Chapter: 第148話……宇宙S級提督への野望「敵接近! 距離360光秒!」「敵影、約860隻」「戦闘準備!」「揃いも揃ってやってきたか……雑魚どもめ!」 俺は神らしく、好き放題させてもらった。 6か月もそうこうしていたら、カリバーン帝国どころか、ルドミラ教国まで連合して攻めてきやがった……。「改良型惑星破壊砲用意!」「了解! エネルギー充填開始します!」「エネルギー充填50%」「……80%」「……100%! 充填完了!」「敵艦隊めがけて発射しろ!」「了解! 発射します!」 特大の光条が敵艦隊先頭に命中。 恒星を思わせるほどの光球が現れる。 ……が、「!? 敵艦隊被害なし!」「敵艦隊先頭、識別装甲戦艦ハンニバル!」「……!?」「馬鹿な! あの戦艦は惑星破壊砲を単艦で弾いただと!?」「敵艦隊、なおも接近!」「やむをえん、通常砲撃戦用意!」「了解!」☆★☆★☆「特型電磁障壁解除!」「解除完了ですわ!」「全艦砲撃戦用意!」「装甲ミサイル艦、艦列前へ!」「砲撃用意完了ポコ!」「撃て!」 私はハンニバルの司令席にて、全艦に砲撃命令を下す。 今回私は、カリバーン・ルドミラ連合軍の臨時の艦隊司令長官を務めていたのだ。「長距離ミサイル発射!」「艦載機発進用意!」 ……大出量のレーザー光条が飛び交い、ミサイルが炸裂する。 光球が次々に産まれ、文明の叡智を残骸へと変えていった。「お味方、優勢です!」「よし! これよりハンニバルは、敵左翼に横撃をかける!」「了解ですわ!」「機関全速!」「取り舵一杯! 側砲射撃開始!」「斉射ポコ!」 ハンニバルは僚艦であるオムライスとジンギスカンを率い、高火力と高機動をもってして、敵左翼の艦列を切り崩す。――次第に、敵に混乱の色が見える。「戦略打撃戦艦ペテルギウス発見!」「大きいポコ!」 ……敵艦列を切り裂くと、ついに敵旗艦にお目見えする。 砲術長が言うように大きい。 多分ハンニバルより大きかった……。「機関に短期ブーストを掛けろ!」「ブースト了解ですわ!」「ブースト完了! 機関出力255%! 限界です!」「マイクロ・クエーサー砲用意!」 機関で生み出された大量のエネルギーが、艦体下部のマイクロ・クエーサー砲に流れこむ。 そのあまりの大エネルギーに、艦がきしむ音が聞こえる。「用意良し、エネル
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Chapter: 第147話……商都ラヘルの落日――標準歴5年4月。 濃い化粧と、お歯黒という独特の容貌のジョー・キリシマ提督は、ラヘル星系の富豪たちに乞われ、傭兵部隊を率いて星系防衛の任についていた。「トロストとかいうやつ何者ぞ?」 彼はクノイチ集団と呼ばれる暗部の女性情報工作員の頭領という別の顔もあったのだが、トロストの急速な台頭を掴み切れないでいた。 彼はラヘル星系の主星ロンギヌスを後背に、艦艇100隻を布陣。 トロストの艦隊を待ち受けた。 トロストはグングニル共和国の艦艇300隻を動員し、このラヘル星系に侵攻してきた。 300対100では勝てそうにないのだが、このラヘル星系の主星ロンギヌスは、姿かたちこそ緑の惑星だが、それは色彩等を意図的に変化させた擬態であり、内実は移動用チューブが張り巡らされたメトロポリスであり、黒鉄でできた人口都市惑星だった。「ほっほっほっ、トロストとやら、目に物を見せてくれん!」「重装甲ミサイル艦の戦列を前へ出せ!」「了解!」 ジョー・キリシマ提督は、グングニル共和国きっての高家の出である。 そのプライドや自信も相当のものだった。「トロスト艦隊接近、射程内に入りました!」「砲撃戦開始!」 トロストとジョー・キリシマ提督は、お互いの射程圏に入ると射撃を始めた。 お互い、戦場の長槍兵ともいえるミサイル艦艇を前に出し、主力は温存した戦い方だった。 そもそも、これがこの世界の戦いの常道であり、ハンニバルのように先頭をきる旗艦は珍しかったのだ。「長射程対艦ミサイル来ます!」「迎撃ミサイル発射! 対空砲応射せよ!」 双方、ミサイル艦の長射程ミサイルに対処。 戦いは次のフェーズに映る。「重巡洋艦と戦艦を前に出せ! 大口径レーザーで敵を始末しなさい!」「了解!」 ジョー・キリシマ提督は、ミサイル艦艇の後背から主力戦列艦を投入。 長射程の大口径砲の光条で、トロスト艦隊を攻撃した。 更には惑星ロンギヌスからの砲撃もトロスト艦隊を襲う。 戦いはジョー・キリシマ提督に有利に思えた。 ……しかし、異形のモノが戦場に現れる。「提督! 敵戦列から謎の宇宙海獣が現れました!」「なんですって?」 お歯黒の提督は慌てる。 カリバーン帝国の宇宙海獣戦術には、以前からほとほと手を焼いていたのだ。「こ、これは? カリバーン帝国の戦術! なぜ奴が!?」 ジ
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Chapter: 第146話……トロスト再び!――暗がりで試験管を眺める男。 奴の名はトール。 少し前まで技術少将を務めていた。 リーゼンフェルトが戦いに負けたので、奴と俺はとある辺境星系へ逃亡する羽目になった。 奴の発明品は、宇宙海獣操縦装置、ダークマター潜航艇、惑星破壊砲の三つ。「トロストさん、新しい体は大切にしてくださいね」「おうよ」 ……さらに奴は、俺に新しい体をくれた。 96%は機械なのだが、パワーとスピードが凄い。 ライオンにも素手で楽に勝てそうだ。 そして新しい乗艦も……。 元・クレーメンス公爵元帥乗艦、戦略打撃戦艦ペテルギウス。 全長1852m全幅243mの巨大な戦闘艦だ。 俺たちが逃げるときに乗ってきた船だ。 星間ギルドに頼み、最低限の乗員をかき集めた。「いざ、母なる地球ってか!?」 俺はトールの奴と別れ、アルデンヌ星系にあるワームホールを目指した。☆★☆★☆「……な、ない!?」「ワームホールがないぞ?」 俺は目をこする。 地球に繋がるワームホールがない。 すぐさま、トールの奴に連絡をとった。「トロストさん、ワームホールってのは気まぐれなんです。ときたま現れては消えてって感じなんです」「じゃあ次はいつ現れるんだ?」「明日かもしれませんし、何万年後かもしれません」「……ふ、ふざけんなよ!」 俺はモニターに怒鳴りつけ、通信を切った。 地球で神になる以外、俺にふさわしい仕事ってないぞ?「……ああ、ワームホールが現れるまで、この世界の神にでもなっておくか……」 俺にはカリバーン帝国国有企業の株式がある。 この財力をもってして成りあがってやるぜ! 俺は仕方なく、この日からこの世界の神を目指すことにした。――翌年、標準歴4年4月。 トロストという男が、突如グングニル共和国の地方星系の議員として当選した。☆★☆★☆――標準歴5年1月。 ハンニバル開発公社は、ラム星系周辺の開発と発展に成功。 カリバーン帝国第二の巨大企業となった。 その利益に伴い、ハンニバルも大改修を行う。 防御力を中心に底上げし、全長1600m級の双胴の艦体は、半ば動く要塞と化してきた。 さらには、内部に兵器工廠や研究開発室も設けていた。「大きいポコ♪」「大きすぎて入港できない宇宙港も出てきたクマね」「ふむう」 ……まぁ、そういうところは衛星軌道上に
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Chapter: 第145話……温泉旅行と煙草「火をお付けしますね」「ありがとう」「……ふぅ」 私はリアルの世界では吸わないタバコをふかす。 お酒と煙草、人類の永遠の友である。 この煙草の火は、今も副官殿が付けてくれている。 ……この点、大いに贅沢で、私は幸せ者である。 ……我々の世界は4次元で構成されている。 縦と横と高さと、時間の四つだ。 しかし宇宙には、10個もの次元が存在すると言われる。 その未解明な世界の一つは重力が有力である。 その他にも、思念体の世界があるかもしれないし、ゲームの世界があるかもしれない。 さらに言えば、未解明の次元は6つとは限らない可能性もあるのだ。 ……その一つが、今私が煙草をふかしている世界だとしても、何ら不思議はないのである。 地球の世界と、この世界はそもそも時間軸が合っていなかったのだ……。 輪廻転生とか、異世界に旅立ったり、過去にタイムスリップするのは、こういう世界を触媒にしている可能性も高いと、今は感じることが出来た。 もちろん、感じているだけで、この説が正しいと言える確証はどこにも無いのだが……。「灰皿をお持ちしますね」「……ああ」 バイオロイドの副官殿が、灰皿を持ってきてくれた。「……ふぅ」 気が付くと、手にした煙草は、真っ白になっていた……。☆★☆★☆「みんな、旅行に行くならどこがいい?」「海に行くポコ♪」「山に行くニャ♪」「温泉に行きたいですわ♪」「食べ放題に行きたいクマ♪」「釣りに行きたいメェ~♪」 改めて軍を退役し、暇がソコソコできたので、どこに行きたいか、みんなに意見を聞いたら、凄くばらばらだった。 幸いなことに、元帥の年金で行けないような候補地はないようだ……。 ……しかし、いつも勲功第一は副官殿なので、決議として温泉旅行へ行くこととなった。 近場では何なので、巡回や視察という名目で、新たに味方になった星系の中から候補地を選ぶ。 少し考えたところで、「う~ん、……ここが、いいかな?」「「「……」」」 鉱山用惑星カイロ。 航行費用の面などから考えて、ハンニバル開発公社の新開発案権の候補地から選ぶと、皆に白い目で見られた。 ……経費で宇宙船を飛ばすんだから、ある程度仕事絡みなのは、仕方ないじゃない? ハンニバルは私たちを乗せ、長距離跳躍を重ね、鉱山惑星カイロを目指した。☆★☆★
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Chapter: 第144話……帝国再統一!!「敵要塞へ降下せよ!」「「「了解!」」」 私は二足歩行可変型機種の艦載機二機を引き連れ、要塞地表部へと向かう。 愛機である重雷撃機ケルベロスも、二足歩行機動歩兵に姿を変える。 ……機動歩兵。 この世界にて装輪戦車と並ぶ地上における決戦兵器である。 全高15mにもなる装甲を施されたパワードスーツの一種だった。「散開!」 リヴァイアサン要塞地表の4割は岩石で、6割は金属だった。 私はその岩石部に降り立った。 岩石部は起伏があり、遮蔽遺物も多く、隠蔽率が高かったため有利に戦えるからだ。 ……いつの時代の戦いも、最後は地上戦となる。 いわば人類宿命の戦いであった……。「前方に装輪戦車、多数!」「擲弾筒用意!」 我々を見つけた要塞側も、すぐさま戦車を繰り出してきた。 土煙をもうもうと上げてこちらに迫りくる。――ドドドォォォン 後方からやってきた通常の歩兵隊が、迫撃砲で支援してくれた。 それに合わせて、私も重粒子ガトリンク砲等で攻撃に転じる。 ……しかし、敵砲火が激しく、前進が難しい。「こちらケルベロス、F-998地点へ支援砲火を要請する!」「こちらハンニバル、了解!」 遥か彼方の装甲戦艦と、上空の艦載機からの支援射撃により、敵装輪戦車が消し飛ぶ。「前進だ!」「「「了解!」」」 我々は岩肌の窪地から飛び出て、急いで前進。 2時間にわたる激しい砲火ののち、敵地上部隊の壊滅と飛行場の占領に成功した。「こちらケルベロス、P-9地点の飛行場を制圧した。この地点へ惑星揚陸艦を着陸されたし!」「了解だ! アニキ待ってろ!」 アルベルトの声が聞こえる。 これより先の要塞内部の戦いは、ドラグニル陸戦隊を始めとした荒くれ者の白兵戦部隊の独壇場だ。 私の出番はない。「これより地表の残敵を掃討する! 続け!」 ケルベロスと僚機2機は重雷撃機へと可変し、飛び立つ。 他の戦線で戦っている地上部隊を支援するためだ。――更に4時間後。 地表部では目立った抵抗は減っていく。 大要塞攻略戦は最終段階へと入っていった……。☆★☆★☆「おかえりなさいですわ!」「おかえりポコ!」「ただいま!」 ハンニバルへと帰った私は、装甲服を脱ぎ捨て、幕僚たちから報告を聞く。「ほぼ全ての地域で我が方が優勢! 要塞占領は時間の問題ですわ!」
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Chapter: 第143話……猪突猛進!? 旗艦ハンニバル!!(……リヴァイアサン要塞指令室)「Xポイントに侵入する艦船があります!」「何者だ?」 この要塞の司令官、リーゼンフェルト提督が驚く。 Xポイントは、彼らの主星アルバトロスに通じる道だったのだ。 ……しかし、逆に言えば最も防備が厚い部分でもあった。「識別照合、装甲戦艦ハンニバルです!」「……うはは、トチ狂ったかヴェロヴェマの奴。この要塞を落とさずして、背後に行けると思うなよ!」 リーゼンフェルト提督は笑った。 リヴァイアサン要塞の周りの宙域は、いわゆる険しい隘路になっており、速度を保ったまま安全に進むのは難しかったのだ……。 速度を落としたところを、要塞砲に狙われるのである。「軌道要塞砲移動! ハンニバルを仕留めろ!」「はっ!」「敵の総司令官が、わざわざ死地に出向いてくれるとはな。ワシにも運が巡ってきたか?」 ……そうリーゼンフェルトはほくそ笑んだ。☆★☆★☆(パウリーネ側、諸侯艦隊)「総司令官殿の艦艇が、敵要塞側面に肉薄していきます!」「おおう?」 各指揮官は色めきだった。 この要塞を落としても、結局のところ総司令官のヴェロヴェマ元帥の功績となる。 ……しかし、ヴェロヴェマ元帥が戦死してしまえば? 各指揮官のいずれもが、勲功第一となる可能性が出たのだ……。「要塞奪取の栄誉は、我がラムスール星系艦隊ぞ!」「いやいや、その栄誉は我がパトルシア星系艦隊が頂く!」 パウリーネ派の諸侯艦隊は、次々と要塞に突撃していく。 それに対して、要塞側から多数の砲火が浴びせられる。「駆逐艦パラミス撃沈!」「巡洋艦アラドミア大破!」「被害にかまうな! 全艦突撃!」「他星系艦隊に負けるな! ツッコめ!」 いままで、他の星系の艦隊の動向を見て、あまり積極的に要塞を攻撃しなかった艦隊が、一斉に要塞に総攻撃を掛けた。 しかも、被害を顧みない大攻勢だった……。☆★☆★☆「敵ミサイル艦撃沈!」「敵、揚陸艦中破!」「尚も、敵が前進してきます!」「なぜだ!? 敵は何故こうも士気が上がったのだ!?」「第二防衛ライン突破されます!」「戦略予備の要撃機を全部出せ!」「了解!」「第二滑走路へ、第六要撃部隊発艦せよ!」「尚も敵艦載機、突っ込んできます!」「くそう、奴等は死が怖くないのか??」 要塞司令官であるリーゼンフェルト提
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Chapter: 第88話……猛将の突破 惑星ペルーン陥落の報は、敵味方の区別なく、戦域に展開するすべての艦艇へ届いた。 帝国軍の各艦では、沈黙が広がった。後方へ打ち込んだはずの楔が折れたのだ。 しかも補給線は海賊や所属不明艦に荒らされ、物資は届かない。 前線で勝利を重ねているはずなのに、戦争全体の天秤が傾き始めていることを、兵たちは本能で感じ取っていた。 一方、大公国軍の艦隊では歓声が上がった。 これで後背を突かれる恐れは薄れた。 サーペント要塞解放作戦は、まだ続けられる。 総旗艦ハヌマーンのパウルス元帥は、ただちにユリウスへ感謝の通信を送った。 惑星ペルーンの奪回は、戦略上の危機を救った一手であり、その功績は疑いようがなかった。 だが、その報に対して、少し違った感情を抱く者もいた。 第六高速分艦隊司令官、ラプーチク中将である。 彼は自艦の作戦指令室で、拳を机に叩きつけた。「……ぐぬぬ。またあの資源屋の小倅に出し抜かれたか!」 幕僚の一人が慌てて進み出る。「閣下、お気を確かに。これで我が方の敗北は遠のきました。むしろ喜ぶべき報告かと」「そんなことは分かっておる!」 ラプーチクは幕僚の言葉を一蹴した。「だがな、あの小倅は若い。しかも、大公の覚えがめでたい。今回の功績まで加われば、次の椅子は大公国軍全体の最高指揮官になるやもしれん」 彼は歯を剥き出しにした。「つまり、このままでは私は永遠に、あの小倅の下で槍働きをするだけということだ!」 幕僚たちは顔を見合わせた。 ラプーチクは勇猛であり、戦場での実績もある。 だが、功名心もまた人一倍強い。 彼にとって、ユリウスの成功は味方の勝利であると同時に、自らの影を薄くする脅威でもあった。「……しかし、閣下」「しかしもクソもあるか!」 ラプーチクは戦術投影盤を睨み、指揮杖で一点を突いた。「K-728Eポイントに総攻撃をかける!」 幕僚たちが息を呑んだ。 そこは小惑星帯の中でも特に狭く、帝国軍の火線が重なる危険宙域である。 これまでの威力偵察では、突破困難と判断されていた。「第六高速分艦隊の全艦へ命令。先頭艦は最大戦速。後続は間隔を詰めろ。退く艦は撃沈して構わん。ためらう者は、最初からこの艦隊にいらん!」「りょ、了解しました!」 命令は乱暴だった。 だが、単なる無謀ではない。 ラプーチクはこれまで、
آخر تحديث: 2026-06-27
Chapter: 第87話……十七パーセント 帝国軍第二総軍艦隊旗艦ビシュヌ。 その艦橋には、前線からの勝利報告が次々に届いていた。「第十七分艦隊、敵前衛を撃退!」「第二十一分艦隊、敵偵察艦を鹵獲!」「第五陣地重砲列、敵分艦隊旗艦と思しき艦艇を撃沈!」 情報士官たちの声が、艦橋の空気を明るくしていく。 戦術投影盤には、小惑星帯の各所で大公国軍の青い光点が押し返され、帝国軍の赤い防衛線がいまだ健在であることが示されていた。 今回、帝国軍はアーヴィング大公国軍の攻勢をあらかじめ読んでいた。 サーペント要塞を包囲すると同時に、その外縁に広がる小惑星帯を利用し、縦深防御陣地を構築していたのである。 航行不能宙域、機雷原、隠蔽砲台、重砲列、機動予備艦隊。それらを複雑に組み合わせた防御線は、実に三列に及んでいた。 攻撃側が第一防御線の一部を突破しても、すぐに第二防御線が現れる。 そこへ左右の小惑星陰から斉射が浴びせられ、背後の予備艦隊が退路を塞ぐ。 突破したはずの敵部隊は、たちまち袋の鼠となり、再び押し戻される。 地形を徹底的に利用した、組織的な防御戦術であった。 第二総軍司令官トラヴァース元帥は、戦術投影盤を無言で見つめていた。 局地戦では勝っている。 防御線も崩れていない。 敵は焦り、こちらは時間を稼げている。 普通ならば、艦橋の空気に合わせ、わずかに表情を緩めてもよい場面だった。 だが、トラヴァース元帥の顔は硬いままだった。 勝利報告が多すぎる。 それは、消耗もまた多いという意味である。 その時、補給本部長ガイアー少将が、青ざめた顔で艦橋へ入ってきた。 手には一枚の報告書が握られている。「元帥閣下……補給状況について、ご報告がございます」 トラヴァースは視線だけを向けた。「読め」 ガイアー少将は一瞬ためらった後、震える声で報告書を読み上げた。「後方補給線より到着した物資量は、予定量の……十七パーセントに留まっております」 艦橋の空気が凍りついた。 トラヴァース元帥は、ゆっくりと報告書を受け取った。 数字を確認する。燃料、弾薬、予備部品、医療物資、冷却材、食料。どの項目も、予定を大きく下回っていた。 次の瞬間、元帥の怒号が艦橋に響いた。「なんだこれは。私を馬鹿にしておるのかね!?」 情報士官たちの声が止まる。 ガイアー少将は額の汗をぬぐいながら、
آخر تحديث: 2026-06-25
Chapter: 第86話……古き誇り 非居住惑星ペルーンの地表は、わずか一日で沈黙した。 衛星軌道上から、ツーシーム率いる雑多な艦艇群が砲撃を加えたためである。 モリガンを中心に、廃棄予定だった旧式ビーム艦、民間改造砲艦、鉱山警備艇を寄せ集めた即席艦隊。 正規軍なら鼻で笑うような戦力であったが、簡易防衛施設を焼き払うには十分だった。 地表の砲台は潰れ、監視塔は崩れ、対空陣地は赤黒い溶融痕だけを残して消えた。 だが、本当の戦場は地上にはなかった。 ペルーンの地下深くには、巨大な蟻の巣のような地下要塞が築かれていたのだ。 旧鉱山坑道を拡張し、装甲隔壁を重ね、補給庫、兵舎、発電区画、防衛通路を網の目のように張り巡らせた難攻不落の防衛施設だった。 軌道上からいくら砲撃しても、地表が剥がれるだけで効果はない。 モリガンの艦橋で、ツーシームは通信画面を睨みつけていた。「うっせえなぁ。そんな早くいけるかよぉ」 画面の向こうに映っているのは、ユリウスだった。『だって、間に合わない援軍に意味はないよ』 口調は丁寧だった。だが、その声には焦りが混じっている。サーペント方面の戦線が、それだけ切迫している証拠だった。「分かってらぁよ」 ツーシームは安煙草を噛むようにくわえた。 もちろん、もっと苛立っているのは彼女の方である。 モリガンの周囲には、旧式ビーム艦を中心とした二十隻ほどの艦艇が浮かんでいた。どれも正規艦隊から外され、解体場へ送られるはずだった船ばかりである。 それでも、いまは貴重な戦力だった。 そして、それらの船に乗っている多くは、エジルの呼びかけに応じたノーム人の志願兵たちであった。 志願兵とは聞こえがいい。 実際には、労働施設から逃げ出した脱走者であり、鉱山主や貴族家から追われるお尋ね者である。 帰る場所などない。捕まれば、再教育施設か、もっと深い鉱山へ送られるだけだ。 だからこそ、彼らも必死だった。◇◇◇◇◇ ――G-23地下通路。 そこはペルーン地下要塞の中でも、両軍にとって最重要の要路だった。発電区画、弾薬庫、中央昇降路へ通じる分岐点であり、ここを抜かれれば帝国軍の防衛線は大きく裂ける。 狭い通路には焼けた金属の匂いが充満していた。壁面はビームの焦げ跡で黒く抉れ、床には破片と血が混じった泥がこびりついている。 換気装置は壊れ、空気は重い。 攻撃側
آخر تحديث: 2026-06-21
Chapter: 第85話……突破口を求めて メイラード号の操縦席は、古い金属と安煙草の匂いで満ちていた。 ツーシームは操縦卓に片肘をつき、目の前に立つエジルを見下ろしていた。 小柄なノーム人の青年は、防寒用の作業服を身にまとい、緊張した面持ちで背筋を伸ばしている。「自由はね、与えられるもんじゃない。勝ち取るもんだ」 ツーシームは低く言った。「誰かが可哀想だと思って、鎖を外してくれるなんて考えるな。鎖を外させるだけの価値を、こっちから突きつけるんだよ」 エジルは唇を結び、深く頷いた。「はい」 その後、二人は短く言葉を交わした。 ノーム人の強制収容所が多い惑星や、労働区の位置。各所の監視網の弱点。制圧しやすい宇宙港。 最後にツーシームは、端末から小さなデータカードを抜き、エジルの手に握らせた。「これを見せりゃあ、話の分かる連中は動く。分からない連中は、あんたが動かせ」「やってみます」「違うね」 ツーシームは笑わなかった。「やるんだ」 エジルはもう一度頷き、小型シャトルへ乗り込んだ。 数分後、シャトルはメイラード号の格納庫から射出され、暗い星間空間へ消えていった。 副長のビッグベアが、腕を組んだまま呟く。「ヤツはやりますかな?」「さあてね」 ツーシームは安煙草を灰皿に押しつけた。「頑張ってもらわなきゃ、アタイたちが坊ちゃんに示しがつかなくなる」「そりゃあ困りますなぁ」「困るだけで済めばいいけどねぇ」 ツーシームは頭をかきながら、次のワープ座標を端末へ入力した。 中古高速船メイラード号の船体が、古い木材のようにぎしぎしと軋む。「行くよ。目的地は惑星ヴァルカンだ」 古びた船体が光の尾を引き、星の海へ滑り込んだ。◇◇◇◇◇「総員、乗船を急げ!」 惑星ヴァルカンの旧軍港に、カタコン将軍の怒声が響いた。 かつて帝国軍の上級大将だった男は、いまや亡命者であり、大公国軍では中将待遇に置かれている。 だが、その声の張りだけは昔のままだった。 彼の前に集まっていたのは、若く精強な兵士ではない。 年齢や負傷を理由に、今回のユリウスの出兵から外された老兵たちであった。 片腕を義手にした者。 片足を引きずる者。 背中の曲がった砲兵。 古い軍帽を大事そうにかぶる退役歩兵。 彼らは退役寸前の強襲揚陸艦を前に、ぼろぼろの装備を担いで並んでいた。「わしらが戦場に
آخر تحديث: 2026-06-20
Chapter: 第84話……ノーム人の値段 アーヴィング大公国軍総旗艦ハヌマーン。 その中枢に置かれた最高作戦指令室には、重苦しい沈黙が満ちていた。 壁面の戦術投影盤には、小惑星帯外縁の戦線、帝国軍艦隊の防衛線、そして後方を脅かす惑星ペルーンの位置が、青と赤の光点で浮かんでいる。 敵は前にいる。だが、背後にも火がついた。 誰もがその事実を理解していた。 ユリウス・アストレアは、若い身でありながら、発言の場にあった。 周囲には老練な提督、参謀、分艦隊司令官たちが並ぶ。彼らの視線は鋭く、そして重い。「私としましては、まず正面の帝国軍防衛線を撃破し、サーペント要塞を解放した後、後方の惑星ペルーンに対処すべきだと考えます」 その言葉に、議場の空気がわずかに揺れた。 最古参の参謀が、白い眉をひそめる。「だが、正面攻勢が長引けばどうなる。背後のペルーンを奪った敵別働隊が、我らの後背を突く恐れがある。前後から挟まれれば、この艦隊そのものが崩壊しかねぬ。艦隊が失われれば、その後の戦略など存在せん。やはり一旦撤退し、態勢を立て直すべきではないかのう?」 その意見は慎重であり、正論でもあった。 だが、ユリウスは退かなかった。「はい。その危険はあります。ですが、帝国軍の補給線もまた万全ではありません。敵の後方は宇宙海賊たちによって脅かされ、長期戦に耐えられる状況ではないと聞き及びます。リスクはあります。しかし、ここで我らが退けば、サーペント要塞は見捨てられ、教皇国は帝国軍に蹂躙されるでしょう」 ユリウスの声は静かだった。だが、その静けさの奥には、退けぬ覚悟があった。「敵も後背に難を抱えております。ならば、我らが恐れるべきは挟撃ではなく、機を逃すことです」 その続けた一言が、議場の流れを変えた。 ざわめきが走り、何人かの提督が互いに顔を見合わせる。慎重論に傾いていた空気が、少しずつ攻勢論へと動き出していく。 やがて、上座に座るパウルス元帥が重々しく頷いた。「ふむう。敵も後背に難あり、か。ならば、ここで退く理由は薄い。攻勢あるのみだ。以後、帝国軍防衛線突破を主目的として、具体的な作戦案を詰めよ」 一同が姿勢を正した。「はっ」 こうして、作戦の骨子は決まった。 最初の目標は、帝国軍防衛線の突破。 その要となるのが、帝国軍が築城した攻城用小型要塞アイアンオーガである。 小惑星帯を盾にし
آخر تحديث: 2026-06-17
Chapter: 第83話……見えざる敵 大公国艦隊並びに帝国第二総軍艦隊は、小惑星帯外縁を挟み、長く膠着していた。 互いの距離は、戦列ビーム艦が照準を維持できる限界線上。 虚空を裂く光槍は幾度も交差し、小惑星の表皮を焼き、破片雲を銀砂のように散らした。 だが、その砲撃に決定的な意味はなかった。遠距離戦は損害を抑えるかわり、戦果もまた乏しい。 大公国軍の目的は、帝国軍によるサーペント要塞の解囲である。 しかし帝国軍は小惑星帯を即席の防壁に変え、岩塊の陰へ砲艦を潜ませ、機雷帯を重ね、進撃路そのものを障壁にしていた。 無理に押せば、艦列は裂かれ、逆に包囲される危険すらあった。 その停滞が、十一月下旬、唐突に崩れた。「緊急入電。帝国軍別働隊と思われる艦隊が、後方の惑星ペルーンへ降下。現地守備隊は敗走。ペルーンは敵占領下に入った模様です」「なんだと」 パウルス元帥の司令部に、押し殺した悲鳴が走った。 惑星ペルーンは、ルドミラ教皇国への派兵における後方集積地である。 弾薬、燃料、修理部材、食糧。大公国艦隊がこの宙域に踏みとどまるための物資が、そこに蓄えられていた。 パウルスは戦術表示を見据えた。前面には小惑星帯に籠る帝国第二総軍艦隊。背後には奪われた補給拠点。攻めれば障壁、留まれば飢える。「ここは慎重を期す。前線部隊を収容し、戦線を一時後退させる」「畏まりました」 大公国艦隊は攻勢を中止した。 各艦は順次、敵射程外へ退き、輸送艦群より最低限の補給を受け始めた。 その間、パウルスの座乗艦では、各艦隊司令並びに幕僚が作戦室へ集められていた。 立体星図の中で、赤い敵勢力圏がペルーンを覆っている。「まずいことになったな」「はい。我が方は集積地並びに退路を同時に失った形です」「援軍である我らが、これ以上の危険を冒す必要はありますまい。撤退すべきかと存じます」 幕僚の多くは撤退を唱えた。 戦術上、それは正しい。 だが、帝国施政時代より「不敗の猛将」と呼ばれたラプーチク中将だけが、静かに首を横へ振った。「ルドミラ教皇国がここで敗れれば、帝国が次に向ける刃は我ら大公国だけになります。その理を承知のうえで、皆様は撤退を主張なさるのか」 作戦室が沈黙した。 目前の危険だけを見れば、撤退は上策である。だが星域全体を見れば、それは未来の孤立を買う選択でもあった。 パウルスは諸将を
آخر تحديث: 2026-06-14