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第33話

Author: フカモリ
その言葉には、礼儀正しさと、埋めがたい距離があった。

信行は彼女がゼリーにしか手をつけないのを見て、尋ねる。

「口に合わないか?」

真琴は笑って説明する。

「いえ、違うんです。私、甲殻類にアレルギーがあって……」

「……」

信行は反対側の壁に視線を移し、手で髪をかき上げ、少し気まずそうな顔をする。

先ほどは急いでいて、ただ何かを買うことしか考えておらず、一体何を買ったのか、ちゃんと見ていなかったのだ。

彼が何も言わないので、真琴は慌てて場を和ませようと笑って言う。

「このお店のゼリー、とても美味しいですね。私が前に買ったものより、ずっと美味しいです」

信行は笑う。

「じゃあ、たくさん食べろ」

「はい」

ゼリーを食べた後、真琴は夜食を脇に置き、向かいの壁を見つめて感慨深げに言う。

「ここ数年、おじいちゃんのそばにいる時間が少なすぎました。最近、彼がすごく老けたことに気づいて……本当に、おじいちゃんになってしまった」

両腕を背もたれに乗せ、信行は尋ねる。

「じいさんは、七十過ぎだろう」

「75歳です。あなたのお爺様より一つ下ですよ」

信行は真琴を横目で見る。

「お前は、今年いくつになった?」

「……」

信行を見つめ、真琴は困惑して笑う。まるで、自分の子供が何年生か知らない親みたいだ。

彼が自分を好きではなく、関心がないことは知っていたが、まさか自分の年齢さえ知らないとは。

信行を見つめ、真琴は穏やかな笑みで言う。

「23歳になりました」

それを聞いて、信行は「ああ」と一声漏らし、また軽く言う。

「まだ23か。二十五、六だと思っていた」

「飛び級で大学に合格しましたから。20歳で大学を卒業して、興衆実業に入社したんです」

信行は笑って彼女を褒める。

「大したものだ」

真琴もつられて微笑む。

「まあまあです」

両手を長椅子の背もたれに乗せた信行は、ただ横顔で、まっすぐに彼女の笑みを見つめている。

そのまっすぐな視線に、真琴は無意識に手を上げて自分の口元を拭う。何か食べ物がついているのかと思った。

信行はその動きを止める。

「顔は汚れてない」

彼が言い終えると、真琴は手を下ろし、彼に微笑みかける。

やはり信行が好きなんだ。こうして話せるのが、とても嬉しい。ただ、心の中では分かっている。自分と信行に、もう
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