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第16話

Author: 萱野(かやの)
東浜市に着くと、陽翔はすぐにあの動画に写っていたホテルのロビーへ直行した。

管理者にお金を払って監視カメラの映像を見せてほしいと頼んだが、もう全て消去されてしまっていた。

そこで陽翔は多額のお金を払って専門家を呼び、一晩かけて映像を復元させた。

翌日、陽翔は花音の高校時代の同級生を一人一人訪ね歩き、彼女の潔白を証明する動画を撮影した。

陽翔は疲れ切って胃を痛めてしまい、友人である時枝修也(ときえだしゅうや)の家で休むことにした。

4年間付き合っている修也は、陽翔がここまで女性のために尽力する姿を見たことがなかった。

修也は不思議そうな顔で陽翔を見ながら、ゆっくりと口を開いた。

「おい、お前さ、高校のときいつも花音の後ろの席に座りたがってたよな。まさか、あの時から好きだったのか?」

陽翔は適当にごまかして返事をし、胃薬を2錠飲んだ。

陽翔は一刻も無駄にできなかったので、すぐ空港へ向かった。

飛行機の中で、全ての動画を編集した。

彼は何度も投稿文章を書き直した後、最終的に学校の掲示板に次のように投稿した。

【俺、陽翔は保証します。花音を知る人は皆、彼女がどんな人間か分かっています。どうか真実を、そして彼女自身を信じてあげてください】

ルームメイトが花音にその投稿を見せると、花音は胸が温かくなるのを感じ、思わず涙がこぼれた。

そこまで彼女を信じ、支えてくれる人がいることに気づいたからだ。

花音は久しぶりに携帯電話の電源を入れると、ちょうど陽翔から着信があった。電話に出たものの、言葉に詰まって声が出ず、相手の声を待った。

「花音、下まで来てくれ。俺は寮の前にいる。もう怖がらなくていい。これから何があっても、俺が必ず守るから」

陽翔はまるで告白するかのように真剣な声で言った。

花音は何も考えられなくなって、スリッパを履いたまま階段を駆け下りた。

日光の下に立つ陽翔の姿を見た瞬間、花音はそれまでの辛さが一気に溢れ出し、陽翔の胸に飛び込んで泣いた。

陽翔は花音のこれまでの苦労を理解していた。何も言わず、優しく彼女の背中をさすった。

「陽翔、ありがとう......本当にありがとう......」

花音は戸惑いながら陽翔を見上げた。

「そんなこと言わなくていい。お前が幸せになることが、俺にとって何より大切だから。もう泣くな」

陽翔は腰をか
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