利用し、正統なるアーヴィング大公家を滅ぼそうとしております」「金印が偽物であると?」「たとえ金印そのものが本物であったとしても、それを持つ者が正統であるとは限りませぬ」 使者は淀みなく答えた。「ユリウスが旧第六総管区を統一したならば、次に狙われるのはルドミラ教国でありましょう。今こそ我らが手を携え、偽帝アストレアを討ち果たすべきかと存じます」 その主張は、必ずしも的外れではなかった。 ユリウスが旧帝国の正統
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-08-02