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第6話

Author: フカモリ
驚きのあまり、真琴は顔を上げて彼を見つめる。

「まだ寝ていなかったのですか?驚きました」

真琴は彼の問いには答えず、ただ立ち尽くしている。信行は両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、冷ややかに彼女を見つめていた。

その視線に、真琴はなぜか少し居心地の悪さを覚える。

これまで一度も自分のことなど気にかけてくれたことなどなかったのに。

彼の視線を避け、真琴は説明した。

「携帯の電池が切れてしまったんです。紗友里が出張から帰ってきたので、一緒に食事をしていました」

信行は「はっ」と鼻で笑う。

「食事一回に六、七時間も費やすのか?」

真琴も、同じように信行を見つめ返す。

彼をしばらく見上げた後、口を開く。

「私にも友人を持つ権利くらいありますし、自分の生活があってもいいはずです」

真琴を見下ろし、信行は気だるげに言う。

「まだ離婚も成立していないのに、もう演技もできなくなったか?」

演技?

自分がいつ、何を演じたというのだろう?

結婚して三年、外出したのはこの一回きり。今夜、彼が自分より早く帰ってきただけで、たまたま携帯の電池が切れただけだ。

三年間、ずっとこうして過ごしてきた。三年間、ずっとこうして誰もいない部屋を守ってきた。

信行を前に、真琴は是非を争う気にはなれなかった。

結局、この道を選んだのは自分自身なのだから。

ただ、淡々と告げる。

「私たちは、もうすぐ離婚します」

それは「もう私に関わらないでほしい」という、無言の宣告だった。

真琴がそう言うと、信行はただ冷ややかに彼女を見つめる。

自分を見て何も言わない彼に、真琴は背を向け、洗面所へ行こうとする。その時だった。ポケットから伸びてきた信行の右手が、ぐいと彼女の腕を掴む。

「結婚したい時に結婚して、離婚したい時に離婚する。片桐家を何だと思ってるんだ?」

数日前、離婚の話を持ち出した時、信行は取り合わなかった。今日また同じ話を蒸し返すとは。

本当に、彼は堪忍袋の緒が長いとでも思っているのか?

信行に引き戻され、真琴も一気に腹が立ち、相手を睨みつけて強い口調で言う。

「もし結婚後の生活がこうなると知っていたら、あなたと結婚なんてしませんでした」

少し間を置いて、続ける。

「離婚が会社に影響するのではとご心配なのは分かります。手続きが終われば、この件は秘密にします。いつ公表するか、あるいはしないかは、全てあなたが決めてください」

離婚を強く主張する真琴に、信行は両手をポケットに戻し、ぷいと顔をそむける。

一瞬にして、寝室は静寂に包まれ、お互いの呼吸音さえ聞こえるほどだ。

しばらくして、再び真琴に向き直ると、冷たい声で言い放つ。

「まだ離婚はしていない。自分の立場を忘れるな」

真琴は淡々と問い返す。

「片桐家の若奥様としての立場ですか?それとも片桐副社長としての立場?では、あなたはいつ、自分の立場を覚えていたことがおありですか?」

信行はそれを聞いて鼻で笑う。

「傷ついたとでも?後悔したとでも?俺がどんな人間か、結婚前に知らなかったわけでもあるまい」

そう言われ、真琴は言葉に詰まる。

最後に、ただ一言、絞り出した。

「あの時は若すぎて、考えが甘かったのです」

信行は呆れて笑う。

「若すぎた、考えが甘かった、それだけで何もなかったことにできると?お前がこの会社に三年いて、外にどれだけ多くの目があるか、分かっているはずだ。お前が口を噤めば、このことが隠し通せるとでも思うのか?」

真琴は言い返す。

「見ている人が多いと分かっているなら、あなたはどうして少しも自分を律しないのですか?」

「……」

今度は、信行が言葉に詰まる番だ。

両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、しばらく真琴を見つめ、やがて無表情に尋ねる。

「どうしても、離婚する気か?」

「ええ」

真琴の声は淡々としており、続けて言う。

「シャワーを浴びてきます。あなたも、早くお休みになってください」

そう言って、彼女は振り返り、クローゼットからパジャマを取ると洗面所へ入っていった。

シャワーを浴びて出てくると、信行はベッドに寄りかかって本を読んでおり、彼の左側には大きなスペースが空いていた。

真琴は理由を尋ねず、黙ってアイマスクと耳栓をつけ、毛布をかぶってソファで眠りについた。

ベッドの上で、信行は手にしていた本を置き、顔を上げてそちらを見る。

しばらく彼女の姿を見つめる。

微動だにせず、自分に背を向けているのを見て、彼は手を伸ばして明かりを消し、そして眠りについた。

……

ガタン。

深夜三時過ぎ、再びソファから転げ落ちた時、真琴は腕をさすりながら、もう怒る気力もない。

こんな日々は、いつまで続くのだろう?いつまで、ソファで寝なければならないのだろう?

顔を向けてベッドの上の信行を見ると、彼が目を覚ましていることに気づく。

この数晩、彼も実はよく眠れていなかった。

しばらく信行を見つめ、床に座ったまま、力なく言う。

「手続きに行きましょう」

もう耐えられない。真琴は、もう耐えられない。

頭の中で張り詰めていた糸が、ぷつりと切れそうだ。

手続きをしようと言うと、部屋にカチリとスイッチの音が響き、辺りが明るくなる。

信行が、明かりをつけた。

ベッドから起き上がり、彼は冷たい声で言う。

「ベッドは、空けておいたはずだ」

信行の方を向き、真琴は言う。

「ベッドの問題ではありません。私がもう、頑張りたくないのです」

そう言って、床から這い上がり、黙ってソファに戻ると、また信行に背を向けて横になった。

この三年間、自分は力を尽くした。

体を丸めると、どうしようもない無力感とやるせなさが押し寄せてくる。

そっと息を吐いて目を閉じると、突然、体がふわりと抱き上げられる。

真琴は驚き、急いで目を開ける。

ぐっと信行の服を掴み、眉をひそめる。

「何をするつもりですか?」

ベッドのそばに近づき、乱暴にならないよう、そっと真琴をベッドに戻し、信行は言う。

「ソファで寝ろと、誰も強制していない」

あの夜、ソファで寝ると言った時、信行は無視した。

いつもそうだ。真琴が勝手に決めつけて、考えすぎているだけだ。

信行をじっと見つめ、一瞬、真琴は何を言うべきか分からなくなる。

自分を見て何も言わないので、信行は何事もなかったかのように彼女に布団をかける。

「安心しろ。お前には興味ない」

真琴は何も言わず、ただずっと彼を見ていた。そして、彼がベッドに上がった。

自分の隣に横になった。

鼻筋がすっと通っていて、端正な横顔。

しばらく信行を見つめ、真琴は相談するように尋ねる。

「では、離婚の件はどうなるのですか?やはり、あなたのお爺様とご両親が先に承諾しないと駄目なのでしょうか?」

目を閉じたまま、信行は気だるげに笑う。

「俺のじいさん、俺の両親。お前、随分とはっきり線を引くようになったな」

そこまで言って、彼は再び真琴の方を向く。

二人の間にはまだ一人分の距離があるが、信行は真琴の体から漂うほのかな香りを感じることができる。

彼女特有の、ミルクのような甘い香り。

彼は聞いてみる。

「なぜ急にそんなに離婚したがるんだ?」

部屋は静まり返り、こうして穏やかに話すのは、初めてのことだ。

信行の方を向き、真琴はまだ彼を好きだ。

特に、彼が優しい声で話し、真剣な眼差しで自分を見つめる時。

残念ながら、信行は自分を好きではない。

相手を見つめ、真琴は率直に言う。

「疲れすぎたのです。もう、あなたの周りを回るのはやめたい。自分自身に戻りたいのです」

真琴がそう言うと、信行は初めて思い出す。彼女の専門は経営や金融ではなく、産業用ロボット工学だったと。

信行が何も言わないので、真琴はまた穏やかな声で続ける。

「私があなたの自由を尊重し、その上で後始末もするから、便利だと思っていませんか?実を言うと、あなたにとって、そういう風に片目をつぶってくれる相手など、他の女性でも見つかりますよ。

それに、私自身はそれほど有能なわけではありません。持参金も大してありませんでしたし、『妻の鑑』として表彰されるほど、出来た妻でもありませんでした」

真琴の自己評価に、信行は思わず吹き出してしまう。

とても楽しそうに、大きな声で。

笑い終えた後、彼は真琴を見て尋ねる。

「あの日の雑談、聞いていたのか?」

数日間、夜も寝ずに考えて、信行はついに彼女が急に離婚を切り出した理由が分かった。

真琴が口を開く前に、信行は説明する。

「あれは全部、冗談だ。本気にする必要はない」

信行の軽い扱いに、真琴はゆっくりと言う。

「離婚したいのは、あの日の雑談だけが理由ではありません。もっと根本的に、私たちは合わないのです。それに、これは感情的になっているわけではなくて、深く考えて……」

真琴の言葉がまだ終わらないうちに、信行は身を翻し、彼女を腕の中に閉じ込める。

次の瞬間、真琴の声は途切れた。

まっすぐに彼を見つめ、身動き一つできない。

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